医師会について 医療機関検索 救急・休日診療 検診・予防接種 情報発信 リンク
HOME > 情報発信 .> ドクターズブログ バックナンバー
藤井寺市医師会所属の医師たちが医療関係は勿論、多種雑多な話題について語ります。
2008/11/30 2008年11月の読書ノート
(1)本当はもっと面白い新選組  山村竜也  祥伝社黄金文庫
 祖母の家系が長州で、私は新選組のことは好きではありません。幕末の長州藩には興味があり、吉田松陰は別格として、高杉晋作のように「狂」になれないとは分かっていても憧れますし、幕末の人物で一番好きな人はと尋ねられたら、吉田稔麿と答えます。
 新選組と言えば、池田屋でその吉田稔麿を切った犯人です。
 しかし娘がその憎い新選組のファンで、それにお付き合いしてこの本を読みました。まあこんな物かと思いましたが、面白かったのは「新撰組」か「新選組」かというところでした。新選組を預かっている会津藩には、武芸などの優れた人たちが集められた「新撰組」と言う組織があったそうです。そこで会津藩は、幕末のあの組織を当初「新撰組」と書いていたそうですが、徐々にそれが「選」の方に変って行ったようです。
 筆者は新選組の人たちの事を、思想に殉じたと評価していますが、私はどうもそれは買いかぶりすぎではないかと、思ってしまいます。

(2)江戸の下半身事情 永井義男  祥伝社新書
 私はいつも「本やタウン」で本を注文するのですが、どう言う訳かこの本を二回も注文していました。きっとPCのうち間違いだと思うのですが、土井書店の青木さんには大変ご迷惑をおかけしました。決して題名を見て、舞い上がっていた訳ではありませんので、誤解のありませんように。
 と、まあ言訳をした後で、江戸時代は住居も貧弱で、プライバシーといったような物は存在しないも同様でした。それを補填する意味で、遊郭などの施設が発達したようです。吉原が東京では有名ですが、遊ぶ所には色々な格付けがあり、かかる費用も大きく違っていたようです。
それにしても江戸時代の人たちは、おおらかと言うか、開けっぴろげと言うか、鎖国をした島国で、「皆兄弟」といった気持ちがあったのでしょうか。そのせいか、また清潔と言う医学的な概念が無かったせいか、梅毒などの性病が蔓延していたとの事です。私のご先祖さんは大丈夫だったのでしょうか。心配になります。
テレビなどのワイドショウのネタになるような事件のたねは、この辺りの意識にあるのかもしれません。

(3)京大芸人  菅広文  講談社
 漫才コンビ「ロザン」の菅ちゃんが書いた、宇治原君と過ごした高校時代の回想記です。所々に彼らの時代の受験勉強の様子が語られています。
 実は私は彼らの先輩でして、(彼らは約25年後輩なのですが)私達の頃とあまり変わらない高校生活をしているので、懐かしく読みました。
 宇治原君はよくテレビのクイズ番組に登場し、その博学振りを見せてくれます。辰巳卓郎さんも同窓生で(彼は6年後輩です)、彼ら二人がクイズ番組に出ている時は、負けてはならじと頑張ってしまう私です。 
 30分もあれば読み終えてしまう本ですので、気楽に読んでみてください。
本当に大阪教育大学附属高等学校天王寺校舎というのは、ユニークな楽しい学校でした。

ちなみにこの本で、今年の読書100冊目です。記念すべき本となりました。


(4)将軍たちの金庫番  佐藤雅美  新潮文庫
 徳川家康が幕府を開いた時、全国のめぼしい金山、銅山を自分の物としました。しかもこの時代は、ゴールドラッシュといって良い様な時代でしたので、徳川家は非常な財産を持っていました。しかし、その様な鉱山も枯渇して行き、天領のお米に依存していた幕府は将軍の浪費も加わり、次第に貧困になっていきました。さらに江戸の火事も追い討ちをかけ、元禄時代には幕庫は殆ど空っぽになってしまいました。
 幕府の勘定奉行は、貨幣に含まれている金や銅の量を変更するなど様々な対策を講じようとしました。しかし、その様な工夫の申し送りが無かったので、歴代の勘定奉行はその場その場で対応するしかありませんでした。何年も経てば、その様な貨幣があるという事実のみが存在する事になってしまいます。
 その様な中で、ペリーの来航があります。その後日米通商条約が結ばれるのですが、その頃の所謂官僚の中で、この鋳造貨幣の事を知っている人は少ないようでした。
 開国をして、日本にはインフレが起こったと言う事は歴史の時間で習いましたが、その理由は、日本と欧米諸国の金と銅の相場が異なっていた為なのだ、と言う風に習ってきました。しかし筆者によると相場が問題ではなく、貨幣の重量で交換レートを決めてしまったためと言う事です。日本と外国とは、なんと1対3の比率で両替をしていました。
歴代の勘定奉行は自分の代は大過なく過ごそうとのみ考えていたので、一番無難な所で交渉をまとめていこうとし、その結果一般人に多大な被害を及ぼしたようです。やはり交渉ごとの基本は、捨て身に出て、大きく出て妥協点を探ると言う事なのでしょうが、お殿様にはその様な事は不可能だったのでしょうか。

(5)好戦の共和国 アメリカ  油井大三郎  岩波新書
 民主主義というのは、議論によって相手を説得し方針を決めていく制度です。アメリカはその旗手を自認していますが、これまで歴史の上で行ってきた事を見ると、ずいぶんと矛盾する事だらけです。それらを検索し、アメリカの世界観、民主主義に対する考えの変遷などを紹介してあります。
 アメリカ独立戦争は初めてアメリカが行った、国家の主権を争う戦争です。しかしそれ以後アメリカが行ってきた戦争は、自分達の権力を守るための物であった様な感じがしてなりません。
 当初の「独立」、「自由」といった考えは、西部に進出していくにつれ原住民との戦いや、メキシコ、スペインとの戦いで「自主」が段々と独り歩きするようになり、自己中心主義のドグマに陥っていきます。第一次、第二次世界大戦で勝利した物の、朝鮮戦争でははっきりしない結末を迎え、ベトナム戦争では実質敗戦国になってしまいます。
 ブッシュ(子)ではついにパンドラの箱を開いてしまい、どうして良いのか分からない状態になっています。
 ベトナムでの敗戦のトラウマと、実質を伴っていない自由主義国家のリーダーというプライドが今のアメリカをおかしな物にしているように思えてなりません。悪く言えば世界でもっとも危険な存在でしょう。
 まあその国に綿々として愁眉を送り、小泉に到ってはプレスリーの歌まで歌ってくるという日本の政治(家)の程度の悪さも考えねばならないでしょう。

(6)納豆の快楽  小泉武夫 講談社新書
 私の子供のころは、関西で糸引き納豆などという食べ物を食べる機会は殆どありませんでした。臭いけったいな物、という認識だったでしょう。ところが最近は私も毎朝、ご飯と大根おろしのかかったちりめんじゃこ、焼きザケと一緒に納豆を食べており、これが無かったら寂しいと思うようになりました。臭いに対する工夫などがあったのでしょうが、初めの頃に感じたあの違和感が全くなくなってきています。
 この本はその納豆の食品としての優秀さが紹介され、また後段では味覚人飛行物体と自称する筆者が好む、納豆を使った料理のレシピが紹介されています。
 納豆には、糸引き納豆、塩辛納豆、甘納豆などの種類がありそれぞれ材料や製法が異なります。関西で納豆といえば、以前は甘納豆のイメージでしょう。お年寄りの患者さんに骨を強くするには納豆がよいと話をしたところ、大好物だという答えが帰ってきた事がありました。お年のわりに珍しいと思いましたが、よく聞くとやはり甘納豆の事でした。

(7)完璧の駅弁  入江織美  小学館文庫
 著者が推薦する全国の駅弁236を紹介しています。駅弁だけでなく主要な鉄道の見所なども写真で紹介し、読んでいて楽しい本でした。幕の内弁当のような駅弁も美味しいでしょうが、やはりその土地の特産品を使った物を食べたくなります。
 読んでいて食べたくなった物を北から挙げていくと、函館駅の「鰊みがき弁当」、高崎駅の「上州の朝かゆ」、信越線横川駅の定番ですが「峠の釜めし」、東京駅の「深川めし」、これも定番ですが横浜駅の崎陽軒「シウマイ弁当」、信越線新津駅の「ひらめずし」、加賀温泉駅の「甘えびめし」、広島駅の「夫婦あなごめし」、筑豊本線折尾駅の「かしわめし おりお」、博多駅の「めんたい弁当」、日豊本線行橋駅の「しゃこ寿司」等等。
 このような駅弁を食べながら、各駅停車の列車に乗ってのんびりと旅行が出来れば、と考えてしまいます。

(8)「坊ちゃん」はなぜ市電の技術者になったか  小池滋  新潮文庫
 小説「坊ちゃん」は、小学生の頃読んだ事があります。その結末は、市電の技術者になったということで、何の疑問もなく読み終わった記憶があります。しかし筆者の思考はとてもそこでは終わりません。 この一行の文章を通じて、そのころの交通事情、市民の生活状況にまでに考えは発展していきます。
 そのほか夏目漱石、田山花袋、芥川龍之介、宮沢賢治、彼らの小説に登場してくる鉄道の場面に即してその頃の交通事情を紹介してあります。この辺になると、いかにも鉄道マニアの喜びそうな事柄がたくさん出てきます。小説の一文から、その小説の舞台になった周辺での鉄道の工事の状況が考察されていたりして、非常に興味深い物があります。
 しかしこの筆者は、本当にマニアなんだなと感心してしまいます。

白 江 医 院 白江 淳郎

2008/11/03 2008年10月の読書ノート
(1)建築史的モンダイ  藤森照信  ちくま新書
建築と住まいとは似ているようで、実際は概念としては全く異なる物だと言う事です。原始時代、木を立て、そこに草をかぶせて雨露を防いだ物、それは住まいです
 しかし、視覚的な秩序、統一といった概念を持ちながら作られた物は、建物と考えられます。それは古代の神殿であったり、教会の原型であったりでしょう。それらがどの様な思想で作られたのかなどを、考察されています。教会の大きなドームは、洗礼式で使われたテントが発展した物ではないか、と言う指摘はなかなか面白い物でした。
 後段で述べられている、コンクリート打ち放しの建物の由来や、それに対する建築家としての考えは、その歴史がよく分かって、面白い物でした。

(2)零戦と戦艦大和  半藤一利ら  文春文庫
 昭和の戦前、戦中の日本が世界に誇れる工業製品、それは零戦と戦艦大和だったでしょう。一時零戦は、その優秀さを世界にアピールしました。戦艦大和はその性能を一度も世界に見せ付けることなく、無益な特攻攻撃を行い、海の中に沈んで生きました。
 これ等の事を題材にして、日本とアメリカの物事に対する考え方の違いを考察し、なぜ太平洋戦争に負けたかを話し合っておられます。
 面白かったのは、日本は一旦方針を決定すると、それは無謬であると言う前提に立って物事を推し進めるという指摘でした。それに対しアメリカは、人間が考えた事には様々な間違えや、予想できなかった事が生じる物だという前提に立ち、その都度その原因を究明し、ポジティブに対処しています。その積み重ねが、日本の敗戦と言う事になったのでしょう。
 また日本は細かな事を根気よく改善していくので、製品としては完成度の高い物が最終的には生まれます。しかしその過程で名人芸のような物が必要となり、その結果部品もそのものにだけしか使用できないと言った事になり、大量生産には向かなくなります。その様な事の積み重ねが、兵器の量の決定的な差となったのです。
 また単に兵器だけの話ではなく、その運用方法、命令体制などでも大きな違いがあったようです。戦争と言うのは単に兵器、兵力の優劣だけでなく、根本的には国民性が大きなポイントのようです。

(3)文豪たちの大陸横断鉄道  小島英俊  新潮新書
 現代のように航空機が発達していなかった、明治、大正時代、長距離の旅行手段は列車でした。満州や、ヨーロッパ等へ旅行した文豪達が、どの様に列車の旅行を過ごし、車窓から見える風景を感じたかを紹介してあります。
 満州へ旅行したのは、夏目漱石、志賀直哉ら、ヨーロッパへ旅行したのは林芙美子、横光利一、永井荷風、野上弥生子らです。長い時間をかけてその土地に渡り、人々と交流を深め、色々と思索し、文章に表します。
 特に野上弥生子さんは、ヨーロッパではイギリス、ドイツ、フランスに行き、またアメリカの大陸横断鉄道にも乗っています。その旅行を実に淡々と紹介しており、旅行の様子やその当時の世界の様子がよく分かります。
 現代はパック旅行で、知らない間に色々な所へ連れて行ってもらえますが、昔の旅行はゆっくりし、自分で選択する場面が多かったので、それだけ印象に残る物が多かったのでしょう。旅行記の紹介と言うのではなく、時代の雰囲気を感じさせてくれる本でした。

(4)叛逆指令 (上)、(下)  トム クランシー  新潮文庫
 オプ センター シリーズの最新作です。
 御多分に漏れずアメリカでも経費削減で、世界各地の紛争や、大戦争にいたる出来事を、まだ芽の間に摘み取ろうと言う主旨で作られたオプ センターもダウンサイジングせざるを得なくなりました。そこで長官のポール フッドは副長官のロジャースを退役させなければならなくなります。
 そのロジャースの経歴に目をつけたのは、次期大統領に新しい政党を作り立候補しようとしている、テキサス出身の政治家でした。この選挙運動に一軒無関係に思われる殺人事件が起こり、話はそれからどんどんと展開して行きます。
 トム クランシー独特のスピードで、話は息をもつかせない展開になっていきます。
 結果はどうぞご一読の程を。しかしダウンサイジングしたオプ センターがこれからどうなっていくのか、興味深いものですし不安にもなります。全国のトム クランシーファンの皆さん、次作品にも期待しましょう。

(5)寄席の世界  小沢昭一  ちくま文庫
 「私の故郷」と呼ぶほど寄席好きの小沢正一さんが、寄席に関る12人の人たちと対談しています。桂米朝、立川談志、笑福亭鶴瓶、と言った落語家さんたちや、裏方さん、落語を研究している大学教授等等、様々な人たちと面白い話を展開します。
 上方と江戸の笑いの違い、それによって生じる落語の違い、裏方さんの苦労話、それらをあの口調で導き出しておられます。以前にも書いたことがありましたが、「小沢昭一の小沢昭一的心」と言うラジオ番組が好きで、よく聞いていましたがその番組を思い出してしまいました。

(6)子供の最貧国 日本  山野良一  光文社新書
 少子化問題が最近喧しいですが、私はいつも違和感を持っていました。一部の人が言うように、子供が少なくなり日本が滅んでいくようになっても、それは仕方が無い様に私は思っています。最近のコマーシャルによくあるように、美しく老いていけばよいのです。
現在の少子化問題が、労働力が少なくなる事や、老人を支える人たちが少なくなると言ったような、経済的な側面でのみ語られている事に、私は怒っています。政府や国の役人は、子供の事をその様な目でしか見ていないようです。
 この本を読んで、日本はこれまで子供の幸せを真剣に考えた事があるのか、と思ってしまいます。片親の家庭や、生活保護を受けなければならないような、社会的弱者にしわ寄せが行き、その子供達が大きなハンディキャップを背負っている、このことに目を瞑り、アメリカが見事に失敗した市場原理主義に基づいて社会の階層化を図り、より多くの弱者を作っていく、こんな政府を許しておいて良いのでしょうか。
 日本は世界の主要国家が加盟している、子供達の貧困度合いを見る調査の基本になる、ルクセンブルグ所得研究にいくら呼びかけられても参加しない、唯一つの国です。参加しないのは、ユニセフが行う「子供貧困リーグ」ではアメリカと最下位を争っている国だからでしょうか。実際様々な統計を見ても、日本は政治が介入すれば介入するだけ、貧困層の子供達はその恩恵を受けられないという唯一つの国なのです。
国家が責任を持って、この子供達を幸福にするただ一つの方法は、この子供達の親の所得を保証し、子供達にかける時間を増やす事しかありません。そうすることが究極的には、社会的主出を減らす事になり、皆が幸せになる一番の近道です。
この本を読み終わった日に、中山という代議士が衆議院選に出馬する、しないで、自分独りで大騒ぎをし、結局出馬しないと表明しました。この様な低俗、下劣な人物が大臣を勤める事ができるような国に、どうして子供を仲間として、迎えたいと思うでしょうか。

(7)自負と偏見のイギリス文化  新井潤美  岩波新書
 筆者はイギリスの、階層による環境の違いを詳しく説明しています。オースティンという女流作家を通じて、一般的にリージェンシー時代と言われる、「放蕩、贅沢、自由奔放、快楽主義」を謳歌した時代の人たちの、階層間の差別意識、人生観を紹介しています。
 イギリス人の持っているユーモア、笑いとは一体何に由来するのでしょうか。筆者はこれに次の言葉で明確に答えます。
 自分の姿を笑う余裕があるという「自負」、(プライド)、そして自分が愚かであり、馬鹿げたことだと判断した事柄を容赦なく笑う「偏見」(プレジュディス)、これがオースティンの笑いでもあり、イギリス人の笑い、そしてイギリス文化の特性でもあるのだ。
 なかなか含蓄のある言葉です。オースティンの作品を紹介しながら、この事実を作者は私達に紹介してくれます。しかし、いつものように、階層と言う事を理解していないと、この時代だけでなく、現在もイギリスを語ることはできないようです。

(8)四国八十八ヵ所  石川文洋  岩波新書
 報道写真家としてベトナム戦争などで活躍した、石川文洋さんがそれらの戦争で死亡した、報道カメラマンを追悼しながら、四国八十八ヵ所を巡礼します。この戦争では報道写真家だけではなく、多くのベトナム国民、兵士も死亡しました。若しその人たちが戦争も無く歳をとって行っていたら、おそらく今は孫もでき、おじいちゃん、おばあちゃんになって昔話などをして楽しい時間を過ごしていたでしょう。
 また筆者は、この巡礼をしている間に心筋梗塞になり、生死の境をさまよいました。その事もこの本の所々で見受けられる、生命に対する感謝や、尊敬の気持ちに表れているのでしょう。この本を読んで随所にそれらの気持ちが現れていました。
 リタイヤする事ができれば、人生をリセットする意味で四国巡礼をしてみたい物だと思いました。野宿をして、何もかも捨て去った姿で歩いてみたい物です。人生いたるところに青山ありです。

(9)鉄道地図かの謎から歴史を読む方法  野村正樹  KAWADE夢文庫
 鉄道が日本に導入されたのは、当然明治時代になってからですが、その発達には国家や資本家の様々な思惑が絡んでいました。自分の選挙区に鉄道をひいて、実績つくりを行おうと言う代議員が、何時の時代にもいたんですねー。
 これ等の思惑が、鉄道の線路図から読め取れると、筆者は言います。実際この本を読んでいくと、それらの例が詳しく述べられています。戦争の訓練に使い易いように、曲がりくねった路線を多く作った鉄道が、今も実用に供されています。許認可も国の仕事ですので、それらは容易に審査をパスします。
 地図を見ながら、面白い走り方をしている路線を見つけ、その由来を尋ねてみることも面白いでしょう。

(10)3時間台で完走するマラソン  金哲彦  光文社新書
 私はもうマラソンを走る自信などありませんが、運動に関連した健康上のアドヴァイスがないかと、読み始めました。
普段からの歩行の姿勢や、食事、ボディーケア、栄養の考え方など参考になる事は多々ありました。体幹を使って走る事は、普段の私達の歩き方に対するよい参考になるでしょう。私達の体の重心はどこのあるかというと、おへその少し下にある所謂、丹田という場所だそうです。この場所を意識して、これを体ごと前へ進めていく意識で歩く事が、効果的なようです。この延長にジョギングや、マラソンがあります。
 また普段でも出来る、ちょっとしたトレーニング方法も紹介してあり、体を動かす事に興味のある方に有用な本だと思います。
 この本を読んで、3時間台で完走するノウハウは分かったように思います。後は実践あるのみです。その決心はなかなかつきません。

(11)文章は接続詞で決まる  石黒圭  光文社新書
 文章と文章をつなぐ接続詞、その持つ意味と使い方について紹介してあります。様々な文章を紹介する事で、その接続詞の持つ意味や、役割が明らかになっていきます。
 接続詞がよいと文章が映える、と言う事が強調されています。実際文章を読んでみると、使い方次第で、響き方が違って来ます。感心するとともに、このような駄文を書くことが、怖くなってきました。
 最後の章に、「接続詞と表現効果」と言うところがあり、坊ちゃんの最後の部分の、「だから」の使い方を絶賛してありますが、そう言われると作家の方たちは、よく使う接続詞一つ一つにも拘っておられる事が、よく分かります。

白 江 医 院 白江 淳郎

2008/10/03 2008年9月の読書ノート
(1)偽善エコロジー  武田邦彦  幻冬舎新書
 環境によい、地球温暖化対策ということで、我が家でも古紙や牛乳パック、ペットボトルをリサイクルに出したり、冷房温度を28度以上に設定したりしていました。
 この本で、私達が考え実践しているエコに寄与していると思っている暮らしは、本当に地球環境に役立っているのかと考えてしまいました。今年の始め頃に製紙会社がリサイクルの紙と表示しながら、本当は全くのうそだったと言う事件がありました。この理由はリサイクルの紙を作る事で、かえって多くのお金や技術が必要だと言う事でした。またこのようなリサイクルと言うことを唱える事で、国から補助を貰えたりする様々な利権があったのです。
 エコロジーと言う、耳触りののよい言葉で私達が満足している間に、私達の税金を食い物にして、業者がそれこそ濡れ手に粟で、お金儲けをしていたのです。またこれ等の業者は、皆さんが容易に想像がつくように役人の天下り先になっています。
 この本を読むと、何が本当のエコかと言う事がよく理解できます。
 この本を読み終わると同時に、福田の辞職の報道がありました。どう見ても政治家ではない、官僚の端くれのようなあの人を見ていると、いろいろな事に騙され、付和雷同してはいけないと認識を新たにします。

(2)平和憲法の歪曲  粕谷進  近代文芸社
 理不尽な戦禍に見舞われ、やっと正常な判断ができるようになった我々日本人が、廃墟の中で手に入れた最高のものは、日本国憲法でしょう。その日本国憲法の中で、一番の価値のあるものは憲法9条であると私は考えます。
 しかしその憲法9条が、その時その時の為政者にとって都合のよいように解釈され、変身して行った事実を、この本は冷静に紹介してあります。これを読んでいくと、いかにその時代の指導者と言われる人たちが、自分達に都合のよいように憲法の解釈をねじ曲げて言ったかが判ります。
 この本が書かれた時は、小泉が政権を執り、バカな人たちが「純ちゃん」と叫んでいた時代です。この後、よりひどい安倍が出現してやっと彼らの本質がわかる人が増え、憲法改悪への流れが減速してきました。しかしこの本が出版されたのはそれよりも前ですから、筆者はこの流れを受け入れ、自衛隊容認、憲法9条の改変を容認しています。
 筆者は、3大新聞の憲法9条に対する解釈の変遷に対して非難していますが、より非難されるべきは、筆者の示した諦観ではないでしょうか。このような時代に流される考えが、太平洋戦争に結びつき、300万人以上の国民を無駄死にさせる事になったのではないでしょうか。
 私が思う戦後政治一番の汚点は、社会党が自民党と連立を組み、自衛隊容認に走ったあの浅ましい態度です。ただただ山花が大臣になりたかった、村山が首相になりたかっただけではありませんか。恥を知れと、声を大にして叫びたいものです。

(3)日本海軍 運命を分けた20の決戦  太平洋戦争研究会  PHP文庫
 平和憲法についての本を読んだ後、日本海軍の本を読みました。征韓論の頃の「江華島事件」から神風特攻隊、「大和」海上特攻まで、日本海軍が経験した20の戦いを紹介してあります。
 司馬遼太郎さんの「坂の上の雲」が好きなので、日清、日露戦争当時の海戦は、写真も多く興味深いものでした。ある意味でこの時代の海戦は、武士の果し合いのような感じがします。しかし、第一次世界大戦以後になると、大日本帝国の首脳陣、軍部の低俗さが窺われ読んでいていやになりました。
 太平洋戦争の海戦などを読むと、首脳陣の読みの悪さ、甘さにより誤った皇国教育を受けた純粋な青年が、意味も無く殺される為に戦場に投げ込まれます。これで亡くなった人たちの死を貶めるつもりは毛頭ありませんが、このような状況に追い込んだ大人たちの責任は絶対忘れてはならないでしょう。
また、中国の重慶に行った無差別爆撃も忘れてはならない事です。ゲルニカでの無差別爆撃が行われる前に、私達日本の手で、無辜の中国人が何万人も殺されました。しかもそれは後に多くの日本人が空襲で焼き殺された、あの焼夷弾を使用して行われました。自虐的に私達の歴史を見るのではありませんが、真摯な態度で悪かった行動は反省し、全てに事実を明らかにしていく態度こそ、近隣の人たちに信用してもらえる唯一つの方法でしょう。
この本は私のその様な考えとは、ちょっと違った立場で書かれているようで、読まれる場合は、注意を要します。
 私が高校生の頃に流行った歌で、加川良さんの「教訓1」と言うものがあります。その一節に「死んで神様と言われるよりも、生きてバカだと言われましょう」と言うのがありますが、これからの時代にも、この言葉の精神を忘れず、生きていきましょう。

(4)ディズニーランドという聖地  能登路雅子  岩波新書
 子供の頃2週間に1回金曜日に、ディズニーランドの放送がありました。筆者は私より少し年上の方ですが、同じような経験をされています。この放送によって、私はアメリカのすごさを知ったように思います。
 ディズニーランドはウォルト ディズニーによって作られたものですが、彼の幼い頃からの様々な厳しい経験や、それを明るいものに変えていくモティベーションがその成功のもとになっています。アニメーションなどで成功していたディズニーは、それをより現実に近づけるためこのテーマパークの建設を考えます。色々な困難があったにもかかわらず、やっと完成し、いまやアメリカ人の聖地になっています。
 私は東京ディズニーランドしか行った事はありませんが、ディズニーの魔法にかけられたように、ハッピーな気分になってしまいます。しかしそれは魔法などではなく、計算しつくされたショウの観客或いは登場人物の1人になってしまっているからでしょう。
 筆者はそれを詳しく検証し、説明してくれます。ディズニーファンならずとも、興味のある面白い本だと思います。この本を読むと、この内容を検証しに、またTDLへ行きたくなってしまいます。

(5)医療格差の時代  米山公啓  ちくま新書
 医療崩壊が止まらない日本、その元凶は政府、自民党、公明党が推し進めている新自由主義経済と、日本医師会と、マスコミに踊らされた大衆の三つだと思っています。特に私は、国民の側に立つことを忘れた、この2、3年の日本医師会に大きな罪があると思っています。
 筆者は医師という立場で、医療崩壊の原因や現状を紹介し分析しています。医師の中にも生じている格差、医師の生きがいの喪失、これ等の指摘は真摯に見つめていかなければなりません。
 またもう一つ言いたいのは、この本でも筆者が指摘している、製薬会社が大儲けをしている事です。皆さんはご存知ないと思いますが、私達医療機関は、薬剤を消費税込みで購入し、消費税なしの薬価で患者さんに処方しています。購入価格は薬価の90%を下回る事が、最近はまれになって来ました。中には95%を越えるものもあり、消費税を入れると赤字になります。一般の小売業者でこのようなことはありえるのでしょうか。問屋さんに聞くと、製薬メーカーから問屋さんに入ってくる卸値も、最近はかなり高くなっているようです。製薬メーカーは経営が厳しい等と事あるごとに言いますが、空前の利益を挙げている事は明らかな事実です。またこのようなメーカーは、最近は知りませんが、以前は「エーザイ」一社を除き、厚労省からの天下りを多く受け入れていました。
 医療には問題も多く、私の思い入れや言いたいことも山ほどあるので、とても終わりません。この本を読んで色々と考えてください。

