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藤井寺市医師会所属の医師たちが医療関係は勿論、多種雑多な話題について語ります。
2009/12/01 2009年11月の読書ノート
(1)政治家失格  田崎史郎  文春文庫
「なぜ日本の政治はダメなのか」という副題がついています。なぜこれ程まで日本の政治が劣化してきたのかと考えれば、それは国民の劣化と表裏一体をなしていると言わざるを得ないでしょう。なぜこんな事を言うかと言うと、私達の日本医師会や、大阪府医師会も同じ轍を踏んでいるからです。無責任、人並みはずれた権力志向、破廉恥、言い出したらキリがありません。とまあボヤキはこれくらいにしておかないと、血圧が上がりそうで。
 人材を育成するシステム、又優秀な人材がその中で切磋琢磨する環境、その様な物を最近の政治体制は作ってこなかったと、筆者は指摘します。二世、三世議員が増加してきた事も、有為な人材を育てられない事に拍車をかけました。さらにその上小選挙区制を導入した事が、決定的でした。こんな事ばかり書いていると絶望的な気分になりますが、やはり結論はプロの政治家は要らない、国民の目で、国民の言葉で、国民の立場で仕事が出来る人たちが必要だと言う事でしょう。
 日本医師会も同じで、国民のためによい医療を提供するため、是々非々で正論を発信できる前会長の植松先生のような人が必要なのです。ああ又血圧が上がってきた。

(2)落語論  堀井憲一郎  講談社現代新書
 落語好きの筆者が考える、落語の真髄を語っています。本質論、技術論、観客論と分けて紹介してあります。私が考える、落語の面白さはやはりライブだ、ということではないでしょうか。
 宝塚歌劇が好きで見に行きますが、どれ一つとして同じ物はありません。同じ出し物でも、掛け合いのタイミングや、せりふの感じがちょっと違っていたり、それに対する観客の反応が日によって全く違っていたりします。それがやはり舞台の楽しみでしょう。
 40年近く前、桂米朝さんの落語を寄席で聞いた事がありますが内容だけでなく、同じ空間や時間を過ごしていると言う事で満足を感じました。CDやDVDで楽しむことも一つの方法ですが、実際の劇場に足を運ばれては如何でしょうか。きっとはまってしまいますよ。

(3)未来のための江戸学  田中優子  小学館101新書

江戸時代を考える時、鎖国によって海外との交流を閉ざし徳川家の安泰、それだけを目的としていたと言う風な見方が多かったようです。実は私ももそのような考えを持っていました。
しかし筆者は、太平の時代を250年も続ける事が出来たことに注目します。現在私達が追い立てられるように、勝ち負けや、お金に固執していること、それらは江戸時代にはあまり認められなかったと言います。そこのは、「因果」や「循環」の価値観があり、自分の行った行為が必ず自分に戻ってくると言う意識がありました。これは社会を見る目だけではなく、自然を見る見方にも通じます。農作物など全ては自然から貰った物で、その恩恵に感謝する為取りすぎず、分をわきまえると言う事です。
 しかしこれ等のことは私達が、当然持っており、両親や祖父母から教えられてきたことではないでしょうか。それを敢えて本に書き、筆者のように大学で学問として考えなければならないことに、近代日本人のある意味の劣化があるのでしょう。筆者が言っているように、江戸時代に代表される、日本の物の考え方というのは何も古くて、唾棄すべきものではなく、これまでの価値観を変えなければならない、素晴らしい手本になるでしょう。


(4)世界一幸福な国デンマークの暮らし方  千葉忠夫  PHP新書
 「国民の幸福度ランキング」と言う物があり、デンマークは世界第一位ということです。又先日発表のあった、汚職などのない清潔度のランキングでもニュー ジーランドについで世界第二位になっています。
大きさからいって九州と同じ面積で、人口も東京の半分の国が、なぜこの様にハッピーなのかを紹介してあります。デンマークと言えば、童話作家のアンデルセンが有名ですが、筆者は彼の童話を手がかりに貧困、政治、教育、責任、福祉を考えて生きます。
そこには私達日本と比べ、遥かに大人の国家像が見えてきます。成熟した社会に住むことは、やはりそれなりに責任を負いますが、人間個人として心地よい物のように思います。特に昨今のインフルエンザワクチン騒ぎを見ていると、この国に未来は無い様に思ってしまいます。

(5)10大戦国大名の実力  榎本 秋  ソフトバンク新書
 伊達、北条、武田、織田、島津、有名な戦国大名は沢山いますが、盟主として残ったのは徳川です。戦国大名たちは様々な理由で、盟主になるチャンスを逃してしまったと言う事になります。
 この本は有名な10の戦国大名を紹介し、どの様に地域における盟主になり、どうして日本の盟主になれなかったのか、または没落してしまったのかを紹介してあります。
結論から言うと、これ等の大名家は地方の英雄でしたから、中央の貨幣経済への変化と言う大きな流れに乗り遅れ、政治や軍事の制度を上手く変革できなかったと言う事になるようです。この本はソフトバンク新書と言う物なので、やはりビジネスの立場から歴史を見るのでしょう。現代の組織にも通じるように考察されています。

(6)一澤信三郎帆布物語  菅聖子  朝日新書
 京都の一澤帆布、私は40年近いファンで東山通りに面した昔のお店のころより通わせて貰っています。結婚し、子供ができて、家内の買い物の手提げや、子供達のリュックサックなど、我が家では20個以上の一澤の鞄が、あります。
大将の信夫さんがお亡くなりになったあとの、遺産相続の顛末は皆さんご存知でしょう。私もあの「事件」にはひどく腹立たしい気持ちで、「一澤信三郎さんを応援する会」にメールを差し上げた事もありました。正義が負けてはいけないのです。これが日本の司法のすることか、と情けなくなった事を思い出します。しかしやはり、最後には正義が勝ち、めでたし、めでたしと言った所です。
 いったい私は、一澤の製品のどのあたりに魅力を感じているのかと、自問してみました。学生や研修医の時代は勉強道具や、当直の準備など持ち歩く物が多く、その機能性と、耐久性だったように思います。
長年の使用で、いくら耐久性がある帆布でもほころびたり、破れたりする事がありました。修理に持っていくと、大将や店の人が(今から思うと信三郎さんだったのか)「よう使うてくれてるなあ」と言いながら修理してくださいました。そう言って貰えることが嬉しくて、又持って行く事の繰り返しでした。その様な自分の作った物への愛情、又それを通じての触れ合い、それが一澤のした魅力だと思っていました。
最近一澤へ行くと、特に休日などはラッシュアワーの駅のようなお客さんの入りです。昔の一澤のガラス戸を開け、一段高くなったお店に靴を脱いで上がり、大将と話をするといったあの懐かしい雰囲気は、想像すら出来ません。オールド ファンにとって、複雑な心境です。
信三郎さんが頑張っておられ、お店を発展させておられるのは心強い限りですが、やはりあの「一澤帆布」のラベルは懐かしいと思ってしまいます。

番外編  カサブランカ  宙組  宝塚大劇場
 1943年度アカデミー大賞を受賞した、ハンフリー ボガードとイングリット バーグマンのあの「カサブランカ」、それを小池修一郎さんが世界初のミュージカルとして脚本、演出された作品です。
 1940年12月のフランス領モロッコの都市カサブランカ、そこを舞台にこの物語は展開して行きます。ナイトクラブの経営者のリック、かつての恋人で、反ファシズムの闘士ラズロの妻イルザ、ドイツの占領軍、フランス ヴィシー政権の行政官達、その人たちがそれぞれの信念を持ちながら、時代を生きていきます。実にスケールが大きく、深い作品です。この映画がアカデミー賞を貰ったという事に不思議はありません。
 今回の公演は、宙組新トップスターの、大空祐飛、野乃すみ花さんのお披露目公演でした。大空祐飛さんのクールな雰囲気と、この主人公のリックの雰囲気がとてもマッチして、素晴らしい作品のように思いました。 宙組も、やろうと思えば出来るじゃないか、と認識を新たにしました。
今年見た中で、「エリザベート」、「大王四神紀」とともに記憶に残る物でした。新生宙組のこれからの活躍を期待します。

白 江 医 院 白江 淳郎

2009/11/01 2009年10月の読書ノート
(1)長州戦争  野口武彦  中公新書
 徳川幕府が1864年から1866年にわたって、二回長州藩に対して行った戦争についての本です。幕府はこの戦争に敗れ、その力を失っていきます。これまでこの戦争について、司馬遼太郎さんの「世に棲む日々」、「花神」等を読んできましたが、幕府の内情などを詳しく紹介した物は、読んだ事がありませんでした。
 この戦争の徳川幕府内部での敗戦の原因は、大きく分けて二つあるでしょう。一つは慶喜の普段は英雄を目指し大言壮語するが、いざと言う時には責任を取らずにげてしまうと言う性格、もう一つは硬直した官僚機構に見られる、現場を直視しないで、自分に都合のよいように現実を見てしまう傾向です。
私の祖母は戸籍上は長州の士族なので、私はどうしても長州に肩入れしてしまいます。長州は奇兵隊を作ったように、又最新式の銃を持ち刀による1対1の戦いを否定したように現実をリアルに見ていました。それがこの戦争に勝利した原因だと思います。
 この本を読んで、徳川幕府が滅んでいったことを考えた時、ブッシュ ジュニアのアメリカや、麻生代表を担いだ自民党が滅んでいった事を連想してしまいました。やはり後世の人は歴史の教訓に学ぶべきだと言う事でしょう。

(2)ハイブリッドカーは本当にエコなのか?  両角岳彦  宝島新書
 我が家もハイブリッドカーを使用しています。正直言ってこれが地球のエコロジーに役立っているのかと感じていました。パンフレットに載っているほど燃費はよくないし、高速で走っている時には特に力不足だと思います。そんなときには思わずアクセルを踏み込み、エンジンをそこそこ使いますので、二酸化炭素を排出しているな、と思います。
それに比べ、もう一台のディーゼル車は市街地走行では、そこそこの燃費ですが(リッター当たり7km) 高速走行になればリッター当たり14kmくらいに伸びます。排気ガスもきれいですし、ドイツ車の特徴ですが、部品の再利用などをよく考えてあります。どちらがよりよいか、悩ましい所です。
この本はそれらの疑問に判りやすく答えてあります。ハイブリッドは電池が重要となってきますが、車体を含めこれ等を再利用することについてはあまり考慮されていません。エンジンについても同様のようです。日本は今自動車と言えばハイブリッドに特化したようになっていますが、ヨーロッパでは効率のよいディーゼルエンジンが主役になっていますし、設計の段階から再利用を考慮に入れて作られています。
日本の「10−15モード」テストによい成績を出すように設計されたハイブリッドの日本車が本当にエコなのか、マスコミや広告に惑わされず、理性的に判断すべきだと考えました。

(3)バカ丁寧化する日本語  野口恵子  光文社新書

 「させていただく」、と言う言葉をことあるごとに使い、それを丁寧語と考える人たち。又敬語や謙譲語のおかしな使い方、日本語を外国人に教えている筆者はこれらを指摘しています。
 そして結論として「周囲を観察しない人、自分を客観視しない人に他人への敬意を行動で示せるか」、と述べています。やはり本当の意味で他人を尊敬し、それを表すために言葉を磨き、ということをしたことのない人に、正しい敬語、尊敬語は使えないのでしょう。私も時々変な丁寧語を聞く事があり、背筋が寒くなると言うか、気分が悪くなる事があります。言語を職業にしている筆者はなおさらでしょう。
 医師会の用事をするようになって、お役所からの文章でも腹が立って仕方がない言い回しに出会う事が多くなりました。「〜しているところです。」とか「〜である事を申し添えます。」と言う言葉です。こんな日本語は、無いでしょう。私は原則としてこの様な文章しか書けない所からの書類は、読まないことにしています。そもそも日本語を使う能力がないと考えますし、その様な人からの文章は、正確でないと考えるからです。皆さん如何ですか。


(4)定年からの旅行術  加藤仁  講談社現代新書
 平均寿命が80年前後になっても、定年の年齢には大きな違いがありません。ということは定年後の人生をどの様に過ごすかと言う事が、大きな問題になってきたということです。この本では、その様な定年後、第二の人生を旅に打ち込んだ人たちの考えや、実際旅をする時のノウハウを紹介してあります。
 この本で役立つのは、それらの人たちが作っているホームページのアドレスを紹介してくれている事です。この本で読んだ内容の、何十倍ものことを検索する事が出来ます。是非それも、参照してください。
 医師会の会長もリタイアし、支払基金主任審査委員も定年退職したら、やはり旅をしたいと考えています。どの様な旅をするかは考えていませんが、自分の足を使ってする旅も魅力的だと考えています。

(5)「邪馬台国=畿内説」「箸墓=卑弥呼の墓説」の虚妄を衝く!  安本美典 宝島社新書
 長い書名で申し訳ありません。
どうでもいいことでしょうが、私は邪馬台国=九州説が色々な意味で論理的だと思っています。多くの説の中で、私は古田武彦さんの北九州説が一番説得力を持っているように思います。時に新聞で思い出したように、邪馬台国=畿内説が報道されますが、炭素を用いた検索でも不確かな物だそうです。この本はそれらの報道を丁寧に検証し、学会の主流派と思われる人たちの意見を紹介してあります。マスコミが大衆受けを狙ってする報道には、充分注意をしなければならないと言う教訓が、この本にはちりばめられています。そういう立場で読んで行けば、結構面白い本です。

(6)日本の珍地名  竹内正浩  文春新書
 平成の大合併で、多くの市町村が無謀とも思えるような合併をしました。そこで一番問題になったのは、新しく出来た自治体の名前をどうするかと言う事です。各々の市や町、村はそれなりの由緒のある名前を持っているでしょうし、その名前が消え去ることに抵抗があることは当然です。合併はしたいし、自分達の慣れ親しんだ名前は残したいしで、大変です。ましてや隣町の名前が残り、自分達の町の名前がなくなることは許せません。
 そこで妥協の産物として、各町の名前から一文字ずつ取って、新しい自治体の名前にする、かつてあった昔の地名(多くは国の名前)を借用する、などのある意味姑息な方法が用いられます。それに「東」などの方角名をつけるなどしますので、新しい地名を聞いても全くどう言う所か分からなくなります。
 この本はその様な方法で作られた新しい地名の生まれるまでの過程などを紹介してあります。お互い面子など捨てて、その地域で全国にアピールできる名前にすればよかったものを、みすみす全く訳の分からないものにするなど、もったいない限りです。「さくら市」、「みどり市」、「大空市」等と言われても、一体どこのあるのか想像も出来ません。
 この本を読んで、結局は平成の大合併など誰も望んでいなかったということがよく分かりました。藤井寺市も羽曳野市と合併しなくてよかった。ところでもし合併していたら、なんと言う名前になっていたのでしょう。「北南河内市」?「美陵市」?(これは絶対羽曳野が同意しないだろうな)「河内ぶどう市」?(えーい、行く所まで行ってしまえという感じ)考えただけでも恐ろしい。

(7)食糧自給率100%を目ざさない国に未来はない  島崎治道  集英社新書
 日本の食糧自給率は40%と言われています。ただしこの数字には様々なカラクリがあるようで、実際にはもっと低いようです。世界でこれほど自給率の低い国は、先進国の中でもありません。自分達の食べる物を、自分の国でまかなう事が出来ないと言う異常事態が何十年も続き、それが当然のように思われている、この様な事態は政治といえるでしょうか。
 戦後アメリカの余剰小麦や肉を受け入れる為、米を食べればバカになるなどと言う噂も流れ、パン食、肉食に食生活は大きくシフトされました。又市場経済主義により、大規模な小売店が町の小売店を淘汰し、遠方で作られた規格に合った野菜のみが取引されるようになり、農家は潰れていきました。今スーパーで売られている野菜などの価格の殆どは運輸費、パック代などで、生産農家からの買い上げ代金は20%程度だそうです。これでは農家はやっていけません。
 民主党政権になり、打ち出す政策に色々と批判をする人が居ますが、結局は自民党政権がめちゃくちゃにしてきた事を尻拭いしている、その事を批判しているように思えます。大きな声でよく非難するな、と思ってしまいます。
 日本の農家のことをこの本を読んで考えましたが、結局これはこれまでの日本の医療政策と同じことのように思います。農業が滅んで、日本人はこのままでは食糧難になって滅んでいかなくてはならないでしょうし、医療崩壊もまだ今は産婦人科、小児科と言った木で言えば枝の部分ですが、もうじき幹である内科、外科が崩壊してくるでしょう。
 これまで自民党政権を選び、すがってきた責任を私達国民が取らなければならない時期になってきています。

