お酒を飲まれる方の肝臓の障害の最初の変化がアルコール性脂肪肝というのは周知の事実ですが、近年お酒をまったく飲まないか、もしくは飲んでも肝臓に負担が出るような量ではないのにも関わらず脂肪肝になられる人が増加しております。これを非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD;約2000万人)と呼び、この中で禁酒も加療もしないでいると肝炎から、肝硬変、そして最悪肝がんへと進行するようなリスクの高い方が約20%もおられ、これを非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)といいます。残りの80%の方は炎症や線維化が進まない(単に脂肪が貯まっている)単純性脂肪肝です。なぜ一部の方がNASHに移行するのかは現在研究中です。この疾患が肥満や糖尿病の方に多いことにより、インスリン抵抗性がベースにある、または高血圧のかたではレニンーアンジオテンシンというホルモンの増加がありこれも肝臓の繊維化を誘導すると考えられています。肝臓に蓄積する脂肪は中性脂肪ですから、当然脂質異常症も問題となります。つまりNAFLDの背景には生活習慣病がベースにあることが多いので、「メタボリック症候群の肝臓バージョン」であると私は患者さんに説明しております。一方でNASHの患者さんの約30%は肝臓に鉄が沈着しており、これが酸化ストレスとして炎症、繊維化を引き起こすことが発症の原因の一つであると最近判明してきました。
では診断はどうするか?最終「肝生検」が確定診断に必須ですので、一泊入院していただく必要がありますが、検査所見から疑われる方はある程度予想可能です。腹部エコーでは、脂肪肝の診断は容易につきます。その中でも肝機能障害を示すASL,ALTが持続的に高値であり鉄の過剰蓄積を示す血清フェリチンも高い、そして線維化マーカーに異常高値を認め、ベースに肥満、生活習慣病が存在する方が生検の積極的な対象となります。もちろん肝炎ウイルス感染がないこと、自己免疫肝炎や薬剤性肝炎の除外が必要です。
治療に関してはバーンアウトNASH(肝硬変のなれの果て)は肝移植しか現在手立てがありません。
インスリン抵抗性改善剤や、抗酸化薬(ビタミンE,C)、スタチン、ARB、抗サイトカイン薬(ウルソ)等が経験的に使用されますが特別な治療薬は治験が始まったばかりです。
現在のところは脂肪肝を指摘された時はまずその要因を突き止めることが必要です。つまり生活習慣病があればこれを十分に加療(食事、運動、薬物)することで減量し単純性脂肪肝からNASHへの進行をくい止めるしかないでしょう。
「肝臓は沈黙の臓器」と言われるように、相当なダメージがないとまず症状は出てきません。脂肪肝で肝機能異常が持続される方は、肝がんのスクリーニングも含めエコー検査と定期的な肝機能のフォローが必要です。実際は、減量により肝機能の改善がない場合は、肝生検となりますがその適応かどうかは専門医に一度ご相談願います。
医療法人 西村クリニック 西村 洋 |