(6)27人のすごい議論  「日本の論点」編集部編  文春新書
 「日本の論点」に掲載された論文の中から、興味深くまた対立軸になるようなものを選んで、掲載してあります。経済の成長についての内橋克人と竹中平蔵の論文、靖国問題についての櫻井よしこと高橋哲哉の論文など実に興味のある対決です。掲載された中には、竹中平蔵の論文のように化けの皮がはがれたものもありますが、多くは私達日本人にとって永遠の課題のようなものも多くあります。
 また今社会問題になっているひきこもりや、少子化問題に対してだいぶ以前より警告を鳴らしていた人たちがいる事は、大した物だと感心すると共に、無為無策で過ごしてきた私たち自身を反省しなければならないでしょう。

(7)なぜ、江戸の庶民は時間に正確だったのか?  山田順子  JIPPI compact
 時代考証を仕事にしている筆者が、今ちょっとしたブームになっている江戸時代の風習などを紹介しています。
 時代劇などでは、NHKの大河ドラマのようにしっかりとした時代考証が必要なものと、水戸黄門のように適当でよい物とがあるようです。(水戸黄門で、山に向かって「ヤッホー」と叫んでいた場面があったようです。これはちょっとした雑談で、この本とは関係ありませんが。)この本は正確に時代を考証しようと取り組んでいる筆者が、分かりやすく江戸時代を紹介してくれています。

(8)探偵!ナイトスクープ アホの遺伝子 虎の巻  松本 修  ポプラ文庫
 龍の巻の続編です。1988年以降の、この番組の歩みが語られています。この本の最後に歴代の放送のネタ一覧があるのですが、懐かしいものも多見つかります。「アホ バカ分布図」、やっぱり「謎の爆発卵」、それとあまり取り上げられませんが、爆発卵と同じ藤本君の依頼で小枝探偵の登場する「ノミのサーカス」(私はこれが好きだったなー)、どれも懐かしいものがあります。
 気軽に読め、ファンには懐かしいバイブルのような本です。

(9)歴史のかげにグルメあり  黒岩比佐子  文春新書
 長い鎖国を解いて、西洋と付き合いだした日本は、外交の面でも近代化をする必要がありました。所謂外交で、その当時必要だった事は、皇室をはじめとする各国皇室とのお付き合いでした。料理と言えば、フランス料理が主役の時代でしたが、それまで和食しか食べていなかった人たちが、どの様にそれと向かい合い、また日本人でその料理と対処して行ったかを書いてあります。
 明治天皇は、その様な外交をあまり好んで居られなかった事がよく分かります。しかし元首としてはそれをいかにも平気なものとして、やり遂げる事が必要だったのでしょう。
 それにしても、その頃のパーティーに出されたフランス料理のメニューの豪華な事。私はとても食べきる事はできません。それまでお米と、味噌と、わずかの野菜しか食べた事の無かった人たちにとって苦痛だったのではないでしょうか。
 よく患者さんに言うのですが、私達のDNAは縄文時代から全然変っていないのに、食生活は毛唐の物になってしまっています。また最近は歩く事も少なくなってきており、これでは、当然無理が来るわけで、所謂生活習慣病の患者さんが多いのも仕方がありません。
 明治時代は無理に背伸びをして頑張っていた時代ですが、もう一度私達日本人の本来の姿を見直す時が来たのかもしれません。

(10)大阪地名の由来を歩く  若一光司  ベスト新書
 普段何気なく生活している大阪ですが、歴史も古く知らない事がたくさんあります。地名をヒントにして、私達にその歴史を紹介してくれる本です。
 放出や道修町など有名な、難読地名はありますが、何気なく使っている地名もその由来を聞けば驚く事が多くありました。例えば鶴橋。そんな由来があったのかと驚き、一度探検してみたい気持ちになりました。あまり内容を紹介してしまえば面白くないので、この辺にしておきますが、私達の知っていて、それ程疑問も持たずに使っている地名だけに、興味がわいてきます。

(11)いまこそ「資本論」  嶋 崇  朝日新書
 どうも私は「資本論」に対するコンプレックスがあるようで、またこのような本を読んでしまいました。結構平易に資本論を説明してくれています。現在の日本、アメリカなどを想像しながら読むと、マルクスの予言した事が現実の物となっており、資本主義の社会が、究極の状態にまで来てしまったように思います。
 この本で面白かったのは、マルクスは医師で言えば、診断は正しかったが治療方法の実践の仕方を間違えた、と言う言葉です。ただ彼はその処方箋は書いてはいません。処方箋を書いて、間違えていったのは後世の人たちであったのでしょう。
 後の解説のところにも書いてありますが、この本を読んで資本論が分かったと思うのは大きな間違いでしょう。しかしこの本が、その手始めになる事は間違いありません。

(12)病が語る日本史  酒井シヅ  講談社学術文庫
 遺跡や文献に残る多くの史料を参考にして、各時代の人たちが患った病気や、ケガについて面白く紹介してあります。筆者は、順天堂大学の医学史の教授として有名な方で、医学雑誌にもよくお名前は拝見します。
 文献の無い時代の人たちの事は、遺跡から発掘された人骨からしか想像できません。まれに偶然が重なり、ほぼ完全な形で遺体が発見される事がありますが、それらはわずかです。大昔の人たちでも、骨折を治療しながら生活していた事、戦いで刺さった鏃が体内に残ったけれど、その後長く生き残っていたことが想像される人もあることが、紹介されています。
 文献が残るような時代になってくると、その情報量は飛躍的に増加し、どの様な疾患が流行し、その原因を人たちはどの様に考え、対処してきたかが紹介されています。稚拙な考えと笑う事もできるでしょうが、その時代時代で考えられる精一杯の事を、人々は行ってきたのです。そう考えると現在の医療も、100年後の人たちには噴飯物になっているかも知れません。

白 江 医 院 白江 淳郎

2008/09/01 2008年8月の読書ノート
(1)電車の運転 宇田賢吉 中公新書
 40年以上、鉄道の運転手として勤務してきた筆者が、運転の仕組みや理論、実際の運転状況などを書いています。電車は自動車と比べて、モーターで動き、決められた道の上を走るという決定的な違いがあります。また時間を正確に守ると言うプレッシャーと戦い、正確な位置にスムースに停車しなければならないと言う使命があります。
 この本を読んでいると、運転士さんは一秒を倹約する為に、非常な努力をしておられる事が分かります。以前尼崎で大事故があった時、現場の運転士さんにかかる非常なプレッシャーが話題になりましたが、一秒にこだわることがいかに大問題であることが分かります。現場にある程度余裕を持たせた、中央集中管理の効率的な方法が必要でしょう。
 この本は写真をふんだんに使いながら、運転士さんが実際の路線のこのあたりでは何に注意をし、起こりうる様々な事例に対してどの様に心の準備をしているのかが紹介してあります。電車の最前部で運転士さんの仕事振りを見ている時に、より興味を持って見られそうです。ただ50歳を過ぎたおっさんが、余り電車の前を一生懸命見ているのもおかしいでしょうが。

(2)江戸の刑罰拷問大全 大久保治男 講談社+α文庫
 江戸時代には犯罪を抑制すると言う目的で、見せしめの意味もありかなり惨たらしい処刑方法がありました。
私の恩師、痛みの治療で高名だった故兵藤正義先生は、拷問の方法に興味を持っておられました。別に先生に変な趣味が合ったわけでなく、長い時間をかけて開発された?効率的な痛みを感じさせる方法を知る事で、何か痛みの治療に応用できないかと考えられたのです。学会の特別講演でこの話をされた時は、かなりの聴衆で大うけだったそうです。
江戸時代は現代と違って階級社会、男尊女卑の世の中でしたので同じ罪状でも刑罰に大きな差がありました。何とも理不尽なものもあったでしょう。概して人の命は軽んじられていたようですが、最近の私達の日本も偉そうには言われないように思いました。

(3)「日本は先進国」のうそ 杉田聡 平凡社新書
 いつも私が感じている日本のおかしさ、それを見事に著してくれています。環境後進国であること、労働基準法も守れていない国であること、男女平等など存在しない国であること、露骨な思想教育と教育に対する管理があること、政治や司法が本来の機能を全く果たしていない事、その他様々な事が述べてあります。
 いつも私は言っているのですが、現在の政府は政治を行っているのではなく、各種団体の利益の配分のみを行っており、政府と言うよりは株式会社の経理部門と考えた方が良いと思います。そうも考えないと、このような露骨な弱者切捨てなどが起こるわけがありません。政府は憲法の思想を体現して、国民の利益を推進する事が本来の仕事でしょう。しかし現在の自民党、公明党の行っている政治は、財界の利益のみを考え、国民の福祉などは考えていません。国際競争力などといつも述べていますが、それを支える国民がその様な企業の奴隷となり、正規雇用も行われず貧困にあえぎ、憲法の保障する最低限の健康で文化的な生活も営めない、このようなことがあってよいのでしょうか。
 医療の分野でも、国はお金持ちなら充分な医療を受けられ、弱者はそれを受けられないと言う政策を、推し進めています。イギリスでサッチャーが行い、医療崩壊をきたした政策をなりふりかまわず推し進めようとしているのです。残念な事に、小泉に後押しされた唐澤氏を会長とする日本医師会、それを支えるといっている酒井氏を会長とする大阪府医師会の現執行部は、この政策を推し進めることに反対を唱えません。国民の健康に一番の責任を持たねばならない医師会がこのようであることは、大変情け無い事で、どうにか打倒しなければならないと考えます。
 それにしても、憲法に保障された最低限の生活を守り、憲法を遵守しながら国際平和に貢献する政治を行う政党ができないものでしょうか。小さなイデオロギーの違いは乗り越えて、護憲連合といった政党を作りませんか。

(4)痩せてりゃいい、ってもんじゃない! 森永卓郎 柴田玲 文春新書
 本の題はこのようなものですが、やはりデブは良いものではありません。キーワードになっているのは、脂肪組織が作っているアディポネクチンというホルモンです。これの減少はメタボリックシンドロームの中心的役割を果たすだけでなく、癌の原因になったりする事も考えられています。
 ただ痩せすぎていると、このアディポネクチンの生産が減少してきますのでこれも問題です。程ほどの、昔ながらの和食で生活していく事が、私達日本人には必要な事でしょう。
 悪役のみと考えられているかもしれない、脂肪について面白く解説してあります。

(5)甲骨文字に歴史をよむ 落合淳思 ちくま新書
 殷の時代に行われていた甲骨占ト、世界史の教科書でもおなじみです。それに使われていた甲骨文字は、形こそ違いますが私達が使っている、現在の漢字と同じ構造をしています。したがって漢字と相関させれば、殷の時代の政治の様子などが良く分かります。
 ただ甲骨占トは国王などの権力者が、政治上などの判断を行う為に行ったものなので、庶民の生活等の所謂文明の様子は、窺う事はできません。ここでは、暦や農作物について占いと言った事から推測されるのみです。従来考えられていたような、奴隷制はあまり無く(戦争の捕虜が奴隷になっていた程度)土木時事業なども、農民を農閑期に賃金を払って雇っていた事が推測されています。
 殷帝国の滅亡は、あの有名な「酒池肉林」の帝辛による悪政と習ってきましたが、実際は帝国の権力が強力になりすぎ、地方への支配が協力になりすぎた為に反乱が起こった為と考えられます。決して酒色におぼれた為ではないようです。それも様々な甲骨占トを分析することで明らかになってきました。
歴史を見るに、秦を代表とするような強力な中央集権国家は長続きせず、比較的ルーズな支配体制をとっていた国家が長続きした事は、興味ある事実です。これからの地方分権にも参考になるかも知れません。

(6)へそ曲がりの大英帝国 新井潤美 平凡社新書
 映画やミュージカル、小説やコメディーなど様々な分野からイギリス人を分析しています。筆者は「不機嫌なメアリー ポピンズ」で、現在も脈々と続くイギリスの階級社会を紹介してくれましたが、その続編と考えても良いのかもしれません。
 「ミスター ビーン」や「空飛ぶモンティーパイソン」を見て、面白いと思えるところと、一体何が面白いのか分からないところがあることを、経験された事があると思います。これはイギリスでも同じ事で、その人の属している社会のクラスによって、ユーモアの内容も全く違ってくるのだそうです。コックニー訛りの強いロンドンの下町の人たちと、郊外に住む所謂アッパー クラスの人たち、北部の労働者階級の人たち、言葉も違えば笑いも違います。
先日宝塚歌劇団月組の、「ミー アンド マイ ガール」を見るチャンスがありました。なかなか面白いミュージカルで、結構嵌ってしまっているのですが、主人公のカップルがロウアー クラスから、アッパー クラスになっていくに連れて言葉が変わっていくはずなので、一度本場でこのミュージカルを見てみたいと思っています。
 イギリス人は結構皮肉屋で、物事を斜めに見たり、ストレートに感情を表現したりしないようです。そこらあたり私に似ている様な気がして、仕方がありません。

(7)探偵 ナイトスクープ アホの遺伝子 龍の巻 松本修 ポプラ文庫
 あの探偵ナイトスクープの誕生の経緯や、苦労話が初代のディレクターによって紹介されています。初期の頃のナイトスクープはあまり知らないのですが、(よく見出す様になったのは、「爆発卵」以来です)今の形になるまで色々の試行錯誤があったことが分かります。
 気軽に笑いながら読めます。リラックスしたい方にお薦めです。

(8)大漁旗ぶるぶる乱風編 椎名誠 講談社文庫
 椎名誠さんが、北は礼文島、厚岸、から南は南大東島まで方々の港を、それこそあてども無くぶらぶらと訪れます。そこで土地の人と巡り合ったり、珍しいものに出会ったりした事を写真でも紹介しています。
 ここで椎名さんも書いているのですが、漁業を営む人たちの数が減ってきて、漁船も減少してきているにもかかわらず、港は護岸工事などで段々と立派になってきています。学校では、海は危険だから近づかないように、等と教えているところもあるようです。周りを海に囲まれた日本も、このように土木工事等により海に関らないようになってくれば、これから先一体どうなるのでしょうか。大いに考えさせられます。

(9)珍奇絶倫 小沢大写真館 小沢昭一 ちくま文庫
 小沢昭一さんの語り口が好きで、ラジオの「小沢昭一的こころ」はよく聞いていました。この本は、題名が面白そうだったので、インターネットで購入しました。
あの独特の語り口を髣髴させる文章や、趣味にしておられる写真が多数掲載されています。この本の副題にあるように、昭和の「色」が無くなっていくのを惜しんで撮られた写真ですので、電車のなけでは開けにくいものが多く、お盆休みにやっと読むことができました。単にエッチなおじさんと考えるか、裏の伝統社会に通じてそれを一生懸命に記録している、と考えるかで評価は分かれるでしょうが、私は筆者の普段の言動から見て、後者の方だと考えます。
 まあ面白い本ですが、この本の内容で、私を判断する事はどうぞお控え下さい。

(10)TOKYO建築50の謎 鈴木伸子 中公新書ラクレ
 建物に興味はあり、見て廻る事が大好きと言う筆者ですが、建築学の専門的な知識は持っていません。そこで私達が常に持っているような疑問を、専門家に投げかけてそれに答えてもらっています。例えば、超高層ビルのエレベーターは本当に安全なのか、スロープのあるビルはなぜ最近増えてきているのか、建物の復元保存はどこが難しいのかなどの質問が出されています。
 実際言われてみれば、不思議な事が色色あるものです。大阪でも多くのビルが建築されていますがその様な目で見ていけば、面白いでしょう。

(11)戦国史の怪しい人たち 鈴木眞哉 平凡社新書
 「怪しい人」は戦国時代にたくさん出没しました。上は豊臣秀吉、宮本武蔵から石川五右衛門まで、生まれや経歴などがはっきりしない人たちの事が紹介されています。
 江戸時代の講談や物語で、実像が段々と誇張されていき、本来の姿とは全く違う人になって行ったこともあったようです。その誇張の方法は、近くの時代の有名人や名前の似ている人の逸話を借りてくるなどがあったようです。
 そのほか、名場面に一度だけ顔を出した人たちの、その後の人生を紹介してあります。私がずっと気になっていたのは、桶狭間の戦いで今川義元の首を取った、毛利新介と服部小兵太のその後です。二人ともその後の人生の記録はやはり残っていますが、波乱の人生を歩んだようです。また沙也可は雑賀衆かということも、様々な資料を使って考察してあります。
 戦国史に興味のある方にお薦めです。

(12)「昭和」を点検する 保阪正康、半藤一利 講談社現代新書
 昭和史研究の第一人者の二人による、対談集です。
 「世界の大勢」、「この際だから」、「ウチはウチ」、「それはおまえの仕事だろう」、「しかたなかった」と言う五つのキーワードを題材にして、昭和史の考察をしています。
 日本は外圧がかかって、初めてそれへの対応を始めます。主体的に物事に取り組む事は無いようです。そしてその対応もセクショナリズムに基づいたもので、自分の持分を犯されないように、細心の注意を払っています。彼らにとって重要な事は、自分の領分を守るということです。そしてその結果が悪くても、責任を考察することなく、破廉恥にも「しかたなかった」で済ませてしまいます。
 第二次世界大戦の敗戦時に、各省庁では重要書類を皆焼却するようにと言う命令が出、多くの書類がなくなってしまいました。従軍慰安婦問題でも、それに関する書類が焼却されてしまったため、安倍のように事実は無いなどと厚顔無恥な発言ができるのです。「あれは仕方が無かった」等と言いながら、お爺ちゃんの弁護をするのでしょう。
 この本は戦前の日本を考察すると共に、今も続く日本人の思考方法について示唆する事が多くありました。

(13)蘇我氏の古代史 武光誠 平凡社新書
 蘇我氏というと馬子、蝦夷、入鹿が朝廷を思うように操り、多くの人たちを殺してひどい政治をしていたイメージがあります。しかし現実はその様なひどい一族ではなかったようです。蘇我氏悪役論はあくまでも中臣鎌足や天智天皇の作った歴史の記述によるものだからです。
葛城氏の一族として興った蘇我氏は、一族で分家を繰り返しながら、次第に朝廷の中で権力を得るようになってきます。しかし蘇我本家だけが大きくなっていくと、それに反発する、力を持ち出した分家が出現してきます。それらが外部の勢力の、様々な思いと複雑に絡み合って山背大兄王の暗殺や最後は大化の改新、ついには蘇我石川麻呂の死亡に至ります。大きな政治勢力としての蘇我氏は、ここで歴史の表面から消えていきます。
 その後蘇我氏の一族は朝廷に仕えますが、藤原氏の天下となった朝廷では高い地位にも上がれず、中級役人として存在していきます。
 この本は歴史上大きな名を残しながら、泡沫の様に消えていった蘇我氏が、どの様にして権力を得ていったのか、またそれがどの様にして崩壊して言ったのかを、丁寧に時系列で紹介してあります。

(14)戦国の合戦 小和田哲夫 学研新書
 戦国時代は、日本全国で戦が行われていた時代です。しかしその戦も、大掛かりな物は少なく、小競り合いであったものが殆どのようです。
 その戦もはじめのうちは、半分農民であった領主が小作の人たちを連れて、戦国大名の要請に応じて、参戦すると言うものが多かったようです。実際戦死者を見れば、100人中80人から90人は駆り出された農民だったようです。   
しかし次第に職業軍人といえるような人たちが増えて来、織田信長のように部下を能力により、使い分けるようになって来ました。その頃から合理的、近代的な戦術が花開いていったようです。
そうは言っても色々と神様に祈願する事も多かったようで、所謂軍師による、合戦の開始日の選択や、戦いに望む儀式など、あの進歩的と思える織田信長さえ、出陣の儀式を行っていたようです。
 戦国時代も後半になり、大規模な戦が行われるようになると、兵站が重要になってきます。それ以前の戦では、3日分の干飯があればどうにか戦が出来ましたが、それ以後は長期戦になる事もあり、兵站の専門家が必要になってきました。そこで能力を発揮したのが、石田三成らのグループです。秀吉死後の豊臣家で、所謂武辺派と文官派の反目が生じたのも、無理からぬ事でしょう。

(15)「古事記」の真実 長部日出雄 文春新書
 まずは、稗田阿礼は日本最初の女性作家ではないか、と言う興味ある疑問から、この本は始まって行きます。男性的な、或いは男尊女卑の立場で書かれている日本書記に比べ、古事記の内容が女性の立場に立って述べられている事が多い事で、このような意見がずっと以前からあったのだそうです。
 また壬申の乱の原因の一つに、外国の文化に精通し、わが国をその様に発展させていこうとする大友皇子と、日本固有の文化を尊重していこうとする大海人皇子の考えの違いがあり、その考えに各地の豪族が賛成したのでは、と言う考えが述べられています。その後天武天皇になってからは、全国に残る様々な伝承を集め書き残し、その集大成が古事記になったと言います。
 現代はマスコミも発達し、所謂共通語もあるため、各地の人たちとコミュニケーションを取る事はそれほど大変なことではありませんが、奈良時代などはそれこそ外国語を使うような感じで、他の地域の人たちと話をしていたのでしょう。その困難を乗り越えて、古事記は編集されました。
 出雲大社は現在の物よりも、遥かに背の高い豪壮なものだった事が、発掘の結果分かりました。このように大きくて海からもよく見える社を作る事は、日本海側に住んでいた漁労を生業とする人たちの共通の宗教儀式だったようです。明らかに稲作文化と異なった、それらの文化を持った集団が居り、それが古事記にある国引き神話や、大国主命の話のもとになったのでしょう。
 従来から伝わるこれ等の話を、荒唐無稽なものと考えず考証していけば、歴史の真実に行き当たるかもしれません。

白 江 医 院 白江 淳郎

2008/08/02 2008年7月の読書ノート
(1)くさいものにフタをしない 小泉武夫 新潮文庫
 発酵学の小泉教授が書く、食文化の話です。発酵と腐敗は臭いで言えば似たようなものですが、実際は全く違います。この違いを利用して、人類は食物の保存方法を開発してきました。
 全くその知識の無い小学生に、発酵させたものと腐敗したものの臭いをかがせると、的確にその違いを判断するそうです。私達の最近の生活では、臭いに敏感になりそれを無くする工夫ばかりが先行しているようです。昔初めて食べた納豆はもっと臭かったし、お土産に貰ったくさやは、悪意を持っているようにしか思えませんでした。この様な食生活の変化は、日本人としての生活に良いものなのでしょうか。
 よく患者さんに言うのですが、日本人のDNAは縄文時代と今日とでは変化がありません。それを急に外国人のような食生活をすれば、あっという間に歪が出てきます。宮沢賢治の「雨にも負けず」の中に、「一日に玄米4合と味噌とわずかの野菜を食べ」という言葉が出てきますが、私達の体はこの様な食生活に適応しているのです。決して肉やチーズ、マヨネーズやバターの生活に堪えられるものではありません。

(2)川柳うきよ鏡 小沢昭一 新潮新書
 またまた小沢昭一さんが選者になった、小説新潮の川柳の秀歌集です。平成6年から平成14年までのものを集めてあります。湾岸戦争から、小泉政権誕生までの期間です。今から思えば、正常な人が首相になっておれば、もっと住みよい世界になっていたことでしょう。
 1人の大金持ちに9999人が奴隷のようになって恵んでもらう世界より、10000人がそこそこ貧しくても、暮らしていける社会の方がよいに決まっていると思うのですが、如何でしょうか。

(3)神社仏閣に隠された古代史の謎 関裕二 徳間書店
 日本書紀や古事記等昔の物語、色々な神社の故事来歴、これ等はどれも荒唐無稽なもののように思われます。しかし筆者はそれらのものを一応は正確なものと考え、歴史の神秘を解説していきます。私がお参りした事があるのは、一言主神社、法隆寺、談山神社、東大寺など12,3の神社ですが、行った事があるだけ興味深いものが多くありました。
 悪党と考えられている蘇我氏は、実は政治改革を行おうとした為に滅ぼされたとか、聖徳太子の実像はどの様なものであったか、など筆者のユニークな歴史の解釈が披露されています。教科書的に歴史を覚えている私にとって、筆者の歴史観は目を見張るものがあります。
 これまでの歴史書は、所謂勝ち組が自分達を正当化しようとして作った物です。それに対して敗れた方は、色々な工夫をして自分達の正当性を残そうとしました。それが神社の故事来歴だと作者は考えます。物事を斜めに見ることが好きな私にとって、共感を持てる内容でした。この本を読みながら、様々な神社を訪れたいと思いました。

(4)里山ビジネス 玉村豊男 集英社新書
 ロンドン、パリの「旅の雑学ノート」以来、ずっと読み続けている筆者のビジネスについての本です。筆者は肝炎を患って以来、長野県に生活の起点を定め、ワイナリーを作ったり、農耕を行ったりしてきました。その集大成ともいえるのが、今回立ち上げたレストランです。バスも通わない場所で始めたレストラン、使用する素材は殆どが、作者やそのスタッフが自分の畑でつくったものです。また多くのスタッフは、1人でいくつもの仕事をこなし、訪れてくれた人を愉しませるようもてなします。
 経営学などの知識のない筆者ですが、その真心や、自然や里山に対する真摯な態度が事業成功の原因でしょう。私達日本人は、昔から持っていた物事に打ち込む姿勢、他の人を思いやる心を失い、小泉や竹中の言う(その背後にはブッシュの信奉するシカゴ学派の、新自由主義があるのですが)どんな手を使っても儲けたものが勝ち、という考えにとりつかれているようです。
 その様な浅ましい考えではなく、真面目に控えめに生きて行き、それを理解してくれる人と共に生きていくという生き方もあり、それを評価している人も、存外多くいるということをこの本を読んで認識しました。

(5)大名屋敷の謎 安藤優一郎 集英社新書
 江戸時代の大名屋敷は、現代の各国の大使館と同様、幕府からの治外法権の土地でした。各地の大名が上屋敷、中屋敷、下屋敷を持ち、そこで国許からの侍を住まわせていました。この本は前半はそれらの武士の生活を紹介してあります。
 後半は実に面白い視点から、これ等の大名屋敷の生活を分析してあります。どうしてもその大名屋敷からは排泄物が出ます。それらを契約して汲み取り、農家にまたそれを売る、農民でありながら商人のような働きをする人たちが出てきます。その1人である中村甚右衛門が、どの様に大名屋敷に出入りするようになり、時代の変化に連れて仕事の内容を変え、たくましく生きて言ったかが紹介されています。
 勿論排泄物を扱うだけでは、充分な商売は出来ません。大名屋敷の中の畑で野菜を作ったり、開国のどたばたで休に必要になった馬の世話や、えさの確保をしたり、人足の手配をしたりと、総合商社のような仕事をするのです。明治になり幕府が無くなったその後、新政府の仕事を貰って活躍していく有様が紹介してあります。
 どの時代も、日本人は実にたくましく生きてきたものです。