(8)東京ひとり散歩  池内紀  中公新書
 中央公論に連載された東京の散歩を、文庫本にしたものです。
東京と言う所は、私達の近畿地方と比べて歴史も浅いところですが、それなりに近代の(私達近畿の人間が考える近代です。ああいやらしい言い方!)歴史が残っているようです。それらの場所を筆者はぶらぶらと、その歴史に思いを馳せながら散歩します。
 一緒に歩いているようなテンポで書かれており、読んでいてほのぼのとする感じです。正直言って私が知っている東京は、山の上ホテル周辺だけですが、それなりの風情のあるところです。新しい殺伐とした所ではなく、それなりの歴史のあるところは日本の原風景として、よいものだと感じました。

(9)エコノミストを格付けする  東谷暁  文春新書
 人気エコノミストと呼ばれる人たちが居ます。日本では、金子勝、竹中平蔵、田中直毅、森永卓郎、中谷巌など、経済に疎い私でも聞いた事のある名前です。日本、アメリカの有名なエコノミストがこれまで行ってきた発言、論文などを見ながら、その考えの一貫性、予測力、データ性、論理力などを分析してある、興味深い本です。
 これ等のエコノミストと言われる人たちは、その予測や行ってきた事が、大きく間違えていたり、その結果人々を不幸にしても、逮捕されたり、莫大な慰謝料を請求されたりはしません。私達の職業である医師という立場で言えば、以前福島県大野病院であったように、いくら努力をして準備をしていても、結果上手く行かなければ殺人罪で逮捕されてしまいます。
しかし日本人の生活を破壊しつくした、小泉は大きな顔をして自分の息子を後継者にしましたし、虎の威を狩る狐のように振る舞いアメリカに国民の必死にためた貯金を提供しようとした竹中は、まだ大きな顔をしてマスコミに出、「構造改革を続けておれば、この様な経済状態にならなかった」などと、恥ずかしげもなく発言します。その他規制改革をオリックスが利益を得易いように、都合よく捻じ曲げて行った、宮内の知恵袋の八代という人も居ました。なぜこの様な人たちは逮捕されないのでしょう。政治のリーダーは口先で色々と言訳をしていれば、それで事足りるような人たちなのだということでしょう。

(10)一度は乗りたい絶景路線  野田隆  平凡社新書
 鉄道が好きな人にも、旅行が好きな人にも、有用な本です。列車から見える絶景を、川を楽しむ、海を楽しむ、山を楽しむ、花を楽しむと言う4個に分類し、各々三箇所ずつ紹介してあります。
 最初に長野県、飯山線の千曲川の絶景が紹介してあります。
飯山線と言うと、私の大学時代、ラグビー部の夏合宿を思い出します。合宿は野沢温泉であったのですが、その最寄り駅が飯山でした。大阪を出発する頃はまだ旅行気分だったのですが、長野で飯山線に乗りかえる頃になると、皆段々と口数が少なくなってくるのです。車窓からは飯山線に沿って流れる千曲川が見え、それは好い景色なのですが、これから待っている苦しみを考えると、それどころではありません。この本を読んでみると結構風情のある良いところのようですので、又一度行ってみたいように思います。
 その他、近畿では海を楽しむのところで、紀勢本線が紹介してあります。これも面白い内容でした。

(11)ガンジーの危険な平和憲法案  C.ダグラス.スミス  集英社新書
 インド独立の父と呼ばれているガンジー。彼の指導した独立運動は、非協力、非暴力と言う言葉で知られています。実際インドは彼の指導でイギリスからの独立を勝ち取るのですが、それ以後のインドを見ると、パキスタンとの戦争や核兵器の保持のように、ガンジーの思想とは異なった国家のようです。
 筆者はガンジーが考えていたインドの憲法草案を読み、ガンジーの暗殺事件の深層を考え、ガンジーの思想を私達の生活に生かす方法について考察します。
 インドにはその当時70万の村がありました。ガンジーは大きな国家を考えず、その村を各々の共和国にして自治を行い、国家はその連合体であるようにしたいと考えていました。村々はその当時大きく言えば自給自足の生活が出来ていたので、村人はそのコミュニティーの中で平和な生活を送る事が出来ました。ガンジーはそれらを纏める、今で言えば国連のようなもので、インドと言う「国家」は充分と考えていました。そこには国連がそうであるように、一般的に国家が持つ軍隊や、警察は存在しません。しかしその様な考えが、従来の国家像を考え独立運動に参加し独立を勝ち取ったと考えている人たちに受け入れられるはずがありません。そこにガンジー暗殺の伏線があると、作者は暗示するようです。
 ガンジーの思想は、私達の憲法9条の解釈にも関ってきます。確かに武器を使って、少数の人が多数の人を一時的に支配する事は出来るでしょう。しかし大多数の人が、武器は持たないがそれに反対する意思表示や行動をしたら、それこそ大きな力でしょう。人々の考え方、動き方、集まり方、その変化が一番大きな力になることを、インドの独立運動は教えてくれました。そういう強い力を国民が持つこと、それが核兵器にも勝る憲法9条を持っている私たちがガンジーから学ぶべき事だと思います。

番外編  ラスト プレイ   月組   宝塚大劇場
 長年トップスターを続けてきた、瀬奈じゅんさんの最後の公演です。この公演で、瀬奈さんの他に、遼河はるひ、城咲あい、羽桜しずく、音姫すなおさんら7人の卒業生が出ます。月組ファンでしかもこれ等の卒業生ファンの私が観劇に行かないわけにはいきません。(勝手な理由ですが)
しかも今回は、8列目のど真ん中と言う座席が手に入ったので、大変期待して大劇場へと向かいました。
瀬奈さんや皆との別れと言う状況ですが、話としてはそれほど感傷的にはならず、又去っていく人と、その伝統を守ってあとを継いで行く人たちの心の繋がりが感じられる、私としては満足いくものでした。最後の去っていく瀬奈さんを、次期トップの霧矢さんが見送るシーンは忘れられません。因みに、この作品は文化庁芸術祭参加作品だそうです。

白 江 医 院 白江 淳郎

2009/10/01 2009年9月の読書ノート
(1)つくられた桂離宮神話  井上章一  講談社学術文庫
 桂離宮と言うと、私の学生の頃は伊勢神宮とともに日本建築の典型のように言われていました。それもブルーノ タウトというドイツ人が絶賛したので素晴らしい物だ、と言う論調で紹介されていた物が多かったと思います。
 しかしこの本によると、ブルーノ タウトの建築上の思想と、シンプルさをよしとすると言う桂離宮に関する定説は一致しないと言う事です。実際彼の設計した建物が紹介されていますが、何とも奇妙な建物で、桂離宮との類似性など見つけることは出来ません。どうしてタウトが桂離宮の礼賛者として登場し、神様のように祭り上げられていったのか、それを多くの資料を参照しながら考察してあります。
 昭和の大修理の時に色々手の込んだ工夫、細工が見つかり私達が持っていた桂離宮のイメージとは違うものというイメージがありましたが、その違和感を解決してくれる本でした。

(2)大日本「健康」帝国  林信吾、葛岡智恭  平凡社新書
 「使い捨て 昔兵隊 今老人」と言う川柳があるそうです。後期高齢者医療が始まった事に対するものです。厚生省の出自が、この句の本質を現しています。元々内務省から、壮健な兵隊さんを作る為に作られた厚生省は、厚生労働省と名前を変えても、後期高齢者医療や特定健診により国民の健康を管理していこうとしています。
 又日本の風潮が、昔非国民といった言葉がよく使われたように、メタボリック症候群に属する人たちや、喫煙者に対して集団で排除し、悪のレッテルを貼るようになって来ています。数年前から、どう見てもメタボリック症候群そのもののような高名な教授が、この症候群について盛んに提唱し、しばらくしてから特定健診の話が出てきて、どうも胡散臭い感じがしていました。
 又この結果をオンラインで報告し、特定保健指導に時間の要素が入って来うるということで、現在私達が反対している、レセプトオンライン化や外来管理加算の
5分間ルールが抵抗なしに受け入れられました。これ等により、国民の皆さんの健診データが国によって管理され、健保組合や保険会社もそれを容易に使えるようになります。知らない間に皆さんの究極の個人情報がオンラインで飛び回り、様々な物に使用される危険性があります。
 厚労省が行う様々な施策は、医療費抑制、国民管理というフィルターをかけてみなければいけないでしょう。この本は結構平易に、現在の医療行政を解説してあります。一度気軽にお読み下さい。

(3)父が子に教える昭和史  半藤一利ら  文春新書

 平成も21年になり、昭和と言う時代が段々遠くなってきたように思います。昭和後期を覚えている人はそこそこ居るでしょうが、初期となれば私達の両親の世代ですので、語り継ぐ人たちが段々と少なくなっています。
 そこで、その時代を生きてきた人たちに、満州事変、昭和天皇の人間宣言など、テーマを絞って語ってもらうと言うのが、この本の主旨です。「日本はなぜ負ける戦争をしたの?」と聞かれたら、という帯がついています。読んでみて少し反省が足りないのでは、そこまで居直らなくてもよいのに、と思う物もありましたが、その時代を生きた人たちの肉声が聞けて、それはそれで面白いものでした。
 日本国政府がその責任でこれ等のことを語り継ぎ、子供達への教訓とすべきではないかと思います。


(4)しがみつかない生き方  香山リカ  幻冬社新書
 人生普通の幸せで満足し、あくせく生きていかなければ、そこそこ幸せなのではないでしょうか。しかしいろいろな物にこだわり、それを追い求めているうちにそれが大きな目標となってしまい、本来の自分の姿を見失ってしまいます。今よりもっと幸せな物があるはずだ、何かが足りないのではないか、などと考え出せば、不安が増大し所謂欝の状態になってしまうこともあります。
 この本は精神科医である筆者が、臨床でであった人たちを通して、現代の人たちが持っている精神状態のと、それに対するアドヴァイスをのべてあります。
 恋愛に全てを捧げない、すぐに白黒つけない、自慢 自己PRをしない、全てを水に流さない、等項目を上げ解説してあります。色々のそういう意味での啓蒙書は、このようにしたら人に勝てると言う主旨で書かれている事が多いようです。この本は普通に生きて、普通に幸せと感じるにはどの様な小尾炉が前で生きればよいかを教えてくれる本です。
 読んだあとは気が楽になる本でした。

(5)政治のしくみがわかる本  山口二郎  岩波ジュニア新書
 中学生高校生を対象に、政治の仕組みを判りやすく解説してある本です。しかしそこは山口さんですから、日本の政治、現状に対して鋭い指摘をされています。私が高校生の頃、世の中は70年安保の時代で、学園紛争もあり、高校生と言っても討論集会やデモが当たり前の世の中でした。それくらいの年代の人たちが、世の中の不条理や矛盾に対して疑問や憤りを持つことは当然のことです。又社会もそれに、例えガス抜きだとしても耳を傾けるべきです。
 しかし最近はそれらの行動を起こすことが異常なことのように思われています。また討論もディベートと名を変え、自分の主張を通す為に相手の言葉尻を攻撃する技術のようになってしまっています。政治的意識、主張を持たせないと言う自民党、文部省の作戦通りにことは進んでいるのかもしれません。しかし日本人はバカかもしれませんが、学習能力はあるはずなので、そうそう思い通りには進まないでしょう。今回の衆議院選挙での民主党の圧勝は、それを示しているのではないでしょうか。この本に書かれている、政治的中立などありえない、ということを肝に銘じてこれからも生きて行こうと思います。

(6)男の養生訓  松江一彦  学研新書
 女の人の更年期というものはよく知られていますが、男性にも更年期があるようです。この本には色々な実例を紹介してありますが、そう言えばという心当たりがあるものが、いくつかありました。私はこの本によると、男性更年期になりやすい年齢の真っ只中と言う事になります。
 漢方医学によると、自分の体質を知る事が必要と言う事です。それをチェックできる項目が書いてありますが、私はどれにも当たりません。強いて言えば、と言うので考えてもどれにも当たりません。喜んでいいのか、わかりませんが。調子が悪くなったら、又チェックしてみましょう。
 私達が学んできた西洋医学と、漢方医学は概念が全く異なる物です。私達にとって当初は理解しにくい物でしたが、何千年も続いてきた考えは、それなりに正しい事があると考えます。病気の人を治療する事が、私達の使命です。色々な手段を動員して治療が出来たら良いと考えます。

(7)冥途の旅はなぜ四十九日なのか  柳谷晃  青春新書
 仏教の仏典などによると、極楽浄土までの距離などで、とてつもない数字が出てきます。現代の私達がそれを聞くと、ただの大法螺としか思えませんが、何千年も昔にその様な数字の概念があったことに驚くべきでしょう。
 また五重塔など古代の建築が独自の美しさを持ち、免震構造を持っていることも、単なる偶然ではありません。そこには私達が想像する以上の、数学理論があったようです。
 私達のような庶民の中でも、万葉集で九九を使った歌が取り上げられているように、数学が身近で生活の一部になっていたようで、案外科学的な生活を私達のご先祖様は送っていたことが分かります。江戸時代には識字率がかなり高かった事はよく言われていることですが、算数、数学も結構身近なものだった事が、この本では述べられています。
 これまで何気なく使っていた色々な言葉も、そのルーツを辿れば様々な仏典に由来している事が多いようです。この本はそれらに対する、啓蒙書として最適の物だと思います。手許に置いておいて、何か気になることがあればすぐ引ける本だと思います。

(8)日本とドイツ 二つの戦後思想  仲正昌樹  光文社新書
 第二次大戦で負け、戦後を歩んだ両国ですが、その歩みには大きな違いがあります。軍隊を持ち、ホロコーストを反省し、憲法を何回も改正したドイツと、憲法九条を持ち唯一の被爆国ということにこだわり(当然の事ですが)、アジアの侵略した国の人たちに謝罪を表明しない日本。
 この二つの国の文化的、歴史的、戦後の政治環境の違いなどを考え、考察してある本です。ワイマール共和国の憲法は、その当時理想的なものでしたが、ナチスの台頭を許してしまいました。これはその憲法の不備なのか、国民性の問題なのか、歴史的バックグラウンドの問題なのかを日本との違いを考慮に入れ述べられています。
 詳しく説明していくときりがありませんので、この続きはどうぞ読んで勉強してください。終わりの方になると、哲学のことは判らないので正直言って、読み進める事が大変でした。

番外編  その1  「ベルサイユのバラ 外伝」  花組  宝塚大劇場
 あの有名なベルバラ、その主人公の1人のアンドレを中心にリメイクしたものです。正直言って学芸会のちょっと上、大学生の小難しい頭でっかちの劇を見ているような感じでした。駄作です。花組は前回の「ミー マイ」といい今回の「ベルバラ」といい有名な作品を演じているわりに、脚本や演出が悪くかわいそうです。これからこのショウを見ようと思って折られる方、早まらない方がよいと思います。
 私はこの観劇は、宝塚歌劇団の抽選で当たりました。ただで見たわけで、この様な批判をするのは人の道に反するのかもしれませんが、でも正直な所です。

番外編  その2  アイーダ  安蘭けい  梅田芸術劇場
 宝塚退団後初めての舞台です。男性俳優も勿論出ておられます。宝塚歌劇は勿論素晴らしいと思いますが、男声の素晴らしさ、奥深さを感じました。これは感激しました。とくに酷評した花組の翌日でしたので、大変満足しました。
 安蘭けいさんは、この話を「王家に捧ぐ歌」と言う題で宝塚で演じた事があります。その時に比べ女の人になっているな、いい女優さんになっているなと言う印象でした。あの時はニューハーフもどきのような印象がどうしてもぬぐえませんでしたが、今回はその様な違和感も無く、歌も少しキーが高くなっていて大変素晴らしい物でした。
 これはお薦めです。

