首(頸部)は頭部と胴体をつなぐ大事な部位で、重要な神経や血管が通り、呼吸、食事、発声と生活に欠かせない器官が備わっています。そのわりに、骨や筋肉や脂肪組織での保護が無く、よって猛獣に襲われたりプロレスでよく反則攻撃される弱点でもあります。この大事な頸部の疾患にもいろいろありますが、外部から見たり触ったり出来るので結構早くに異常に気づくため、患者さんもよく診察に来られます。この中でも重要な「しこり」について説明します。
「しこり」は専門的には腫瘤(しゅりゅう)といい、こぶや腫れ物の総称です。頸部の腫瘤には臨床的に特徴があって、疫学的な研究上「80%の法則」というのがあります。大人の場合、首の「しこり」全体の約80%が腫瘍で残りの20%が炎症や先天的腫瘤(生まれつきのもの)です。その腫瘍のうち、なんと80%が悪性で残りが良性、この悪性の腫瘍の80%が首以外からの転移性腫瘍、そのうちの80%が首から上の頭頸部(とうけいぶ、首から頭蓋底まで)からの転移で、残り約20%が首から下の臓器からの首への転移だというのです。つまり、首の「しこり」は首から上の悪性疾患が原因のことが多い、といったデータといえます。実際、日常の診療でもおおむねこのような傾向があります。
首の「しこり」は、大きさや出来る部位や痛みの有無でおよその診断が可能です。押さえたときの痛みや熱など他の症状があれば炎症によるもの、顎の下なら唾液腺、首の正面の部位なら甲状腺などと推測できます。注意しなければならないのは、痛みも無くて急に腫れてきたものです。先の80%の法則のように、どこか他の腫瘍から首のリンパ節への転移が疑われます。
昔は首のしこりは結核とされました。今は結核もありますが、まず、いの一番に腫瘍を疑って診察し検査します。はじめに問診し、触診します。大きさや硬さなどの特徴を見て、口の中、鼻、のどなどを調べます。首の「しこり」は耳鼻咽喉の診察と検査は必須です。原因となる疾患は年齢にもよりますが、癌年齢の方は勿論、若い方でも腫瘍があり見逃せません。しかも非常に診察困難な鼻の奥に出来ることがあり、専門医でも診断に苦労します。異常があればさらに検査を進めることになります。 血液検査、レントゲン検査、超音波エコー検査、CT、MRIなどです。また、有名な事実に胃がんの転移が首のリンパ節に来ることもあります。全身のリンパ節が腫れてくる悪性リンパ腫もあります。首のリンパ節が腫れているとその組織を調べることも重要です。しかし、転移性腫瘍を疑われた場合はやみくもに組織をとる生検はしません。悪性腫瘍の時、腫瘍細胞が散らばってしまいます。もしも、診断のためにリンパ節をすぐに取りましょうといわれたら、少し待っていただき、よく説明を聞かれてからにしてください。
首の「しこり」は十分な診察と検査を受けて、腫瘍の場合はどのような治療をされるかよく聞いてください。元になる腫瘍と首のリンパ節を取る手術のほかに放射線治療、抗がん剤を投与する化学療法などが行われます。腫瘍の病理組織によっては放射線治療だけ行なうこともあり得ます。また、それぞれの治療を組み合わせ、術後のリハビリも考えた集学治療という方法も取られます。術後の欠損部の形成、免疫療法、心理療法、言語療法など各々専門分野の治療を集めて行なうからです。
悪性疾患が多いとおどかしてきましたが、一般的には扁桃炎の時のようにリンパ節が炎症で腫れることや、良性の腫瘍も多いものです。また、甲状腺は腫瘍でなければ内科的な治療が普通です。首の「しこり」を触れられたらば、とくに腫れが引かないときや痛みが無く硬いときは、主治医の先生に相談の上、専門医(耳鼻咽喉科のほか、頭頸部外科、口腔外科)の診察を必ず受けてください。早い診断、早い治療は予後と後の生活に大いに影響します。 眞銅耳鼻咽喉科医院 眞銅 昌二郎 |