(6)田舎暮らしができる人 できない人 玉村豊男 集英社新書
 「里山ビジネス」のもとになる本です。軽井沢から、より田舎に引っ越した筆者の、田舎で生きるノウハウが語られています。この本を読みながら、引退後は裏の土地で農業でもしようか、と考えている私は、色々と考えさせられました。
 昭和34年に大阪学芸大学(現大阪教育大学)附属天王寺小学校に入学した私は、カルチャーショックを受けました。その一つに、「南河内郡道明寺村大字大井」などという住所の同級生はいないということがありました。大概は区、町といった住所でしたので、本当に驚きました。しかし村の方たちに目をかけていただき、それこそ大事に育てていただきました。それがこの「田舎暮らし」の良い所ではないかと思っています。
 勿論、大井も昔のように大阪の近郊農家の集落ではなく、ベッドタウン化しています。しかし気持ちとしては、「河内の田舎」と言う物を持ち続けたいと思っています。

(7)日本全国産業博物館めぐり 武田竜弥 PHP新書
 日本全国にある産業博物館を、紹介してあります。地域の産業を紹介する目的で出来た物や、企業の歴史を紹介する物まで、実に様々な産業博物館が、それこそ日本全国にあります。恥ずかしながら、このうちの一つとして見学した物はありません。
大阪では、松下電器歴史館、インスタントラーメン発明記念館、自転車博物館サイクルセンター等が紹介されています。自慢にはなりませんが、このうちどれ一つとして訪れた所はありません。皆さんも一度読んで見られて、訪問されてみては如何でしょうか。
面白かったのは、それ程大きくない企業でも、老舗と呼ばれるところは、頑張って資料館を作り、社会に貢献しようと考えている姿勢でした。

(8)中世の東海道をゆく 榎原雅治 中公新書
 東海道と言うと、安藤広重の絵や、東海道中膝栗毛を思い出します。しかしそれはあくまでも江戸時代の話です。この本はそれ以前、鎌倉時代、室町時代の紀行記を題材にして、東海道の旅の様子を紹介してあります。
 この時代は、京都と鎌倉を結ぶ道がメインルートでした。現在と異なり、道路の整備などはあまり行われていませんし、地形も今とはかなり異なっています。海岸沿いの道などは、潮の満ち引きの影響を受け、時間によってはかなりの時間、道ができるのを待たなければなりません。そこにはその様な人を相手にした、旅館や宿坊が発達してきます。それらの旅館は一つの宿場町で仕事をするだけではなく、近隣の宿場とタイアップして、馬の貸し借りや物流の仲介などの仕事をしていくようになります。
 筆者はその当時の海の潮位を調べ、紀行記の作者のたどった道を考察しています。これは新しい研究方法でしょう。ただ、この研究の紹介に重点が置かれたところもあり、話のポイントが絞れなかったような感があります。しかし、多くの人たちがどの様に苦労して旅をしたかを知る、貴重な史料だと思います。

(9)赤と黒の軍旗が暴く、信長の秘密 木下代理子 ヴィレッジブックス新書
 私は知らなかったのですが、織田信長の旗指物の色は、黄色の地に黒で「永楽通宝」を描いたものだったそうです。筆者はヒューマンカラーカウンセラーという立場から、この色を選んだ織田信長の、深層心理や精神状態の背景を考察していきます。
 そのほか伊達政宗が好んだ「青」、明智光秀の「水色」などそういう目で見れば、彼らが歴史の上で果たした役割が、説明されそうに思われます。気軽に色と精神状態の関係について読める本です。

(10)秘密の京都 入江敦彦 新潮文庫
 京都に行くことが多い私ですが、昔は河原町の丸善で医学書などを買い、松葉で鰊そばを、鍵善で葛切りを食べ、一澤で鞄などを買い、と決まったパターンです。この本は京都で生まれ育った筆者が、京都の町を自分のスピードで歩きながら、目に入ってくるものの説明をしてくれ興味を抱かせてくれます。
 洛北、洛西、等と地域別に紹介され1日かけて歩き回るのに、ちょうど良い距離のように思われます。この本を持って、京都を散策して見られたら如何でしょうか。

(11)シェーの時代 泉麻人 文春新書
 「おそ松君」が「週刊少年サンデー」でスタートしたのは、昭和37年4月の事だそうです。その頃私は小学校4年生でしたので、もう漫画とは離れた頃でした。漫画といえば、小学校の入学試験の時に、「ジャングル大帝」を読んでいた記憶があります。それ以後は、サザエさんくらいしか読んだ記憶がありません。
しかし赤塚不二夫さんの漫画を真剣に呼んだ記憶はないにしても、登場人物はやはりよく覚えています。先日も、この人達は誰かに似ている、と悩んでいたら、レレレのおじさんと、チビ太だった事がありました。子供の頃に知らず知らずインプットされていたのでしょうか。
この本は私より少し若い、泉麻人さんが、「おそ松君」を紹介することで、昭和三十年代の子供の生活を回想した本です。「そうそう」と共感する部分と、「大阪の子供はちょっとちがうで」と思う部分がありましたが、概して懐かしい場面が多くありました。私達の世代の方にお薦めです。

白 江 医 院 白江 淳郎

2008/07/02 2008年6月の読書ノート
(1)食えば食える図鑑  椎名誠  新潮文庫
 日本全国不思議なものを食べ歩く、あの椎名誠の本です。ヤシガニ、フジツボ、魚のえさのゴカイ等など、これ等をおかずとして食べている地域があるのです。それらを尋ねて実際に食べてみると言う、なんともおぞましい旅行記です。
 一番びっくりしたのは、その様な奇妙な食材ではなく、名古屋の奇妙な食生活の章です。天むすは変なものだなと言う印象はありますが、(おにぎりの中にてんぷらはないぞ)納豆コーヒーゼリーサンド、抹茶小倉スパゲティー、マンゴーの辛子大盛りカキ氷、一体これは何なんだ。全くの異文化と言えるような気がします。
 この本の中で食べた事があるのは、ウツボくらいのものでしょうか。小学校の時、臨海学校のお土産で、白浜で勝って以来お気に入りです。子供達も小学校の臨海で白浜に行くたびに、お土産で買ってきてくれたものです。それにしても日本には色々な食材があり、それを食べる為に様々な工夫がされていると、感心しました。

(2)イラクは食べる  酒井啓子  岩波新書
 混沌とした現在のイラクですが、当然そこでも人々の日常生活は行われています。イラクの様々な料理を紹介しながら、現在に至るイラク情勢が語られています。
 ネオコンやその支持母体の利益の為だけの目的で行われたイラク侵攻、その結果イラクでは「民主主義を根付かせる」ことなく、イスラム原理主義が台頭し、イスラム教の各分派が政党や民兵を持って、争いあっています。
国外への難民や、移住した人たちも250万人以上にのぼるとの事です。もはや国家としての機能を円滑に運営する事は出来ないように感じてしまいます。海外からの援助金も、かなりの額の使途不明金があるようで、イラク国民の為にはなっていないようです。
この様な国にしてしまった責任は、当然アメリカ、ブッシュを中心とするネオコンでしょうが、それに追従した私たち日本もその一端を担っているのでしょう。武力によらず問題を解決する事は憲法に明記してある事です。それを無視し、自衛隊の派兵を既成事実化したい小泉やそれを利用した勢力、これ等を私達は例え調子よくマスコミが忘れても、忘れてはなりません。

(3)スーツの適齢期  片瀬平太  集英社新書
 40歳を超えたくらいより、男が本当の意味で装うことの愉しみが出来て来ると筆者は言います。若い時のように、流行に流される事無く、自分に合った服を着られるようになるからです。私達中年の着慣れているスーツをどのように着ていくか、また選んでいくか、周囲や状況に応じた着かたなどが語られています。
 医師になって、病院では手術着や白衣、開業しても主にケーシースタイルの白衣で過ごしていますので、仕事以外のときは何か違う服装をしたいと思ってしまいます。支払基金へ行く時には、冬はアスコット タイを締めたり、お気に入りのジャケットを着たりして、これが一種の私の息抜きでしょう。そういう意味で、中年のおっさんにとって興味ある話題を提供してくれた本でした。

(4)軍需物資から見た戦国合戦  盛本昌広  洋泉社
 戦国時代は勿論戦争が多くあった時代ですが、戦争をする為には様々な軍需物資が必要です。その中でも特に、森林資源に注目して書かれています。
陣地の柵や城壁を作る、川を渡るために舟橋を作る、槍を作る、様々な目的のために規格を揃えた材木が必要です。それらの木を調達する為に、領国に触れを出し木を切らせること、またその木を植林する事、それらに領主は腐心しました。村同士の争いの調停も必要です。戦国大名は戦争ばかりしていたのではなく、この様な事にも当然忙しかったわけです。上手くこれ等を行った人ほど、有名な戦国大名になったのでしょう。
いかに頑張って資源保護を行っても、各地で山林は荒れて行き、土砂崩れが起きたり、保水力が衰えた為洪水が起こったりしました。その土砂が下流に流れ、川下には州が出来新田が出来たのは、皮肉な結果です。
元々私達の先祖は自然を大切にし恐れてきたので、むやみやたらに山の木を伐採する事はなかったでしょう。戦国時代という大量消費が必要だった時代だったので、この様な事が起こったのでしょう。

(5)4−2−3−1 サッカーを戦術から理解する  杉山茂樹  光文社新書
 小学校、中学校とサッカー部に属していた私は、近頃のマスコミのやれ「スリーバックだ」、「フォーバックだ」と言う論調についていけませんでした。その様なフォーメイションについて色々言うよりは、個人のスキルをもっと向上させる事、また戦術目を向上させて、敵の嫌がるところへ走りこむ、またそこにパスを出す、その様な事が重要だと考えていました。
 この本を読んで、その考えに間違えはないと確信しましたが、それをより有効に行う為には、やはりしっかりとしたフォーメイションを作り、それを選手に理解させて、戦略を考える事が重要だと言う事がわかりました。それにしても日本サッカー協会は、所謂名将に日本代表をなぜ任せないのでしょうか。素人のような私でも、トルシエやジーコの戦術はとても世界では通用しないように思っていました。
 それに比べて日本ラグビー協会は、代表チームの監督にカーワンという、カリスマ性の有る世界的に有名な人を選び、今の所は順調に実力を伸ばしてきています。
 サッカーの岡田ジャパン、ラグビーのJ K ジャパンがこれからどの様に成って行くか、興味のあるところです。

(6)超訳「資本論」  的場昭弘  祥伝社新書
 1970年代に高校生であった私は、70年安保、大学紛争の洗礼を浴びました。その頃の高校生は、「共産党宣言」や「純粋経済学批判」などを読んだと言うことが、一種のステイタスシンボルでした。私も幾度かチャレンジし、挫折し、やはり京大や、東大に行った先輩はこれ等をちゃんと理解されて、偉いんだと感心していました。そこで私がチャレンジしたのは、学校の図書館にある「魯迅全集」でした。これはどうにか読み終わり、やっと安心した記憶があります。
 そこで「資本論」です。全く分からなかった。文章が長く、抽象的で困りました。今回この本を見つけて、少しでも理解できたと感じたい、と思い読み始めました。私のような、粗雑な頭脳の持ち主にも理解し易いように書かれています。勿論これは筆者の力ですが、現在の日本の状況と対比して読むと、よく理解できるように解説しています。あの頃抽象的で分かりにくかった事が、今の日本と比べると、実に良く分かります。
 いずれにせよ、一応は「資本論」は読んだと言う気になりました。

(7)川柳うきよ大学  小沢昭一  新潮新書
 資本論でしんどかったので、ちょっと息抜きをしました。
平成15年から19年まで、小沢昭一さんが選者を勤める、「小説新潮」の川柳欄の優秀作を紹介してあります。上手に社会を皮肉り、ちょっと笑わせと言った句が集めてあります。
 小泉が郵政選挙をし、イラクに自衛隊を派遣し、安倍が恥知らずにも嫁さんと一緒にバカ面をさらし、と言った時代でした。川柳の力はこの様な、今から思えばおぞましかった時代も笑い飛ばせる事でしょう。
 小沢さんによると、川柳をしている人はボケにくいとのこと。そろそろ私も、川柳の勉強を始めようかと、思いました。

(8)松本清張への召集令状  森史朗  文春新書
 高校生の頃だったかと思いますが、週刊朝日に松本清張さんの「遠い追跡」という小説が掲載されていた事があります。我が家は、昔より朝日新聞、週刊朝日をもっぱら読んでいましたので、私もこの小説を読んだ記憶があります。読みながら、戦前の国家による徴兵が実に安易な考えで行われ、それが多くに人たちの苦しみになったのかと怒りを覚えました。しかもその作品の引き金になったのが、松本清張さんの原体験であったとは、知りませんでした。
 松本清張さんは高齢になってから徴兵を受け、衛生兵として軍務につきます。なぜこの様な歳になって、徴兵されたのか釈然としない気持ちが起こるのは当然でしょう。それが市役所の係の、気軽な発想から来ている事が明らかになってきます。
 そこで松本清張は、この様な事実を認識しながら、普通のどこにでも居る、一生懸命に家族を守る市民を戦争に駆り立てた役人の罪を告発して行きます。
 この本は「遠い追跡」を読んだものだけではなく、誠実に1日一日を生きている多くの一般市民に、国家権力の恐ろしさ、無責任さを教えてくれるものです。なかなか読み応えのある、面白い本でした。お薦めの一冊です。

(9)無人島に生きる十六人  須川邦彦  新潮文庫
 明治31年に実際にあった、無人島に流れ着き一年近くを過ごしたお話です。娘が面白いと言って、薦めてくれました。十五少年漂流記のような本ですが、結構気軽に読めます。

(10)幕末歴史散歩 京阪神篇  一坂太郎  中公新書
 幕末の大塩平八郎の乱の頃から、明治時代初期にいたる歴史を紹介しながら、京阪神に残る史跡を紹介してあります。
新撰組のファンである娘と一緒に、京都の三条や壬生を歩いた事があります。いかにもおのぼりさん、と言った様子でしたが、これを読みながら歩いていれば興味深く楽しく歩けました。
大阪の史跡も色々と紹介してあり、今度は地元を歩いてみたいと思いました。有名な事件以外にも、色々の出来事があり、命を落とした人たちがいます。その人たちが今もひっそりと祭られ、顕彰されています。歴史の綾で賊軍になった人たちも、平等に祭られているようで、ある意味安心しました。

(11)昭和史の一級史料を読む  保阪正康ら  平凡社新書
 古代史とは違い昭和の時代を検証するには、その時代に生きた人たちの所謂「肉声」を聞けばよいと思われます。それが日記という形や、何らかの書簡で残っています。それらを読んでヴァイアスを取り除き、後世まで残せる事実を抽出していくことは重要な事です。
 「木戸日記」や「牧野日記」などを通して、日本はどの様に戦争にのめりこんで言ったか、昭和天皇は軍部に関してどの様に考えていたか、また軍部はどの様に天皇を使って勢力を伸ばして言ったかが考察されています。
 また昭和史の転換点になったと考えられる、5.15事件、東条英機の陸相、参謀本部長兼任事件などを証言を縦横に使って検証してあります。
 対談集ですが、結構読み応えがありました。

白 江 医 院 白江 淳郎

2008/06/03 2008年5月の読書ノート
(1)常識としての軍事学 潮匡人 中公新書 ラクレ
 名古屋地裁で、自衛隊のイラク派遣に対して違憲の判決が出た時、自衛隊の高官が「そんなの関係ねェ」と、三権分立の立場から、尊重しなければならない司法判断に対して、いかにも茶化したような発言をしました。この筆者のメンタリティーも恐らくその様なものでしょう。国体を守ると言う大義名分のためには、全ての事より軍事が優先されると考えているようです。
 そもそも私達は日本国憲法で、世界中からバカと言われようとも、国際問題の解決のためには武力を使わないと宣言しているはずです。世界標準等と言う言葉を使って、自衛隊と言う軍隊、また軍事行動を正当化しようとすることは間違えています。私達は憲法に則って国際間の問題を解決するように期待をして、政治家を選び、役人を税金で雇っているはずです。それが出来ないのなら、その様な職業から引退すればよいのです。
先日の朝日新聞の調査では、憲法九条を改訂する必要がないと考えている人はずいぶん増えて、60%以上あるようです。以前の小泉、安倍の時代に比べればずいぶんと減ったように思いますが、まだ三分の一の人が憲法改定を考えていると言う事も事実です。(憲法改定といっても様々な立場があるでしょうが)これからはより一層頑張って、平和憲法を根付かせることが必要でしょう。
それにしても、共産党や社民党や保守勢力のリベラル派が少々の考えの違いを捨てて、「護憲連合」をなぜ作らないのでしょうか。福田に変って麻生が出てきたら、この国の国民は、また憲法改定に賛成するに決まっているのに。
 この本を読み始めたときには、冷静な目で見た軍事学の説明書かと期待していたのですが、非常にバイアスのかかった内容で、読み進める事が苦痛になりました。戦争の実相を知らない若い人たちには、特にお奨めしません。

(2)アイヌ語地名で旅する北海道 北道邦彦 朝日新書
 北海道の地名の約80%は、アイヌ語に由来するといわれています。考えれば、札幌、小樽、網走、日本語とは考えにくい言葉ばかりです。
 この本はその地名を、アイヌ語で分析しています。これを読んでいくと、アイヌの人たちがとても上手に、自然と共生していたかが分かります。自然を尊敬し、その中で生きていく方法を昔から学習していたようです。決して征服したりせず、共生してきた事が分かります。
 北海道を旅行する時には、お奨めの本であることは当然ですが、エコロジーの時代にアイヌの人たちが、私達の生きる指針を与えてくれると思いました。

(3)縄文の思考 小林達雄 ちくま新書
 歴史の教科書などに出てくる縄文式土器。あの過激なまでに装飾された土器を使って、縄文人たちは実際に食物、特に野菜や穀物を煮炊きしていました。アクの強い木の実や草も、食べ易くなりますし、残ったお汁の中には栄養があるので、それを飲み干せば無駄がありません。それは分かりますが、シンプルな形の弥生式土器と比べて、なぜあのような土器を使用したのでしょうか。
 竪穴識住居に彼らは住んでいたのは良く知られており、その中央には炉があるのをご存知だと思います。しかしその炉は、実際に煮炊きに使った形跡がないことはご存知でしょうか。そこには何か宗教的なものが感じられます。
 青森県の黒曜石が、長野県や新潟県で発見された事から、広い範囲で交流が行われていた事が推測されますが、そのためにはある程度共通の言語の存在が必須です。言語があれば意思の疎通が出来、物語が生まれ、宗教が出来てきます。
 その様な様々な進歩が起こった縄文時代を、今までとはちょっと違った立場で紹介してある本です。

(4)日本人の顔 山折哲雄 光文社知恵の森文庫
 実際の骨格ではなく、絵画、面、仏像彫刻等で日本人は各時代に、どのように人の顔を表現してきたかを、考察した本です。土偶と埴輪、仏像と神像、能面の違い、中世の武士の顔、円空と木喰の彫刻の違いと言った、二つの要素の違いなどを比較する事で、その時代の人々の世界観や物の見方の違いが推察されます。
 何気なく見ていた、様々の絵画、彫刻などもその様な目で見れば、歴史もより興味深いものになると思います。例えば仏像は青年の姿、神像は老年の姿を表現し、それらの融合を目指していたという考察は、興味あるものでしたし、その根本には日本古来の様々なものに宿る魂が、仏教の影響を受けて姿を現して来た事が考えられます。
 各々の時代で、人々の顔は大きく変る事はないように思いますが、それを表現する、或いは感じる人たちの考えが変ってきたのでしょう。

(5)良寛の生きかた 松本市壽 河出文庫
 どの組織にも属せず、自分の気侭な生き方を過ごす。その事が、多くの日本人がこれから成し遂げていかなければならない、人生の指針ではないでしょうか。言葉では簡単に言えるし、分かってはいますが、実際にそれが可能かと言えばまずムリでしょう。
 江戸時代の良寛さんは、深い苦しみに悩みながらこれを辛うじて実践しました。それが現在の私達に共感させるのでしょう。

(6)日本人と戦争 武光誠 KAWADE夢新書
 日本が外国と戦争をした、白村江から太平洋戦争までを題材にしています。日本人の外国と戦うときの精神構造は、必要以上の過剰反応ということが出来るでしょう。団結して敵とあたり、「敵国」となった相手とは話し合いをする余地はなくなります。
 また私達は、「敵か味方か」と言う論理をすぐに組み立ててしまい、その論理に殉じて多くの犠牲が出ることなど、意に介していないように思われます。私達は世界標準の「戦い」の論理をまだ持っていないのでしょう。その論理の無さが、憲法九条をあいまいな形で解釈し、挙句の果てはアメリカと一緒に、戦闘行為を行うところまでになっているのでしょう。これこそ本当の平和ボケで、その一番の犯人は小泉や安倍です。

(7)フランスものしり紀行 紅山雪夫 新潮文庫
 多くの人はフランスに憧れ、訪れてみたいと考えるようです。ただその雰囲気に浸るのも良いでしょうが、歴史を知ってその場所を訪れる事は遥かに意義のあることだと考えられます。この本は実際フランスの歴史的に有名な町を歩いて廻るのに、実に有効な本でしょう。その町の歴史、観光スポットなどを実際に歩き、またその周囲の状況などを丁寧に説明してあります。
 これを読むと現在のフランス文明と私達が呼んでいる、または認識しているものの原型は既にローマ帝国時代からあり、その文化を取り入れることにより、フランス文明が成熟してきた事が分かります。結局、持ちつ持たれつの関係を続けたために、現在のフランス文明は出来たのでしょう。
実際行った事は無くても、そこを旅しているような気持ちになる本です。

(8)イギリスはかしこい 出口保夫、林望 PHP
 日本と似ているようでやはり違う、その根源はイギリスの個人主義にあるのではないか、その様な視点からイギリスを論じています。
私の憧れの国といえば、ニュージー ランドの次にイギリスでしょう。一度は行ってみたい、住んでみたいと思います。言葉の壁など色々な問題がありますが、この本によると、一度信頼関係を持てる人だと認められれば、末永く付き合ってくれる人たちだと言う事です。そのためには、自分のアイデンティティーをはっきりと持っていることが必要でしょう。ただただ英語が上手に話せる、ということではなく、相手に一目置かれる、尊敬される何物かを持っておかなければならないと思います。私はニュージー ランド人(イングランドからの移民の子孫)の友人がクライストチャーチにいますが、長年に亘っての付き合いが続いています。これもこの本に述べてある、長年続く信頼関係でしょうか。
イギリスは日本よりも歴史の継続という意識があり、大人の国だといえるように思います。香港返還についても、中国の面子は立てながらも、実利は取っているというようなところです。わが国の抱えている、北朝鮮との問題もイギリスならばどのように対処しているのだろうと考えさせられました。

白 江 医 院 白江 淳郎

2008/05/06 2008年4月の読書ノート
(1)ツチヤの口車  土屋賢二  文春文庫

 例によって、何とも不思議なまた妙に納得してしまう理屈の数々。週刊文春に掲載されたエッセイを、掲載したものです。週刊誌に掲載されたものは、竹内久美子さんのものと同様どうも読みにくく、遠慮してしまいますが、文庫本になるとついすらすらと読んで、大笑いをしてしまします。
 気軽に読め、しかも後でふと考えさせられる本です。それにしても一度、土屋さんの奥さんやお茶の水女子大の助手さんとはどの様な人なのか、お目にかかりたいものです。

(2)H5N1型ウイルス襲来  岡田晴恵  角川SSC新書

 新型インフルエンザの発生、世界的な流行はもうすぐそこに来ています。昔のスペイン風邪といわれた新型インフルエンザの流行時は、汽船などでしか海外との交流は出来ませんでした。人の移動は、実にゆっくりとしたものでした。しかし現在では、ほぼ1日あれば世界の多くの場所に移動することが出来、わずか数日で新型インフルエンザは世界中に広がります。一旦国内に入れば、それこそ枯野の火事のように瞬く間に広がっていきます。
 しかもこのインフルエンザは高病原性ですから、従来のインフルエンザとは全く異なったもので、若者を中心に致死率も遥かに高いものです。国を挙げて、これに対して対策を立てておかなければなりません。諸外国に比べて日本の対応は鈍く、もどかしく感じます。これは国家レベルだけでなく、各自治体、各企業、各家庭で充分に考えておかなければならない事です。この本は皆さんにそれらの時にどのように対応するかを詳細に解説してあります。ぜひご一読を。

(3)不機嫌なメアリー ポピンズ  新井潤美  平凡社新書

 イギリスは、階級社会であると言われています。言葉の使い方、発音、それらからイギリス人たちは相手の社会的地位を簡単に推測します。イギリスの小説や、その映画化されたものを見る時、その様な知識なしでは、その面白さが理解し難いようです。
 イギリスの階級には、アッパー クラス、ミドル クラス、ワーキング クラスがあると言われ、ミドル クラスはさらに、アッパー ミドル、ミドル ミドル、ロウァー ミドルと分かれるそうです。人たちは各々自分達の出自や収入、受けた教育、職業などから、自分がどのクラスに属するかを判断しているのだそうです。また新聞の詳しい世論調査の結果でも男女、世代別の他に階級別の結果を出すそうです。
 先ほど述べたように言葉遣いや、発音でその人の階級が容易に判断できるそうです。そういえば、エリザベス女王やブレア元首相の発音は、非常に綺麗で、簡潔、判りやすいものだと思います。それに比べて、以前メルボルンで乗った市内観光バスの案内は、全くわからなかった記憶が有ります。コックニー訛りだったのかも知れません。
 作者はこの様なことを基にして、色々な映画や小説の背景を紹介していきます。映画はあまり見ないので、知っているものは「ハリー ポッター」位でしたが、階級意識という切り口から見れば興味のあるものでした。
 イギリスを、これまでとは全く違う切り口から紹介した本で、なかなか面白いものでした。読んで得をしたと思った本です。

(4)江戸の歴史は大正時代にねじ曲げられた  古川愛哲  講談社+α新書

 テレビで見る時代劇は、忠実に江戸時代を再現したものではないようです。江戸時代の空気、雰囲気を知っていた人達がいなくなった大正時代、その頃から江戸時代の本来の生活の様子は、ねじ曲げて伝わりだし、時代劇には所謂エンターテイメントの要素が強くなってきます。
 この本は時代考証をしていく事で、私達が現在持っている江戸時代に対する印象を、大いに変えて行きます。
 例えば、キリシタンは江戸時代には、ただただ隠れていた存在だったと思われていますが、地名などを考証すると、関東に多くのキリシタンが移住し、ある程度領主の庇護の下に、誰も住み着かない土地の、新田の開発をしていたようです。江戸時代というのは、結構本音と建前を上手に使い分けていた時代なのでしょう。
 また色々の困った事も、お金で解決していたようで、現在社会を見るようです。

(5)ああ、阪神タイガース  野村克也  角川ONEテーマ21

 あの3年連続最下位の野村監督が、阪神タイガースの問題点、伝統などについて書いた本です。野村さんの言う事はもっともで、私も今岡は信頼できない選手で不要かと思いますが、結果を残せなかった、あなたが言ってはいけないだろうと思ってしまう本です。
しかし野村さんが指摘しているように、阪神には長期、短期のヴィジョンが無く、選手の補強も行き当たりばったりで、積極的にこちらから選手の獲得を仕掛けることはありませんでした。その傾向が岡田監督になってから、より顕著になっているように思います。2、3年先に以前のような万年最下位のチームにならないよう、祈るしかないでしょう。