白 江 医 院 白江 淳郎

2009/09/01 2009年8月の読書ノート
(1)ノモンハン戦争  田中克彦  岩波新書
 今から70年前、中国東北部で関東軍とソ連軍の戦争がありました。辻政信に象徴される関東軍の冒険主義や、(またその結果に責任を取らず、部下の生命でそれをあがなう保身の上手さ)覇権主義、ソ連の計画的進行など、この戦争を様々な側面から捉える論評はこれまでも多々ありました。
 しかしこの本は、その地域に元々住んでいたモンゴル系の諸部族に焦点を当て、大日本帝国やソ連に翻弄されながらも、モンゴル人の国を作っていこうとする動きを紹介しています。領土を広げたいソ連や、日本にとってこのような動きが快いはずはありません。表面ではそれらの部族の意思に理解を示しながら、指導者を処刑したりして支配を進めていきます。
 中国東北部は元々が所謂蒙古系の人たちが、部族ごとに放牧地を持って生活してきた所です。その様な所に人工的な国境を作り、人の行き来を制限する事自体が元々住んでいた人たちにとっては大迷惑な話です。自分達の国を作り、俺までの生活を続けたいと思うのは当然の話でしょう。これ等の三すくみの思惑が絡み合って、この戦争が起こってしまいます。
 当時の田中義一首相の出したと言われる「田中メモランデュム」、これが色々とソ連などの手で改竄され、日本のソ連侵略にソ連が過敏になっていきます。一方関東軍はそれ程深い考慮も無く、自分が勝手に理解している国境での、ちょっとした戦闘行為を行います。それがこのような悲劇を生んでしまいます。
 現在世界でエコがブームになっていますが、一番のエコは軍事に掛かる多大なエネルギーを使わず、ましてや戦争と言う地球環境、人的資源の破壊をやめるように国際社会が動く事ではないでしょうか。それが尊い命を、後世の私達が見て無益な戦争でなくされた方への義務ではないでしょうか。

(2)新撰組顛末記  永倉新八  新人物文庫
 新撰組の二番組長で、明治維新を生き延び大正4年、77歳で死亡した永倉新八が、新撰組ただ一人の語り部としての自叙伝を、小樽新聞が掲載したものを原文で掲載しています。
 池田屋事件や、近藤勇、土方歳三の事などが当事者の記憶として述べられています。大正2年から掲載された物と言う事ですが、その頃の日本語を体感すると言うことでも意味があると思います。
 正直読んでいて、漢字の使い方、言葉の言い回しなど粘つく感じでした。やっぱり読みにくい。今日の私達が慣れ親しんでいる文体が完成するのは、昭和三十年代だといわれています。その頃から週刊誌が多く発行されるようになり、全国共通の言い回しが完成してくるのです。そういう意味でマスコミの力というものは、強力です。
 内容は皆さんご存知の事が殆どですが、先ほども言ったように、昔の言葉を実感するのには面白い本だと思います。そういうつもりで、どうぞお読み下さい。

(3)公平、無料、国営を貫く英国の医療改革  武内和久  集英社新書

 「ゆりかごから墓場まで」と言われていたイギリスの社会保障、特にNational  Health  service と言われる医療制度は、サッチャー政権の市場原理主義の政治により崩壊しました。それを修正することを至上命題にしたブレア政権は、医療費を1.5倍にしましたが医療崩壊は止まりません。その様に私は理解していました。この表題はその理解とは違うので、買ってみました。
 読んでみてどうも腑に落ちない感じがして仕方がありませんでしたが、筆者の経歴を見て厚生労働省のキャリアということで、納得しました。「国家が管理する効率のよい医療」ということです。これでは参考になりません。
 そもそも経済や効率といったことと、医療が両立する事自体無理な話です。現在行われている特定検診も、メタボリックシンドロームを早く見つけて、医療費の抑制につなげようと言う主旨ですが、お国が散々主張しているように、高齢者が増加すると医療費が増加するのです。全く馬鹿げた話です。あまり参考にはならなかった本でした。


(4)アイルランドを知れば日本がわかる  林景一  角川oneテーマ21
 筆者はアイルランド大使を務めた方で、そこでの体験を下にアイルランドを紹介するだけでなく、資源も無くあるのは人だけという、日本との共通点から、これからの私達の進むべき道を述べています。又イギリスとアイルランドの関係を仔細に見ることで、日本と韓国がこれからどの様に付き合っていくべきかということまで、筆を進めていきます。
 小泉八雲、アイルランド民謡を基にした小学唱歌、又最近ではエンヤの歌、これ等で比較的身近な存在ですが、私達が気付かないことで、アイルランドと関係のある人や物は多くあります。その様な薀蓄を傾ける事の出来る本です。
嘗て司馬遼太郎さんは「街道をゆく」でアイルランドを旅行され、虐げられてきた民族に思いを寄せられました。それ以来アイルランドは一度行ってみたいと考える国になりました。この本を読んでその気持ちが一層強くなりました。

(5)明治人の作法  横山験也  文春文庫
 私達の世代は幼稚園や小学校の時、「気を付け」の姿勢や歩き方、目上の人に対する姿勢など、結構うるさく躾けられました。お箸やお茶碗の上げ下ろしを見るだけで、その人の家柄や躾が判ると言われて来ました。
その様な行儀作法は、明治時代に文部省が全国の作法を統一する為に、教科書を作り、「操行」と言う授業を行い、通知簿の一番先頭にそれを評価する欄があったとは知りませんでした。筆者によると、子供の頃から自分と御分(相手の人のこと)の区別をはっきりと認識させ、他の人に対する思いやり、心配りを学習させる事は重要だとのことです。その様なことを、体で覚えこむと言う事でしょう。あまり行き過ぎても良くはないと思いますが、小さい頃からその様な経験をする事は大事だと思います。ただ核家族が殆どで、昔のように何代もの家族が一緒に生活し、下男、下女と言われる人たちも一緒に生活していた時代とは、現代は明らかに異なっていますのでなかなか大変だと思います。
この本はその様な作法を図解を入れて紹介してあり、わかりやすく興味のあるものでした。

(6)世界は分けてもわからない  福岡伸一  講談社現代新書
 顕微鏡をのぞいても生命の本質は見えてこない、と言う副題がついています。私は大学院時代、痛みに関する実験を行なっていました。そのとき、主にトリプトファンと言う含硫アミノ酸と、痛みの下行抑制系の関係を主題にしていたのですが、福岡先生もこのトリプトファンに興味を持っておられるのをこの本で知り、驚いた次第です。
 しかしこの本の主題は、生体のなかで起こる一連の反応をどの様に捉えて行くのか、又その結果をどの様に評価していくのかと言う事でしょう。
 有名な生化学者でコーネル大学教授のエフレイム ラッカー、彼はがん細胞が無制限に増殖し、多くのエネルギーを消費している事実について注目し、がん細胞の発生についてある仮説を立てます。それを立証する為、世界各地から集まった優秀なポスト ドクターの研究者を動員し、彼のラボで研究を続けます。しかしその様な優秀な人たちが集まっても、なかなかクリアーカットな結果が生まれません。
 その研究所に、ドクターでもない大学院一年生としてマーク スペクター と言う学生が入ってきました。彼は実験の天才と言える人物で、ラッカー教授の立てた仮説を、どんどんと実証していきます。そしてがん細胞発生のメカニズムが見事に解明されていくのです。これからあとは、読んでのお楽しみです。
 科学的に物事を考えるとはどうすることだろうという、そのよって立つところがこの本では上手く解説されているように思いました。今後も福岡さんの本は要注意です。

(7)北海道幸せ鉄道旅15路線  矢野直美  講談社+α文庫
 札幌在住の筆者が、北海道を殆ど各駅停車の列車に乗って書いた旅行記です。
 題名が題名だったので、どんな本かと構えていたのですが、綺麗な写真も多く、文体も切れがよく充分に楽しめました。
 北海道では、始発駅から少し乗っているだけで、大自然のなかを鉄道は走るようになります。特に道北、道東ではその様な事が多いようです。自然のなかを走らせてもらっていると言う形容がぴったりのようです。同じ木々の緑でも、濃淡に違いがあり、6月の頃にはそのグラデイションのなかを列車が走ります。冬は冬で真っ白な厳しい世界のなかを、列車は走って行きます。
 この本は、筆者が愛して止まない北海道に対して書いた、ラブレターと言う事が出来ます。
 北海道をレンタカーでまわるのも楽しい事ですが、一度このような鉄道のゆっくりした旅行もしてみたい物です。

(8)夢と魅惑の全体主義  井上章一  文春文庫
 スターリン、ムッソリーニ、ヒトラー、毛沢東、蒋介石、この人たちは近世の歴史のなかで大きく分類して独裁者のジャンルに入るでしょう。この人たちに共通している事は、政府関係の建物建設や、首都の都市計画に非常に熱心だったと言う事です。
 これについては、様々な事例が紹介されています。ローマのバチカン市国成立とそれにまつわる都市計画、ベルリン改造計画、スターリン・アール・デコ様式と呼ばれる巨大なビル等等。
新しく革命によって、或いはそれと近いような権力闘争によって政権を手に入れた独裁者が、政権の理想、権力をアピールする為にこれ等の事業を進めていきました。そこにはあくどいまでの表現が使われています。
それに比べて、同時代の日本は「贅沢は敵だ」のスローガンの下、鉄鋼の使用が制限され、大きな鉄筋コンクリートの建物が、法律によって作れなくなりました。そこで政府の新築しなければならない庁舎は、木造のバラック様式になってしまいました。外国では建造物により権力者の力を誇示していた時代に、日本では戦争のためと言うことで、官吏は清貧でなければならないとされていたわけです。同じファシズム国家に分類されても、権力を収奪した直後の国と、長い歴史を持ちその中で方向性を間違えた国で、建物などに対して大きな見解の違いがあったのです。
ここに日本型ファシズムと西洋型ファシズムの違いがあるのでしょう。この本は建造物を通して、それらの体制の違いを考察した本だとも言えるでしょう。興味ある切り口でした。

(9)道楽三昧  小沢昭一  岩波新書
 小沢昭一さんが、幼少の頃から現在に到るまでに打ち込んできた物事を対談形式で紹介してあります。子供の頃の虫取りから、べいごま、めんこ、学生時代の芝居、映画、大道芸の記録、俳句競馬、勿論飲む、打つ、買う等など。 これ等を時代順にあの語り口で、興味深く述べてあります。
 「道楽」には二通りの意味があり、一つは「道を楽しむ」、もう一つは「道を楽にする」と言う事だそうです。又道楽と仕事の違いは、それが人を対象にしているか、自分のなかで完結するかと言う事だと、述べられています。
 これ等の定義の通りに小沢さんがこれ等のことをしてこられたかは、読んでのお楽しみですが、実に豊かな人生を送っておられるものだと感心しました。これ等の道楽のなかで、これから私が取り組める物と言えば、俳句くらいでしょうか。小沢さんは東京やなぎ会という俳句の会を友人と立ち上げ、40周年を迎えたそうです。実に羨ましい趣味だと思いました。

(10)五・七・五 句宴40年  東京やなぎ会  岩波書店
 久しぶりの単行本。これまで殆ど、持ち運びと経済的な理由で文庫本を読んできましたが、久しぶりに大きな、活字の大きな本を読みました。
 小沢昭一、永六輔、柳屋小三治、桂米朝、俳優の加藤武など12人の人たちが17日に集合して句会を行っている会が、「東京やなぎ会」です。この会が40年続き、その記念誌として出版されたのがこの本です。
 この人たちが行っている句会と言うのは実に楽しそうで、雑談を楽しむためにこの会を続けておられるようです。どのメンバーも、その道ではプロ中のプロといった言った方々ですから、その作品も面白いだけではなく、芸術性もあるものだと素人からは思われます。以前この会のメンバーの1人である江国滋さんはその本のなかで、真面目に俳句と戯れるので、5・7・5などの決まりは絶対にやぶらないと書いておられましたが、この会の皆さんの俳句に対する態度は、まさにその通りなのでしょう。
 手元に置いて、何回も読み直したい本です。

番外編  その1  ロシアン・ブルー  雪組  宝塚大劇場
 初めて見る、雪組です。スクリューボール コメディーということで、私達が慣れ親しんだ、吉本系のコメディーではなく、随所にクスッとした笑いをちりばめた作品でした。
 舞台は1937年革命20周年を祝うため、アメリカから下院議員と彼が率いるレビュー団がモスクワを訪れる事から話は始まります。彼らを監視する中央芸術事業団の女性局員との対立、色々な駆け引き、それが何時しか恋愛になって行き、と言うお決まりのストーリーですが、主役の水さんや、準主役の彩吹さんの力で味わいのあるものになっていました。
 先ほども書きましたが所謂上品なコメディーで、私達がいつも見ているコメディーではありませんが、随所にくすぐりがあり結構楽しく観劇できました。

番外編  その2  ZERO  瀬奈じゅんディナーショウ  阪急インターナショナル
 次回の公演で退団する、月組トップスター瀬奈じゅんさんのショウです。このようなものは初めての経験で緊張しましたが、いつもは舞台の上で距離を置いてしか見られないスターを、近くで見ることが出来、貴重な経験をしました。やはりトップになり、それを維持していく人と言うのはすごいことだと感心しました。
このショウの2〜3日後に、これに出演していた、娘役の城咲あいさん、音姫すなおさんの退団が発表されました。この人たちのほかに、遼河はるひさん、羽桜しずくさんも退団されると言う事でした。
 月組は彩乃かなみさん以来この1年は、娘役トップが不在でしたが、次は城咲さんか、羽桜さんがなるものと思っていましたので、驚いていてしまいました。次は誰になるか、興味津々です。
 以上、おっさんの雑感でした。

白 江 医 院 白江 淳郎

2009/08/01 2009年7月の読書ノート
(1)ビールの科学  渡淳二  講談社ブルーバックス
 夏です。やっぱり夏はビールです。ということで、サッポロビールの研究所の方達がビールについて薀蓄を傾けておられる本を読みました。ビールの歴史、ビールの作り方、世界のビール、美味しさの秘密、そして美味しいのみ方などを紹介してあります。
 参考になったのは美味しい注ぎ方でした。早速試してみましたが、美味しいような気がしました。適温に冷えたビールを、泡を上手に残しながら、綺麗に洗ったコップに、注ぎきって注ぎ足しをしないということに尽きるようです。
その注ぎ方を紹介します。まずテーブルの上に置いたコップに、適当に泡立つまで勢いよくビールを注ぎます。次に今度はあまり泡立てないようにゆっくりと、泡の蓋がグラスの上に押し上げられるように注ぎ、その蓋がグラスの縁に達する直前で注ぐのを止め、泡の形成を落ち着かせます。次にゆっくりとグラスの縁に泡を盛り上げるように注いで完成です。このとき泡とビールとの比が、3:7であるのが望ましいと言われています。
 これを注ぎ足しせずに、飲み切ってしまいましょう。やっぱりこの飲み方は美味しいように思いました。

(2)ツチケン モモコラーゲン  さくらももこ、土屋賢二  集英社文庫
 たまたま机の上にあったので、読んだ本です。土屋賢二さんはお茶の水女子大学の哲学課教授で、腹を抱えるくらい面白いエッセイを書かれる方で、私も暇つぶしでよく読ませてもらっています。さくらもこさんは漫画家だそうで、「ちびまる子ちゃん」の作者で有名な方だそうです。私は漫画を読みませんので、その「ちびまる子ちゃん」がどんなに有名なのかは判りません。ただ土屋先生が研究室にさくらもこさんからもらった色紙を飾る話から想像するに、その世界では人気のある方なのでしょう。
 これと言った深刻な内容でもありませんし、読後感想何といった物はありません。気軽に時間つぶしで読んで見られては如何でしょうか。ただし30分位で読み終えてしまいますが。買ってぜひとも読む本ではありません。

(3)インド・カレー紀行  辛島昇  岩波ジュニア新書

 インドと言えばカレーです。因みに私はカレー大好き人間で、函館の五島軒のインドカレーかイギリスカレーがあったら、毎日でも食べると言うくらいです。皆様是非一度ご試食を。
 雑談はさておき、インドでカレーといえば地方によって様々な物があります。しかしそのベースになる香辛料はコショウ、ウコン、ウイキョウ、カラシ、コリアンダールの五種類です。これにそれぞれの地方特産の香辛料が加わります。日本の食事に例えれば、カレーとは醤油のようなものなのでしょう。使う食材に応じて、それに様々な物を付け加えていくようです。その様に考えれば、インドのカレーというものが理解し易いのではないでしょうか。
 インドは広大な国土を持っているので、主食も麦を主体とした地域やお米を主体とした地域があり、それによってカレーを使った料理も異なってきます。筆者はインドに数年間留学していた経験があり、それを基にして、カレーの話だけではなく、インドの魅力も伝えてくれます。


