昨年9月に、日本脳炎ワクチン未接種の、三歳半の幼児が日本脳炎を発症しました。幼児の感染報告は、16年ぶりだそうですが、これからこの様な報告が多くなるのではないかと、心配されています。その理由は皆さんご存知のように、2005年5月以来、ワクチン接種が実質的に中断状態にあるためです。
従来の日本脳炎ワクチンは、マウスの脳を使って日本脳炎ウイルスを増やすことで、材料としてきました。そのため、微量のマウスの脳のタンパク質が混入して反応を起こし、理論的には脳炎を起こす可能性がある、と言われてきました。2004年7月に14歳の女の子に脳炎が起こる、と言う事例が起きた時も、このタンパク質が原因と考えられ、厚生労働省は、このワクチンを接種する事を積極的に勧めない様にと各自治体に通告を出したのです。
しかし、従来のワクチンが脳炎を起こすと言う、明確な科学的証拠は得られていません。また、世界保健機構(WHO)は、接種による感染予防のメリットを重視し、接種を勧めています。愕くべきことですが、厚生労働省が、予防接種の積極的勧奨差し控えの通達を出す時、これを中止する事により、どれだけ日本脳炎の患者さんが増えるかは、全く検討されていません。この様に、非常に場当たり的に大事な事が決定されました。
厚生労働省は、新しい副作用のより少ないワクチンが、すぐに出るように考えていたようですが、実際には遅れに遅れ、最短でも2008年後半になりそうです。これは由々しき問題です。日本脳炎は、そのウイルスを持っている養豚場のブタの血をコガタアカイエカが吸い、それがまた人間を刺すことで広がっていきますが、日本脳炎のウイルスを持っているブタが80%以上になる県が多数あるのです。予防接種を受けていない子供が、日本脳炎にかかるリスクは非常に高いといわざるを得ません。予防接種が開始される前の1950年代、年間1000人以上の発生が報告され、しかもそのほとんどが、10歳前後の子供達でした。その様な悲劇を生まないためにも、早急な対策が必要であると、私は考えます。このままでは、毎年100万人の未接種者が、着実に生み出されているのです。
皆さんに提案したいのは、400万人に1人くらいの割合で、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)が発生するリスクがあるのを承知して頂いて、従来の日本脳炎ワクチンを接種する事です。これは各医療機関で、同意書を書いていただければ、受ける事が出来ます。
今回の、わけの分からないタミフルへの対応と言い、またこの日本脳炎ワクチンに対する対応と言い、厚生労働省は国民の健康、福祉の事など全然考えず、科学的な立場に立って物事を判断出来ない、という事がよくわかりました。ただ残念な事に、日本医師会も実に動きが遅く、効果的な対応、提案が出来ていません。日本医師会にも国民の側に立って、正論を発し続けてもらいたいものです。
白 江 医 院 白江 淳郎
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