(6)西南戦争  小川原正道  中公文庫

 日本最後の、また最大規模の内戦となった西南戦争について書かれた本です。司馬遼太郎さんの「翔ぶが如く」では、西郷の心理的な側面、大久保との信頼関係と葛藤を主題に書いてありますが、どうも読むのが重たい感じがしてしまいます。明治維新後の政府に対する西郷の憤懣、絶望が伝わってくるからでしょうか。
 この本は事実を冷静に述べ、それを積み上げて行っています。そういう意味では平静な気持ちで読むことが出来る本です。この本で興味深かったのは、西南戦争がもたらしたそれ以後の社会の変化、自由民権運動や帝国議会開設について、考察してある部分でした。
 西南戦争は単に薩摩の不平士族の暴発ではなく、全国の自由民権運動家にも期待されていたものである事が述べられています。民権論やルソーを信奉していた、熊本士族の宮崎八郎が西郷勢に参加していた事は有名ですが、全国には彼と同じような志を持ち、専制主義と思える明治政府を打ち倒したいと考えていた人たちが、数多くいたようです。
 もう一つ驚いたのは、大津事件の津田三蔵と西南戦争の係わりでした。西南戦争後には、西郷生存説が結構多くの人に信じられていた事と、西南戦争に彼が政府軍の一員として参加した事、またその事が彼のアイデンティティーの基であった、と言う指摘は興味深いものでした。

(7)鉄道地図は謎だらけ  所沢秀樹  光文社新書

 鉄道時刻表の索引地図帳は、見ていてもなかなか面白いものだと思いますが、私の興味はせいぜいそこまででした。しかしこの本を読んで、それらのより深い見方が判った様に思います。
 藤井寺市の北地区にお住まいの方なら理解しやすいと思いますが、近鉄道明寺線は柏原から古市まで、ほぼ一直線にレールが走っています。それに比べてメインと思える近鉄南大阪線は、土師ノ里で大きく曲がり、古市でも大きく曲がっています。その理由はこの鉄道の歴史を紐解けば、よく理解できます。それは読んでのお楽しみ。
 日本各地の様々な面白い鉄道、直角に道路の真ん中で交わる線路、ゲージの異なる三つの路線が走る踏み切り等等、興味深い話が満載です。ちょっとした話のネタになりそうなものもたくさん有りました。
 鉄道ファンだけでなく、旅行記の好きな方にも楽しく読める本です。

(8)「食い逃げされてもバイトは雇うな」なんて大間違い  山田真哉  光文社新書

 数字で物事を判断する事は、客観的で信頼に値する事だと考えますが、その数字をどのような切り口で捉えるかということで、評価や結果が大きく変ってきます。例えば、洗濯機でかなりの電力の節約が出来るという製品でも、実は使用する水の量が逆に多い時があり、結局はエコロジーに反している事があるかもしれません。
 その様に数字にとらわれていると、事実の側面を見逃す事があり、注意をしていく事が必要だと言う事を強調した本です。私達が日々出会う様々な数字について解説してあり、数字に弄ばれている私にとっては、実に教訓となる本でした。

(9)チーム・バチスタの栄光  海堂尊  宝島社文庫

 バチスタ手術と言う、心臓を小さく縫い合わせる手術があります。心臓のポンプとしての働きが低下している時、悪い部分を切り取って心臓を縫い縮めてしまおうと言う、突拍子もない考えの手術です。かなり危険な手術なのですが、驚異的な成績を上げていたチームに、突然起こった数例の術中死が、この小説の始まりです。
 筆者は私達と同じ医師だそうで、現場の雰囲気もそこそこ真実を伝えており、結構一気に読めました。
 この事件に図らずも関る事になった、田口医師の一人称で書かれているので、登場人物の関係が比較的あっさりとすすんでいく事が、少し物足りなく感じてしまいました。
 ロビン クックの病院シリーズとは異なり、気軽に読めるエンターテイメントと言えるでしょう。

(10)戦後政治家暴言録  保阪正康  中公新書ラクレ

 第二次大戦後吉田茂のあの有名な「バカヤロー」から、小泉の「人生色々」まで、政治家が発してきた暴言の数々を色々の側面から分析してあります。
 戦後の早い時期には、戦前の皇国史観の残渣が、暴言の基礎になっていました。またいわゆる官僚の庶民を見下した態度が、非難の対象になっていたともいえるでしょう。
岸信介は安保騒動の時に、自分に都合のいい意見が世論であり、都合の悪いものは世論といえないと考えたかったようです。やはりこれは血筋だなと思ってしまいます。あの、学習能力、考察力が皆無の安倍も同じ事を言っていましたよね。
 最近の政治家の発言は、森や小泉に見られるようにあまりにも程度が低く下品で、あきれ返ってしまいます。この様な政治家が大きな顔をして、今でものうのうと人前へ出てきているのはどういう神経なのでしょうか。しかも「次期首相にふさわしい政治家」、と言うアンケートで20パーセント以上の人が今なお小泉の名を挙げるこの異常さ。結局は民度が低く、またそれに迎合する政治家が生き残っていく、教養のない国なのでしょう。
 どの様な政治家を選ぶかと言う事は、結局私達がテストされている事です。それから見ると、小泉などに「純ちゃん、純ちゃん」等と言って、喜んでいた人たちがいる現代日本はまさに衆愚政治の国なのでしょう。

白 江 医 院 白江 淳郎

2008/04/05 2008年3月の読書ノート

(1)大増税のカラクリ 斉藤貴男 ちくま文庫
 よく読む斉藤貴男さんの本です。サラリーマンは、特別な税制で徴税されています。申告の煩わしさはありませんが、必要経費などは所定の額しか認められず、納税の機械のように考えられています。さらにこの必要経費を調節する事により、税収を国家の思うように調節する事が出来ます。
このルーツは、第二次世界大戦時に戦費を集めやすいように作った税制です。その税制が徴収に便利だと言う事で今日まで引き継がれています。これまで、この税制に対する訴訟がいくつか行われていますが、全て国家の主張に沿ったような判決になっており、サラリーマンに対する国家の搾取は続いています。
人事のような気持ちでこの本を読んでいましたが、考えれば私も医療法人の従業員で、給与を貰っている労働者でした。
この様な不公平な税制を打倒せよ、万国の労働者よ団結せよ、と叫びたい気持ちになりました。

(2)食い逃げされてもバイトは雇うな 山田真哉 光文社新書
  公認会計士から見た、数字の意義、道具としてみた数字について述べられています。1時間で読めることを目標にしているので、結構気軽に会計の事が理解できるように書いてあります。前作の「さおだけ屋はなぜ潰れないか」と同様、読みやすく内容のある本だと思いました。

 

 

(3)チキンライスと旅の空 池波正太郎 朝日文庫
 下町育ちの筆者が経験した幼い頃の情景を、初老に差し掛かって懐かしく思い出して述べているエッセイです。昔はどこでも伝統に裏打ちされた生活があり、多くの人はそのリズムを守りながら生活してきました。それがその町独特の、においのようなものだったのでしょう。
 池上正太郎のエッセイを読めば、東京嫌いの私も、江戸はそれなりに良かったのでは、と思ってしまいます。また彼の文章の独特のリズムは、読んでいて気持ちがよくなります。司馬遼太郎さんは別格として、故山口瞳さんと共に、好きな作家の1人です。

(4)アタマはスローな方がいい 竹内久美子 文春文庫

 私の好きな、竹内久美子さんの新刊本です。内容は様々な現象を、最近の遺伝子の理論などを使って、切れ味よく解説してあります。体育会系男がなぜもてるか、自閉症がなぜ男子に多いか、渡り鳥はなぜ夜空でも迷わないかなど、ちょっとした、けれど難しい疑問を考察してあります。肩も凝らず、語り口も気持ちよく面白い本です。



(5)戦争と仏教 梅原猛 文春文庫

  東京新聞、中日新聞に、梅原さんが書いたエッセイを収録した本です。2002年5月から2004年12月までの物が載せられています。小泉が政治をし、ブッシュがイラク侵攻をし、という時代です。今から思えば大変な事が起こっていた時代で、彼らの行った事は今も暗い影を私達の生活に落としています。これ等を哲学者として、鋭く指摘されています。混沌としたこれからの世の中を導いていくのは、やはり仏教思想かもしれません。
 また仏像で知られる円空についても考察され、仏師としてではなく思想家としての円空が述べられています。仏師として彼を見たことがない私にとって、これは大きな発想だと思いました。

(6)ルポ 貧困大国アメリカ 堤未果 岩波新書
 教育、医療、挙句は戦争まで、アメリカでは民営化が行われ、経済至上主義で物事が進んでいきます。先日より話題になっている、サブ プライムローンの問題も、意図して行われたとしか思えない、貧困層を突き落とす政策のようです。そのようにして作り出された貧困層は、高収入と言う見せ掛けの言葉に騙されて、イラクに兵士となりまたは民間企業の派遣員と言う形で送られ、消費されて行きます。
 大学に行きたいと思っても充分な学費が無い時、軍隊に入って学費を得、その後復学すると言う甘い言葉で入隊をする人たちがいます。しかしあるものは死亡し、負傷し、無事に帰国してもPTSDに悩み、挙句の果てには期待したほどの金額が得られず、進学を諦め最低の生活に落ちて行くといったケースがかなりあります。それらの人の多くは、所謂マイノリティーの人たちで、アメリカ政府は上手くその様な人命を消費していっています。その様な人たちの犠牲の上で、チェイニー副大統領などが関係する大企業が業績を伸ばし、政府の優遇措置もあってぬくぬくと生きています。
 相対性貧富率ランキングと言うものが有り、世界で一番貧富の差が大きいのはアメリカで、その次は日本と言われています。小泉、竹中の言う新自由主義経済を追い求めて、このままアメリカの跡を追い続け、さらに教育格差が進めば確実に日本も現在のアメリカのようになります。
国家が責任を持つべき、教育や、福祉を切り捨てていけば、その様になるのは当然の結果でしょう。メディアも国家に管理されだした今日、一人一人が自覚を持たなければなりません。ただ「憲法9条の会」や「マガジン9条」などの市民団体が各地に出来、多くの人たちが参加し始めている事は、まだまだ微力ながら明るい兆しだと言えるでしょう。(どうぞHPにアクセスしてください)
今のアメリカは決して他人事ではありません。明日の私達の姿です。

白 江 医 院 白江 淳郎

2008/03/05 2008年2月の読書ノート

(1)戦後日本は戦争をしてきた 姜尚中、小森陽一 角川oneテーマ21
 私がよく読む、或いは私と波長の合う2人の論者の対談集です。経済のグローバリゼイション化により、政府は国民を守るものではなくなり、世界企業を守るものになってきました。それによって虐げられてきた人たちは、自分達より上のものには喜んで屈服するけれど、下のものに対しては徹底的に暴力的になります。これが「いじめ社会」、「バッシング社会」の基本構造だと思われますし、石原慎太郎に数百万票も投票が集まるのも、不思議ではありません。この様に世界が大きく構造社会になってきたとき、考えなければならない事は、所謂テロはこのグローバリゼイションが構造的に生み出しているものだと言う事です。アメリカが自分達の利益を追求していくうちに、当然テロに走る人たちを作り出してしまい、今度はその人たちを相手に「テロとの戦い」と称する国家によるテロを行い、泥沼に落ち込んでいっています。その動きに対して日本は、アメリカと協同して戦争への道を進んでいきます。小泉、安倍、石原のような一昔前なら、青嵐会で保守の変人、鬼胎扱いされていた人たちが大きな顔をして、とんでもない理論を振りかざします。小泉、安倍がいなくなり、少しはせいせいしたかと思い、少しは期待して福田を見ていましたが、やはり彼も期待するほどの総理ではなかったようです。
 朝鮮戦争は、現在はまだ休戦中で、アメリカと北朝鮮はまだ交戦状態にあるのです。その事実を迂闊にも忘れている事があります。北朝鮮がアメリカに対するカードとして核爆弾を持つことも、そういう目で見れば、ありえないことではないでしょう。勿論、唯一の被爆国である私達が許すことではありませんが。6カ国会議も、朝鮮戦争の終戦に向けてのプロセスと考えて捕らえるべきでしょう。安倍を初めとする一部の政治家が、北朝鮮を崩壊させるような事を言っていました。暴力的にその様な事を行っては、拉致被害者はあちらでッ体制崩壊時に簡単に抹殺されるでしょう。もっと現実を見て慎重に対応し、北朝鮮が変化していくように仕向けるべきでしょう。
 北朝鮮は将軍様は二代目ですが、日本は戦犯、岸信介からの政治家三代の家系で、とどのつまりが低脳の安倍です。人のことを笑えるか、と思ってしまいます。

(2)異邦人(上)、(下) パトリシア コーンウェル 講談社新書
 検屍官スカーペッタシリーズの最新作です。ローマで起こった、死体を切り刻んだ凶暴な事件から、話は始まります。犯人は、イラクで心に大きな傷を負った男です。彼の出生には、色々ないわくがありということですが、ここからは読んでのお楽しみ、ということにしましょう。
 従来の登場人物にも様々な変化が起こり、人間関係も複雑になってきます。今回は狼男は出てきませんし、結末もまあ納得できるものかなと思います。この検屍官シリーズの中では、一番面白かったように思います。
 それにしてもスカーペッタは、この様に敵が沢山いる社会で、よくもタフに生きているものだと思います。アメリカの社会とは、本当に敵だらけの社会なのでしょうか。また法医学コンサルタントなどと言う職業で、この様な生活が出来るものかと不思議に思います。日本の医療、特に基礎医学に対する報酬の低さから見ると、大きな違いを感じます。

(3)1日10分の座禅入門 高田明和 角川ONEテーマ2
ストレス社会の現代に於いて、私達の心を健全な状態に留めて置くにはどのような方法があるでしょうか。筆者は浜松医科大学の名誉教授で、座禅にも造詣が深く、物心両面より物事を見られる人です。私のように膝や股関節のよくない人は、座禅に興味はあっても座ると言う事が、上手く出来ません。筆者はイスに座っても出来る、簡単な座禅を紹介してくれています。要するに座禅は、精神を集中させ、呼吸を整えると言う事に尽きるように思います。私も、月に20日近く大阪へ電車で出務していますが、その時座席に座りながらこの呼吸法を実践してみたいと思います。


(4)庭と日本人 上田篤 新潮新書

お寺は数多くありますが、京都のお寺は庭で有名な所が多いのに比べ、奈良のお寺は庭で有名なお寺はありません。その様な背景を、時代の神に対する考えを紹介しながら、日本人と庭の係わり合いについて述べた本です。茶室の庭、江戸時代の大名の庭、これ等の背景には神があります。その様な神を迎えるために、ハレの庭が作られたのでしょう。そう言う目で、160年前に作られた我が家の庭を見てみると、石灯篭がありその横には蹲がありで、その形式を踏襲しています。何気なく見ていた庭ですが、なかなか赴き深いものだ、と感じ入りました。


(5)江戸俳画紀行 磯部勝 中公新書

 俳画とは、俳句とそれに因む絵の取り合わせです。与謝蕪村、芭蕉やその他の俳人が、自分の句とそれに即して描いた絵を紹介しています。いわば俳人の紹介本です。句は覚えているけれど、作者がわからないなどと言ったものは結構多いのではないでしょうか。それらを結構丹念に紹介してくれています。
 ただ俳画という言葉を出している以上、もう少し絵画の数があればと思いますし、その点が残念でした。
 俳句と言うものが、鋭い感性を使いながら17字で作者の世界を作り上げていくわけですから、絵に上手い下手はあっても、絵の切り口は鋭いもののように感じました。

(6)東海道新幹線歴史散歩 一坂太郎 中公新書
 新幹線に乗って車窓の外を眺めていると、何かいわくがありそうな、山や森、神社などを見かけることがあります。それらを豊富な写真を使いながら、詳しく紹介してあります。新幹線を使っての東京への往復に、この本があれば時間も忘れ、沿線の風景もより一層興味が出てくるでしょう。これはお奨めの一冊です。
 ただ欠点を言えば、東京始発で時系列に述べられているので、大阪から上京する時は、反対に景色が通過する事です。

白 江 医 院 白江 淳郎

2008/02/04 2008年1月の読書ノート

(1)昭和陸海軍の失敗 半藤一利ら 文春新書
  「彼らはなぜ国家を破滅の淵に追いやったのか」と言う副題が着いています。昭和の陸海軍の所謂首脳陣が、なぜあのような勝てる見込みの無い戦争を引き起こし、多くの人たちを無造作に死なせて行ったのかということが、対談形式で語られています。読んでいくにつれ、この日本型組織と言うのは、戦前の軍隊だけの話ではなく、今日の官僚機構、地方自治体、その他様々な組織に現在も脈々と受け継がれている事が判ります。
 ここに述べられている、派閥抗争、孤立しパージされる所謂良識派の人たち、空気に支配され責任を取る必要の無い政策決定集団、今日の日本と全く同じです。私たちはこの様な歴史の教訓を、何等自分たちのものとして受け取っていません。日本史の授業でこの時代を詳しく習った事は無いのではないでしょうか。このあたりをきっちりと教育しているドイツが周囲の国から信用され、日本はまだ何をしでかすかわからない危険な国と、周辺諸国から思われています。小泉や安倍に熱狂する人たちを見れば、気持ち悪く思うのは当然でしょう。
 日本医師会、大阪府医師会の会長選挙が今進行中ですが、政府、自民党に尻尾を振っている人や、その人に影で擦り寄っていく人で無く、私たちの考えている国民の方を向いた、所謂良識派が勝利してほしいものだと考えています。

(2)死体は悩む 上野正彦 角川ONEテーマ21

 最近テレビによく登場する、法医学者の書かれた本です。医師として読めば、法医学の授業で習った事が実例を伴って紹介されていると言う事でしょう。一般の人として読めば、最近の猟奇的とも言える殺人事件の、解説書になると思います。言いかたは難しいですが、法医学や、最近の色々な事件に興味のある方が、気あがるに読める本だと思います。

 

(3)ワインをめぐる小さな冒険 柴田光滋 新潮新書
 ワインは好きで、弱いけれど飲む事が多いのですが、正直微妙な味はよく分かりません。しかしこの本では世界の様々なワインが紹介され、読んで行くごとに味わってみたくなります。そこそこの値段で、品質の良いワインを味わってみようと言う方には、最適な本ではないかと思います。
 ちなみに私のポリシーは、出来るだけ三桁に近く、パーカーさんのポイントの高いものを選ぶと言うものです。それで行けば、チリやスペイン、南アフリカなどのワインになる事が多いのです。しかし正直な所、赤も白もブルゴーニュのワインを飲みたいと思うのですが、どうしても高価になるので、困ったものです。しかし一度この本を輪参考にして、ワイン売り場を廻ってみたいと思っています。

(4)あの頃、あの詩を 鹿島茂(編) 文春新書
 所謂団塊の世代が中学生だった、昭和30年から40年頃に国語の教科書に多く掲載されていた詩が、111篇掲載されています。解説にも有るのですが、明治の末から、大正ヒトケタにかけて生まれた戦争を潜り抜けてきた世代の編者たちが、自分たちが思春期に感銘を受けた詩を、まだ未来が輝いているように思えた昭和三十年代に、自分たちの感情や思想を伝える言葉として子供の世代に託そうと思い、一生懸命に選別し、編集し、教科書に載せた詩たちです。ちょうど団塊の世代と、その親の世代が二度と戦争をしてはならないと言う考えから、編者と読者と言う役割分担で演じた協同作業と言えます。
 私はこのホンの少し後の世代ですが、時代の雰囲気はよく理解できます。やはり教科書で見、暗記した詩が沢山出てきました。有名な詩が沢山ありましたが、八木重吉さんの詩がとても心に響きました。しかし、教科書で呼んだ記憶が無いのは、どうしてでしょう。
 我が家の子供達の小学校、中学校時代の教科書に掲載されていた詩とは、どうも感じが異なります。私たちは学校でこれ等の詩を暗誦し、気に入った詩人の詩集を図書室で借り出し、ということをしたのですが、近頃の子はその様な事もしないようです。マア愚痴はそれくらいにして、これはとても懐かしく、持っていてとても心豊かになる本だと思います。お奨めです。

(5)アホでマヌケなアメリカ白人 マイケル ムーア ゴマ文庫
 「華氏911」、「シッコ」の監督で有名なマイケル ムーアの書いた本です。これを読むと私の持っていた、共和党は大企業をバックにし、がちがちのキリスト教徒が支持している、民主党は労働者の支持が多く比較的リベラル、と言った構図は全く当てはまらないようです。要するにどちらの政党も、資本主義の先頭を行く国の政治を行う事が第一目標ですから、大企業を守る為には庶民の事は後回しになってしまいます。ブッシュ親子、クリントン夫婦、彼らのバックには大企業がびっしりと張り付いています。今度の大統領選挙でヒラリーが当選したら、24年以上両家のアメリカ支配が続き、彼らの後ろにいる企業が大喜びすることになります。アル ゴアがノーベル平和賞を受賞しましたが、彼が副大統領の時に、アメリカは京都議定書の批准を拒否しているのです。
 ムーアの書くアメリカは、全く持ってひどい指導者の下で庶民が暮らしていかなければならない社会ですが、こんな社会にしているブッシュにしっぽを振り追従した、小泉や安倍と言った指導者を選んだ日本のアホさ加減も大変な事です。しかもまた、給油法案をわが国が出来る本当の国際貢献は何かと言うような、なんの深い議論もせずに通過させてしまった、福田もやっぱり同じ穴の狢でした。何とも情けない気分になりました。

(6)あの哲学者にでも聞いてみるか 鷲田小弥太 祥伝社新書
 ニート、仕事人間、ホームレス、援助交際、自殺といった現代社会で問題に練っている出来事に、歴史上の有名な哲学者ならどのように答えるだろう、と言う本です。登場する哲学者は、ヘーゲル、マルクス、サルトル、ソクラテス、キルケゴール等、歴史で或いは倫理社会で習った人ばかりです。学生時代に、教科書を読んだだけでは理解できなかった考え方も、現代の出来事を通してみれば、理解できるように感じました。
 しかし一番共感できたのは、自殺について筆者と思われる人が、ある哲学者と言う名で書いておられる所でした。やはり読んでいて無理が無い感じがしました。高校生の「世界と自分」、「自分の人生」を考え出した頃に読んでみれば、面白いのではないでしょうか。

(7)戦争する脳 計見一雄 平凡社新書
 戦争は狂気だと誰もが考えますが、果たして本当だろうかと考えさせる本です。戦争をする、戦うそれが本来の脳の働きであって、前頭葉がそれを必死に抑えているのが本来の姿ではないのか、と言う考えがあります。色々なものを恐れる、悪い結果を考える、それらは脳が私たちの戦う姿にブレーキを掛けてくれているのでしょう。
しかし戦場で負傷した兵士の精神状態を正常に近く保つ為には、出来るだけ戦場に近い位置で治療し、仲間にすぐ復帰できると言うモチベーションを与える事だといわれています。その様には言われていますが、やはり戦争はいやですし、死にたくも殺したくもないしと思ってしまいます。この本を通しての考えがまとまりませんが、マアこんな所です。

(8)旗本婦人が見た江戸のたそがれ 深沢秋男 文春新書
 1840年頃から1844年頃までの、旗本の夫人井関隆子の日記が紹介されています。この人の息子や孫は小納戸役や広敷と言った、将軍の近くに仕える家柄だったので、日常生活での出来事以外に、他には知られていない将軍家の様々の事等も書かれています。この日記を書いた井関隆子は国学関係の勉強をしたり、和歌の勉強をしたり、古典を学んだりと言う才女であった半面、お酒好きでタバコも吸うという現代でも時に見かける女性です。しかも批判精神の豊富な人で、その批判の矛先は将軍にも向けられています。しかもそれが非常にバランスのとれたものなのです。
 蔵書家で有名な鹿島神宮の大宮司の鹿島則文と言う人が、明治15年にこの日記を神田淡路町の古書籍商で見つけ、7円で購入したのだそうです。当時井原西鶴の「好色一代男」の初版本が1円で取引されていた事を考えると、大変な値段です。ちなみに数年前にこの西鶴の初版本が古書目録に出た時、800万円の値がついたそうです。これからもこの日記の価値が推測されるでしょう。
 一般に江戸時代の女性は、幼くしては親に従い、嫁いでは夫に従い、老いては子に従うと言う人達だと思っていました。しかし表に出ないでも、これほどシンのしっかりした人が、自分の時代を冷静に健全な批判精神を持って生きていたのだと思うと、昔の人も大したものだと感心してしまいます。

白 江 医 院 白江 淳郎

2008/01/01 12月の読書ノート

(1)「国家の品格」への素朴な疑問 吉孝也 新風舎文庫
  昨年だったでしょうか、ベストセラーになった「国家の品格」。お読みになった方も多いと思いますが、共感できる部分と、納得できない部分があったのではないでしょうか。一番違和感を持った部分は、偏狭ともいえるナショナリズム、日本礼賛の所でしょう。勿論私たちは日本人なので、日本固有のものを愛している事は言うまでもありません。しかしそれが愛国心といったもの、言い換えればナショナリズムと合体すれば、実に異様な形になると思います。 この本は長年に亘り海外に在住し、外から日本を見てきた筆者が感じた様々な疑問が述べられています。「国家の品格」を読んだけれど、なんかどうもなーと言う方に最適の本だと思います。

(2)なぜ「粗食」が体にいいのか 帯津良一 知的生き方文庫
 日本人のDNAは大昔から変っていません。当然昔からの食生活に順応しているわけです。ところがこの30年ばかりの間に、私たちの食生活は大きく変り、私たちの体に大きな負担がかかってきています。そこで「粗食」と言う考えが出てきました。ここで述べられているのは、何も目新しい事ではなく、要約すれば私達が昔にしていた食生活を復活させようと言う事です。私が常々患者さんに言っている、昭和三十年代の食事と言ったものです。
 お米をしっかり食べる事で、副食から入ってくる、余分なカロリーや防腐剤などの化学薬品を減らす事が出来ます。おやつなどの間食を減らす事も可能です。一度皆さんもお米をしっかり食べる事から始めて見られては如何でしょうか。

(3)戦争で死ぬ、ということ 島本慈子 岩波新書
 昭和26年生まれ、北野高校出身の筆者は、私とほぼ同じ時代を生きてきました。戦後を引きずりながらも、戦争体験は持っていない世代です。周りには戦争の悲惨な体験をした、所謂「語り部」のような方が沢山居られました。筆者はそれらの人たちに、丹念に戦争体験を聞いて行きます。最初の章には、同じように大阪大空襲を経験した、北野中学と天王寺中学の生徒の話が出てきます。手塚治虫と、小田実です。爆風で首から上が飛び散った遺体が方々にあった事。それらの全てが、ついさっきまで家族や、愛する人たちと一緒に生活し、未来を夢見ていた人たちだった事。それらの事を若干13歳や14歳の子供が日常茶飯事に経験するのです。戦争を始めてしまえば、憎しみが蓄積されて行き、理性的な判断など出来るわけがありません。
 戦争は愛国心の発露だと言われ、多くの少年がそれこそ死ぬ為だけの目的で集められ、特攻隊やその他漫画としか思えない自爆攻撃用の道具の一部として死ぬように教育されました。女の人も戦争のチアリーダーとして、その悲劇性を知らされないまま、戦争にのめりこんで行きました。
 この様な、戦争で無駄死にとしか思えない運命を享受した人たちを、筆者は訪ねていきます。その時代のどうしようもなかった閉塞感、その様なものに弄ばれながら、昭和史は進んでいきました。
 今戦争の実相を知る事もなく、現在人々は当たり前に、当たり前の戦争を出来る日本への道を進んでいきます。これをとめる事が出来るのは国民の一人一人が、大きな声を上げる事です。それが先の太平洋戦争でなくなった300万人以上の日本人、20000万人を越える東南アジアの犠牲になられた方への、せめてもの誠意ある態度ではないでしょうか。