(4)大阪不案内  森まゆみ  ちくま文庫
 東京育ち、東京に生活の根っこのある筆者が大阪を訪れ、大阪の方々の魅力を紹介します。私は藤井寺の人間ですが、マスコミで紹介される大阪というものに違和感を持っていました。
大阪弁と言われる物にしても、今東光が中河内の言葉を面白くモディファイして、大阪弁にある種の虚像を作ってしまい、吉本新喜劇がそれをよりねじ曲げてしまったと思っています。実際私の祖母などが喋っていた河内弁というのは耳に心地よく響いていましたし、近所の年寄りのオジサンが喋る言葉ももっと上品な物であったように思います。
筆者はその様な偏見を持たず、大阪に飛び込んでいます。そして色々な場所で大阪人と話し合い、その印象を書いてくれています。
まあこれくらい偏見なしに見てくれているのなら、辛抱したろかといった読後感でした。

(5)世界奇食大全  杉岡幸徳  文春新書
 世界には様々な奇食があります。しかしそれをおかしな物だと判断するのは、その人のそれまで育ってきた環境によります。私たちがかわいいと思っているカンガルーは、オーストラリアでは美味しいと言う事と、増えすぎて間引く必要があるということで食用にされています。捕鯨の問題にしても、私達はクジラを食用に使い、ひげは文楽人形を動かす紐に使うなどして、殺すにしても全てを使用して、ある意味で成仏させているわけですが、オーストラリアの人たちにとってはあのように高等な知能を持った動物を殺すとは何事か、又それを食べるとは何たることか、ということになってきます。
 お互い相手の立場を考えて批判する事が大事でしょう。
 その地方で使用できる食材を使って生活するわけですから、他の地域から考えて不思議な物も食材になるのは当然でしょう。
 私が許せないのは、それらの食材を使って不思議な料理を作り、それを遊びで罰ゲームに使うと言う態度です。この本に載っていた愛知県の甘口いちごスパゲッティーは許せません。
 因みにこの本に載っていた奇食で私が食べた事があったのは、カエル(カナダで食べた)、カンガルー(勿論オーストラリアで)、ハチの巣(ニュージーランドで)位ですが、どれも美味しい物でした。

(6)格安エアラインで世界一周  下川裕治  新潮文庫
 皆さんはLCCと呼ばれる航空会社を知っておられますか。low cost carrier と言われる航空会社です。安い航空チケットと言うと、有名な航空会社が団体用のチケットのあまった物を安く売り出す物でした。しかし、LCCと言うのは、コスト削減に努力して航空料金を安くしている航空会社のことです。
 セブパシフィック、エアアジア、タイガー エアウェイズ、エージアンエアー、初めて聞く名前です。これ等の航空会社は経費を少しでも少なくする為に、座席の間隔を短くする、食事などは出さない、空港の滞在時間を少しでも短くする、などの努力を必死に行っており、4時間乗って1万円と言うような相場で営業しています。
 この本はその様な航空会社を乗り継いで、世界一周をした旅行記です。LCCの飛行機を乗り継ぐことが至上命題なので、観光は二の次です。現在の航空業界、旅行業界の内幕のような物が所々に述べられています。それはそれで、結構面白いものでした。
 最近は忙しくて旅行もいけませんが、旅行に行くとなればやはり普通の航空会社かなと思います。とても冒険できません。

(7)イカの神経ヒトの脳みそ  後藤秀機  新潮新書
 ヒトの体の中には、それこそ無数の神経が走り回っています。それらの働きを研究する為に、科学者は昔から色々な動物の神経を材料にして、様々な研究をしてきました。イカ、ネコ、イヌ、マウスなどです。
しかし科学が進歩するに連れ実験器具も進歩し、人間の脳を実際に使って実験、研究が出来るようになってきました。それにより脳の中での機能分担も明らかになり、今度はその機能の維持をつかさどる、様々な化学物質も明らかになってきました。
 現在の医学はそれらをターゲットにして、おくすりや手術や、電極を脳に埋め込むような治療法が試みられています。
この本は判りやすくその進歩を紹介してあり、神経生理学やその歴史の入門書としてなかなか面白いと思いました。私達の学生時代で言えば、医学部教養課程の生物学の副読本として、面白いのでははないかと思います。

(8)「幽霊屋敷」の文化史  加藤耕一  講談社現代新書
 東京ディズニーランドのアトラクションの一つに、ホーンテッド マンションがあります。古い西洋風の館で、恐ろしそうな雰囲気が漂っています。そこに入っていけば、部屋の天井が上に伸びたり、肖像画が普通の顔から、白骨に変ったり、バギーに乗って進んでいくと、大広間で幽霊が踊ってはすぐに消え去ってしまったり、最後には鏡に映った私達の横に幽霊が並んでいたりと、驚かせたり、楽しませたりが盛り沢山のアトラクションです。
 怖い話というのは昔からあったでしょうが、それが何時頃からこのホーンテッド マンションで現される様な物になってきたのか、ということからこの本は紹介しています。18世紀にゴシック小説と呼ばれる物が出てきますが、これが幽霊が物語として現れた最初のようです。
 時代は進み、フランス革命の頃幻燈の原理を使って、映像を出し楽しませるものが出てきました。これで幽霊を映したのです。様々な改良がこれに加えられ、幽霊を見ることが益々エンターテイメントになってきました。
 その究極が、ディズニーランドのホーンテッド マンションと言う事になります。後半では実際のアトラクションの種明かしがしてありますが、なるほどと感心することが多くありました。
 これを読んでホーンテッド マンションを訪れたら、興味や面白さも倍増する事でしょう。

(9)対米交渉のすごい国  櫻田大造  光文社新書
 陰りが出てきたとはいえ、経済力、軍事力でアメリカは今も世界で一番の国です。そのアメリカに対して、国家間交渉で上手く自分達の要求を認めさせた国があります。その国の成功例を見ることで、アメリカに対してどの様に交渉をしていくべきか、また国家間だけではなく人間間に於いても、どの様に交渉を進めていくのがよいかを、述べた本です。
 交渉の成功例として、カナダ、メキシコ、NZが取り上げられています。これ等の国は要求を通す為に、様々な方法でアメリカにアプローチをします。しかしいずれも、小手先のテクニックなどではなく、誠実に対応した上で少しのチャンスも逃さずに効果的に対応しています。
 アメリカも勿論総身に知恵が廻りかねる巨人ではありませんので、強力に、強引に、又機敏に交渉をしてきます。それらの交渉を有利に、しかも友好関係を悪化させずに進める為に行われてきた、鉄則が述べられています。
 筆者は日本も上手く交渉をしている事もあるといいますが、数少ない成功例を挙げるより、アメリカの属州のように思っている意識を変える必要があるのではないかと思います。

(10)百姓たちの江戸時代  渡辺尚志  ちくまプリマー新書
 江戸時代お百姓さんたちは、領主からの高い租税に苦しみ、お米も食べられず、趣味を持つなどとんでもなく、牛馬に等しいような生活を送っていたようなイメージがあります。しかし私達の周りを見ると、天領や小さな大名の領地であり、綿などの副産物が有った事もあるのでしょうか、それ程悲惨な生活をご先祖様が送っていたような感じはありません。
 この本は北関東や信州の旧家に残っていた古文書を参考にして、江戸時代のお百姓さんたちの、貨幣経済との関り方、日々の労働、子供達の教育、大人たちの趣味、村単位としての領主達とのかかわりや、自然災害への対処方法などが著されています。
 これを読むと、従来私たちが持っていたイメージとは程遠い、(勿論現在のようには行きませんが)豊かなある程度余裕のある生活を、能動的に生きていたことが判ります。
 身分が固定し、そのなかで変化を求めずに生きてきたわけではないので、それが明治時代やそのあとのダイナミックな日本の発展につながったのでしょう。
 読んでいて心強くなる本でした。

(11)日本一江戸前鮨がわかる本  早川光  文春文庫
 お鮨と聞いて一回おすし屋さんのカウンターで、好きな物を握ってもらって食べてみたい、と思う人は多いでしょう。しかしやはり、値段が高くて怖いと思ったり、板前さんにこちらの本性を見透かされるようで、恥ずかしいなと思って躊躇する人が殆どだと思います。
 私もその1人で、おすしは好きですが、とても食べに行く自信はありません。土台がけちですから、何万円も出して食事をする気もありません。せいぜい、藤井寺市では松寿司さんに出前を注文して、満足しています。(実際美味しいですしね)
 しかし江戸前鮨の美味しさを追求するなら、色々な店を訪ね歩く事が大事なようです。筆者はそのうちでも、シャリの美味しさが大事だと力説します。これまでその様な事を考えてもいなかった私は、大いに啓蒙された次第です。
これからは、最も基本になるご飯の美味しさを注意していきたいと思います。

(12)今日よりよい明日はない  玉村豊男  集英社新書
 「今日よりよい明日はない」、これは玉村さんがポルトガルを旅行している時に若者から聞いた言葉です。
ポルトガルは16世紀に、海洋国家としてスペインと共に世界に君臨していました。現在はその時のような華々しさも無く、ヨーロッパの片隅でのんびりと、それなりに豊かに時間を送っています。玉村さんはその姿に、私達団塊の世代や、日本の行く末を重ね合わせます。今日よりよい明日を目指していけば、先を思い悩んだり、右肩上がりになっていかねばという使命感にとらわれます。しかしその考えを捨てて、今日を充実させ、明日も今日のような生活が出来れば、と言うように思うようにするといろいろの物の見方も変ってきます。
これから日本も以前のように技術革新、世界一を目指すのではなく、地に足を着けた大人の国になるべきだと主張しています。
話は少しずれますが、私はいつも少子化問題について、なぜこれが議論になるのか不思議でたまりません。子供の数が少なくなって困る、と言うその理由が経済問題であったり、企業の労働力不足であったりと、人間の尊厳と言うのとは程遠い所で論議されているように思います。その様な考えで論議された結果出産した子供と言うのは、経済社会の歯車の一つでしかない様に感じてしまいます。先進国と呼ばれている国の中で、子供の教育、福祉、医療に当てられているお金は、日本が最低です。「少ないお金で後々こき使ってやろう」と言うその様な不純な心で、子供たちを私達の社会へ迎えたくはありません。少子化はとめられず、それに対してどの様にみんなが豊かな、文化的な生活を送れるようにするようにするかという方向に、政治の家事を切り替えるべきではないでしょうか。
日本は豊かに老いて行けばよいのではないかと思います。若い時に悪で、暴れ者だった人が、真面目な一市民になり、ちゃんとした家庭を持ち、老人になればニコニコ笑って近所の人たちと仲良く付き合い、「有難う、有難う」と言って死んでいった、そんな国でいいように思うのですが、皆さん如何ですか。

番外編  その1  「太王四神記」バージョン2   星組  宝塚大劇場
 安蘭けいという偉大なスターや、その他実力派の人たちが退団し、「新生」という呼び方がふさわしい星組のお披露目講演です。
 朝鮮半島の高句麗には、2000年に一度チュシンの星が輝く夜に生まれた子供が、世界を統一し平和をもたらす王になると言う伝説がありました。その時に生まれたいとこ同士の友情と、図らずも王位を巡って対決する物語です。
 以前の星組とはだいぶメンバーも変り、新しく若々しいグループが一生懸命に元気一杯演じきったという印象でした。安蘭けいさんがいれば、何があっても安心と言う気持ちがありました。そういう意味では正直言って不安な所もありましたが、これから場数を踏んでいくことでよりよい組になっていくと、期待できるように思いました。

番外編  その2  「Me and My girl」   花組  梅田芸術劇場
 これまで過去5回、月組が演じてきた人気のあるミュージカルを、今回花組が演じました。私は昨年、大劇場であった月組のものを観劇し、お気に入りの演目になりました。
 大劇場での公演に比べて、舞台も小さく人数も少なく、練習時間も短く、一つの登場人物をダブルキャストで演じるなどと言う、ある意味で大変な公演であったようです。皆さん頑張っておられましたが、正直言ってちょっと滑っている感じがしました。面白く、楽しくしようとアドリブなどを入れておられ、それなりに受けてはいましたが、内容の緻密さが薄れたようです。
 それらのことは別として、やはり楽しい、見ていてハッピーになるミュージカルでした。このミュージカルは海外でも多く再演され、好評です。宝塚に限らずこのミュージカルがあれば、一度ご覧下さい。ミュージカル入門編として最適、お薦めです。

白 江 医 院 白江 淳郎

2009/07/01 2009年6月の読書ノート
(1)アマゾンの森と川を行く   高野潤   中公新書
 アマゾン川と聞くと、あまりにも大きく捕らえ所の無い感じがしてしまいます。想像の範囲を超えてしまっています。巨大な魚や蛇、あまりなじみの無い動物達、所謂文明社会と接触を持ったことの無い、少数民族たち。
 筆者は写真家で、アマゾンに魅せられ、ペルーやボリビヤのアマゾンの源流に近いところを何度も旅して多くの動物や、人たちと出会います。写真家だけあって感動的な写真が多く掲載されています。ここの動物達が写っている写真はよく判るのですが、風景となると大きさがどうもわかりません。人が少しでも写っていると、どうにか判断できるのですが、それが無ければ日本の風景の感覚で見てしまいます。
 正直言ってドキュメンタリーのテレビ番組として見たいと思いますが、その場所に行く勇気はありません。巨大なボア(大蛇)に会う事を想像したら、生きた心地がしませんでした。

(2)「日本人力」クイズ   清野徹   文藝新書
 最近の日本人を見ていると、人間としての常識が欠如している人をよく見かけます。筆者はその様な人たちに対して、「本を読め」と言います。特に小説を読むことによって、心の機微、人の心を思いやる姿勢が出来るはずだと筆者は考えます。
 そこで筆者は、日本人が常識として持っているべき文学についての知識を、クイズ形式で紹介しています。本好きの人たちにとっては常識問題かも知れませんが、雑学や薀蓄を傾けるにはなかなか面白い本だと思いました。
 各問題で点数を付けていき、日本人力を判定します。因みに私は国宝級「日本人」でした。

(3)世襲議員のからくり   上杉隆   文春新書

 二期続いた首相の政権投げ出し、次に出てきた首相はどう見ても下品で知性が欠如している、と散々な人たちですが、この人たちの共通項は世襲議員ということです。自民党、特にその中でも権力の中枢に近い人たちに、この世襲議員が多くいます。
 なぜこのような人たちが出てくるのか、その要因を当選するのに必要と言われている地盤、看板、鞄の三つの分野から見て検証してあります。
 地盤、看板はよく判りますが、鞄(お金)の件は、筆者が明らかにするまで政治家は知らしむべからずで、ほぼ意図的に隠してきました。私たちで言えば相続税に当たるものが、政治資金管理団体には掛からないのです。親の代議員が引退する時、子供にその選挙区から立候補させ、新たに政治資金管理団体を作り、そこに親の政治資金を全額振り込むことは、何の問題も無いことなのです。
私達の社会で、親が亡くなりその相続税が払えずに家屋敷を泣く泣く競売にかけた、などということはよく聞きますが、政治家にはその心配は無く、全額子供が引き継ぐ事ができるのです。
 このようなことが許されているのですから、世襲議員は出発点で大きなアドヴァンテージをもらっている事になります。政治家を志す、バックグラウンドの無い人が太刀打ちできるはずもありません。又これ等の世襲議員には、地域の後援会組織があり、これらも様々な利権を生み出すもとになっています。後援会にはどんなに劣った資質でも看板が必要ですから、世襲議員を必要とします。まさに持ちつ持たれつの関係です。
このように馬鹿げた政治を変えていくのは、私達の意識を正しく持つことしか無いでしょう。神奈川県の方々が、良識を持って世襲議員に投票しないことを望みます。


