今年度は多くの医療制度の改定が行われました。これ等は国家、厚生労働省が長年抱いていた国民、特に社会的弱者の切り捨て、混合診療を含めた医療費抑制などの政策が、まさに始まった現れなのです。マスコミなどは、自分達の無責任な態度を棚上げにして、「このままでは医療崩壊が起こる」等と言っていますが、医療崩壊は現実に起こっていますし、もう取り返しのつかない事になってしまっているのです。この事に警鐘を鳴らしながら、今回の医療制度改訂についてお話したいと思います。
(1) 特定健診、特定保健指導について
本年度から法律が変り、従来行っていた所謂「市民健診」は廃止になりました。それに変り、話題のメタボリック症候群に焦点を絞った、「特定健診」を行い、その結果問題のある人に対して「特定保健指導」を行う事になりました。
先ほど述べたように、メタボリック症候群だけを対称にしているわけですから、従来の健診に比べ検査項目も非常に少なく、色々な病気を早期に見つけることは不可能です。
またこの「特定健診」をうけた皆さんの検査データは、コンピューターに記録され、行政に一括管理されます。メタボリック症候群と診断され、食事治療や運動が必要であると認められた人は、「特定保健指導」を受けなければなりません。その指導を受けた人は、定期的にチェックされ指導の効果が充分かを判断されます。
もしこの特定健診の受診者が少ない、或いは指導を受けた人で効果が不十分な人が多いとなると、罰則が用意されています。国家から自治体への保険料の補助が、カットされるのです。
正直言って、この様な健診でメタボリック症候群が少なくなるとは思えません。またメタボリック症候群を治療したからといって、どれだけの医療費抑制効果があるのか、実際の国民の健康にどれだけ貢献するかは、医師の間でも様々な意見があり、評価できない点が多く有ります。
ここでちょっと斜めからこの問題を見てみましょう。
国はどだいメタボリック症候群などを治療したい、患者さんを減らしたいとは思っていないように見えます。この様な特定健診では、まず受診する方は、従来の多項目の検査を行っていた市民健診の時に比べて、少なくなると思われます。また治療効果も頑張って「特定保健指導」をしても、そんなには上がらないでしょう。もしも万一これで効果が出たとしたら、元気な高齢者が増えるわけですから、後期高齢者医療を導入した目的に反します。要するにできない事をムリに各自治体に押し付け、効果が上がらない事を口実に補助金を減額し、国庫からの支出の減額を狙っているだけのように思えます。
さらにこの制度を運営していくことで、保険者は皆さんの検査データを、集中管理することが出来ます。検査データは究極の個人情報です。このデータを使えば、後ほど法律を変えて、「あなたはメタボリック症候群だから、保険料を高く徴収します」等と言うことが、キーボードを押すだけで可能に出来ます。皆さんのデータを集中管理すれば、他の様々な病気で皆さんを分別していく事が可能になります。例えば、この人の家系は糖尿病が多いので、会社の採用をやめておこうと、言うような事が容易に出来ます。これは新たな差別です。
またそのデータが損保会社に流れていけば、国が目指している混合診療解禁とドッキングして、色々な保険に加入する事を勧めたり、保険料を差別化したり出来ます。その様な事を許せば、皆さんの医療がどうなって行くのだろうか、ということを考えれば、恐ろしくなります。
藤井寺市医師会は、この様にメタボリック症候群に特化したような、「特定健診」は少なくとも市民の皆さんの健康管理には、不十分だと考えています。そこで藤井寺市と交渉をし、現在検査項目の上乗せを要求しています。市の方は財政的に苦しいと言う事で、現在交渉は暗礁に乗り上げています。私達医師会としては、当初本年4月から開始したいと考えていましたが、まずは国からの通達が大変に遅れ、市との交渉もこちらが回答期限を設定しても、全く答えてもらえないといった状態が続いている為、開始時期は明らかでは有りません。市民の皆さんにはご迷惑をおかけしますが、宜しくご理解下さい。
特定検診が始まれば、先ほど述べた事も参考にされ、受診するかどうかを判断してください。
(2) 診療報酬改定について
☆後期高齢者医療について
この制度については「高齢者の切捨て」以外の何者でもないことは、皆さんも既にご理解いただいているものと思います。高齢者が増えれば、医療費が増加する事は当然の事です。従来健康組合からも拠出していただいて、医療費の財源の一部に当てていたわけですが、それが難しくなってきたので、年金から天引きして財源に組み込もうと言う制度です。
この制度の対象となる方は、戦後の何もない焼け野原から、日本を世界第二の工業国に作り上げてきた方々です。子供達にはバカな戦争を体験させたくない、家族には少しでも良い生活をさせたいと一生懸命働き、税金を納めて貢献してきた人たちです。声高に核武装だ、愛国心だと叫ぶことなく、黙々と皆のために働いてきた事こそ本当の愛国心だと思うのですが。その様な人達に報いないで、それが尊敬される国家でしょうか。
この様な制度が長続きしてはなりませんし、させてはなりません。強行採決までして国会でこの法案を成立させた、自民党、公明党はどう考えていたのでしょうか。
この制度では、1人の医師を「主治医」と決めてその医師が総合的に診療を行う、ということが謳われているのですが、その認定条件が不確かです。
藤井寺市医師会としては、積極的にこの制度に参入する事は様子を見ようと考えています。
白 江 医 院 白江 淳郎
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