(4)新・戦争論 伊藤憲一 新潮新書
 従来戦争についての色々の意見がありましたが、筆者は戦争をする事が犯罪であると言う事が、最新の考えだと述べています。それは当然です。その上で、イランがフセインの時代に行ったクウェート侵略は犯罪であり、それを排除した多国籍軍の行動は正しく、それに続くアメリカのイラク戦争は正義だと述べています。何とも矛盾のある話です。また彼は、戦争を防ぐ為には積極的な行動が必要で、そのためには憲法九条の第2項を修正すべきだと述べています。この点で私と彼との考えが、全く相容れないものであり、彼が国際政治学の第一人者であっても、日本が戦争に敗れたときの真摯な姿勢を忘れ去っていると言わざるを得ません。正直言って、非常に矛盾を感じる論理でした。それ程お奨めの本ではありません。

(5)日本のいちばん長い日 半藤一利 文春文庫
 昭和20年8月15日、天皇のポツダム宣言を受諾し、無条件降伏する政府の決定や、玉音放送にまつわる様々な動きが時系列で書かれています。戦前の日本を牛耳っていたのは軍部、特に陸軍です。降伏は当然陸軍が認めるところでは有りません。しかしその時点で日本の国力は底をついていましたし、多くの国民の命をそれ以上に失う意味はない、と言うのは常識的な判断でしょう。どのように陸軍を暴発させず、この混乱を収拾して行くかが大きな問題です。実際、一部の若手将校はクーデターを画策し、それが成功しそうになる局面もありました。しかし東部軍司令官らの沈着な判断で、大きな騒ぎにもならず抑えることが出来ました。また天皇の玉音放送のレコードも守る事が出来、やっとの事で終戦にこぎつける事が出来たのです。手に汗を握る展開に、釣り込まれて読んでしまいます。しかもこれはノンフィクションなのです。
 戦前の陸軍は、唯我独尊の思想を持ち、国民を引きずりまわしていましたが、ふと思うと今の官僚機構というのは、陸軍と何等変わりが無い様に思ってしまいます。その様に思うのは、私だけでしょうか。

(6)般若心経心の大そうじ 名取芳彦 三笠書房
 仏教系の幼稚園では、園児に般若心経を唱えさせる所があるそうです。子供は頭が柔軟なので、すぐにそれを覚えて唱えるようになるとの事。中年のおやじとしては、記憶する能力は低下しているので、内容を理解してこれからの人生に役立てようか、と考えました。内容を理解していくと、般若心経とは仏教から見た人生、世界を262字の中に凝縮してあります。心に余裕を持って、物事の両面を考えて様々な事に対処していくと、視野が広がり人生がより有意義になるようです。この本はいつも横に持っておき、機会があるたびに読んでみたい本です。

(7)世界一おもしろい江戸の授業 河合敦 二見文庫
 一寸昔まで、江戸時代というのは暗黒の苦しい時代だ、と言うように思われていました。農民は重税にあえぎ、身分制度が重くのしかかり、鎖国で所謂閉じこもりのような状態だと言う印象です。しかしこの様な状態なら、なぜ260年も続いたのでしょう。実態は違うのでは、と考えられます。
 鎖国と言う言葉は、江戸幕府成立200年後に外国の文献を日本語訳したときに、初めて出来たそうです。徳川幕府が出した命令は、海外への渡航禁止なので、これは日本だけの話ではなく明や、朝鮮でも出されていた命令なのだそうです。筆者は鎖国と言う言葉を、実態に合う海禁(海外渡航禁止)と改めるべきだと述べています。
 また農民の年貢も、その基になった検地は元禄時代以後していなかったので、生産力の上がったその後の200年は、相対的に安い年貢ですんだ事になります。余裕の出来た農民は、色々な趣味を持てるようになりました。剣術に打ち込んだ関東の農民は、新撰組のもとになって生きます。
 江戸の庶民も、一軒わずか6畳位の広さの長屋に住んでいました。しかし町内には風呂屋があり、その二階には安い料金でお茶を飲んだり、演芸を愉しんだり出来る広間がありました。歌舞伎や芝居の小屋も方々にあり、これも安い値段で庶民が愉しむ事が出来ました。そういうインフラが完備されていたわけです。
 また重くのしかかっていたと思われる身分制度も、結構流動的だった様です。現に我が家のご先祖も、庄屋でしたが、ある藩にお金を貸し、そのお金の返済が出来ないので一応その藩の藩士になったという経歴です。結構ええ加減な物だったのですね。

 今年は85冊の本を読みました。前半はあの空気を読む能力の無い安倍が首相をして、右翼反動的な流れが大きな顔をして闊歩し、将来の日本に大きな不安を持っていた時期だったので、憲法や平和、反戦、人権といったものを数多く読んでいました。夏の参議院選挙であのような結果が出、一応あの流れが一息ついたようなので、結構気楽な本も読み出したように思います。来年は殆ど全部を持っている、司馬遼太郎さんの本を読み直そうかと思っています。

白 江 医 院 白江 淳郎

2007/12/11 11月の読書ノート

(1)親の「ぼけ」に気付いたら 斉藤正彦 文春新書
 誰にでも確実に来る老い、それをより悲惨なものにするアルツハイマー病などの、認知症にかかった家族を持ったときに、どのように早くそれを見つけ、治療していくかや、家族として対処して行くかについて書かれています。この様な疾患に罹る事は本人にとって残念な事ですし、それを見守りケアしていく家族にとっては、残念と同時に辛い事でもあります。それらお互いが少しでもよりよい方向に行くよう、介護のシステムなどが整いつつあります。無理をせず、自分の生活を大切にしながら介護を出来るように、今から考えておく事が大切です。  この本はそれらの入門書として、また考えるきっかけ作りとして、最適なもののように思われます。

(2)日本のいちばん長い夏 半藤一利 文春新書
 ポツダム宣言から原爆投下、終戦にいたる昭和20年7月27日より8月15日の間、30人の人たちはどのように過ごし歴史と向かい合って来たのかを語り合った、座談会の記録です。行われた日時は1963年6月。戦後18年がたとうとしている頃です。出席者は天皇のもっとも傍にいた入江相生氏から横浜の捕虜収容所にいたルイス ブッシュ氏、治安維持法で逮捕されていた志賀義雄氏、考古学の調査で満州にいた江上波夫氏等多士済々です。政府内での様々の葛藤、ソ連に仲介を期待するなどと言う愚かな判断、また国際政治の非常さなどが話されています。日本への原爆投下が遥か以前から計画され、またソ連の進行も決定されており、久間発言で言われていたように、日本の分断が原爆のために行われなかった、と言うような事はないことも述べられています。 天皇の玉音放送は、軍や将兵への言葉だったと言う指摘も興味があります。この対談の司会をした半藤一利さんが、後に「日本のいちばん長い日」を書いた原点が、ここにあります。

(3)ニセモノはなぜ、人を騙すのか? 中島誠之助 角川ONEテーマ21
 あのなんでも鑑定団の中島さんが、なぜニセモノにひっかかるのか、日本人はなぜ騙されやすいか、等をテーマに書いています。結論から言えば、儲けてやろう等という邪気を持たず、十分な知識を持って偉くなって物を見る、と言う事に尽きるでしょうか。例として、正倉院展が引き合いに出されています。日本から唐へ行った留学生が偉かったから、優れたものが授けられた、ところが、日中戦争当時の日本軍の将軍たちが中国の要人から貰った物は、殆どがニセモノだった、ということが挙げられています。この様に書かれると、妙に納得してしまいます。ホンモノ、ニセモノということだけでなく素晴らしいものを愉しむ事は、人生を豊かにする事だと思います。それが儲ける、得をすると言う事に変っていく事が問題でしょう。

(4)街道をゆく 夜話 司馬遼太郎 朝日文庫
  司馬遼太郎さんのあの「街道をゆく」、それの入門篇といった本です。これまで方々の本でエッセイと言う形で発表されてきたものを、一冊の本にまとめてあります。東日本、西日本という風にジャンルを分け掲載されています。司馬さんファンで、彼の本は、全て持っていると自負する私としては、どこかで読んだ物が、多くありました。しかしそれでも読んでいて飽きないのは、司馬さんの力量でしょう。

 

(5)王様は裸だと言った子供はその後どうなったか 森達也 集英社新書
 「裸の王様」「赤ずきんちゃん」「蜘蛛の糸」など、有名な物語がその後どのように展開して行ったか、と言うパロディー集です。気楽に面白く読めますが、筆者は現代の日本をこれ等によって分析、批評しています。文明批判、文明論として読めば面白いでしょう。
 「王様は裸だ」と叫んだ子は、その場の雰囲気を感じ取る事が苦手な子であった、と作者は分析します。その後少年はどうなったでしょう。ただの平凡な大人になり、要領も悪いのでお嫁さんさえも来ない。一方の王様は着道楽はやめたが、戦争道楽をはじめ、戦争に明け暮れている。それが一つの候補。もう一つは、革命家になり王制を倒したが、融通が利かず独裁者となった。どちらがよいでしょうか。色々な昔話を通して、現代日本を分析、批評しています。

(6)世界ぐるっと朝食紀行 西川治 新潮文庫
 写真家、文筆家、料理研究家の筆者が世界各地を廻って食べた朝食や、現地の人々の様子が書かれています。多くは市場の屋台などでの食事ですが、そこで様々な人たちとの出会い、触れ合いがあります。写真家でもある筆者が撮影した、写真も豊富に載せられ、見るだけでも面白いものです。

 

 

(7)丸かじり劇場 東海林さだお 朝日文庫
  週刊朝日の「あれも食いたいこれも食いたい」に掲載されたものから選ばれた、108本が掲載されています。東海林さだおは、掴みが上手い。一行目で読者を引き込みます。ただ一行毎に改行するので、読み易いがすぐに終わってしまう。本が厚いわりに、5時間くらいで読めてしまうと言う欠点があります。しかし日常の私たちなら何気なく見過ごしてしまう事を、これだけ面白く膨らませる事が出来るのは、流石だと感心します。読書で肩が凝った時には是非どうぞ。

白 江 医 院 白江 淳郎

2007/11/03 10月の読書ノート

(1)考古学の教室 菊池徹夫 平凡社新書
 最近よく、考古学に関する記事が新聞で紹介されます。その度不思議に思うのは、どうしてこの様な遺跡が発見されるのか、地面にその様な印も無いのに遺跡を見つけることが出来るのか、ということです。この本はその様な初歩的な疑問に答える形で、考古学の現状や学問の成り立ちを紹介してあります。考古学の入門書であるだけでなく、私達に考古学に対する興味を引き起こしてくれます。藤井寺は遺跡の多い所ですし、私が子供の頃は大和川へ行けば、土器の破片がゴロゴロと転がっていました。(本当はそれを採取する事は禁止されています)その様な環境にいる私達が考古学に興味を持つことは、必然でしょう。この本はその様な事への入門書として、良く出来たものだと思います。

(2)いつまでもデブと思うなよ 岡田斗司夫 新潮新書
 一年で50キロの減量に成功した筆者の、減量法が紹介されています。原理原則は、何も難しい事は無く、無駄なカロリーは摂取しないと言う事につきます。しかもそのノーハウは、ただただ食べたものを、事細かに記録していくということです。そうする事で、デブを作る為にどのように努力してきたかを分析し、そこを修正していくのです。医学的に見て全く正しい治療法です。
 私は大学時代ラグビーをしていて、その当時体重は65キロありました。毎日クラブをし、筋肉を体に巻きつけていたわけです。卒業して、週一回関西ドクターズでラグビーを続けていましたが、毎日練習する訳でもありませんので、筋肉が弱くなり学生時代に痛めた膝がつらくなってきました。そこで筋力を落とさないように、時間があれば筋トレをし、ダイエットに取り組みました。やり方はこの筆者と同じで、入るカロリーを抑えるということに尽きます。慣れていくとそれまで惰性で食べていたものも食べなくなり、その食生活に体がなじんでしまいました。現在52キロの体重を維持して、膝も楽で生活しています。
 ここで筆者が述べているダイエットの方法は理にかなったものですので、一度挑戦して見られては如何でしょうか。

(3)博物館へ行こう 木下史青 岩波ジュニア新書
 博物館と言うと何かの特別展示会があって、人ごみの中で押し合いへし合いして、瞬間芸のように展示品を見る所、と言うイメージがありました。勿論これは私たちのように時間もなく、日曜日にどうにか訪れる事が出来る人たちの感じ方でしょう。筆者は博物館に勤務し、展示物をどのように配置し、光をどのように当てるかを担当する仕事をしています。筆者の希望は博物館へ来て、その空間の中で時間をゆっくりと過ごし、自分のアイデンティティーを確認してもらう事だと述べています。近年その様な考えで、多くの博物館がリニューアルされています。私は正倉院展には時々行くのですが、その様な特別展でなく、常設展にも行ってみたいと言う気になりました。
 この本はジュニア新書ですが十分に読み応えがありました。

(4)合気道とラグビーを貫くもの 内田樹、平尾剛  朝日新書
 哲学専攻で、神戸女学院教授で合気道を趣味とする内田樹さん、片や神戸製鋼ラグビー部の元メンバーで、日本代表選手であった平尾剛さん、この2人が武道、ラグビーを通して身体論を話し合おう、と言う企画です。
 45年ほど前、日本のラグビー代表チームがニュージーランドの代表チーム、オールブラックスのジュニアーチームに勝った事がありました。その頃の日本の選手は、今の代表チームに比べて背も低く、体重も問題にならないくらい軽い選手たちでした。それがあのジュニアーチームとはいえ、オールブラックスに勝ったのです。私の記憶では、その頃の選手は、一人一人がそれこそ、名人のような人が揃っていました。現在主流の筋トレや、スカウティングなどでなく、この本で述べられている日本古来の武道を体現していたのだと思います。日本のラグビーがこれから強くなり、世界にアピールしていくには、この様な日本古来の武道を取り入れた、身体コミニュケーションを身に付ける事ではないか、と思いました。

(5)誰が日本の医療を殺すのか 本田宏  洋泉社
 日本の医療は崩壊しています。これで一番の被害を被るのは、国民です。
世界で一番と言われる医療を、世界で一番政府がお金をかけずに行い、国民が窓口で払う負担は世界で一番高い、これが日本の医療です。厚労省のある課長が言い出した、医療費亡国論と言うものがあり、それによって日本の医療費は信じられないくらい低額に抑えられ、お金を持っている人だけが勝ちだと言う新市場主義の信奉者である、小泉、安倍によりさらに減額されようとしています。その少ない医療費でどうにかやって行く為、勤務医は過剰な労働を強いられます。私も大学病院に勤務している時は、二日、三日の連続当直などは当たり前でしたし、関西医科大学の研修医が過労死した、と言うニュースを聞いたときには、これくらいの勤務で過労死するのは、元々基礎に何か病気があったのではないかなどと思ったものです。しかしまた別の見方をすると、何日も睡眠をとっていないような状態で、よくもマア事故を起こさなかったものだと、ぞっとします。
新しい研修医制度が始まり、大学病院のスタッフの医師の勤務は私たちの頃と比べ、なお厳しいようです。その様な状態の医師による治療を受けたいと、皆さんは思われますか。皆さんが安心して医療を受ける為には、医師の数を増やし、病院や診療所が成り立っていくように、資金面の後ろ盾をする事が必要だと筆者は述べています。
どのような医療を受けたいかを決めるのは、国民です。公共工事に50兆円を使うのなら、パチンコに30兆円以上つぎ込むなら、現在の医療費30兆円をせめて他の先進国並みに、後10兆円増額して、老後の安心のために、子供達の安心のために、社会保障を充実させませんか。日本の未来は、皆さんの賢明な選択にかかっています。

(6)真相 (上)、(下) パトリシア コーンウェル 講談社文庫
 1880年代から90年代にかけて、ロンドンで何人もの娼婦が残忍な方法で殺された、切り裂きジャックの事件の犯人を、コーンウェルが現代の法医学を使って解き明かします。色々と検証した結果、彼女はウォルター シッカートと言う、結構有名だった画家に行き当たります。この事件は100年以上も前の出来事なので、証拠品も少なく、有ったにしても分析するのに十分のクオリティーを持ったものが、多くは有りません。しかし現代の最先端の技術を使って、彼女は犯人に近づいていきます。これ以上の説明はやめましょう。是非ご一読の程を。
 ただこの犯人と考えられる人物は、結構長生きしています。主にフランスで過ごした後半の人生で、何か犯罪の影はなかったのでしょうか。コーンウェルの今後の調査が期待されます。

(7)秘密結社の日本史  海野弘  平凡社新書
 秘密結社と聞くと何か得体の知れない、怖いものと言うイメージがあります。筆者の定義によると、社会から分離し、隠されたもので、セクトやカルトに?がるもので、オカルトに関わる、ということになり益々恐ろしいもののように感じてしまいます。しかし考えてみれば、宗教も初めのうちは秘密結社のようなものでしょうし、中世ドイツなどのギルト等も秘密結社に含まれるかも知れません。
 結構私たちの周りに存在する、或いは存在していたものでしょう。明治時代から戦前の国家支配層にとって、この様な組織は困った存在であったので、取り締まられていったと言う歴史があります。この本はそれらを丁寧に掘り起こしていきます。ただ新書ですので、入門篇と言った形で終わっています。その辺で読み終わったあと物足りなさを感じました。

(8)剣客商売、包丁ごよみ 池波正太郎  新潮文庫
 池上正太郎の「剣客商売」には色々な料理が登場します。筆者自身が相当の食通ですので、このシリーズや、他の作品群でも出て来る料理の美味しそうな事と言ったら、たまりません。それらの料理を元山の上ホテル「てんぷらと和食 山の上」、現「てんぷら近藤」の近藤文夫さんが季節ごとに、再現しています。綺麗な写真と、レシピが掲載されています。これを見ているだけでも楽しくなってきます。剣客商売の舞台は江戸時代ですので、勿論和食ですが、私が年を取ってきたせいかどれも体によく、元気が出そうに思ってしまいます。私たち日本人のDNAは全く変っていないわけですから、これ等の料理が一番体にあっているのでしょう。患者さんにいつも言っているのですが、外人と日本人は人種が違うのですから、所謂和食を主体にしていくべきだと思います。

白 江 医 院 白江 淳郎

2007/10/04 9月の読書ノート

(1)国家情報戦略  佐藤優  講談社α新書
 日本と韓国のインテリジェンスの、元第一人者の対談集です。2人とも政治的に投獄されたという経歴を持ち、それらの事についても言及されています。色々なインテリジェンスを国家が持っているにしても、それを使う政治家が確固とした方針を持ち、長期のスパンでそれを運営していかなければ、どんなに優秀なインテリジェンスでも機能を発揮しません。だからといって、それに絶対の権力を持たせてしまうと、今度はコントロールできなくなります。その兼ね合いが難しいところでしょう。
 登場した二人とも、これからは核が分散して行き、核を持った帝国主義の時代になると予言しています。そのバスに乗り遅れないように、麻生や中川が言っているように核を持つことを検討するか、唯一の被爆国として、非核三原則を貫いて彼らのようなインテリジェンスを使いながら、独自の道を歩いていく努力をするか、国民が責任を持って判断していくべきでしょう。

(2)ローカル線おいしい旅  嵐山光三郎  講談社現代文庫
 旅行好き、温泉好きで有名な作者です。定年を迎えれば、鈍行列車や寝台列車を使って、日本全国をゆっくり廻り、時間に束縛されず、その場その場を愉しむ事を提案しています。しかしそうなる為には、ある意味で勉強しておく事が必要ですので、若い時から色々と経験しておく事が必要でしょう。作者のようにローカル線に乗り、行く先々で温泉に入り、美味しい郷土料理を食べれば豊かな定年後の生活となるでしょう。
 しかし私たちはこの様な時間も、知識の積み重ねもありません。困った事ですが、取りあえず出来る事はこの様な本を読んで、頭の中で旅行を愉しむ事でしょうか。

(3)憲法の力  伊藤真  集英社新書
 国民投票法、教育基本法等、強行採決でろくに審議をしないまま、重要法案が可決しました。参議院選挙で大敗した自民、公明党はその様な自分たちの暴挙は棚に上げ、民主党に大人の対応を要求しています。また低脳、恥知らずの安倍は、国民に「NO」といわれたのにバカ面をさらし続け、ブッシュとの約束だけは守ろうとしています。
 彼らの考えている事は、憲法を変えて戦争の出来る国になろうという事ですが、なぜこの様な事が、まずは日本国憲法を尊重擁護する事を義務付けられている、首相から発言されるのでしょうか。また国会議員は、一体日本国憲法という物が、また一般的に憲法というものが判っているのでしょうか。これ等の事を考えると暗澹たる気持ちになります。私たちの子供や孫の将来を、あのような低脳、破廉恥なやつらに委ねてはなりません。
 この本を読んでいくと、これまでの憲法論議で行われていた事が詳しく説明され、大いに納得されます。私たちは日本国憲法が、300万人の日本人の命を失い、20000万人のアジアの人々を殺し、加害者にも被害者にもなって「武力によって国民を守れる」と考える事こそ非現実的だ、と考えた結果出来た物だということを再確認するべきでしょう。
 先日NHKの番組で、九州の「菊部隊」の生き残りの方を取材した物がありました。実に8割の方が戦病死されたそうです。「終戦になったときにどう感じましたか」、という質問に「本当に嬉しかった。これからは息を潜めて食事の準備をしなくても良いし、手足を伸ばして寝られると思った。私たちは戦争に行ったのではなく、ただ殺されに行ったのだ。負けて残念、悔しいと言っていたのは前線から遠く離れた所にいた人たちだけだ。」と語っておられました。この言葉を今の憲法改変しようとしている人たちは、どのように受け取るでしょうか。おじいちゃんが満州国の高級官僚で、戦犯になった奴などは、何とも思わないだろうな。

(4)ペンギンもクジラも秒速2メートルで泳ぐ  佐藤克文  光文社新書
 データロガーと言う直径2センチ、長さ15センチ程度の円筒、これに最新のデジタル測定器が組み込まれています。体温、加速度、太陽照度、水中深度、それらの測定装置、果てはカメラまでが入っています。これ等を付けられたアザラシや、ペンギン、アオウミガメなどの生態や、行動のメカニズムがそれらのデータを分析する事で解明されています。
変温動物である爬虫類のカメは水中深く潜っても体温は変わりません。それに反して、恒温動物であるペンギンは深く潜れば、体温が低下していきます。アザラシは息を吐いてから潜水し、ペンギンは息を吸ってから潜水します。それらはその動物が生きていくのに有利なように、備わった本能ですが、実に見事に適応しています。詳しくは一度お読み下さい。お奨めの一冊です。
しかしこの様な様々なデータから、動物の行動を考察できる事は、なんと面白い事かと感心してしまいます。こんな能力があればいいな、と作者が羨ましくなります。

(5)大問題  いしいひさいち  東京創元社
 あの「ノノちゃん」の作者が、2006年に起こった事を漫画に描き、コラムで解説しています。偽メール事件、イナバウアー、ハンカチ王子、安倍内閣成立、ホリエモンや村上ファンド、みんな2006年だったなあと思い起こさせます。一体日本はどうしたんだと言う気になりますが、そのうち一寸でも良い国になってほしいと思います。

(6)捜査官ガラーノ  パトリシア コーンウェル  講談社文庫
 「検屍官」、ミス スカーペッタが主人公のシリーズで有名な作者の最新作です。ニューヨーク タイムズに連載されたものです。この作者でよく取り上げられる、事件に政治が係わるという筋立てで、話が複雑に絡み合っていきます。検屍官シリーズでは、犯人の「狼男」が死んだと思えば、次の話では生きていたり、スカーペッタの恋人も殺されたと思っていたら、事件を解決する為にどこかに潜伏していたり、と「無理やりやな」と思わせるものがありましたが、今回はまだ今の所無理な事はありませんでした。このシリーズがこれから続くかどうかは、今の所不明なようですが、気軽に読める一冊だと思います。

(7)あなたは戦争で死ねますか  斎藤貴男 知念ウシ 沼田鈴子 生活人新書
 敵前逃亡、登校拒否の安倍がどんどんと推し進めていた、戦争が出来る日本への道。私たち下々の者たちは、戦争に駆り出され、殺す覚悟、殺される覚悟を持たなければなりません。また軍需産業の輸出緩和により、他の国の人たちを殺す事により日本は豊かになれるかもしれません。その様な事に対して「ノー」を言うために、この本が参考になればよいと思います。
 今なお基地の島、実質的には日本やアメリカの植民地である沖縄、そこから意見を発信している知念ウシ、原爆の語り部の沼田鈴子、これ等の方々の言葉が強く胸に響きます。
 私たちはもう戦争を忘れたのでしょうか。敗戦時の謙虚な反省の気持ちはどこへ行ったのでしょうか。この様な気持ちを強く持った本でした。

(8)起爆国境  トム クランシー  新潮文庫
 「レッド オクトバーを追え」以来の愛読者です。今回は活字中毒の私が、大阪へ行った時に読む本がなくなってしまい、急遽買い求めたものです。インドとパキスタンの国境に両国が核施設を展開し、民族、宗教対立を煽って戦争に持ち込もうとする様々な勢力が暗躍してと、作者お得意の物語が展開していきます。それを解決する為にアメリカのストライカーチームが投入され、隊員に多くの被害を出しながら問題を解決していきます。世界の警察官を自負する、アメリカの面目躍如と言った所です。しかし現実もアメリカは自分をその様に考えているのでしょうし、彼らの考える正義が世界の唯一つの正義なのでしょう。
 ただ物語として読めば、スリリングな展開で面白いのですが、これと現実の区別が出来ない人が日本の政治家にもいるようで、先制攻撃論などが出てくるのでしょう。

白 江 医 院 白江 淳郎

2007/09/02 8月の読書ノート

(1)日朝関係の克服 姜尚中 集英社新書
 六者協議が開かれ、戦略もないままに安倍晋三に引きずられる日本は、世界から取り残されて行きます。そもそも朝鮮戦争で多くの国民が殺され、拉致被害者もわが国と比べようもないほど多い大韓民国が太陽政策などを行い、またそれを多くの韓国国民が支持しているのはなぜかが、よく理解できませんでした。しかし太平洋戦争の敗戦後、対ソ連への支援基地として位置づけられていた日本と、支配者がアメリカやソ連に変わっただけで、実質的には植民地であり続けた朝鮮半島ということを考えると、私達が持っている感情とは全く違ったものがあるのは、当然の事でしょう。朝鮮戦争の時、北朝鮮を爆撃した飛行機は、日本の厚木や、横田基地から飛び立ったものでしたし、国内産業も戦争から非常な恩恵を受けていました。ほんのすぐ隣で人々が死んで行っているのに、私たちはそれに目を向けずに太平洋戦争の被害者であると考えて生きていました。またかつての宗主国であるという気持ちも、どこかに持っていたでしょう。
 拉致問題は解決されなければならない問題で、これを否定する事は当然出来ません。感情としてはその事を十分に心に持ちながら、平城宣言に基づいて日朝国交正常化交渉を行い、北朝鮮をかつてわが国が陥ったような国際的孤立状態にさせず、東北アジアの一員として対応していくべきだと筆者は提案します。拉致問題はその交渉の過程で解決していくべきだ、という意見です。
 正直言って、今のままでは全く話が進捗しません。政府は何を持って拉致問題が解決に向かっていると言えるのでしょうか。拉致被害者やその家族の人たちが、安倍晋三の政治姿勢のプロパガンダに使われている様に思われてなりません。人道的な立場で拉致が許せないというのなら、従軍慰安婦の問題や、戦時中の朝鮮人強制連行問題に対する真摯な反省も必要ではないでしょうか。