(4)司馬遼太郎が考えたこと(15)   司馬遼太郎   新潮文庫
 1990年10月から1996年2月までのエッセイを集めてあります。司馬さんのお亡くなりになる直前までの期間です。
 好きだった子規の話、経験した昭和史の話、坂本竜馬をはじめ幕末に活躍した人たちの人物像やその評価、日露戦争以後あの愚かしい戦争を始めるまで30年くらいしか経っていなかったという指摘、一つ一つのエッセイが、それなりの重みを持って響いてきます。
 これ等のエッセイ以後、司馬さんの文章、考えに接する事が出来なくなったので、感慨は一入です。
 あのころと言えば、バブルが崩壊し社会が落ち込み、それでもバブルに又すがりたいと考えるような人がいてと言った時代でした。いつまで経っても私達日本人は学習したことを忘れ、不真面目に生きてしまっているように思えてなりません。

(5))人類進化99の謎   河合信和   文春新書
 ネアンデルタール人、クロマニヨン人、北京原人、ジャワ原人、私達の祖先と言われている古代の所謂原人達。ばらばらの知識は頭に入っているのですが、それが整理されてはいません。又その人たちは、一体どんな格好をしていたのだろうかと言うイメージもわいてきません。
 外見は、ゴリラやチンパンジーとどのようにちがっていたのでしょうか。何をもって、お猿さんではなく人類のご先祖様と言えるのでしょうか。次々に沸き起こってくる疑問に、見開き2ページで答えてくれています。どこから読もうと、面白い話題、疑問を取り上げてあるので楽に読めました。ちょっとした知識で、薀蓄を傾けるのによい本でした。
 大体10年に一回ほどの確率で、新発見が出るそうです。それらが出るたびに人類のご先祖の発生した時代が百万年単位で古くなっていきます。現在の知識では最古と思われる人類の祖先は、サヘラントロプス チャデンシスという700万年前のヒト?だそうです。気が遠くなりそうです。

(6)司馬遼太郎が考えたこと(14)   司馬遼太郎   新潮文庫
 1987年5月から1990年10月までのエッセイを集めてあります。昭和天皇が崩御され、バブルが崩壊した頃です。司馬さんのかなり円熟していた時期で、「韃靼疾風録」や「街道をゆく」ではイギリス、オランダへ行かれたころです。
内容も結構面白いものが沢山ありました。「21世紀を生きる君たちへ」と言うエッセイは小学生向けに書かれた物で有名ですが、日本語についての考えを紹介してある「なによりも国語」には共感できました。
 昭和天皇の事を書いた「空に徹しぬいた偉大さ」は天皇の戦争責任に対して、新しい切り口のように思いました。

(7)からだが変わる体幹ウォーキング   金哲彦   平凡社新書
 ウォーキングを行っている方はたくさん居られると思いますが、姿勢や意識次第でそれがより効果的になると言う事です。その方法は体幹の筋肉を有効に使うことです。その方法について詳しく説明されています。
エッセンスを言ってしまえば、胸を開き、下腹に意識を持ち、骨盤を前に傾けると言う事です。もう少し簡単に言うと胸をはり、下腹に力を入れて引っ込め、お尻の穴を締める、これに尽きます。これは常々、私が患者さんに指導してきた事と同じで、なーんだと言う事ですが。
このようによい姿勢を意識して歩く事で、体幹の筋肉を有効に使うことができ、同じ距離を歩くにしてもより多くのエネルギーを消費する事が出来ます。
自動車の保有台数の増加カーブと、所謂成人病の患者さんの増加カーブは平行しています。皆があまり歩かなくなってから、これ等の病気は増加してきました。一番手ごろに出来る健康法はやはり歩く事でしょう。この本を参考に、皆さん歩き始めましょう。

(8)一度は拝したい奈良の仏像   山崎隆之   学研新書
奈良の近くに住んでいるのに、じっくりと仏像を見た事がありません。ましてや家内の実家は法隆寺の境内と言っていいような所なのですが、真剣に法隆寺を拝観した記憶がありません。いつでも行ける、しかし行った時は休日だったりするのでひどく込んでいて、途中で面倒くさくなる、と言う悪循環の繰り返しです。
この本は阿修羅像や救世観音像などを紹介し、その美的、宗教的な意義を紹介するだけでなく、その作られ方を仏像の内部構造を紹介しながら説明してくれています。ここがこの本の目新しい所です。
今回阿修羅像が非常な興味を与えていますが、このような仏像はその安置されているお寺へ行き、周囲の環境に溶け込んだその雰囲気のなかで拝するのが、本来の鑑賞方法でしょう。そういう意味で、私達は非常に恵まれた環境にいるわけです。時間の余裕があれば、この本を持って奈良県内を歩いてみたい物です。

(9)おでんの丸かじり   東海林さだお   文春文庫
 週刊朝日に掲載中の「あれも食いたいこれも食いたい」に載った作品を文庫本にしたものです。私はどうも縦に書かれた文章が何段もあるのが苦手でして、縦一段の本はよいのですが、週刊誌がどういう訳か読みにくいのです。新聞は平気で読んでいるのですが、週刊誌がどうも読めないという変な体質?なのです。
 と言うわけで文庫本は楽に、あっという間に読めました。東海林さんは、私達がちょっとはひっかかってはいるが、そう気にはとめていないことを気付かせてくれます。例えば栗蒸し羊羹の栗が無くなった空間の空虚さ、カレー丼の評価等など。
 このような発想で毎日を過ごせたら、人生にも余裕が出来てくるのだろうと思ってしまいます。気軽に読んでください。

(10)落下傘学長奮闘記   黒木登志夫   中公新書ラクレ
 平成16年、国立大学はいっせいに法人化し、国立大学法人になりました。この前後の時期に、予想もしなかった岐阜大学学長になった、東京大学医科学研究所の教授の奮闘記です。
研究者の望みは、運営や政治的な働き、管理業務には出来るだけ関係せず、自分の研究に打ち込みたいといったことでしょう。それが図らずも全くそれまでかかわりの無かった岐阜大学の、しかも管理や、政治的な動きも必要となる学長になってしまったのです。筆者は大学の法人化を、ネガティブに捕らえず、自由にいろいろな事が出来る権利を獲た、と考えます。しかし現実は、この法人化は財政を切り詰める為だけで考えられていたようです。
 財政諮問会議という小泉政権が作った、財界人が自分の都合のいい事を提言する会議の決定に、大学などの高等教育だけでなく、全ての教育が巻き込まれていきます。その結果研究などの質は低下して行き、そのうち地方の国立大学は立ち行かなくなってくるでしょう。医学部を持っている、地方の国立大学はなおさらで、研究も出来ずその地方の医療の中心、又最後の砦としての機能を果たせなくなって来ています。
 筆者は様々な努力で、岐阜大学のみならず地方の旧国立大学の存続を図っています。旧帝国大学、特に東京大学のひとり勝ちではなく、教育、研究の多様性を維持することが日本にとっても必要な事であると述べられています。まさに正論です。そもそも教育や医学に競争原理を持ち込み、それにより質が向上するなどということがあり得るのでしょうか。
 教育や大学運営、又実際の医療現場について素人の会社社長が、経済諮問会議でお金だけを中心に提言し、それをトップダウンで政策に取り入れるなど、将来の日本に対して責任を持つ政治家のすることでしょうか。

番外編 宝塚歌劇団 月組 「エリザベート」
 エリザベートです。興味の無い方は、「なにそれ?」と思われるかもしれませんが、「宝塚のエリザベート」なのです。抽選で入場券の応募をしたのですが、取れません。宝塚友の会のメンバーでも、かすりもしませんでした。
 それが知人のご厚意で、観劇する事が出来ました。感謝、感謝です。
 物語は、オーストリア ハプスブルグ家最後の皇帝フランツ ヨーゼフに嫁いだ天真爛漫だった娘のエリザベートがたどる数奇な人生を主題に展開して行きます。おてんば少女だった頃、彼女は木に渡したロープを渡ろうとして落ち、瀕死の重傷を負います。この生死の境にいるとき、彼女は黄泉の国の帝王、トートに出会います。彼女の美しさに魅せられたトートは、生きている彼女を愛したいと考え、生の世界へ彼女を帰します。
ここから、エリザベートを中心として、皇帝ヨーゼフ、黄泉の帝王トート、オーストリア王室、ハンガリー独立運動などが絡み合い、息をもつかせない展開となっていきます。
エリザベートは劇のストーリーの面白さだけでなく、その音楽も素晴らしい物です。以前よりこのミュージカルは好きでしたが、実際の舞台を見れば面白さにはまってしまいます。
 宝塚では海外で評判のミュージカルを公演します。そのミュージカルを宝塚風に味付けをし(小池先生の素晴らしい所です)、私達を楽しませてくれるのです。宝塚の人気の秘密がよく判り満足できました。
また月組で、今度は霧矢さんのトートを見てみたいものです。

さあ7月は「太王四神記」と「Me and My Girl」だ。

白 江 医 院 白江 淳郎

2009/06/01 2009年5月の読書ノート
(1)俳句脳  茂木健一郎 黛まどか  角川oneテーマ21
 俳句はわずか17文字を使い、しかも季語を使うと言う制約もありながら、自然の情景、心の動き、人生観などを表現していきます。この俳句の発想の根幹を成しているのが、茂木さんの言う「クオリア」を留めて置く必死な営みなのです。クオリアというのは「今、ここ」で感じられて、あっという間に過ぎ去ってしまう質感の事を言うそうです。
まだまだ難しいですが、よくは分からない人でも、俳句の一瞬を詠んだ句を考えれば、理解し易いはずです。古池があり、カエルが飛び込んだ音が聞こえた、と言う一瞬の事でも、そこから春の花の咲いた物憂げな静かさや、それに連れて昔春にあった悲しい出来事、人生の転換、その様なものが連想され、句が深められていくのです。
俳句は17文字に言葉を絞り込んで行き、絵で言えば大きな余白を作る事により発想を広げていきます。「余白を紡ぐ」と黛さんは表現しておられますが、まさにそれが俳句の楽しみでしょう。又自然と向かいあう事で人生をより有意義な物にしていく事が出来ると言う指摘も、なるほどと感じました。新聞に投稿された俳句しか見ない私ですが、本格的に勉強したいと言う気持ちになってきました。
難しい理論の勉強よりも、自然と同じ高さで向き合う事が第一歩だと思いますし、日本人は元来その様にして生きてきたのだと考えます。

(2)政権交代論  山口二郎  岩波新書
 自民党政権がもはやその機能を失い、それに変る受け皿が必要になってきました。従来この政権交代に対して、多くの意見を述べている山口先生の本です。諸外国の政治や政権交代を紹介しながら、日本でそれが可能か、又それがどの様な型で行えるのかを考察してあります。
今私達に必要なのは、財界が最終的に潤うような莫大なお金のつぎ込み方ではなく、小泉に底辺に突き落とされた社会的弱者を助け、皆でそこそこの生活が出来るようにする事ではないでしょうか。後期高齢者医療然り、母子加算廃止然り、障害者自立支援法然りです。
安心があれば、消費も生まれます。回り道で時間はかかるでしょうが、それが皆が幸福になる方法でしょう。このような社会民主主義的なスタンスこそ、民主党が伸びていく一番良い方法でしょう。しかし今回の小沢の辞表発表、党首選挙の怪しさで、自分からアピールしていくことを放棄したように思えてなりません。それを払拭するには、岡田さんを党首に担いで、あの不真面目な麻生自民党と正論で対決する事ではないでしょうか。

(3)日本の曖昧力  呉 善花  PHP新書

 韓国生まれで、拓殖大学の教授である筆者が語る、日本文化論です。外国人から見て、日本人は態度を明らかにする事が苦手で、何を考えているのかわからない、不可思議な国民のようです。しかしその曖昧さは長年に亘って、この国の自然、地形の中で暮らしてきた、私たちの先祖が作り出してきた物です。
 筆者はこれ等を証明する為に、山口県の日本海沿岸にある棚田の風景、生け花、やきもの等の写真を示し説明をしてくれています。
 私がこれまで日本について考えていた事と、違う視点から述べられている日本文化論で、なかなか面白く読めました。縄文時代が日本文化の特異性を生んだ、日本語はなぜ「受け身」を多用するのか、など興味ある切り口です。
 拓殖大学で超人気の(変な日本語だと思いませんか)多国籍講義と、本の帯に書いてありましたが、それも判るような気がしました。


(4)「自然との共生」というウソ  高橋敬一  祥伝社新書
 ドーキンスの「利己的な遺伝子」の考えを基にして、自然と私達の関り方について述べた本です。雑誌に掲載されていた物をまとめて本にした物なので、同じ主張が何度も繰り返され、最後の頃はしんどくなってしまいます。
 私の好きな、ニュー ジーランドのあの牧場等の風景も、多くは昔からの自然を破壊しつくして出来た物です。それは判っていますが、現在のその姿を愛でて、それを素晴らしいと思うのは当然です。一体それをどうしたらいいのだと、逆に問いただしたいと思いました。

(5))昭和史を動かしたアメリカ情報機関
 元々モンロー主義で世界に目を向けていなかったアメリカですが、国際舞台で主要な地位を担うにつれ、所謂インテリジェンスの分野が必要になってきます。日本とそれらの組織は年々、色々な意味でかかわりが強くなってきました。
 第二次世界大戦、敗戦後の天皇制をどうするか、東西冷戦を視野に入れた占領政策、テレビの導入、これら様々な事にアメリカの情報機関が関与し、アメリカの利益になるよう色々な行動を起こします。それによって利益を得た多くの日本人もいます。正力松太郎然り、(それで読売新聞、放送は右なんだ)、岸信介然り。
 戦後の占領政策や、ソ連との対立を有利に進めていくために、アメリカの情報機関が行った仕事や関った人たちのところになると、知っている人も多く出てくるので、俄然面白くなってきます。詳細は読んでのお楽しみと言う事にしておきましょう。
 筆者はアメリカの方々の図書館などで、公開された公文書を探し、歴史にうずもれた真実を解き明かしていきます。なかなかの力作でした。

(6)日本の戦争力
 軍事アナリストで有名な、小川和久さんが、坂本衛さんの質問に答えると言う形で、日本の軍事力について解説しています。これまで日本は憲法九条の解釈を曖昧にしたまま、自衛隊の存在を容認してきました。この際、現在の自衛隊の実力を明らかにし、その有用性を検証していくことが必要になっていくと思われます。
 この本を読んで行って、小川さんの解説に腑の落ちる事が多々ありました。平和国家をどう作っていくかと言う、私達の課題に正面から取り組んだ有益な本だと思いました。
これまで、軍事や国際政治を知らない政治家に、騙されてきた事か、情けなく思いました。先制攻撃論等を自民党の一部議員が主張しているようですが、そんなものは出来っこないと言う事が、実に明快に述べられています。

(7)資本主義崩壊の首謀者たち
 20年前にソ連が崩壊した時、資本主義が勝利したと言われましたが、今度はアメリカが主導する資本主義が崩壊してしまいました。それで世界が目覚め、いい方向にむいて行ってくれればよいのですが、実際はその様に甘くは行かないようです。
 そもそもこの資本主義の暴走は、ブッシュによる新自由主義経済が原因だと思っていました。しかしこの本を読むと、それはもっと早く、クリントン政権時代から始まっていたようです。その頃から続くアメリカの金融資本の暴走を、筆者は家系図を本に解き明かして生きます。そこにはロスチャイルドをはじめ様々なユダヤ資本が、血族関係を作りながら政治の中に食い込んでいる様子が、詳細に語られています。
 環境問題の旗手のように思われている、ゴアもその様な一族に、娘の結婚を介して入り込んでいきました。現在のオバマ政権の経済官僚のトップの人たちは、クリントン、ブッシュ、オバマとトップの面子は変えながらも、ルーツは同じ人たちが自分達の利益を上手く誘導するように、仕事を行ってきました。今日の世界経済の間違えは彼らが主導してきました。彼らを救済するために、アメリカや日本の国民の税金が投入されようとしています。
 このような間違った資本主義の暴走を許し、推し進めたのが小泉、竹中です。またそれに寄生した宮内に象徴される規制改革を声高に叫ぶグループです。郵政民営化を叫び、私達の税金をアメリカに貢いでいます。このような輩を許していいのでしょうか。のうのうと、大きな顔で人前に出る事を許し、今なお首相にふさわしい人のランキングに入れているというのは、日本人の知能を疑わざるを得ません。
 正直言ってこの本を読んで絶望的な気分になりました。