(2)日本の戦時下ジョーク集 満州事変篇 早坂隆 中公新書
 私たちの印象では暗い時代のように思っていますが、昭和の初期は空前のお笑いブームだったようです。その時代の漫才や、落語を紹介してあります。実際の音声を聞けば、もっと面白さも分かるのでしょうが、もうひとつやなーという感じです。国家による検閲もあったでしょうが、その当時の人たちと現在の私たちの、世界に対する認識の違いが感じられます。
 戦争ばかりの世の中だったと思いますが、スキーブーム、旅行ブームといった大衆レジャーの時代だったそうで、そのギャップに驚いてしまいます。

(3)日本の戦時下ジョーク集 太平洋戦争篇 早坂隆 中公新書
 先の満州事変篇に続いて、太平洋戦争当時のジョークが掲載されています。戦争の時代でしたし、政府の統制下で言論が規制されて何とも不自然なジョークだと感じます。

(4)空疎な小皇帝 斎藤貴男 ちくま文庫
 いつも不思議に思うのは、なぜ石原慎太郎というような人物が東京都の知事になり、大衆に支持されているのかということです。発言や行動を見れば、差別主義者、低俗な回顧主義者、軍国主義者ということが見て取れ、唾棄されるべき存在である事など正常な人間であれば容易に分かるのに、東京の住人はどうしてこのような存在を許すのでしょう。少し以前のまだ健全な、又はリベラルな保守勢力が優勢だった頃は、ピエロにしか見えなかった石原、中川、安倍などといった連中が大きな顔で歩き回っています。東京都庁ではこの石原に尻尾を振る連中が重用され、益々おかしな方向に進んでいきます。本来ならこの様な動きに警鐘を鳴らさなければならないマスコミも、何を恐れてか無言を貫いています。
 私は横山ノックを選んだ事もどうかと思いましたが、石原を選んだ東京都民に比べ、大阪府民の良識に敬意を表します。

(5)日本人はなぜシュートを打たないのか? 湯浅健二 アスキー新書
先日のサッカーのアジア選手権でも見られたように、日本のサッカーは中盤の球回しやスペースを作る事は文句なしですが、いざシュートとなるとなかなか打たない傾向があります。日本人はシュートをするというような、責任がひとりに集中する行動に二の足を踏む事が多く有ります。また手と比べて不器用な足を使って、不確実な事を行うわけですから、色々な失敗や予期せぬ事が起こることは当然です。しかし日本人やプレーヤーは過剰と思えるほど確実性を求め、失敗を恐れます。
この本はサッカーの監督、コーチとしてのチームマネージメントについて書かれていますが、日本人の精神構造について書かれた文化人類学の本と考えられます。気軽に読める面白い本でした。

(6)特攻隊と憲法九条 田英夫 リヨン社
 終戦の日を迎えるに当たって、今年は例年よりも多くの戦争についての放送が多かったように思うのは、錯覚でしょうか。無意味だという事を理解しながら、お国の為という言葉のために尊い命を投げ出さざるを得なかったあの戦争。そのような方たちを、あざ笑うかのような、憲法改悪や核兵器保持を口走る低能政治家たち。参議院選挙で大敗北したにもかかわらず居座る、破廉恥さ。
今年の終戦に関する戦争報道の多さは、(勿論、企画の段階では自民、公明両党、を主体とする改憲勢力の大敗が分からなかったはずですから)この様な社会の流れに対するマスメディアによる精一杯の抵抗のような気がします。
この本は、私が中学生時代の有名なニュースキャスターで、後参議院議員になった田英夫さんが、語り部になってあの時代を私達に紹介し、また今現に起こりつつある、戦争への歩みについて警鐘を鳴らす目的で、書かれた本です。以前も書きましたが、私の子供の頃は、まだあちこちに戦争の名残があった時代でした。大阪城の東側の砲兵工廠跡は、まだ荒れ果てていましたし、傷痍軍人といわれる人たちが天王寺の駅にも沢山居られました。学校では戦争の悲惨さを教えられましたし、やっと手に入れた日本国憲法の、主権在民、戦争放棄、基本的人権の尊重、という三つの大きな柱を教えてもらいました。その教育が、戦前の軍国少年を作った事と同じではないかと言う人もいるかもしれません。しかし今、改憲を叫ぶ人たちは、その様な授業をどんな気持ちで聞いてきたのでしょうか。マア安倍首相はどう見ても偏差値が低いので、そんな事さえ理解できなかったでしょうが。
 この本を総論として、またこれまで私が紹介してきた斎藤貴男さんの本を各論として読んでもらえば、今私たちのほうに足音を忍ばせて近づいてくる、軍靴の音が聞こえると思います。

(7)不屈のために 斎藤貴男 ちくま文庫
 小泉の進めた構造改革によって、日本は強者の言うなりの国になっています。竹中は自分では犯罪ぎりぎりの、政治家としては国民が許すはずのない脱税行為を繰り返しながら、高額所得者のための政治を行っています。中川幹事長の言っている「上げ潮の時代」の知恵袋は、竹中に過ぎません。
そもそも小泉や、石原慎太郎の様な人格異常者、差別主義者が多くの人に支持されるという、この異常さは一体どういうことでしょう。健全な保守政治、良識のある人たちが政治を行い、普通の大きさの声で議論をしていた時代には考えられない事です。
日本は国民が監視されている国になっていきます。犯罪の防止のためと言う大義名分はありますが、犯罪が起こる為には社会的な下地があるはずです。みんながそれなりに努力し、それが報いられ、満足できる社会なら、今日ほどすさんだ世の中にはなっていないでしょう。経済界は好況といいますが、それはリストラや文句も言えないような派遣社員を増やして、経営者に甘い汁を吸わせているからに過ぎません。社会的にも抜けられない様々な階層が作り上げられていき、下の階層はただ上の階層に奉仕する為に存在します。それに対して反発し、何らかの行動を起こす人たちに対して、今の国家は監視を強めています。今に、戦前のような言論が制限され、良識的、健全な意見でさえ「アカ」と言う言葉で一纏めにされて弾圧されるでしょう。
この様な社会に、どんどん進んでいくわが国、それを導いている小泉、安倍のような指導者に、作者は警鐘を鳴らし続けています。

(8)紳士の国のインテリジェンス 川成洋 集英社新書
紳士の国イギリスは、かつて世界を支配する国でしたが、その要因のひとつとしてインテリジェンス、(スパイ情報)を効果的に活用した事があります。この本では昔からのイギリスのその様な活動の歴史が、紹介されています。サマセット モーム、イアン フレミング、グレアム グリーン等、有名な作家は実は、その様なインテリジェンス活動を行っていた事が紹介されています。イアン フレミングは有名な、「007シリーズ」の作者ですし、グレアム グリーンは「第三の男」の原作者です。これ等の作品は、やはり実体験がなければ書けない物でしょう。
またこの本では、イギリスを裏切った二重スパイの事にも触れられています。彼らの多くはケンブリッジ大学を卒業し、イギリス政府に就職した日本で言えばキャリアー組で、ホモセクシュアルの関係で結ばれていたとの事。まあここら辺の事は良く分かりませんが。
 最近でもロシアの闇世界を告発した、ロシア人がロンドンで毒殺されるといったような事件がありましたが、まだまだこの様なインテリジェンスの世界は続いていくのでしょう。

(9)俳句鑑賞450番勝負 中村裕 文春新書
 従来俳句の本といえば、季語による分類で著されるものが殆どでした。しかしこの本は山、旅、スポーツ、などといった実生活で体験するものによって、分類してあります。掲載されている句を読むにつけ、言葉に対する知識の無さが痛感されます。中には特殊な言葉もあるでしょうが、その言葉を知らない事による、実生活の内容の貧しさが心配になってきます。昔から日本人は言葉(言霊)を大切にしてきたことを、再確認させられます。
 無学で恥ずかしいのですが、季語を否定したりする新興俳句運動が、季語の否定は天皇制の否定につながるという、訳の分からない理由で戦前に弾圧を受けたそうです。言論表現の自由を制限しようと、影で蠢いている勢力が台頭しつつある今日、先人が受けた理不尽な弾圧を繰り返してはならないでしょう。
 それにしても、初めて句を読み自分で感じた事と、解説とのギャップは何ということでしょうか。手許に置き、事あるごとに読み返してみたい本です。

白 江 医 院 白江 淳郎

2007/08/03 7月の読書ノート

(1)割り箸はもったいない? 田中淳夫 ちくま新書
 一時割り箸は森林破壊の原因になる、と言う意見が出され、割り箸をやめる運動が盛んになり、それに変えて自分の塗り箸や、プラスチックの箸を使う人が増えた事がありました。筆者は木を伐る事が日本の森を守る、と言うことを述べています。日本の人工林は苗木を密に植えて、成長するたびに何本かの木を間引いていきます。この間伐が残った木をより良く育て、間伐材を利用するようになります。最終的に残った大木が高価で取引されますが、それまでに間伐材を色々と利用する事で収入が得られ、最初の植え付けや下刈りの経費が全てまかなえる事になっています。
 しかしこの手入れが十分に出来ていないと、山の土壌に質も落ちて保水力が悪くなり、水害の原因にもなります。この様な山の事を「緑の砂漠」と呼ぶのだそうです。筆者によると、間伐材や、大きな材木の端材を用いて作る割り箸は、決して環境を破壊するものではなく、林業を有効に行っている結果生まれたもので、これを通して日本の森林を、より健全な状態に保っていく事が必要だと述べています。

(2)暗殺の日本史 岡林秀明ら 宝島社文庫
 日本史を読んでいると、特に古代には暗殺の記録が沢山あります。これ等を、その人が死んで一番恩恵をこうむった人は誰かを考証して、その真犯人を考え、時代背景を説明している本です。教科書には載っていない、闇の部分に焦点を当てています。
 それにしても、古代には沢山の暗殺がありました。人が死ぬ、ということが日常茶飯事だったのでしょうか。現代は事故などがありますが、古代は疫病等であっという間に沢山の人が亡くなったのでしょう。また身近に死体があったのでしょう。これ等から来世とか、死後の世界と言う概念が生まれてきたのでしょうが、そういうことを経験しなくなった現代人は、益々それらの概念から離れていきます。

(3)国家に隷従せず 斎藤貴男 ちくま文庫
 多くの国民は、自分たちが支配され、支配者のために死んでいく階層である、と言うことを実感していません。小泉が選挙応援に来たと言って喜んで聞きに行き、写真を撮ったり歓声を上げて喜んでいます。1%の人たちが99%の富を独占し、99%の人達が1%の富を分け合う、今の世の中を構造改革という耳障りの良い言葉で作り上げてきた小泉や竹中、またその中でうまく立ち回り私腹を肥やした、オリックスの宮内。この様な事実を報道せず、ガス抜きをし、支配者に良いように上手く大衆を導いている「朝ズバ」に代表されるマスコミ。この様な事実を私たちは、もっと真剣に認識すべきでしょう。
 注意深く見て行くと、みのもんたの言葉の端々に、現在のファシズム政権に視聴者を誘導していく意識が見られます。そういう視点からあの番組をご覧になると、ここまで私たちは管理、支配されていると言う事がお判りになると思います。そう言う認識を持たしてくれる本でした。

(4)江戸の妖怪事件簿 田中聡 集英社新書
 江戸時代は様々な妖しいものたちが出没し、人々はそれを恐れたり、見物に出かけたりしました。また識字力が優れていたので、それらの記録が多く書き残されています。いかにも日本人だなと思わせるのは、幽霊が出ると言う噂で人が集まる所には、すぐに食べ物を売る店等が出たことです。今の私達が聞けば、一笑に付すような出来事も、その当時の人たちは、その時代にある知識でどうにか説明しようとしていました。幽霊はいないだろうと考える人も多かったようですが、疾病などは狐や狸のような動物が悪さをしている、と考える事が多いようでした。
 まあそんな事があったんだなと、納得させる本です。

(5)遺伝子が解く 女の唇のひみつ 竹内久美子 文春文庫
 例によって動物行動学を、遺伝子の切り口から解いていった本です。筆者の持っている好奇心を、読者からの質問に答える、という立場で追求しています。その追求していく道に、私たちは一緒に迷い込み、歩いていきます。実際このように、遺伝子だけで森羅万象を説明できるか、という意見もあるでしょうが、しかしまあ見事に説明されれば、そうだったのか、と納得してしまいます。以前も書いたかと思いますが、気軽に読めて、アカデミックな所でも納得できて、これから先に色々役立ちそうな本です。この人の本はお奨めです。

(6)コテコテ論序説 上田賢一 新潮新書
 なんばはニッポンの右脳である、という副題にあるように、論理的なキタに対して、感覚的、動物的なミナミを取り上げています。歴史を紹介し、そこから発展した吉本興業、南海電車、さらに新しい展開を見せる、ナンバパークス、それらからこれからのニッポンの進むべき姿を考察しています。 
 私は月に二週間位は用事で梅田に行きますが、この本で述べてあるような、空気の違いを感じます。私に合っているのはやはりミナミで、デパートにしても、阪急より心斎橋大丸でしょうか。有名な料理店の支店は梅田に沢山ありますが、あえて右脳の中心、ミナミに店を持っている香港の有名店、福臨門酒家は流石だと感心しています。全然主題から離れますが、この店の昼の香港飲茶ランチは絶対のお奨めです。是非一度御賞味の程を。

(7)リサイクル幻想  武田邦彦 文春新書
 今私たちはリサイクル、つまり循環型の社会を目指しています。ごみの分別、資源ごみや紙、ぼろ布をだす、等を積極的に行っています。しかし例えばペットボトルをリサイクルに出すと、それを処理する石油の消費量は4倍になります。また各自治体単位で行っているリサイクルを、集約すれば効率は良くなりますが、それに伴う輸送費などが掛かり、結局は割高になってしまいます。紙の問題でも、紙になる木材は所謂先進国で、計画的に植林されたものがほとんどで、むしろこれはだぶつき気味。熱帯雨林の破壊などで問題になっているのは、焼き畑農業などによるものが殆ど、ということです。このように私達がリサイクルと思っている事、又は思わせられている事は、実際は何等リサイクルになっておらず、むしろ環境破壊になっているという事が述べられています。
 一番効率的なのは、人口30万人に1つくらいの高熱の、発電機能を持った焼却場を作る事、燃え残った重金属をストックしておく事だ、と述べられています。
 先日の中越沖地震で、原子力発電所の火災が問題になりました。ニュースによると今、日本の全原子力発電所を操業停止にすると、約30%発電量が落ちるそうです。しかしちょっと考えれば、私達が今の生活の電気に対する依存を、三分の一減らせば原子力発電を使わずに済むわけです。それ位出来ると思いませんか。昔、夜はもっと暗かったし、片方では非常な熱源になるクーラーなどなかったし。子孫に原子力発電のようなものを残すより、風力発電、太陽光発電を残し、より良い環境で生きていってもらえるようにする事が、私たちの責務ではないでしょうか。

(8)報道されない重大事 斎藤貴男 ちくま文庫
 最近はまっている筆者の本です。今の日本は、アメリカの新自由主義(小泉、竹中、宮内の進めて来た路線)に追従しています。それを進めてきた人たちは、竹中、宮内といった、昔で言えばなりあがりか、小泉のような、政治家の二世三世といった連中です。彼らの利益を守る為、庶民は戦争などに参加させられます。この人たちは戦争になっても絶対死にません。後方の安全な所にいて、彼らの利益を守る為に、私達に突撃して死ね、と命令するだけです。それが彼らにとっての「美しい国」でしょう。彼ら、又は安倍晋三は、国と国家という言葉の区別が分かっていないか、上手く使い分け、それに庶民がだまされるという構図です。そもそも、私たち個人個人を守る為に国家があるはずです。国家の権力者を守るために、個人が存在しているのでは有りません。昨今言われている、財政が逼迫している原因は、彼ら権力者のおじいちゃん、お父さんが、私たちのほうを向いて、真摯に政治を行ってこなかったからでしょう。財政改革、三位一体の改革、などと耳ざわりの良い言葉を使って政治を行い、結局は大企業のみが空前の利益を得、庶民と地方が貧困にあえいでいます。
 彼らの、または大企業の利益を守る為、北朝鮮の脅威をことさら囃し立て、拉致被害者問題や対テロ問題も絡めて軍事大国への正当性、集団的自衛権も当然といった雰囲気を作り出していきます。それをチェックすべき国会議員のバカさ加減、(先般の国会の強行採決を思い出してください。立法府としての働きなど全く放棄しています。我が選挙区選出の、谷畑大先生も、ピエロの様に恥ずかしげもなく、ご立派に立ち振る舞っておられました。)またそれを報道せず、権力に擦り寄り、正論を吐こうともしない、報道機関。(産経、読売など初めから話になりませんが)これ等に対して筆者は怒りを持って糾弾しています。
 私たちは、祖父の世代の人達に、なぜあんな愚かな時代を過ごし、その結果として日本人のみならず、近隣の諸国民に対し多大な災禍をもたらした、対中国や太平洋戦争を始めたのだ、と問いかけてきました。今度は私達が、孫の世代に、私たちの愚かさを指摘される時代が、今進行しています。

(9)近江から日本史を読み直す 今谷明 講談社現代新書
 そう言えば、日本史で近江の名前は良く出てきます。大津京、紫香楽宮、比叡山、信長の焼き討ち、安土城、関が原、中江藤樹、井伊直弼、近江商人。あまりこれまで、滋賀県という切り口から歴史を見てきませんでしたが、このように並べると、その面白さを再確認します。京都、奈良、大阪の近くにありながら、こういっては失礼ですがちょっとマイナーな感じの県ですが、やはり畿内にあるだけ、歴史上重要なものが沢山あります。この本はそれらへの観光案内、歴史入門書として最適だと思います。これを片手に、滋賀を歩いてみるのも良いでしょう。

白 江 医 院 白江 淳郎

2007/07/01 6月の読書ノート

(1)北朝鮮、中国はどれだけ恐いか 田岡俊次 朝日新書
 朝日新聞などでおなじみの、軍事ジャーナリストの書かれた本です。センセーショナルな題ですが、現在の極東の軍事情勢を詳細に説明されています。軍事を知らない、所謂平和ボケの人たち(私は安倍を初めとする自民党の、改憲論者や民主党の前原がその典型だと思っていますが)が言う様々な意見に対して、警鐘を鳴らす意味で、貴重な本のように思います
 イラクで失敗したアメリカは、これからかなり内向きの姿勢になって行くでしょう。ソビエトと言う強敵のなくなった、NATOもその性格が変わっていくでしょう。その様な時代に、ただただ日米同盟等とお題目のように唱えていたのでは、取り返しのつかない事になります。中国も資本主義を唱え、巨額のアメリカ国債を引き受けてアメリカ経済を支え、高額の外貨保有高を誇っている時代です。軍事で争う事の無意味さを一番考えているのは、中国自身かもしれません。またアメリカは経済上のアジアのパートナーとして、一番に中国を考えるようになるかもしれません。この様な現実を見ながら、日本の国防、外交を考えていく必要があるでしょう。一部の政治家の考えている、核武装論など防衛という観点だけでなく、外交と言う観点からもマイナス以外の何物でもないと思われます。
 現実的には、スウェーデンのように、武装中立が良いかとも思いますが、武器を持てば使ってみたい、より良いものを持っていたい、これだけでは不安だ、などの考えが出るのは当然でしょうし、自分ではその様なものを持って戦いたいとは絶対に思いません。もしも家族が襲われそうになったときはどうするのだと聞かれれば、(国防を論じる時この例えが良く持ち出されますが、国家と家族と言う論点のすり替えです)私はそこら辺にある、棒切れで戦います。
 この本とは関係のない事ですが、先日北朝鮮拉致被害者家族会の方が、憲法9条について、「日本が軍備をしていないから北朝鮮に侮られ、拉致が起きた、だから軍備が必要だ」といった発言をされていました。これも全く的外れの論議で、国民を守ってこなかったのは、北朝鮮に媚を売ってきた、自民党、旧社会党などの政治家でしょう。こんな手段を使ってまで、憲法を変えたいのかいう怒りとともに、自民党に取り込まれて、本来の活動が出来ない拉致被害者家族の方に同情しました。

(2)日本「古街道」探訪 泉秀樹 PHP文庫
 昔から多くの人たちに使われていた、様々な街道を紹介しています。この本を持ちながら、街道を歩けば、面白い発見があるかもしれません。ただ距離が長いため、ドライヴでしょうね。

(3)国家は僕らをまもらない 田村理 朝日新書
 憲法は、私たち国民を守ってくれる味方のように考えている人は多いと思いますが、その成立、精神を考えたならば、国家の、国民に対する権力の乱用を制限するために作られたものだと言う事が、述べられています。人権は国家に余計な事をさせない事で守られる。国民は自立した個人でなければならないし、国家から何かしてもらえるのを期待している個人であってはならない。
 今、改憲論議が色々となされていますが、憲法9条の議論について、筆者は太平洋戦争当時の「死を宿命づけられた人たち」と「死を宿命づけられぬ人たち」について述べています。安倍の祖父の岸信介は、戦争当時商工大臣として戦争の遂行に尽力し、戦犯になりましたが、アメリカにとって有用な人物であったため、起訴されず後に首相になりました。死を宿命づけられない人の典型例でしょう。彼らの言葉に導かれ、多くの国民は「聖戦」に、お国のために、自分の命を投げ出しました。この様にごく一部の、生き残る人たちの為に、多くの人たちは死んで生きます。安部を初めとする自民党、公明党や、一部の民主党の人たちは生き残るでしょうが、彼らに踊らされた人たちは死んで行きます。その人たちは英霊と言う言葉で彼らに持て囃され、「靖国神社に参拝する国会議員の会」などという(みんなで渡れば怖くない、と言うような主体のない)唾棄すべきゲテモノたちに参拝されます。
 私たちはここで憲法の精神をもう一度問い直し、独立した主体性のある個人として、現実に向かい合うべきでしょう。少なくともあのようなやつらに、私たちの独立した個人としての尊厳を犯されないためにも。

(4)うなぎ丸の航海 阿井渉介 講談社文庫
 太平洋のどこでうなぎが産卵するか、ということを調査するために調査船の白鳳丸が数度の調査にマリアナ海溝に向かいます。作者は海に憧れ、マグロ漁に憧れているうちにこの調査に偶然に参加する事になり、この調査にのめり込んで行きます。
 白亜紀にボルネオあたりに最初に生まれたうなぎは、3000万年位前に太平洋と大西洋が分断された時、夫々に分布を広げて生き延びていくようになりました。しかし日本のうなぎは、世代交代を図る時、産卵場所を日本に求めるのではなく、自分の先祖の生まれ育った場所で産卵しようとしました。それがこのマリアナ海溝、日本から数千キロの場所です。
 そんな事を研究して一体何の得になるのか、と言う風に考える方も有るかと思いますが、
それが学問であり、その様な事を軽視するような国は、未来など考えられないでしょう。

(5)食の世界遺産 小泉武夫 講談社文庫
 日本が世界に誇れる食文化が紹介されています。なかでも面白いのが、筆者が専門にする発酵の分野でしょう。河豚の卵巣、これは猛毒を持っていることで有名なのですが、これを微生物の力を借りて無毒にし、しかも珍味として美味しく製品にしている石川県の特産品が紹介されています。その他に、調理の遺産、食材の遺産などが紹介されています。味覚音痴の私には、時に共感しにくいものがあったのは事実ですが、この様に様々な料理を堪能できる事は羨ましいし、素晴らしい事だと感じました。

(6)50年前の憲法大論争 保阪正康 講談社現代新書
 昭和31年3月、衆議院内閣委員会の公聴会で行われた、憲法改正についての論議を紹介してあります。公述人は、どう考えても論拠の分からない神川彦松、(多分私の能力が不足しているのでしょう)、共感できる論理の、中村哲、戒能通孝、の3人。一方自民党からは、戦前の政府の役人や、帝国陸、海軍の軍人、社会党からは、戦前に弾圧されていた活動家や、弁護士、と言った人たちが質問に立っています。
 今の政府の公聴会と異なるのは、憲法改正に反対する論者を多く入れていることでしょう。現在の政府の行っているように、政府の意向に賛成の論者ばかりを集め、それがあたかも国民の総意であるかのように、意見を集約していくと言ったような、醜いことは行われていません。
 ここで論じられている事で、教訓にしなければならない事は、憲法改正の発議は、国民から行われる事なので、あくまで国会がこれを行うものだ、ということでしょう。内閣は、行政機関なので、憲法を遵守する義務があるため、内閣がこれを言い出すことは、明白に憲法違反だということです。昨今の論議(論議と言うより、安部が「おじいちゃんが行っていたモン」
と単に駄々をこねているだけだと思いますが)が国民の間から起こるのではなく、内閣総理大臣たる安倍の先導で行われている事に、大きな疑問を持ちます。
 少なくとも私たち昭和20年代生まれの、戦後を引きずってきた世代にとっては、ここに出てくる自民党の戦前の日本を引きずりまわした人たちは、自由や民主主義といったことを理解したり、論議したり、それにのっとって政治をしたりする資格があるのかと疑問を持ちます。また、昨今の自民党の考える憲法原案は、国民の基本的人権を簡単に踏みにじる可能性が有る事も忘れてはなりません。結局は50年たっても、60年たっても自民党の体質は安倍の祖父の岸信介に象徴されるように、戦前の天皇を中心とする(実質は天皇を隠れ蓑にして自分たちのやりたいようにする)官僚の専制国家を作る事なのでしょう。そして今日ではさらに、アメリカのグローバル経済に協力して、アメリカに協力できる軍隊を作ろうとしています。「NO」といえるのは、まず今度の参議院選挙です。

(7)ニッポン・サバイバル 姜尚中 集英社新書
 今私達が生活していくうえで感じている、様々な漠然とした苦しさを、10の側面から考察しています。「お金」を持っている人が勝ちか、「知性」をどうしたら磨けるか、どうしたら「平和」をまもれるか、などといった切り口です。結局はこの世の中でまともに、人間としてお互いに尊厳を持って生きていく事の重要性が、強調されています。
 印象に残った言葉をいくつか上げると、「大切な事は他者蔑視ではなく、他者理解を深めていく事だ」、「9条のおかげで人を殺さないし、殺されないでいられます。この現実を私たちはもっと重く受け止めるべきです」、「お金を出して平和が買えるのならそれでいいのです。大切なのは国のメンツではなく人命なのです」と言ったものでしょうか。現代日本の大きな目で現実を見られない、病的なものを認識させられました。

(8)安心のファシズム 斎藤貴男 岩波新書
 以前イラク人質事件のときの「自己責任」論争、またその時に発せられた様々なバッシング。自動改札や、監視カメラで象徴されるような、便利、安全と言った言葉の裏で密かに進行している国民を監視する機能。それらは着々と進行していくネオ封建社会への準備です。格差社会と言う言葉が日常化していますが、これを聞く私たちは、以前の総中流階級にいると錯覚しています。これからは支配する一握りの階級と、支配される大多数の階級に分かれていきます。大多数の被支配者階級は、安全、便利と言う言葉に頼って、自分たちの当然持っている自由や基本的人権を、支配者階級に何の抵抗もなく渡してしまっています。
 この様な事を考えすぎ、被害妄想、と片付ける人がいるかもしれませんが、小泉やブッシュのあまりにも低次元、低脳な発言に諸手を挙げて賛成した人、先ほどの郵政選挙で自民党に投票した人は、すでにこのプロジェクトに乗せられていることを感じて下さい。

白 江 医 院 白江 淳郎

2007/06/08 6月のお勧めCD情報
 (1)CARRIE UNDERWOOD ALBUM(SOME HEARTS
 3月のグラミー賞でご紹介したカントリー系の女性アーチストでオクラホマ出身のカントリー娘でデビュー前はいつも馬の世話をしていたそうです。

 2007年のグラミー賞最優秀新人賞獲得し、また最優秀カントリーヴォーカルパフォーマンスでも他を圧倒しての受賞でした。彼女は全米オーディション番組「アメリカン・アイドル」の第4代目のチャンピオンで2007年6月9日付けのBILLBOARD 200(アルバムチャート)では全米で600万枚の売り上げがあり、80週にわたって現在でもチャートにランクインしています。彼女の曲のベースはあくまでカントリーですが、程よいポップとのバランスで聴きやすいアルバムに仕上がっています。

 彼女が尊敬するシンガーは同じくアメリカンアイドルで初代チャンピオンになった先輩のケリー・クラーソンで今や全米のスーパースターですが、私はキャリーのほうが特に高音のはりのある声量と歌唱力は上のような気がします。日本では今のところ地味のためが知れれていませんが、いわゆるアイドルっぽい人でなく、実力派のイメージなので日本でのブレークはどうでしょうか?カントリーの雰囲気(カントリーバラード)がお好きな方は一度お聞きになってはいかがかなと思います。

 このアルバムの中からシングルカットされ、ヒットした曲を解説しておきます。



1.Before he cheats 8位
2.wasted 37位
3.don't forget to remember 49位
4.jesus tates the wheel 20位
5.inside your heaven 1位

(1)はブルース調の曲で現在もBILLBOARD SINGLE HOT 40に入っています。(2)は最も新しいシングルでカントリーポップの心地よい曲です。(4)はグラミー賞受賞時に歌った曲でカントリーの王道を行く曲です。(5)はアメリカンアイドル獲得のときに熱唱した曲で見事に全米ナンバーワンとなった曲でこのアルバムではボーナストラックとして入っています。

池 田 医 院 池田 貴

2007/06/04 5月の読書ノート

(1)もうひとつの日本は可能だ 内橋克人 文春文庫
 構造改革という馬鹿の一つ覚えに、物事を考えようとしない大衆は乗せられて、様々な所謂改革が行われてきました。その結果格差社会が生まれ、それにも懲りず市場原理主義者が大きな顔をして発言しています。経済財政諮問会議の座長、オリックスの宮内義彦は片方では規制緩和を叫びながら、その成果を自分の会社の利益にしているという実に醜い姿を露呈していますし、堺屋太一や竹中平蔵のように、「自分たちだけは安全な塹壕に身をひそめながら、競争こそは善だ、と叫び、適度な失業は経済安定に欠かせない、といい、構造改革に痛みは不可欠だ、と説教をたれるエリートたち」は小泉純一郎という、雑駁な知能の独裁者に擦り寄っていきます。
 筆者は、これが本当に私達が望んだ日本なのか、という問いを発しながら、人間を主人公にした日本を主張しています。この考えは、宇沢弘文、城山三郎、佐高信らに共通するもので、食糧、エネルギー、福祉、介護などは地域内に自給自足圏を形成する事が、真の国民的自立を果たす道だと強調しています。
 このまま日本が進んでいけば、強者のひとり勝ちの社会になるでしょうし、それはすなわちアメリカのひとり勝ちの世界になってしまいます。これと対峙するのは、イスラムの社会の思想ですが、いずれにせよ一神教の世界です。私達が持っている日本固有の八百万の神に象徴されるような、多様性を認めた考え方がこれからは必要になってくるように思います。二代続いた知能の低い首相の下では、日本は破滅の道を進んでいくでしょう。

(2)昭和史の教訓 保阪正康 朝日新書
 2.26事件を皮切りに、昭和10年代の日本は誰が最終的な責任を取るかということを明確にしない、無責任な国家体制の下、あの馬鹿げた太平洋戦争へと国民を駆り立てていきます。これは軍部、政府関係者の責任ではありますが、その様な事を許した、否むしろ積極的に賛成した国民の責任でもあります。この本を読んで第一に感じたことは、昭和10年代と現在の日本が大変に似ていると言う事です。現在の為政者はその事を隠して、無知な国民を駆り立てて行こうとしていますが、私たちはもう一度この時代を検証して、今日に生かさなければなりません。筆者も書いているように、昭和10年代から教訓を学ばないものは、昭和10年代から報復を受けます。
 現在の政府、自民党、財界が、この本を読めば戦前の軍隊と何等変わらない精神構造をしている事が良く理解できます。

(3)スポーツと国力 大坪正則 朝日新書
 巨人はなぜ勝てない、と言う副題がついています。読売巨人軍とその金魚の糞のような形で、日本のプロ野球が続いている限り、本当の国民に支持されるプロ野球にはならないだろう、ということが述べられています。エンターテインメントとして国民に愛されるように、読売の意識改革が必要です。先日読売テレビを見ていたら、高校野球の裏金問題の対応で、朝日新聞を非難していましたが、お前がえらそうな口を利けるのか、と思います。スマートな経営理論、姿勢が必要だと思います。
 それにしても、まさか阪神は来期も岡田に監督をさせないでしょうね。

(4)紳士 靴を選ぶ 竹川圭 光文社新書
 デパートなどに行けば、様々な外国のメーカーの靴が並び、一体どの靴が良いのか分からなくなってしまいます。判断基準を私は持っていないので、迷うばかりです。この本は、世界の主要なメーカーを紹介しながら、筆者の靴に対する考えなどが紹介されています。ある程度のクオリティーを持った靴ならば、履いている自分も楽しい気持ちになるでしょう。しかし筆者の勧めるクオリティーの靴ならば、大体5万円位はするようで、これにはやはり躊躇してしまいます。
 今日本で手に入る最良の靴が写真で紹介されていますが、夫々個性があり履いてみたいと思えるものですが、もし何かの弾みで手に入れても、貧乏性の私は、履かずに眺めているだけだろうな、と思います。

(5)心もからだも「冷え」が万病のもと 川島朗 集英社新書
 体を冷やすこと、体が冷えていることが色々な疾患のもとになる、と言うのが筆者の主張です。勿論病気になって熱が出る事は、ご承知のように体の防御反応です。その他様々な体の反応が理にかなったもので、現代の医学で証明されています。咳をする、下痢をする、鼻水が出る、これらは全て体が頑張っている証拠です。
 筆者は体を温める方法を紹介しながら、これ等の人体のもっている素晴らしい防御反応を紹介しています。
 どうも、医師がこの様な本を読む事はちょっとおかしいように思われるかも知れませんが、分かり易い文体でかかれており、お気軽な面白い本でした。
 以前、司馬遼太郎さんが書いておられましたが、夜スカーフを首に巻いて寝るようになってから、風邪をひかなくなったそうです。私もそれを試していますが、最近は風邪をひいたことがありません。そのほか子供の患者さんには、腹巻をする事をお奨めしていますが、これもこの本の主旨と一脈通じる所があるのかもしれません。

(6)遺伝子が解く、愛と性の「なぜ」 竹内久美子 文春文庫
 いつも新刊が出るのを、心待ちにしている著者です。人間の行動を、動物行動学や遺伝子のレベルから説明してくれます。私は実は高校2年生の頃、京都大学の今西錦司先生のサル学に憧れていた時期が有りました。その授業を今受けているような感じで、こちらの方面に進んでおれば、私はどうなっていたんだろうと思ってしまいます。いや、その前に京大理学部は難しかったでしょうが。
 どうぞご一読を。自分では気付かなかった行動の秘密が、解き明かされています。

白 江 医 院 白江 淳郎

2007/05/03 4月の読書ノート

(1)宗教なんか怖くない 橋本治 ちくま文庫
 オウム真理教の事件を契機として、日本人の宗教に対する姿勢などを、分析しています。オウム真理教の組織を会社組織と対比させた考え方など、ユニークな考察です。現代の日本人が持っている宗教と言うものに対する認識は、明治以降の国家神道が基本になっていると述べられています。また、宗教には、社会を維持する宗教(これは生産を奨励する宗教)、個人の内面に語りかける宗教(生産を奨励しない宗教)の二つがあると指摘しています。日本で言えば、五穀豊穣を祈るのは、神社すなわち神道ですし、個人の幸福を祈っているのは仏教でしょう。私自身この様な指摘を受けるまで、あらためて考えてはいませんでした。
 その他、大乗仏教と小乗仏教、輪廻の思想の東西の違い等、改めて指摘されれば気づかずにいた、または気にしていなかったことも多く、面白い内容でした。

(2)山の上ホテル物語  常盤新平 白水Uブックス
 千代田区駿河台一丁目一番地、と言うより、お茶の水の駅から南に下りて、明治大学の手前の右側の坂を上った所にある、小さなホテル。実は私のお気に入りのホテルです。大学に勤務している頃、東京で学会があればよく利用していました。
 山口瞳さんの文体、池上正太郎さんのエッセイが好きで、よく読んでいましたが、よくこのホテルの名が出てくるので、気になっていました。そのほか多くの作家がこのホテルを気に入っていたり、またカンズメになっていたりということを読みました。文藝春秋にも小さな広告が載っていたのですが、そこに書いてある二、三行のコピーがなぜか気にかかっていました。医者になって東京で学会があるとき、思い切って宿泊してみました。上手くはいえませんが、こじんまりとして、程の良いホテルで、いっぺんでファンになってしまいました。それから何回か宿泊し、合計すれば10日以上になるでしょうか。この本にも書いてあったように、このホテルの魅力は、連泊して分かるように思います。
 このホテルのこの雰囲気は、創業社長の吉田俊男によるところが大きかったようです。彼は強烈な個性でこのホテルの従業員を教育し、育てていきました。広告のコピーは彼自身が書いていたのですが、「好きな旅館にはふるさとのなつかしさがある。ホテルはサッパリした後味を残す。両方のよさを生かせば、日本のホテルが出来るでしょう」、また「幾分古びた、くすんだ、ホテルです。静けさと、味のお求めに応じる文化人のホテルです」と言うものがありますが、まさしくこのホテルの様子、雰囲気を表しています。
本館、新館がありますが、少し料金は高いけれど、本館が絶対のお奨めです。ただし客室が本館35、新館40と多くないため、希望通りにはいかない場合があります。あまり知られたくはないけれど、山口県、湯田温泉の松田屋ホテル本館とともに、また行ってみたいと言う気になるお奨めのホテルです。

(3)誰も「戦後」を覚えていない 昭和20年代後半篇  鴨下信一 文春文庫
 昭和25年から29年、ちょうど私の生まれた時代です。この時代には、朝鮮戦争、血のメーデー、レッド パージ、造船疑獄と指揮権発動事件、内灘闘争、など様々な後の日本に影響を与えた事件がおきました。そしてそれらの事件の多くが、明確な責任追及や原因究明なしにうやむやのうちに終わってしまい、その土壌が現在の無責任、隠蔽、偽装といったものに?がっている様に思います。いや、むしろ元々その様な体質を、私たち日本人が持っているのかもしれません。
色々な資料も挙げられていますが、私の生まれた昭和27年の邦画のベストは黒澤明の「生きる」(志村喬がブランコに乗って、ゴンドラの歌を歌ったので有名な作品)、洋画は「チャップリンの殺人狂時代」だったようです。また江利チエミの「テネシーワルツ」もはやったようです。
貧しかったけれど、なぜか明るかった時代のように記憶しています。

(4)腕時計一生もの 並木浩一 光文社新書
 今私たちの周りには、時計が一杯あります。街中や駅には時計があふれていますし、携帯電話にも時計がついています。何も腕時計などを持たないでも、問題なく生活が送れそうです。しかし私たちは、腕時計がなければどうも落ち着きません。実際私も腕時計をしているにもかかわらず、テレビの時刻を見てしまいますし、腕を動かせて時間を見る代わりに、置時計で時間を見てしまいます。しかし腕時計をしていないと、なぜか体のバランスが良くなく、頼りない感じがします。
この本では腕時計をデザインや、ムーブメント、機能、性能、素材、イメージなどから説明しています。時計など、ただぜんまいと歯車の組み合わせに過ぎないのに、なぜこれほど人々を魅了するのでしょう。自分の永遠の時間を持つ事が出来ることでしょうか。時計を持ってそれを動かせている限り、時間は歯車の正確な動きで永遠に続いて行きます。その様な事が、機械式の腕時計の魅力かもしれません。セイコーがクウォーツの時計を発売した時、スイスの機械式時計のメーカーはかなりの打撃を受けたようですが、また機械時計の良さが認識され、生産も回復してきたようです。もし時計が故障すれば、日本なら新品の物と交換してくれることがありますが、スイスのメーカーはその様な事はなく、昔からの部品がストックされ、出来るだけ部品交換、調整、と言ったことで新品に戻すよう努力するそうです。スイスの時計では、作る、直す、調整するはほとんど等価の意味だ、と言う事が述べられていました。様々なメーカーの説明も豊富で、腕時計の入門書としては、実に手ごろな本ではないか、と思いました。

(5)男、はじめて和服を着る 早坂伊織 光文社新書
 私の祖父は、家では大抵の時間、和服で過ごしていました。今から思えば、和服で庭の掃除など色々の事をして、何等不自由はなかったようです。私が和服を着るといったら、旅行に行って旅館に泊まり、丹前のような物をきるか、寝る時に備え付けの浴衣を着る事位でしょうか。しかも普段着た事がないので、歩けば倒れそうになるし、朝起きれば紐だけがお腹に巻き付いている、といった有様です。やはり生活の中に着物があり、それを着慣れているということは、大きな違いです。
筆者も述べているように、何回もチャレンジして、慣れていくしか道はないようです。着物を着るには、肌着、長襦袢、長着、羽織などを紐、帯などで姿を整えながら、結んでいかなければなりません。詳しく説明されていますが、実際にやってみなければ、分かり難いでしょう。私が容易に理解できた唯一つの結び方は、六尺ふんどしの結び方でした。これは私の出身小学校の伝統で、白浜の臨海訓練の時は、ふんどしだったからです。四年生になると先生の指導を受けて、ふんどしを結ぶ練習をさせられました。やはりその頃覚えたことは、なかなか忘れないものです。
和服の生活も面白いものかな、とも思いましたが、正座のできない私は、どうしたらよいのでしょうか。

(6)ベルギービールという芸術 田村功 光文社新書
 ビールにはラガーとエールという、二つのタイプがあります。ラガーは、摂氏10度前後の低温で発酵させて作られるビール。私達が良く飲むビールは、この系統に入ります。一方エールは高温の20度前後で発酵させるビールで、イギリスでよく飲まれているものです。今日の日本の地ビールにも見かけられます。
 ベルギービールはこのエールビールに属するものです。ベルギーは、面積は九州よりも小さく、人口も1026万人と日本の10分の1に過ぎません。この様な小さな国で、作られているビールの銘柄は、1053種(日本は商品数が1156種)にものぼります。また国民一人当たりの年間消費量は99?(日本は55?)もあり、まさにビール王国といえるでしょう。ベルギービールのすごさは、一つ一つのビールが、みな違う味わいを持っていることだそうです。ホップや麦芽、酵母だけでなく、スパイスや、ハーブ、フルーツなどを使い、個性を出しているそうです。 香りで言えば、チェリー、オレンジ、黒胡椒、等様々な香りがあるそうですし、味や触感も、赤ワインの様に重いもの、クリームのように滑らかなもの等等、まさに玉手箱のようなものです。
 これらのビールを美味しく飲むためには、ワインと同じようにグラスにもこだわらなければならないそうです。つまり泡立ちのコントロールが出来る事、香りが十分に残る事、泡とビールが程よく飲める事、この様な条件が満たされるグラスが必要とのことでした。一度この様なビールを飲んでみたいものだと思いますが、ビールと言えば、「グビ、グビ、プファー」で終わってしまうような私の飲み方は、ことベルギービールでは、邪道でしょう。

(7)巨流アマゾンを遡れ 高野秀行 集英社文庫
 早稲田大学探検部出身の筆者が、アマゾンの河口のベレンからペルーのカイヨマという所にあるミスミ山の源流までを、船、バス等を使って遡った旅行記です。ガイドブックで有名な「地球の歩き方」のために書かれたものだそうですが、あまり売れなかったとの事。お読みになったら分かりますが、ガイドブックというより面白い旅行記ですので、実用性といったものはあまりありません。ガイドブックという目的で読めば、裏切られたと思われるでしょう。しかし旅行記として読めば、奇想天外な事が次々と起こり、結構リズムのある文体で面白く読めます。
 ブラジル国内でも、アマゾンというのは異文化の地域と考えられているようで、都市部に住んでいる人たちは、魑魅魍魎の住む怖いところ、というイメージがあるとの事です。そのアマゾンを筆者は慣れないポルトガル語を使いながら、旅して行きます。筆者はいつも全ての人と、同じ高さで対応します。その結果、荒業の奇術師、コカインの運び屋、老ガイド等と親しくなり、一風変わった旅をする事になります。(こんな事では、ガイドブックは無理です。)アマゾンの不思議さとともに、多くの不思議な人たちと一期一会を繰り返しながら、旅は続きます。

(8)みんなの9条  「マガジン9条」編集部 集英社新書
  国民投票法案という、憲法を変えることが出来る法律が、議論を深めることなく可決されました。政府自民党や、平和を愛すると言っている公明党が旗を振って、憲法9条を変えようとしています。以前も書きましたが、私はこの憲法こそ、日本が世界に誇れる唯一つの物といって良いと思っています。自衛隊の現実の姿と一致しない、等と言いますが、憲法を拡大解釈して捻じ曲げてきたのは一体誰なのだ。またその様な前科のある人たちが一旦国防軍を持つと、これまでと同様にどんどん解釈を拡大していく事は、目に見えています。
そもそも殴りあいのけんかをして相手を倒しても、相手はそれで自分が間違えていたと納得するでしょうか。意見を出し合い、話し合い、そしてお互いが納得できるようになるのでしょう。太平洋戦争というばかげた戦争をして、多くの国民を殺し、アジアの人たちに多大な迷惑をかけ、やっとこのことに私たちは気付いたのではないのでしょうか。ドイツは周辺の国々に対し、戦争責任の検証をし、その責任を明らかにしました。私たちの国は、責任を明らかにしないばかりか、日本軍が見捨てて先に逃げたために起こった、残留孤児の問題にさえ、ちゃんと向き合って対応していません。ただ少なくともあのような馬鹿な事はしないという、私たちの決意のメッセージが、憲法9条だと考えます。
この本には、様々な人たちの平和や、憲法に関する考えが述べられています。私たちの青年時代には当たり前だ、と思っていた事が時代の流れの中で、小さな声になっているように思えます。私たちは外国からの脅威を声高に叫び、社会的弱者を蔑み、新自由主義経済を推し進めて、国民を望ましくない方向へ向かわせる勢力に、ノーと言わなければなりません。
日本には声には出さないけれど、私と同じように考えておられる方が、過半数居られると期待します。その様な方は、是非ご一読を。またインターネット上のウェブマガジン、「マガジン9条」もご一読下さい。
最後にこの本に載っていた、南米の短い神話を紹介します。
森が燃えていて、ほかの動物たちは、われ先に逃げて行く。でも一羽のハチドリだけは、くちばしで水を一滴ずつ運んでは、火のうえに落としていく。動物たちは「そんなことをして一体何になるんだ」と笑うのですが、ハチドリは答える。「私は、私にできる事をしているだけ。」

白 江 医 院 白江 淳郎

2007/04/01 3月の読書ノート

(1)本格焼酎を愉しむ 田崎真也 光文社新書
 作者は有名なソムリエの、田崎真也氏。帯に「本格焼酎ブームはこの一冊から始まった」とありました。私は焼酎の味と言うのは、よくわかりませんが、材料によって、また製法によって色々と微妙に違うようです。それを田崎さんはテースティングし、口に含んでからの味の変化を、ライ麦パンのような香り、バニラ系の香り、植物の種のようなミネラル質の香り、白いお花のような香りなどの言葉で表現し、又その余韻も紹介されています。やはり世界一になる人の味覚、嗅覚は素晴らしいし、その表現力は、或る程度ひな型があるにせよ、納得させられます。
 沖縄のクース(古酒)は泡盛を甕に入れて、熟成させて行く物だそうで、甕に含まれる鉱物成分とお酒が反応し、素晴らしい味になると言う事です。このお酒は、冠婚葬祭等の時に取り出して皆で少し飲み、減った分を又継ぎ足す、という風にして貯蔵熟成させるそうです。
 それにしても、日本各地には様々なものを材料にして焼酎が作られ、また愉しまれているものだと感心した次第です。

(2)ビゴーが見た明治ニッポン 清水勲 講談社学術文庫
 日本史の教科書で、明治時代のページを広げれば、必ずお目にかかった風刺画があります。日本がイギリスに後押しされて、火中の栗を拾いに行こうとしている絵です。その作者がこの、ジョルジュ ビゴーです。彼はそれ以外に、も日本を題材にした数多くのスケッチや、肉筆画を残しています。彼は日本に憧れて日本に来、日本美術を学び、日本語を学び、日本の中で生活しました。日本に対して皮肉な内容もあるのは、居留地の外国人の興味を引くためだ、とも述べられています。
 もう一つ興味があったことは、条約改正のことです。これを機会に、外人居留地がなくなり、日本の司法の下で、外国人も裁かれるようになります。これが彼の日本滞在を諦めさせる、原因になりました。自由に政府批判、風刺ができなくなった為です。日本人の妻とも離婚し、彼女との間に出来た、フランス国籍の子供を連れて、彼は帰国してしまいます。不平等な条約を改正し、自立した国家になった、と授業では習ったのですが、その裏側には、この様なドラマもあったようです。

(3)俳句の作り方が面白いほど分かる本 金子兜太 中経文庫
 俳句は面白いし、読むことは大好きですが、いざ作るとなれば根性もないし、言葉も知らないし、大いに難しいように思ってしまいます。この本を読めば、この様な私でも、どうにかなるか、と思ってしまいますが、さてどんなものか。
 朝日新聞の俳壇を読んでいて、今年見つけた句で、
                 「ラグビーの ゴールのための 空のあり」
と言うのがありましたが、ラグビーフリークの私にとっては目の醒めるような句でした。

(4)梅原猛の授業 仏教  梅原猛 朝日文庫
 梅原猛さんが、中学生を対象に道徳の授業を行ったものを、収録したものです。仏教を通して、どう生きるべきかを中学生に説いておられます。東洋の思想は、生きとし生けるものが共存するものだ、と述べておられ、その例として、西洋の聖者はキリストや、ちょっと違いますが、ソクラテスのように殺されたのに比べ、釈迦は静かに死についたことが述べられています。西洋には、聖者を殺した人間に復讐しようとする怒りの思想がありますが、東洋のほうはもっと安らかで、或る意味では諦めの思想、悲しみの思想がある。ソクラテスも、キリストもこれから行くあの世、これから行く天国の事を説いて死んだ。しかし釈迦は天国の事を説かない。人生はこういうものだからと言って静かに死んで行った。と、この様な例を挙げ、仏教の持つ、多神性、全てのものと共存していく姿勢、その素晴らしさを述べておられます。又これは、現在の世界を支配している一神教の危うさ、限界を指摘されているのでしょう。
 これは一読の価値のある本でした。皆さんも是非一度お読み下さい。この様な授業を受ける事の出来た、中学生は幸福ですね。

(5)ツチヤ学部長の弁明 土屋賢二 講談社文庫
 お茶の水女子大学教授、哲学を教えておられますが、ユーモア、ウィットに富んだエッセイです。この人の本はなかなか面白いので、ほとんど全てのものを読んでいます。この本では様々な哲学者の紹介などをされたものもありますが、唯一の心配は、その紹介が、真実なのかどうかです。それが真実であるとすれば、哲学者と言う人たちは本当に偉いんだと、再確認したり、どうでも良いことを、そんなに真剣に考えては、しんどいんではないかと思ってしまいます。土屋さん自身は結構楽に生きておられるようにも思いますが。

(6)暴力に逆らって書く 大江健三郎 朝日文庫
 大江健三郎さんと、世界の所謂知識人とが交わした、書簡が掲載してあります。ギュンター グラス、ノーム チョムスキー、エドワード W サイードなど、私でも聞いたことのある名前です。 
 今のどこか狂った時代、息苦しい時代に、いかにまともな精神で現実を見つめ、正気を回復するかと言うことが根本のテーマです。
 どの人との書簡も、重く、また光っています。とても一言では説明出来ません。是非ご一読をお勧めします。

白 江 医 院 白江 淳郎

2007/03/05 2007年 GRAMMY賞について
 主な受賞曲 
  Record of the year Dixie Chicks (not ready to make nice)
  Album of the year Dixie Chicks (take the long way)
  Song of the year Dixie Chicks (not ready to make nice )
  Best new artist Carrie underwood

 先日2月11日に受賞式が行なわれたアメリカで最も権威と人気のあるグラミー賞でテキサス出身のカントリー3人娘(実は子供もいて7人でツアーを回るワーキングマザーズ)で以前から人気のあったディキシーチックスが最優秀レコード賞を含む主要5部門を受賞しました。私にはその受賞はほかにもよい曲がグラミー賞にノミネートされていたので意外でした。

 ディキシーチックスは2003年のロンドンでのライブコンサートの際にテキサス出身のブッシュ大統領に対してテキサスの恥とまでイラクヘの侵攻政策を批判したためにカントリーミュージック業界(NASHVILLE)から総スカンをくらい、CDの廃棄、不買運動や一時コンサートもまったく開けなかったという状況で特にアメリカの保守層のバッシングが烈しかったそうです。しかしながら現在はイラク政策も先がみえず世論も変わりブッシュ大統領も支持がなくなってきた昨今になってディキシーチックスはグラミー賞にノミネートされ遂に栄冠を得たのでした。今回の受賞シングルnot ready to make nice はアルバムtake the long way からのシングルカットでSong of the yearに輝きましたが自分達のしたことには決して後悔はしていないという強いメッセージがこめられています。ディキシーチックスのリードヴオーカルのナタリーメインズはこの受賞は言論の自由(freedom of speech)が行使された結果と話していました。シングル曲のnot ready to make nice は昨年5月にBillboard hot 100の最高位23位止まりでtop40 もわずか4週というチヤートアクションであまりふるいませんでしたがgrammy賞の受賞後2007年3月3日の最新のBillboard hot 100 では何と圏外から4位にエントリーしています。今回のディキシーチックスの成功はこれまでのカントリースタイルを脱却し、よりホップな音楽路線にしたということもあるといわれていますが、私はアメリカそのものの変化がもたらしたところが大きいように思っています。時代の流れが変わり、今まで凍れる川でおとなしくせざるをえなかった魚達が自分のより住みやすい環境で力強く活動を再び始めたような感じなのでしょうか。音楽は心を豊かにするひとつの方法ですが、またその時代を映し出す鏡のような側面があると思います。と言う訳で今回は2007グラミー賞直前にでたコンピレイションアルバムを紹介させていただきます。