(8)史実を歩く  吉村昭  文春文庫
 戦史小説、歴史小説で有名な吉村昭さんが、取材された経過を紹介した、結構面白い本でした。日本の歴史でそう取り上げられる事の無い、大事件にまつわるちょっとした事、それらのディテイルをしっかりと固めていく事で、面白い小説が出来上がるのでしょう。
 小説家の先生は、それなりの苦労をされていることは頭ではわかっていましたが、やはり大変だと思いました。苦労を偲びながら、楽しく気楽に読まれては如何でしょうか。

(9)化粧する脳  茂木健一郎  集英社新書
 考えるまでも無いことですが、化粧をするということは、人間の、しかも女性特有の行為です。大脳生理学の知識を駆使しながら、筆者は特に女性の自分と他人を区別する能力、自分と社会とを判断する能力を考察していきます。
ミラー ニューロンという、他人の行為を自分に反映させる特殊な神経が脳内に発見されました。そのニューロンにより、人間の社会的な存在感が生まれてくるのでしょう。お化粧をする前後で顔を認識するニューロンの働く場所は異なります。自分の化粧後を認識するニューロンのその場所で、他人の化粧前後の顔を認識します。つまりお化粧をした自分の顔と他人のおけしょうをする、しないに関らず、認識する場所は同じなのです。
自分と他人、化粧したあとの顔を持っている自分、それらは同格に扱われています。脳の働く場所は同じだと言う事です。化粧すると言う事は、社会的存在として自分を作り上げていく事でしょう。
このような研究がこれまで行われなかったのは不思議な事です。面白い本でした。

(10)科学の扉をノックする  小川洋子  集英社
 「博士の愛した数式」を書いた小川洋子さんが、宇宙、鉱物、遺伝子解読などの世界最先端を行く研究者を訪ね、興味ある話を聞きます。早稲田大学第一文学部卒業と言う事ですが、この人は科学が好きな人だと感じました。次々と興味がわき、尋ねていてきます。私も考えつかないような疑問を持てるというのは、やはりアタマが柔軟でセンスがあるのでしょう。
 50歳をとうに越し、頭の固くなった私は筆者の頭の柔軟さが羨ましくて仕方がありませんでした。
なぜ阪神のトレーニング コーチの続木さんが出てくるのかと思いましたが、筆者も阪神ファンということで納得しました。
 登場された人たちのなかで私が知っていたのは、遺体科学の遠藤さんと、阪神の続木さんだけでしたが、賢い人というのはたくさん居られるのだと言う事が判りました。

番外編 宝塚歌劇団 宙組 「薔薇に降る雨」 「Amour それは」
 大和悠河さんの卒業公演ということで、出かけました。娘が大和さんのファン、長女の高校の同級生が宙組若手で活躍中、私が蘭寿さん、北翔さんのファンと言う事で、二回も行ってしまいました。
 「薔薇に降る雨」は単なるラブロマンス劇のように当初は感じましたが、話が進んでいくに連れて推理小説の様な所や人生の葛藤といった部分も出てきて、結構楽しめました。
 レビューの方は、なかなか綺麗な舞台でこれも楽しめました。あまり大和さんの宝塚最後の舞台と言う事を強調せず、レビューの美しさ、楽しさを堪能させてくれました。

さあ6月は「エリザベート」だ。

白 江 医 院 白江 淳郎

2009/05/01 2009年4月の読書ノート
(1)強欲資本主義 ウォール街の自爆  神谷秀樹  文春新書
 小泉 竹中路線による、新自由主義政策の破綻は誰が見ても明らかになってきました。効率、自己責任といった言葉によって、様々な物が切り捨てられ、多くの人たちが不幸になっています。その張本人たちは、のうのうとまだ大きな顔をして、偉そうな事をいっています。今日言われている医療崩壊も、木で言えば枝葉の部分で問題が出てきているような物で、これからは幹の部分が腐ってくるでしょう。
 アメリカは世界一の大国で、世界一強いと思われてきましたが、先日来の景気低迷振りを見ていると、大した事もないのでは、と思ってしまいます。アメリカは有力な工業生産国ではもう無くなり、消費大国になってしまいました。しかもその消費に使うお金は、自己資金ではなく、銀行から借りたお金が多いようです。自分で作ることなく、借りたお金を右から左に回すことで、活発な経済活動をしているように見えていただけのようです。
 銀行も私達が以前持っていた、お客さんからお金を集めて優良な企業にそれを貸し、それから得た利益をお客さんに還元する、と言った物ではもうなくなってしまいました。自己資本を拡大する為あとは野となれ山となれで、会社を買収したりそれを高い値段で売り抜けたりと言う事が、主体の仕事になりました。人間関係を重視する事や、相手の立場を慮ると言った事はとうに忘れ去られ、お金儲けをした人が、勝ち組で他人を支配し、あとの負け組は底辺に落ちていきます。
 今回の経済破綻で、このような阿漕な事をしていた人たちが去って言ってくれれば良いのですが、彼らは国家に庇護されている為、またぞろ出てくるでしょう。銀行の救済のため、多額の税金を注入した事をご記憶の方は多いと思います。
 日本はいつまで実力も無くなったアメリカに、恋々としているのでしょうか。日本独自の道を早く歩みだすべきでしょう。自民党も、民主党も期待出来ないし。

(2)中華美味紀行  南條竹則  新潮新書
 私にとって始めての筆者ですが、大変な中国通のようです。旅行するたびに様々な料理を堪能され、それらを紹介して居られます。一度行って食べてみたい気もしますが、普通の旅行では無理でしょう。となると、国内で中華料理を、この本を思い出しながら食べてみることです。
 先日、以前も紹介した福臨門酒家で、びっくりするほど美味しい酢豚を食べました。ブタのフライがサクサクでしかもしっとりとして、全く初めての経験でした。支配人の劉さんに聞くと、『骨付きの酢豚』と注文してくださいとのこと。単に酢豚と注文すると、私達が食べなれているあの酢豚が出てくるそうです。これはお薦めです。是非ご賞味下さい。
 どうも変な読書ノートになってしまいましたが、まだあの酢豚を忘れられない私です。

(3)やめたら  大橋巨泉  角川oneテーマ21

 大橋巨泉さんが今の日本に、『遺言』のつもりで警鐘を与えています。生活、政治、スポーツ様々な分野に対して、至極もっともな意見を述べておられます。
 昔私がまだ若かった頃、このような意見はやや右よりの甘っちょろい考えのように受け取られていたように思います。それが今日では、左がかった意見のように取られているようです。中立で有らねばならない司法、行政、立法が国民をミスリードして行っています。ここでどうにか食い止め、正常な方向に押し戻さねばなりません。
巨泉さんもこの本で述べておられますが、戦後教育を誤ったのは日教組だと思います。しっかりと反戦、平和、戦争放棄という日本国憲法の精神を教育しておけば、政治家が先導している最近の軍国主義的な、又浅はかな国家主義には落ち入らなかったでしょう。又憲法を一番守らなければならない政治家が、これまでのような憲法を無視するような、傍若無人な態度に出てこなかったのでは、と思ってしまいます。今憲法改正や、日本を軍国化するような発言をする人たちは、戦後教育を受けてきた人たちです。一体彼らは、どの様な授業や家庭教育を受けてきたのでしょうか。
この本に書かれているテレビやゴルフの事は、興味が無いためあまり良くわかりませんが、多くは至極もっともな意見だと思います。こんな事まで、頑張って主張しなければならない社会状況とは、一体何なのか、考えさせられます。


(4)パンデミック  小林照幸  新潮新書
 新型インフルエンザの発生が危惧されていますが、結構対岸の火事のように思われているようです。しかしいつ発生してもおかしくない状態なのです。
 もし新型インフルエンザが発生したときに、私達医療関係者はどの様に対処するのか、と言うマニュアルは未だ出来ていません。藤井寺市医師会も対応を検討していますが、これは行政も含めた大きな問題です。しかし大阪府の方針がはっきりとは決まっていないので、動きようもありません。困った事です。
この本は、一般的な啓蒙書としてはまあ良い本だと思います。ちょっと違うかな、と思うところもありますが、大まかな知識を得るには良いでしょう。

(5)地団駄は島根で踏め  わぐりたかし  光文社新書
 普段私達が何気なく使っている言葉、例えば「チンタラ」、「ごたごた」、「うんともすんとも」、等等、これ等の言葉の生まれた土地を旅して、その由来の場所を紹介してあります。
 「つつがなく」や「うだつが上がらない」などはその来歴を知ってはいましたが、「どろぼう」、「関の山」等は全く知りませんでした。このような事の薀蓄を傾ける為に読むのも面白いでしょうが、旅行記として読んでも面白いと思いました。
 因みに、大阪と関係があるのは「縁の下の力持ち」、京都は「あいづちを打つ」、「あとの祭り」、「らちがあかない」、奈良は「大黒柱」、「もとのもくあみ」でした。

(6)底辺のアメリカ人 林壮一  光文社新書
 オバマ氏がアメリカ大統領になって、どの様にアメリカが変っていくのか、興味のあるところです。この本はちょうどその大統領選挙と同時進行で、マイノリティーの人々にインタビューをする形を取っています。
ホワイト、ブラック、ヒスパニック、アジアン様々な人種がアメリカにいます。しかしその人種間の差別、偏見はまだ根深い物があるようです。多くの移民は、社会の底辺を形作ってきました。差別などに打ち勝って、指導的地位に就く人たちもある反面、ホワイトの人たちもホームレスになったりして、弱者になってしまいます。ブッシュをリーダーとする共和党政権は、これらの人たちを切り捨てる、或いは無視するような政治を行ってきました。
それらの人たちは当然オバマによる変革を求めたでしょうし、失礼な言い方かもしれませんが、この本を読む限り、マケインでは初めから勝負にはならなかったでしょう。

(7)世界がわかる理系の名著  鎌田浩毅  文春新書
 それまでの人類の価値観を変えた、14冊の所謂理系の本を、「書いたのはこんな人」、「こんな事が書いてある」、「その後、世界はどう変ったか」、「エピソード」「科学者の教訓」「さわりピックアップ」と言った項目で紹介してあります。筆者は京大の教授で、「京大で受けたい授業1の名物教授」だそうですが、この本を読むに連れて、人気の所以が良くわかってきます。
理系の研究者でも、文章が上手くなければその理論を理解してもらえません。古今の名著の筆者はやはり文章の達人だったのでしょう。しかし、アインシュタインの「特殊相対性理論」のさわりを読みましたが、サッパリ判りませんでした。やはり賢い人は賢いのです。英語、国語、世界史、生物で点を稼いで、数学、物理の穴を埋め、どうにか医学部に入った私にとってはやはり重荷でした。
しかしこの本は、論点の進め方などは、やはり理科系で私が普段読む論文の話の進め方に準じているので、違和感無く頭に入ってきました。入門編の本としては、なかなか良い本だと思いました。読みやすさなどから、お薦めの一冊です。

(8)ぼけせん川柳  山藤章二  講談社+α文庫
月刊現代と言う雑誌が行っている、「ぼけせん町内会」と言うコーナーで優秀だった川柳を掲載してあります。時期から言うと、1995年7月から2003年6月までです。社会の出来事から言うと、村山首相が、社会党が大敗したにもかかわらず続投をした頃から、星野監督の二年目で阪神が快進撃をしていた時期までです。
ここで山藤さんも指摘している事ですが、川柳と言うのはその時の時事問題を詠むだけではいけなくて、後々まで説得力のあるものではならないと言う事です。
読んでいて笑ってしまう川柳も多かったのですが、やはりその時だけ笑える物よりは、普遍性を持った物の方が面白いと感じました。
気楽に、能天気に読めば面白い本です。

(9)会社の電気はいちいち消すな  坂口孝則  光文社新書
 コスト軽減をするのに、どの様に考えて実行すればよいのかということが書かれています。利益と言うものをどう考えるか、単純に考えればわかることです。専門の言葉を使って、又数式を使って説明されると難しい物のように思ってしまいますが、この本を読んでみると簡単な物であるように思えてしまいます。
 筆者はコスト削減について考える時、
● 人間は、愉しいこと、自分の利益になることしか進んでやろうとしない
● 人間は、ルールやシステムがないと、高い倫理観を持ち続けられない
● 人間は、強制的にやらされることしか達成できない
ということを述べていますが、なかなか言いえて妙だと思います。
 やはり皆で共通の意識を持つことが大事でしょう。
 又筆者は、倹約する事をダイエットに例えていますが、これもなかなか面白い例えだと思いました。

(10)司馬遼太郎が考えたこと  司馬遼太郎  新潮文庫
 1985年1月から1987年5月まで、司馬遼太郎さんが書かれたエッセイを収録してあります。ちょうど、バブルで日本中が舞い上がっていた頃です。これと言ったルールも無く掲載されていますが、根底には、司馬さんの主義、主張が見て取れます。今の時代を司馬さんが生きておられれば、どの様に評価されるのでしょう。
 短い文章ですが、「心のための機関」と言う物があります。これは橋本知事が、非効率で、隠れて監視していたら職員は働いていない、と批判して廃止を決定した大阪国際児童文学館に対して、司馬さんが寄せた物ですが、この精神の気高さと、橋本氏の精神の下品さにギャップを感じざるを得ません。
 このブログを始めるまで、私は毎年一回「坂の上の雲」と「街道をゆく」全巻を読むことにしていました。司馬さんの文章のリズムと、精神に触れる事が心地よかったからです。しかし毎年同じ物の紹介は出来ないので、司馬さんの作品から少し遠ざかっていました。今回この本を読み始めて、私の体のリズムにあった文章だと言う事を再確認し、快い気分になりました。ただし世界は司馬さんが危惧しておられるような、危うい方向に歯止め無く進んでいってしまっています。これを止めるのは、皆さんの一つ一つの小さな力だと思います。

(11)偽善の医療  里見清一  新潮新書
 一体いつの頃から、患者さんの事を「患者様」又と呼ぶようになったのでしょうか。正直言ってこの言葉をはじめて聞いた時には、背中に虫唾が走りました。勿論私達は患者さんを見下した事はありませんが、もみ手をしてへりくだるつもりも全くありません。私達は学生時代には膨大な量の勉強をした後医師という国家資格を持ち、その後も研修医や大学院、助手時代には様々な患者さんとめぐり合うことで知識や研鑽を深めてきました。その様なバックボーンを持って、患者さんと同じ立場に立ちながら、快方に向かってもらうように指導、治療をしていく職業だと考えています。
 形では下手にいて心の中では見下している、その様な物はだめでしょう。
 筆者は私達が日頃感じている、現代医療の不合理、欺瞞を紹介し、問題提起をしていきます。私の考えと違う物も少しはありますが、良くぞ言ってくれたと言う気分です。

白 江 医 院 白江 淳郎

2009/04/01 2009年3月の読書ノート
(1)大名の日本地図  中嶋繁雄  文春新書
 江戸時代には全国280の藩がありました。その各々が形式的には江戸幕府の命令下にあるとはいえ、実質的には独立国として存在していました。勿論そこに居る大名達は、同じ家が続いたと言うわけではありません。跡継ぎがない場合や、不祥事があった場合に取り潰され、新しい大名に代わった場合もあれば、定期的な転勤のような形で新しい任地に変っていった例もあります。
 この本は全国全ての藩の大名の移り変わりや、そこでおこった事件、大名が藩の政治にどの様に取り組んで言ったかが、詳しく著されています。
 江戸時代の中頃になると、各藩の経済が段々と立ち行かなくなってきます。多くの藩は特産品を藩の専売品にしたり、新田を開発したりして増収を図る一方、贅沢を禁止して必死の生き残りを図ります。大名の食事を一汁一菜に制限したり、服は絹を着ずに、木綿で済ませたりと言うような努力をします。藩士のリストラをしたところも有りました。まるで今日の日本を見ているようです。
 又跡継ぎが無ければ、その藩は改易されるわけですから、それに対しての対策も行われていました。大きな藩ならば、一万石程度の小さな藩をいくつか、いわば分家させておき、跡継ぎができない場合には、養子としてその小さな藩からお世継ぎを迎えるといった方法です。ある意味必死の延命策でしょう。
 それにしても筆者は丹念に、各藩の歴史を調べておられるので、感心しました。それを全部読み続けた私も、頑張ったと褒めてあげたいような気持ちです。(笑)

(2)私は若者が嫌いだ  香山リカ  ベスト新書
 これまで若者の代弁者と言われていた(らしい)筆者が、最近の若者の精神状況について分析、解説しています。本の扉の所に、「私の嫌いな若者十か条」が書いてあります。読んでなるほどな、と思うのですが、このような人なら若者に限らず一般人として、私は許せません。
 本文にもあるのですが、子供っぽい自己愛を修正できずに大人になった人、強い自己顕示欲を持ち、また周囲への想像力が欠如している人、その様な人は私達の周囲にもかなりいるように思います。その様な子供を育ててしまった、私達の世代も大いに反省しなければなりません。
 筆者も触れているのですが、ゆとり教育導入以後、どうも子供達が変ってきた様に思えてなりません。勿論一部の乱暴な、競争を学習に持ち込み、順位をつけることで学習成果が上がるなどと言う意見に組する物ではありませんが、自分でこつこつと努力していく態度、と言う物が無くなって来ている様に思えるのです。先日豊中市の中学校で、塾の先生を呼んで補習授業を開始する時、来ていた橋下知事は、「勉強がわからないのは、君たちが悪いのではなくて先生が悪い為だ」と発言していましたが、この様な発言をする親からは、香山さんが最も嫌う現代の若者しか生まれないだろうと感じました。

(3)道路をどうするか  五十嵐敬喜、小川明雄  岩波新書

 この本を読んで、日本の将来に大きな不安を持ってしまいました。今この誤った政治を変えなければ、子供や孫達に申し訳ありません。私達にできることは、私達国民の税金を含めた資産を、私達のために正しく運用してくれる、真っ当な政党を選ぶことです。「二大政党」等と言ってはいますが、結局は旧自民党の権力争いに過ぎません。小沢代表は何しろ、越山会なのですから。
 日本の道路行政の方向がゆがみだしたのは、1952年に発効した「新道路法」からだと指摘されています。この法律は3人の議員が提出した物で、これは従来の法律案は内閣が提出する物だと言う常識から逸脱した物でした。その3人の議員の1人が田中角栄だったのです。なんとこの頃から、利権の構造に彼は食い込んでいたのです。
 その後運輸省、国土交通省を巻き込んで大きな利権が日本の中で生まれ、国民を食い物にしていきます。先進国の中で、社会保障支出、教育に係る支出は最低なのに対し、道路にかけるお金は比率として他の国の10倍以上なのです。道路特定財源の一般財政化は、かけ声だけで骨抜きにされ、ゼネコンは潤い、天下りはより巧妙になって残っていきます。
マスコミも臭い物にはフタをして、この問題に触れようとはしません。批判し警鐘を鳴らすと言う事を忘れ、権力に擦り寄っています。
 非常に暗い気分になってしまいました。しかし先ほども言ったように、麻生がいくら逃げ回っても、この9月には選挙があります。政治を私達の手に取り戻しましょう。


(4)ためらいの倫理学  内田 樹  角川文庫
 物事を考える時、私達はまずは、そのものの持つ原理的な意味を考え、次に二元的に考え、と言う道筋をたどります。しかしその様な考え方だけでは割り切れない物が、どうしてもあります。理屈はわかるけれど、どうも何かちっと違うように思ってしまうし、それが何かと言う明確なものはないのだけれどなんかなー、というように感じたことは、皆さんおありでしょう。
 様々な物に対する私達のその様な逡巡、ためらい、これは何も決断力不足と非難される物ではなく、私たちが持っている英知だ、と筆者は励ましてくれます。一神教の世界と、私達の八百万の神様がいる国との違いでしょうか。(私が勝手に考えました。)
「思想の整体師」、または現代思想のセントバーナード犬として、筆者は自信を喪失しかけの中年叔父さんに、よって立つ道を教えてくれています。

(5)青春の東京地図  泉麻人  ちくま文庫
 私より4歳年下の筆者は、まだ戦後の臭いの残る町で、幼少期を送ります。東京とは言っても都心ではない、しかし田舎でもないどこにでもあったような下町で、過ごした思い出を書いておられますが、結構河内の田舎での私の生活と変らない所も多く、懐かしい感じがしました。ただ具体的な地名になると、東京を知らない私には、全くわかりませんが。
 慶応の中学校に入学以来、彼の行動範囲、生活圏は変っていきます。高校、大学と東京の所謂繁華街の思い出が主に語られています。私の学生時代の生活と、この辺は違っているのでどうも共感する所は少ないように思いました。
私の中学、高校時代といえば、学校の帰りに阿倍野のユーゴー書店で本を買うと言うのが、一種大人になったような、そんな気分がしたものです。あと、定期試験が終わったら、友人と天王寺動物園へ行ったのが思い出でしょうか。あの頃の動物園は、今と違って汚なかったなー。大学時代は勉強とラグビーの毎日でしたので、時に行く河原町の丸善と、一澤帆布くらいかなー、こう考えると、けっこう暗い学生生活だったように思ってしまいます。
 そんな話はともかく、この本は東京の紀行文として読めば、自分の青春時代の思いでも加味され、結構面白いのではないかと思いました。

(6)日本仏教をゆく  梅原猛  朝日文庫
 日本人は仏教を、どのような形で信心しているのでしょうか。実際我が家も、何百年も前からの仏壇があり、親鸞聖人の直筆の掛け軸がありで、何か事があれば手を合わせます。しかしお釈迦様に帰依しているのかといえばどうもそうではなく、仏壇の中に居られるご先祖様に話しかけて、お願いしているような気がして仕方が有りません。
 この本は聖徳太子から親鸞、空海、親鸞、などの宗教家、また西行、千利休、宮沢賢治などの宗教を土台にして、芸術を発展させた人たち42名の活動等を紹介してあります。歴史で勉強した人たちが、身近に感じられました。
正直言って、栄西は茶を日本に紹介した高僧だという認識でしたが、それ以外の業績は知りませんでした。これで知識がやや広がったように思いました。
私が惹かれるのは道元の世界ですが、このようなストイックな修行ができるのかと聞かれれば、自信はありません。しかしもう少し深く勉強したい物です。

(7)旅客機入門  阿施光南  光人社NF文庫
 旅客機に乗って旅行する時、色々不思議に思う事があります。ドアはなぜ外開きが多いのか、着陸する時なぜあめを配るのか、機内食はどの様にして用意されているのか等等。それらの薀蓄を傾けてある本です。飛行機に乗る前に読んでおけば、窓から見える翼のフラップの変化も興味あるものになって来るでしょう。飛行機での旅行好きの方にお薦めの一冊です。
 最近は忙しくて旅行をする時間がありませんが、いつかは又海外旅行をしたい物だと考えています。先日会合があって、他地域の医師会の先生とお話をする機会がありました。その先生は80歳を優に超えておられますが、旅行好きでヨーロッパには毎年行っておられるとのことでした。飛行機や、時差ぼけは大丈夫ですかと聞きましたが、最近ビジネスクラスはイスを倒して寝られるので、楽ですよと言う話でした。そんなものに乗った事のない私は、「そうですか」と返事するしか有りませんでした。一回はその様な、豪華な旅行をしてみたい物だと思いました。

(8)イギリス型豊かさの真実  林信吾  講談社現代新書
 収入が低くても安心して暮らせる「福祉国家」と言うように知られている、イギリスの現実を紹介してあります。老後に自分が病気になる心配をして、貯蓄に励む私たちと、老後や病気になったときにそれほど潤沢ではないにしても、国家が責任を持って面倒を見てくれると信頼を持って生活をしているイギリス人と、一体どちらが幸せなのでしょうか。
 筆者はイギリスから日本に帰ってきて、肉親の方が入院をするという経験をしました。それにより両国の福祉に対する考えの違い、しいては政治に対する考えの違いを実感します。皆さんは覚えておられるでしょうか。消費税を3%から5%に引き上げる時、政府は目的を福祉、医療を充実させる為、と説明していました。しかしいっこうに医療、福祉はよくならず、後期高齢者医療制度のように、老人の方に早く死ねと言っている医療制度ができました。施行後一年が経っているのに、かけ声だけでいっこうに見直しも無く、空しく時間が過ぎていきます。
 医療費も年々削減され、潤っているのは製薬会社と生命保険の会社だけです。要するに政府は国民の方を見ず、企業に有利なように様々な制度を作ってきただけでしょう。言い出したらキリがありませんが、筆者の言うように、国民から集めた税金を、福祉や教育にまず充分に使い、余った分で公共投資などを行うべきではないかと思います。

番外編 二人の貴公子  宝塚バウホール
 今月見た舞台について一言。
月組の若手のスター二人主演による、シェークスピア劇です。
出だしのあたりを注意して聞いておかなければ、しばらくは時代背景などが判り難い感じがしました。しかし話が進んでいくにつれ、段々と話の面白さに引き込まれていきます。性格の全く違う主役二人が、龍真咲、明日海りおというキャスティングで上手く表されていました。それを取り巻く生徒さん達もそれぞれ個性があり、満足できました。
 宝塚と言うと、大劇場での公演がメインと考えられますが、インティメットな感じのするバウホールもなかなか良い物だと思いました。

白 江 医 院 白江 淳郎

2009/03/01 2009年2月の読書ノート
(1)世界史が簡単にわかる戦争の地図帳  松村つとむ  三笠書房
 題名の通り、有名な歴史上の戦争を紹介してあります。筆者は戦争を「海洋国家」対「大陸国家」、「カトリック」対「プロテスタント」、「持てる国」対「持たざる国」、「強者」対「弱者」、「東」対「西」・「北」対「南」、と言う五つに分類して紹介しています。これは結構判り易い分類だと思いました。
 内容は色々な戦争を、表面的に流しただけで、それほど目新しい事もありませんでした。しかし高校時代、二年かけてルネッサンスまでしか世界史が進まなかった私にとって、近世の戦争は新鮮な物でした。(大学入試には世界史を取ったので、予備校では頑張りましたが。)アメリカの南北戦争以来、戦争は総力戦になり、無差別に市民も被害を受けるようになってきたと言う事は、現在のアメリカの精神風土を考える上で、示唆に富んだものでした。

(2)海風魚旅 南シナ海ドラゴン編   椎名誠   講談社文庫
 椎名誠さんが週刊現代に五年間に亘って執筆していた、日本全国の海岸、島を巡る旅行記の最終編です。今回は沖縄、新潟、青森だけでなくベトナムまで足を伸ばして、各地の人と様々な出会いを経験します。以前このシリーズでも触れたように、最近の日本の海岸線は、殆どが護岸工事とテトラポットに覆われています。元気な若者や子供達は姿を消し、老人が昔はよかったと言う話をしてくれるだけになっているようです。かつて日本は海洋国家だと言う自負がありましたが、それも今はどこに行ったのでしょうか。
 最後に訪れたベトナムで、椎名さんは日本の原風景を見つけたようです。日本はこれから円熟して老いていくべきで、今のような、欲望がギラギラした状態で老いて行くべきではないと私は考えます。

(3)烈風  ディック・フランシス  ハヤカワ文庫

六年間の、長期休筆になる前の小説です。主人公はイギリスBBC放送で天気予報のキャスターを務める、ペリイ・スチュアートという新顔です。気象予報士をしている彼は、同僚の飛行機好きに誘われて、台風の目の中を飛ぶという無謀極まりない冒険を試みます。そのため飛行機が遭難し、島に流れ着き九死に一生を得ると言う経験をします。正直言ってこのシチュエイションは無理があるなとは思いますが、場面が次々と変り登場人物も個性があり、面白く読めました。
一体何故このような冒険に手助けをしてくれる人がいるのか、又その魂胆は何なのか興味のあるところです。彼が流れ着いた島で発見した物、それが引き金になって多くの人たちの思惑が交差していきます。
従来の迫力、緻密さがちょっと薄れてきたようにも思える作品ですが、六年後にディック フランシスが見事復活した事は、喜ばしい事です。


(4)アフリカにょろり旅  青山潤  講談社文庫
 筆者は2005年6月に日本うなぎの産卵場所を、マリアナ諸島西部の海域の海山で、しかも新月の夜に産卵するということを立証した、東京大学海洋研究所塚本教授の下で、うなぎの研究をされています。このうなぎの産卵の話は、以前別の作者の「うなぎ丸の冒険」でご紹介した事があり、覚えておられる方もあろうかと思います。
 うなぎは世界で18種類居ると言われています。その17種類までは塚本教授は研究室に持っておられるのですが、アフリカ特有の最後の一種が手に入らないのです。約100年前に報告があって以来、文献にも登場しない(それ程興味をもたれていないのかもしれませんが)そのうなぎを求めて、そのうなぎを求めてモザンビーク、ザンビア、ジンバブエを旅します。マラリアにかかったり、九死に一生を得たりで大変に面白い、珍道中です。しかしこれは筆者が真剣に学問のために頑張っている為で、それが真剣であればあるほど面白いのです。
 筆者も書いていますが、このような研究が何の役に立つのかといえば、目の前の利益や、金銭至上主義の人には全く無意味な物に映るでしょう。しかし塚本教授がおっしゃったように「糞の様に思われている物が、何年も後にはそれが肥しとなって素晴らしい実が出来る」のです。
地道に、体を張って頑張っている筆者のような研究者を、大学院を出て博士号を持っている同じ身分の私としては尊敬し、憧れてしまいます。

(5)大人の時間はなぜ短いのか  一川誠  集英社新書
 時間の認識は色々の錯覚や、経験の濃密さにより異なってきます。どれほど興味を持ってその物事に打ち込んでいるか、ということも大きな問題です。楽しい事はすぐに過ぎてしまうのに、気分の乗らない事はなかなか終わってくれません。時間の認識方法に、大きな違いがあるようです。それらを筆者は、過去からの様々な実験を用いて紹介しています。そういう見方でこの本を読んだら、面白いのでしょう。
 ただ私は題に惹かれて読み始めたので、最後まで「大人の時間はなぜ短いのか」ということに、満足できる解説をしてもらえませんでした。

(6)幕末下級武士のリストラ戦記  安藤優一郎  文春新書
 幕末から明治にかけての、動乱の時代を生き抜いた下級武士の話です。山本政恒という御徒を勤めた武士、彼は筆まめであっただけでなく非常に手先の器用な人で、上手な絵も残しています。それらを還暦の祝いの時に、一念発起し本に残そうとします。その原稿がこの本のもとになりました。
 明治時代の社会の礎になったのは、江戸時代に培われた教養でしょう。その担い手が彼のような、江戸幕府を支えた下級武士たちであったといえます。この流れは、司馬遼太郎さんの「坂の上の雲」に受け継がれていきます。興味ある本ですし、一読の価値があります。

(7)心理学化する社会  斎藤環  河出文庫
 トラウマ、癒しなど、私達が出会う様々な状況を、ワンフレーズで形容する事が流行っています。以前、高村薫さんの講演を聞いた時、高村さんは「現代は漠然とした不安や、悩みを一つの言葉で表そうとしている。又その言葉で表すことで自分を分類し、それによって安心している」と言うようなお話をされていました。
 この本はまさにこの点を強調、解説した本であると思います。正直言ってそれ以上の内容を紹介する事は、私の能力では難しい事ですが、読み終わったあとではなぜか納得してしまっています。
筆者は精神化のドクターですが、精神化の人たちはこんなに難しい事を考えているのかと、感心しました。精神科の先生は言葉で勝負されるわけで、それを全部理解する事は、大変です。私の経験を例えれば、外科の大先生の手術を、あまり知識のない学生が見学しているような、この本を読んでいるとその様な心境になりました。

白 江 医 院 白江 淳郎

2009/02/02 2009年1月の読書ノート

 今年も花園ラグビ−場の、高校全国大会3回戦と、ウィ−ンフィル ニュ−イヤ−コンサ−トのラデツキ−行進曲で、一年が始まりました。
同志社大学ラグビ−部のコ−チをされ、長年に亘って、関西ドクタ−ズ ラグビ−クラブを通じて私と親交のあった、ニュ−ジ−ランド クライストチャ−チ のカンタベリ−大学 、ディック ホクリ−さんがお亡くなりになったと言う悲しいニュ−スが、新年早々もたらされました。誠実な人柄と、温かく私の娘たちの事もいつも気に掛けて頂いておりました。娘達にとって、ニュ−ジ−ランド人のおじいちゃん、と言った存在の人でした。残念です。この場を借りて、心からお悔やみ申し上げます。