2007GRAMMY NOMINEES(Compilation from US)

 このアルバムで大まかなアメリカミュージックシーンの流れを知ることができます。輸入盤、国内盤ともにでています。国内盤はオリコンチャートでも上位にあり、今年は目本でも人気のあるJustin Timberlake(Sexy back)パワフルなヴオーカルのCkristina Aguilera(aint no other man)美しいバラードのJames Blunt(you are beautiful)年間シングル1位のDaniel Powter(bad day)ヒップホップのBlack eyed peas (my humps )Etc、が入っていて楽しめる内容です。洋楽入門用としても聴きやすくお勧めです。私個人としては 1・5・16・21・がお気に入りです。

1. Crazy - Gnarls Barkley
2. Be Without You - Mary J. Blige
3. Put Your Records On - Corinne Bailey Rae
4. Waiting On The World To Change - John Mayer
5. Dani California - Red Hot Chili Peppers
6. Sexyback - Justin Timberlake
7. Not Ready To Make Nice - Dixie Chicks
8. Jesus Take The Wheel - Carrie Underwood
9. Hide And Seek - Imogen Heap
10. Ain't No Other Man - Christina Aguilera
11. Unwritten - Natasha Bedingfield
12. You Can Close Your Eyes - Sheryl Crow
13. Stupid Girls - Pink
14. Black Horse And The Cherry Tree - KT Tunstall
15. You're Beautiful - James Blunt
16. Save Room - John Legend
17. Jenny Wren - Paul McCartney
18. Bad Day - Daniel Powter
19. My Humps - The Black Eyed Peas
20. I Will Follow You Into The Dark - Death Cab For Cutie
21. Over My Head (Cable Car) - The Fray
22. Is It Any Wonder - Keane
23. Stickwitu - The Pussycat Dolls

池 田 医 院 池田 貴

2007/03/04 2月の読書ノート

(1)スクラム  駆け引きと勝負の謎を解く 松瀬 学 光文社新書
ラグビーをご覧になった方なら、あのスクラムという奇妙な儀式?をご存知でしょう。私は学生時代、また卒業してからも関西ドクターズというチームでラグビーをし、その後は関西協会公認レフェリーをしてきましたが、あのスクラムを組む、フォワードというポジションをしたことがありません。しかしそのフォワードをしていた友人に聞くと、あんなしんどいポジションはもういやだが、楽しくもあり懐かしい、といいます。特に一列目の敵とガツンとぶつかるフロントローというポジションには妙に思い入れがありそうです。筆者の松瀬さんは早稲田大学のフロントローで活躍された人で、スクラムという奇妙な儀式、それを頑張るプレーヤーを愛情を持った目で紹介されています。
 それにしてもスクラムというのは、奥が深いな、私たちバックスのプレーヤーとは違うこだわりをもっているんだな、と感じました。バックスというのは、所謂個人商店のようなところがありますが、フォワードは個々の力も大事ですが、集団、まとまりの力を如何に引き出すかが大事です。それだけ大事なポジションでしょうが、しんどいなー。

(2)名城の由来  そこで何が起きたのか 宮元健次 光文社新書
 日本全国の色々な城の由来や、その城作りにかけた武将のこだわり、誇り等が紹介されています。コマーシャルで、家は一生一度の高価な買い物、と言った物があったように思いますが、城は自分だけでなく、家来や子孫の為の重要な拠り所であったのです。大阪城、長浜城等秀吉の作った城は、防御、治安、と言った考えだけでなく城を中心とした商工業の発展も考えに入れた物だったようです。また江戸城は堀を「の」の字を書くように作っていますが、それは町を堀で守る際「の」の字型に堀を延ばして行けば無限に成長させる事ができると言う利点や、堀を多くする事で軍事上攻めにくいと言う利点、物資の運搬路として堀を使う事が便利と言う利点等様々な事を考慮した結果だと言う事です。この様に様々な実例を紹介しながら、城と武将が紹介されています。

(3)インテリジェンス  武器なき戦争 手島龍一 佐藤優 幻冬舎新書
 情報大国ニッポンの誕生に向けた驚愕のインテリジェンス入門書、と裏表紙に書いてあるように、世界の情報を取り集め、これからの外交、政治の方針を決定していくには、インテリジェンスの存在が不可欠です。日露戦争の頃の明石元二郎に代表されるような、軍事を上回る成果を上げた所謂スパイ組織が日本にもありました。007の様な華々しい活躍をするのがスパイではありませんが、地道な、敵を知る努力が必要です。これは面白い本で、お奨めです。余り詳しく内容を書かないほうが良いと思います。是非ご一読を。
 これと関連した本では、「日本の外交は国民に何を隠しているか」 河辺一郎 集英社新書、「フランスの外交力  自主独立の伝統と戦略」 山田文比古 集英社新書 も興味ある内容の本でした。

(4)神社の系譜  なぜそこにあるのか 宮元健次 光文社新書
 日本の神道はご存知の通り、八百万の神を祭り、山や、木、石や岩などに神が宿ると考えてきました。又日本人は太陽も神として崇拝して、東から昇る太陽を誕生の、西に沈む太陽を死の象徴と考えてきたと著者は言います。この様な太陽の動きを、神社の配置に応用した事を「自然暦」と言い、これを手がかりに神社の配置が述べられています。
 住吉大社を例に取ると、春分、秋分の日の出の方向には高安山を経て、法隆寺が一直線上にあり、日の入りの方向には明石海峡が見えます。夏至の日の出は、石切神社から昇り、神戸の元住吉神社に沈み、又冬至は応神天皇陵、当麻寺の方向(これも一直線上)から日が昇り、淡路住吉神社に日は沈みます。この様にその神社にとって大切なものを、日の出、日の入りの方向に来るよう、神社の位置を考えています。
 様々な神社を紹介しながら、昔の人の神に対する考えが述べられています。

(5)反戦軍事学 林信吾 朝日新書
 戦争に反対するものこそまず軍事を知らなければならない、と扉にも書いてあるように、軍事を説明しながら、反戦、憲法9条について言及しています。無内容に煽られているナショナリズム、反中国反韓国のムード、核武装や、論理の無い靖国問題を繰り返す上坂冬子や小林よしのり。実に明快に批評されています。一番問題なのは、軍事を知らない政治家だと、安部信三、石破茂を批判しています。私が常日頃思うのは、実際に戦争を経験した世代、戦後を経験した世代の人の中でも、なぜこの様な意見を持っている人がいるのか、ということです。安部などはもとより論外ですが。
 司馬良太郎さんは、「坂の上の雲」で、アメリカに対する十分な調査などせず無謀な戦争を行ったことに対して、日露戦争からわずか三十数年の間に老巧化し、愚鈍になったと書かれていました。また、「日本人は、事実を事実として残すと言う冷徹な感覚に欠けているのだろうか」と述べられましたが、まさに私達が必要としているのは、この様な物事を見る姿勢ではないかと思います。
 色々な人が、色々な声で、又方法で、今の社会の流れに no を言わなければならないでしょう。

今月は、色々と多忙で、読書量が少なく、恥ずかしい限りです。一応今月の読書の報告です。

白 江 医 院 白江 淳郎

2007/02/14 オペラ談義

 オペラというと、プロレスラーまがいの体格の良い歌手が舞台に出てきて、歯をむき出して大きな声でわけの分からない歌を歌う・・・という印象をお持ちの方も多いと思います。確かにそのとおりですが、オペラはご承知のように、歌だけでなく総合芸術です。オーケストラあり、独唱、合唱、踊りやバレー、演劇、お笑い、何でもありの代物です。歌だけでないという目で見ると案外とっつき易いかもしれませんね。歌手も一昔と比べると、スタイルも良くなっていますし、きれいな方も結構増えてきて、見栄えのほうも良くなってきている感じです。力強さより、美しさも追求できるようになっています。

 オペラの中でもヴェルディ作曲の「椿姫」はオペラに興味の無い方でも一度や二度は聞いたことがあるのではないでしょうか?「乾杯の歌」は有名ですし、「パリを離れて」などもきっとどこかで聞き覚えがあると思います。舞台も華やかですし、「椿姫」なんて、「そうか、ヴェルサイユ宮殿かどこかのお姫様の物語か・・・」などと思われる方もいるのでは?ところが、「椿姫」はなんと高級娼婦と貴族のお坊ちゃまの悲恋なのです。
娼婦の物語、と聞くと「椿姫」の「姫」の響きに何か他の想像をなさる方もおられるのでは?

 いやらしい話はさておき、日本語で「椿姫」ですが、イタリア語の原題は「ラ・トラヴィアータ」直訳すると「道を誤った女」という意味です。永竹由幸(ながたけよしゆき)氏の解説から引用しますと、明治6年に成島柳北が「名奴カメリア情郎」と訳しているようです。なかなか意味深い題のようです。その後内田魯庵が「椿夫人」、森鴎外が「山茶花夫人」、ついで明治22年には加藤柴芳が「椿の花杷」。椿姫と初めて訳したのは長田秋濾で、明治35年8月30日から「萬朝報」紙上に連載されたときの題名でその後内容が「風俗擾乱」(ふうぞくじょうらん)ということで連載を中断させられた経緯があるようです。要するに良家の純粋なお坊ちゃまが、男性経験豊富な娼婦にほれてしまって親にだまって同棲生活を始めてしまったのを父親が離れさせようと必死になるお話ですから当然といえば当然です。しかし、ヴェルディという作曲家は、物の本によると大変まじめで頑固な方で、この「椿姫」の前にはどちらかというと政治や史実に基づいた、硬い内容のオペラが主体だったのですが、実は「椿姫」を作曲したころは、当時超一流のプリマドンナで頭脳明晰だったストレッポー二とパリで同棲生活まがいの状態になっており、そのときの気持ちを素直に表現したのがこの作品だったようです。ヴェルディはその後も地味でまじめな人間性で農園を持って家畜を育てたりしていたようです。「椿姫」もそのモデルとなった人はアルフォンシーヌ・プレシという女性がいます。

 椿姫の最後は、娼婦であるヴィオレッタは、結核で死んでしまいます。そのときになってあれだけ騒いでいた父親も二人の愛情が本物であることに気づき、二人を許すのですが、時すでに遅しで、ヴィオレッタは死んでしまいます。話は変わりますが、クラッシックオペラは17−18世紀ころの話ですので、主人公は戦いや、自殺で死ぬか、感染症、特に結核で死にます。戦争や自殺はともかくこの椿姫も最後に結核で弱りきって亡くなります。私も以前は一緒になって悲しんだのですが、このごろは、観ていて、「何やってんだ、抗菌剤つかって、点滴でもすればすぐ治るのに!!そうすればハッピーエンドになるのに・・・・じれったい!!」などといらいらしてしまいます。
 プッチーニの「ラ・ボエーム」も結核で美しい主人公が死んでしまいます。「現在なら、どうってことは無い。すぐ死ぬような病気ではないのに!!」―――仕事のしすぎかな? もっと素直にオペラを楽しみたい。

長 崎 医 院 長崎 雄二

2007/02/09 1月の読書ノート

(1)アンダースロー論 渡辺俊介 光文社新書
 「なぜ90キロのボールが打てないのか」、とタイトルにあるように、プロのピッチャーと言うのは色々考え工夫している事が分かりました。「アンダースローでも手首は立てて投げる」、と言う所があってそれはそうだと思うのですが、初めて気づいた様で驚きました。又「曲がらないカーブやスライダーが、打者にとっては打ちにくい」等、これまでの野球の見方が変わりました。
阪神ファンの私は、昔の渡辺省三さんを思い出しました。おーい久保田スピードだけや無いぞ。頭を使え、といってやりたいのは私だけでしょうか。

(2)これが憲法だ! 長谷部恭男・杉田敦 朝日新書
 済みません、医学と言う形而下の仕事をしている私には、噛み砕いて紹介する能力がありません。ただ上手くはいえませんが、憲法のあり方、保持の仕方が分かったように思います。能力の無さを恥じる次第です。

(3)ケータイを持ったサル 正高信男 中公新書
 現在社会的に問題になっている「ひきこもり」、電車の中などで平気にで化粧したり、歩きながら飲食する若者、これらは社会と家族の距離の認識に問題がある、同じ根源の現象だと著者は言います。大人になる事、又は大人にすることを拒否した「子供中心主義」の家庭が生んだ結果だと考えられます。
人間は社会的かしこさは40歳で退化すると言われており、特にそれは社会との濃厚な接触の少ない専業主婦に著明だと述べられています。ちょうどその年齢の頃に子供達は思春期を迎え、社会との関係を構築しようとします。ところが社会的かしこさを失いつつある、専業主婦の母親はそれを阻害し、子供達の社会との関係は構築できなくなります。社会と自分との関係を考え苦悩するのが人間ですが、現代日本人はその様な人間らしさを失い、サル化して行きます。

(4)名君・暗君 江戸のお殿様 中嶋繁雄 平凡社新書
 あしかけ300年にわたる江戸時代には、色々なお殿様がいて家来はそれぞれ大変だったと思いました。名君、暗君、評論はしませんが、安部晋三は大変ですね。

(5)憲法九条を世界遺産に 太田光・中沢新一 集英社新書
 私は戦争を知らない子供ですが、戦後を引きずっている世代です。小学校へ通う時、天王寺の駅にはまだ白い着物を着た、傷痍軍人の人たちが(中には交通事故で体が不自由になった方も居られたようですが)居られましたし、地下鉄の階段のところには戦争で息子さんをなくされたおばさんが、10枚売って10円の儲けになる地下鉄の切符を売っておられました。みんなが貧しい時代でしたが、二度と戦争はしてはならないと教えられ、当然と思っていました。学校でも戦争放棄の憲法の素晴らしさを教えられました。何時から世の中が変わってきたのでしょうか。
 この本の中で「日本国憲法は日本人のドリームタイムだ」ということばが出てきます。アメリカが世界平和を純粋に考え、日本が戦争の愚かさを実感していたほんの短い間に出来た素晴らしい突然変異、それが日本国憲法でしょう。「現実には、そんなものは存在しない。かっても存在しなかったろうし、これから先も存在しない。しかし、そういうものについて考えたり、それを言葉にしたり、地上にそういうものが宿る事の出来る場所を作っておくことは、人間と言う生き物の行き方にとっては、とても重大な事だ。」この言葉がもつ重みを感じてしまいます。
 これと関連付けて、おすすめの本は昨年読んだ「愛国の作法」 姜尚中 朝日新書「誇りを持って戦争から逃げろ」 中山治 ちくま新書、です。

(6)日本史の一級史料 山本博文 光文社新書
 学生時代歴史が好きでした。いろいろの資料を集め、それから昔の人の考え方や生き方を見ていく事に興味がありました。この本にはその資料をどのように収集、吟味という事が詳しく書かれています。又それをデーターベース化して整理する作業が現在鋭意行われていることが書かれていました。この作者の名前にどこか覚えがあると思っていましたが、以前読んだ「江戸お留守居役の日記」の作者だと分かり、納得しました。歴史物の小説も、ただ想像で書くのではなく、資料を丹念に調べて書かれていることに納得しました。

白 江 医 院 白江 淳郎

2007/01/05 シーズン到来

 お正月になり、全国高校ラグビー選手権大会が始まりました。私は医師になってから、三十年近く、関西ラグビー協会医務委員で全国高校大会や秋の大学リーグ戦等に出務しています。

 十年位前に花園ラグビー場のスタンドが改築され、医務室も綺麗になりました。医務室の中には、ケガ゙をした選手を処置したり、診察するベッドが2つと、常にゲームの様子が監視できるように、テレビが設置されています。医務室にいるドクターは、常にそのテレビを見て、ケガをしたプレーヤーが医務室に運ばれて来たらすぐ゙に処置が出来るように用意をしています。グラウンドで応急処置をするドクター以外に、その様に医務室で待機し、処置をするドクターも居りそれらが連携してケガ等の対処をしているのです。高校全国大会の一回戦、二回戦はグラウンドが三つに分散しているので、テレビも三台置かれています。日程が進むにつれグラウンドが集約されて来、1月3日からはテレビは一台だけになります。

 もし花園ラグビー場へ行かれ、又はテレビの放送で、首からこの様なネームタグを提げ、緑の腕章をしている姿を見られれば、私たちラグビー協会医務委員です。

白 江 医 院 白江 淳郎

2007/01/05 知られざるクラシック名曲のご紹介 〜冬に聴きたい編〜
 私は以前から洋楽(なつかしの'OLD DAYS'〜最新の全米ヒットチューン)、クラシックのCDを多く所蔵しております。現在では約1200枚くらいになり、オーディオルームがいっぱいになりつつある状況です。
 今回は私の持っているCDの中から、メジャーではないが私の印象に残る名曲。知らない方にぜひ聴いていただきたいものを選択しました。冬場なので、「ロシア」「山」をキーワードに選びました。

1)フランス山人の歌による交響曲(ダンディ)
民謡の主題にピアノも加えた三楽章の交響曲で、のどかな山岳の雰囲気を出したこの曲を聴くと山へ行きたくなるそうです。

2)幻想曲「フランチェスカ・ダ・リミニ」(チャイコフスキー)
現実の恋の悲劇を音楽化した曲で、華やかなオーケストラの響きに酔いしれたいと思う方にお勧めの曲です。かくれたチャイコフスキーの名曲ですね。

3)ピアノ協奏曲ニ長調(ハチャトリアン)
有名な「剣の舞」の作曲者ですが、東洋的な色彩が魅力的な傑作です。

4)バイオリン協奏曲(ハチャトリアン)
3)と同様にグルジアの民謡や民族舞曲をベースにしていて、バイオリンが疾走するようなイメージの、個性的でとても印象深い曲です。

※ これらの原版はすでに杯盤となっている可能性があるので、興味のある方は大きなCDショップでお問合せください。

今テレビでコミック連載中の「のだめカンタービレ」が毎週放映されています。
そのCDも発売されているらしく、クラシックにさほど興味のなかった方もクラシックに接する機会が増えているようです。クラシックの良さがわかるファンが多くなることは同じ趣味を持つ友達が出来るようでどこか楽しい気がします。

池 田 医 院 池田 貴

2007/01/01 年末年始の行事
 毎年の年末、年始は音楽を聞いて過ごします。年末は、第9、年始はウイーンフィルのニューイヤーコンサートがテレビで放映されます。ニューイヤーコンサートでは「ラデツキー行進曲」がアンコールで演奏され、観客も一緒になり手拍子で楽しみます。これは毎年の恒例となっています。我が家もウイーンに行っている気持ちになって、一緒に手拍子をして楽しみます。興味のない人から見れば、アホらしい事かもしれませんが。それと「美しく青きドナウ」の演奏を始める前に、指揮者のスピーチがあるのですが、何年か前にカラヤンが「世界の平和」と言う言葉を、何度も繰り返していた事が思い出されます。
 大晦日の夜は、私は紅白歌合戦は見ないので、懐かしい歌のCDをかけて過ごします。お決まりは中島みゆきの、「時代」、「誕生」、ユーミンの「ノーサイド」、竹内まりやの「駅」、「SEPTEMBER」,チューリップの「青春の影」等ですが、今年はこれに加川良の「教訓T」、うめまつりの「北山杉」が加わりました。
「教訓T」は私が高校生で、70年安保、学園紛争の頃に流行った曲で、ナショナリズムを強烈に皮肉った曲です。ちょうど今の教育基本法成立、防衛庁が省に格上げされると言った時代に対する警告の様な曲です。「北山杉」は大学生の頃を思い出させる曲です。私にとってなつかしのメロディーと言った所でしょうか。
 今年もこの様にして無事に新年を迎える事が出来ました。今年も宜しくお願いします。

白 江 医 院 白江 淳郎

2006/12/29 戦国時代とは
 ずっと疑問に思っていたことがありました。戦国時代に、どうしていくさばかりしていたのだろう、と言う事です。戦国大名と言われる人が、人の上に立ちたいという気持ちを持つ事は分かりますが、なぜ京に上って日本の名主にまでなりたいと思っていたのかが、不思議でなりませんでした。しかしこの本を読んで、この疑問が少し解き明かされました。
 戦国時代は慢性的に飢餓の時代でした。大名は自分の領地の農民や、武士を食べさせていかなければなりません。そのための一番効率的な方法は、農作物の収穫期に侵攻しその作物を奪い取る事です。合戦の起こった時期を見ると秋(米の収穫時期)や、春(麦の収穫期)が多く、飢餓の年に多いということが分かります。ですから天下統一などという高尚なことよりも、目の前の食糧確保のための合戦の積み重ねが、領土拡大になり結果天下統一になっていったのです。
 豊臣秀吉が刀狩を行った、と授業で習いましたが、これも各戦国大名が自分の国内の治安を維持する為に、刀などの武器を使った私闘を禁じた事が起源になっているそうです。織田信長の行ったと言われている、楽座、楽市も形式は少しずつ異なるにしても各戦国大名が行っていたようです。この様に私達が学習してきた内容が大きく修正され、興味深く読む事が出来ました。

 白 江 医 院 白江 淳郎

2006/12/04 講演会三昧
 最近、有名な方の講演会を聞くチャンスが多くありました。まずは、以前お話した、大阪府医師会学校医記念式典の、正高信男さんの講演。次に私の母校の中学校60周年、高等学校50周年創立記念式典での、作家重松清さんの「おとなの力、ことばの力」と言う講演。そして一番最近の講演会は、医師会ホームページで紹介した、心療内科学会総会の山田洋次監督の「寅さんと癒し」、作家高村薫さんの「こころを描くということ」でした。
 山田洋次監督の講演は、寅さんを演じた渥美清さんとの交流を話され、いわゆる弱者の人と同じ視点に立って、又同じ高さに立って接していた渥美さんの姿勢を伺いました。体の弱かった渥美さんは、脳性マヒの寅さんファンの子供にも優しく接し、健康に気をつけることの、又そうする事で周囲の人に恩返しをすることになる事を、話していたそうです。映画の観客は、寅さんを通してその様に優しい渥美さんと会話していた、又自分の姿を投影していた、と言うことを聞き、寅さんシリーズがあのように長期間続いた秘密に触れたように思いました。
 高村薫さんの講演は、正高信男さん、重松清さんの講演を総括するような内容でした。
 正高信男さんは著書の中で、携帯電話のメールで絵文字のある日本の特殊性を述べられておりました。心の繊細な部分の表現を言葉で伝えず、絵文字で送る事の異常さです。人間がこれまで長い年月をかけて得てきた言語能力を、失っていく事に警告を発しておられました。
 重松清さんは、標語のあるポスターの様に一対多数で発信するのではなく、一対一で向かい合って、自分の考えを、自分の言葉で伝える事の重要性を話しておられました。
 今回の高村薫さんの講演の要旨は、以下の通りです。
 現在多くの人が、何かしら言葉にならない居心地の悪さを感じています。これまで心を言語でどうにか表現しようとしてきた大人は、その居心地の悪さを言語化できないことに不安を持っています。昔なら、芥川龍之介が、「漠然とした不安」と言って筆を絶ち、命を絶ちました。しかし今日、私たちはその不安を表現する言葉を知りません。まさに世界が言葉を失っている、と言っても良いでしょう。本来言葉が一番大事な政治の世界でも、小泉前首相に見られるように粗雑な、貧困な言葉や論理しか使用できない人間が現れ、しかもそれを大衆は認めて持て囃します。まだ私たちの世代は、この様な不安感だけで済んでいるかもしれませんが、若い世代は、これまで様々な事柄を言語化したことがなく、その様な行為を知らない可能性が有ります。(ここで、正高信男さんが述べている、携帯のメールの絵文字を考え合わせて頂きたいと思います。絵文字が繊細な感情の表現方法となっているのです。)世界が言葉を失っているこの時代には、論理ではなく、生理的な欲求だけが出てくる危険性があり、その様な時代に対する不安を解消するために、様々な企画を作って言語化の代わりをしようとします。例えば、気持ちのちょっとした落ち込みの時に、「私は、ウツだ」と自分で分析することなく、それに自分を当てはめて納得させる、その様な行為が茶飯事になってきています。私たちは、心を伝える為、心を理解する為にもう一度、言葉の使い方、言葉を使う意義を考え直さなければなりません。
 この様な内容だったと思いますが、常々漠然と感じていた事を指摘されたようで、心にずっしりとこたえるパンチを食らったような、素晴らしい講演でした。
 高村薫さんは、普段の社会に対する舌鋒鋭い切り口から、強い人と言うイメージがありました。しかし拝見すると小柄な人で、どこにあの芯の強さが有るのだろうと驚いてしまいました。正高信男さん、高村薫さんは私とほぼ同世代で、同じ時代に中学、高校時代を過ごしてきておられる方なので、社会に対する考え方、感じ方に共通点があるように思いましたし、同じような漠然とした不安を感じておられる事が共感できました。ちなみに重松清さんは、もう少し若いジェネレーションですが、直木賞作家だけあって言葉に関する熱い考えが伝わってきました。
 本当に有意義な講演会を経験できました。面白そうな講演会があれば、又このホームページで紹介したいと思います。是非皆様もご参加下さい。

 白 江 医 院 白江 淳郎

2006/11/21 実に美味しく楽しいお店発見! 麦酒食堂「BEER&BEAR」
 私は以前からダークビール(黒ビール)が好きなのですが、インターネットで調べ、昨年からこのお店に良く行くようになりました。
 常に7種類のドラフトビール(樽からサーバーを用い注いだビールというイメージを想像して下さい!)、そして、日本と世界のビールを100種類という大変素晴しいお店です。
 日頃の諸々の鬱憤を晴らすために行くのですが、その数時間のうちに晴れてしまうのが実に美味しく楽しいのです。
 皆様、一度行ってみては如何ですか?

麦酒食堂「BEER&BEAR」
      http://www.beer-bear.jp/

〒541−0059
大阪市中央区博労町3−4−9
06−6241−0409(TEL・FAX)

 数尾診療所 数尾 展

2006/11/16 室町時代から江戸時代にかけての麺の薬味は?
「麺の文化史」石毛直道

 国立民族学博物館の有名な教授ですが、大好物である麺の文化を、全世界に亘って研究しておられます。その中で、室町から江戸にかけての麺、特に素麺を食べるときの薬味が、梅干のむいた皮に粉胡椒かけた物だという文がありました。これを早速うどんで試してみましたが、さっぱりとしたなんとも不思議な味でした。一度お試しになっては如何ですか。
 話はちょっと飛びますが、私はやはりうどんといえば七味唐辛子です。そのうちでも京都の四条通り、八坂さんの前の「原了郭」の黒七味がお奨めです。四条通りに面してはいるのですが気をつけないと通り過ぎてしまいそうな店です。八坂さんの50メートルくらい手前、北側です。赤穂浪士の由来の店で、これも京都らしい。京都においでの時は、是非立ち寄られては?唐辛子の薬味と、ゴマの待ったりした味が調和してはまってしまいます。

 白 江 医 院 白江 淳郎


 Copyright (C) 2006 Fujiidera Medical Association. All Rights Reserved.