さて昨年末より読み始めていた、この本から2009年の読書ノ−トが始まります。

(1)再起  ディック・フランシス  ハヤカワ文庫
 6年のブランクを経ての最新作です。どこか体調を壊されたのではないか、と心配していましたが、今回もスリリングな展開で、面白い内容でした。「競馬シリ−ズ」ファンとしては、一安心と言った所でしょう。この6年の間に、ディック フランシスは奥さんを亡くされたそうです。またディック フランシスといえば、訳者は菊池光さんという名コンビだったのですが、その菊池さんもお亡くなりになってしまっていました。なんと言う変化でしょう。ただ読んでみた感じでは、新しい訳者の北野寿美枝さんの訳が全然と言っていいほど違和感が無く、切れの良いなじみのある文章でした。これも一安心と言った所でしょう。
 物語は、競馬の八百長レ−ス、インタ−ネットギャンブル、それに纏わると考えられる殺人事件が複雑に絡み合います。主人公はレ−ス中の事故で左手を失い、今は調査員の仕事をしているシッド・ハレ−です。彼はこれまでも何回かこのシリ−ズに登場しています。生活環境も大きく変わり、再婚を考える人が出てくるようになり、これからの物語がより充実した物になっていくように思います。2008年12月には、ハヤカワノベルズで新作がまた出るようです。期待しましょう。

(2)凛とした人、卑しい人  山崎武也  講談社+α新書
 最近の日本人の卑しさに対して警鐘を鳴らし、これからどの様に生きていくべきかを述べています。読んでみて何一つ目新しい物は無く、私が祖父や祖母、両親に教えられて来た事を復習したような物です。
 このような事を書いて著さなければならなくなったほど、日本は落ちぶれたのでしょうか。どの家庭でもこのような事は、子供達に親が教え込んで当たり前なのでは、と思ってしまいます。貧しくても誇りを持って生きていた私達の子供のころと、大きく変わってきたように思います。
 ここで気をつけないと、戦前の教育が良かったと言い出す人がまた出て来るかも知れません。要注意です。

(3)生物と無生物のあいだ  福岡伸一  講談社現代新書

昨年12月の読書ノ−トでお薦めした「できそこないの男たち」の筆者、福岡伸一さんの本です。この本も実に面白い本でした。単なる学術書ではなく、筆者のアメリカ留学時代のエピソ−ドを紹介しながら、分子生物学の世界へ私達を導いてくれます。私が大学に入った約35年前、これからは分子生物学の時代だと教えられました。その頃に私がちょっと齧った事の最新の知識、またそれが導き出されるまでの研究者の苦労、葛藤、それらが実に面白く紹介されています。
福岡さんの本を読むたびに、教養から基礎に亘って勉強した大学時代の、自分が思い出されます。その頃にこの本に巡り合っていたなら、(勿論ありえないことですが)生化学や、生理学をもっと一生懸命勉強していただろうと思ってしまいます。
疾病の治療と言うのはそれはとても大事な事ですが、このような学問の基礎を探求する事はより大事な事です。このような分野こそ医学の源流だと思います。
生命とは何か、それを調節し生命を意義付けているのは何か、その様な哲学的な命題がこの本で解き明かされていきます。
この本もお薦めの一冊です。


(4)正倉院  杉本一樹  中公新書
 毎年秋に開かれる正倉院展、これはとても楽しみです。1200年前のものがその年月を感じさせず、私達の目の前に現れてきます。教科書でお目にかかった物や本で見たことがあるその実物が、目の前にあるのです。こんな素晴らしい事はありません。奈良の近所に住んでいる私達にとって、あの期間中に何回も、またふと気が向いたときに行けるというのはなんとありがたいことでしょう。
 帰りに、菊水楼、またはレストラン菊水で食事をし、三条通をぶらぶらと奈良駅まで歩く心の満ち足りた気分、贅沢だと思います。近畿に生まれて本当に良かったと思える時です。
法隆寺出身の家内は、中学校、高等学校は奈良公園の東側の東記寺町、大学は北側の北魚屋東町で過ごしていますので、古里に帰ったような気分のようです。
エジプトのピラミッドや、世界の王様の墓にある副葬品は、その人の死後の世界で役立てる為に埋葬され、それがたまたま発見されたりします。ところが正倉院は、聖武天皇の縁の品を後世に伝えるという目的で作られ、多少の紆余曲折があったにせよ1200年の間維持されてきました。その結果先ほど述べたように、私達に天平の素晴らしさを伝えてくれています。
筆者は正倉院事務所長として活躍されていますが、25年間正倉院と共に過ごされています。これからもこの人類共通の財産が、この方達の努力によって、末永く伝えられてほしいと思います。

(5)猿蟹合戦とは何か  清水義範  ちくま文庫
 色々な作者の文体を模倣して小説などを書くことを、パスティーシュと言うのだそうです。
筆者の清水義範さんは、あとがきで息抜きに書いたところ好評だった、と書いておられますが、実際面白いものでした。司馬遼太郎さんや丸谷才一さんが「猿蟹合戦」を書いたらこのようなものになったろうとか、日本国憲法前文を長嶋茂雄や、東海林さだおが解説したらとか、結構楽しめました。
知っている、またはお気に入りの作家なら良く分かり面白いのですが、知らない作家の模倣はどの様に面白いのかが良くわからない物がありました。勉強不足を恥じるしだいです。椎名誠、野坂昭如はおもしろかったなー。

(6)スカーレット ピンパーネル  バロネス オルツィ  集英社文庫
 小学校の頃図書室に「少年少女世界文学全集」というのがあり、その中に「紅はこべ」という本がありました。生意気な小学生だった私は、「少年少女」と言う題名の本を読むことが嫌いで、この本を読むことはありませんでした。しかし何十年も経ち、娘からこの本を渡され、読んでみることになりました。
 フランス革命の頃、ギロチンにかけられ民衆の狂気の中で、多くの貴族が処刑されていきました。この物語は彼らを救おうと戦った、イギリスの貴族の物語です。彼の美しい奥方はフランス人で、革命に加担した事もあるという過去を持っています。彼らの愛憎劇がこの物語の主軸です。
 皆さんご存知のように、この話は昨年宝塚星組が本邦初演した作品(「スカ ピン」です)の、原作です。ブロードウェイで大ヒットしたミュージカルを基にしたこの劇は、動きや場面の転換も面白いものでした。読売新聞が行った昨年の舞台芸術の賞も取っています。
 この本を読んで感じたのは、脚本家の仕事の面白さです。本と舞台とは少しずつ内容が異なっています。それはどの様にすればより話が盛り上がり、感動深いものになるかという考えの結果でしょう。脚本家の仕事の大変さ、楽しさの一端が分かったような気がしました。
しかし、一度舞台を見てからこの本を読んでしまったもので、会話の場面では安蘭けいさんや、遠野あすかさんの声で登場人物が話をしているように、思ってしまいました。この二人をはじめ何人かのトップやそれに近い方が宝塚を辞められます。残念な事です。(本題から外れましたが)

(7)ローマから日本が見える  塩野七生  集英社文庫
 「ローマ人の物語」の塩野七生さんが古代ローマを参考に、現代の日本を考察しておられます。ローマは色々な問題に直面しながらも、何百年もの間国家を維持し続けます。その秘密は何か、に迫ります。筆者はその大きな理由に、ローマ人たちのリストラクチャー能力の高さを挙げます。法律や社会制度などが時代にそぐわなくなってくれば、「小異を捨てて大同につく」といった考えで大胆に変革していく、またその姿勢の後ろには原因を探る真摯な態度がある、その様に筆者は考えます。これを現代日本に当てはめてみると、官僚の作る法律や政令は、無謬であるという前提で政治が行われています。しかしその法律が作られた根本精神に間違いは無かったにせよ、時代に合わなければ、それは悪法です。
 昨今の特別給付金の騒ぎを見ても、お分かりでしょう。その誤りを正すことは何も官僚、創価学会の面子を潰す事ではありません。その誤りを正すことこそ納税者である国民の支持を得る、最も良い方法だとは考えないのでしょうか。このままでは、国民と政治の乖離が進んでいくだけです。
 やはりこれは、国民性の違いもあるのかもしれません。

(8)勝利  ディック フランシス  早川書房
 競馬シリーズ第39作のお話です。主人公はガラス工芸作家で、彼の友人が障害物レースで落馬し、死亡する事から話が始まります。その友人が、主人公に渡そうとしていたヴィデオテープ、それをめぐって様々な人の思惑が交錯します。どこまで紹介したらよいのか分かりませんが、最後までそのテープの行方が判らず、読んでいてもはらはらドキドキしてしまいます。
 以前にも書きましたが、ディック フランシスと言えば訳は菊池光、というコンビだったのですが、その菊池さんの最後の訳になってしまった、貴重な一作です。ただ以前の展開の面白さや、切れの良さが薄れてきているように感じてしまいます。如何でしょうか。

(9)書斎の競馬学  山本一生  平凡社新書
 筆者は東京大学を卒業した後、石油精製会社に勤務したという経歴を持っています。その間、競馬の歴史などを研究し、競馬史研究家とも紹介されています。所謂エッセイで、競馬と関連した筆者の人生の一こまを紹介した物や、ディック フランシスについて書いた物もあります。
 ディック フランシスの関係でこの本を読み始めたという次第ですが、なかなか興味深い指摘があります。前回の「勝利」で私が感じた事の、裏づけがあるようにも思います。言ってしまいたいし、言うべきでないし、ジレンマですがご一読下さい。

白 江 医 院 白江 淳郎

2009/01/03 2008年12月の読書ノート
(1)すき焼き通  向笠千恵子  平凡社新書
 私が子供だった1950年代、すき焼きというのはそれこそハレの料理の代表選手でした。子供同士で、「うちは今日はすき焼きだ」と言って自慢したものです。どうも文体などから、作者は私とあまり大きく世代の変わらない人のように思うのですが、東京の真ん中で育った作者のような人と、南河内の田舎で育った私とでは、生活環境が大きく違っています。
 そもそも、お肉を食べると言う事がまれな事でした。動物性蛋白は、主にお魚から取っていました。それ故、今では多くの人は何とも思わない、炊き込みご飯は何とも贅沢な物だったという記憶があります。それにしても私達が、いかに贅沢に慣れてきたことか。
 この本では日本各地のお肉の種類、特徴的なすき焼きの調理の仕方が紹介してあります。調理のキ−ポイントは、肉の味を野菜に閉じ込める事のようです。

(2)B級グルメが地方を救う  田村秀  集英社新書
 その地方地方での特産物を使用したり、伝統的な食べ物を使ったりするような、所謂B級グルメと言う物が、バブル崩壊以後人気になっています。それが最近のように隆盛を極めるようになったのは、その地方の努力が大事であったことは、言うまでもありません。筆者はこのようになるには三つのタイプの人間が必要であったと言います。それは、「若者、よそ者、バカ者」です。前例にとらわれず柔軟な発想で町作りにチャレンジする若者、他地域との比較ができ、その地域の分析ができるよそ者、個人的な利害を度外視し町作りにまい進するバカ者です。これらの人たちが揃った時、所謂B級グルメで町おこしが出来るようになります。
 この本は、各地のB級グルメを紹介しているばかりではなく、それを通じての地域の有り様も紹介してあります。
 しかしこの本に紹介されている物の中で、私が食べた事のあるものは、悲しいかな一つもありませんでした。福井のソ−スカツ丼は美味しそうだったなと思います。これは一度食べてみたいものです。

(3)「坂の上の雲」に隠された歴史の真実  福井雄三  主婦の友

 題名に興味を持ったので、読んでみました。一応ベストセラ―と言うので読んでみましたが、何とも内容が薄く、お金を損したと思ってしまいました。安倍が「戦後レジームからの脱却」などと言っており、バカな国民が小泉の言葉にまだ酔っていた頃の、残渣だと考えておいて貰ってよい本です。
 司馬遼太郎さんが「坂の上の雲」で表した内容に反論を加えています。旅順の攻防戦での乃木将軍の評価、ノモンハン事件の評価などが述べられています。
 旅順要塞を攻略するのに、実に夥しい数の死者を出したのですが、筆者はそれの擁護にかかりきっています。しかし職業軍人の仕事は、いかに死者を少なく当初の目的を達成するかだと思います。そのために国家から給料を貰い、ある意味で人々から尊敬を受けているはずです。それが出来なかった事は、非難されても仕方がないでしょう。また筆者の言うように、3万人の旅順要塞の兵士が日本軍の背後を突いてきた時のために、これを滅ぼしておく必要があるかもしれませんが、彼らは要塞の守備兵であって、決して野戦向けの兵器を持っていたり、訓練を受けてはいないはずです。また旅順を攻める目的は、旅順艦隊の殲滅の一点であったはずです。
 またノモンハン事件に関しても、新しくソビエトから史料が発見されたと言いますが、関東軍の史料はどこにあるのでしょうか。また筆者は関東軍がノモンハン事件に関ったのは、日本と満州国の間に「満州国が侵略を受けた時には日本が助ける」、と言う条約があったので、当然の義務だと言いますが、そもそも満州国の成立自体が、日本や、最後には統帥権を持ち出して、日本の指示に従わなくなった関東軍の暴走ではないのでしょうか。
 私達の時代でも、大日本帝国の戦争時代が良かったのではないかという、不思議な人がいましたが、この本を読んでその人たちを思い出したのは、偶然では無い様に思います。
 私はこの筆者がなんと言おうと、戦前戦中を生き実際に軍隊や戦闘を経験した、司馬遼太郎さん、半藤一利さん、五味川純平さんの一言一言を信じます。


(4)反米大陸  伊藤千尋  集英社新書
 中南米は実質的に長年アメリカの、植民地のような物と考えられてきました。まずはアメリカからの移民を行わせ、数が充分に増えてきたらその国内に不安や政治的不安をおこし、在留米人の安全を確保すると言う、無理な主張でその国内に海兵隊などを派遣し、最終的にはその政府を転覆すると言うものです。
それをより円滑にする為に、中南米各地からその様な軍人をリクルートし、アメリカの軍隊にある施設で殺人集団へとなるように教育するのです。民主主義の総元締めのように思われているアメリカですが、過去の行状を見ていると、とてもその様な物ではない事が良く分かります。
 皆さんは9.11と言えば何を想像されるでしょうか。殆どの方は世界貿易センタービルなどに飛行機が突っ込んだあの事件を思い出されるでしょう。私にとっての9.11は1973年のチリの民主的に選ばれたアジェンデ政権を、CIAが転覆したあの事件です。アメリカは国家としてあの事件に積極的に関与し、チリの人たちが民主的に選出した政府を転覆したのです。アフガンのゲリラ討伐や、証拠も無いのに大量破壊兵器があると主張し、イラクに侵攻したそれらの物よりは遥かに悪質な物です。あの事件と、「プラハの春」の二つが超大国が起こした最大の犯罪だと思っています。
 それらの歴史的な背景や、国民の民度も向上してきた事もあり、中南米のアメリカ離れが加速してきています。サブプライムローン問題以来、アメリカの国際的な威信低下し、発言力も低下しています。日本も中南米の国がしているように、アメリカの支配から脱却してアジアに目を向けた方向にシフトすべきでしょう。

(5)できそこないの男たち  福岡伸一  光文社新書
 女の人の性染色体はXX, 男性はXYであることは、生物の授業で習った事があると思います。地球が誕生したのは46億年前、生命が誕生したのは36億年前、その後10億年間は生物の性は単一で全ての性はメスでした。それでは何故オスができてきたのでしょうか。
 その謎について、分子生物学の立場から、実に分かりやすくまた、最新の知見も含めながら解説してあります。生命の基本線はメスであり、オスはそのメス同士の情報を伝える為に、メスから作り出されたということです。また何故オスが短命で、病気にかかりやすく特に癌になる率が高いのかと言う事にまで言及してあります。
 私達の頃の医学部では、3回生になれば専門課程が始まりました。一学期には、骨学実習、組織学実習と共に、発生学の講義がありました。その頃の授業を懐かしく思い出しましたが、今の学生さんは私達の頃より(分子生物学の驚異的な進歩により)5倍近い物を覚えなければならないようです。色々知識が増えて羨ましいと思う反面、テストになれば大変だろうなと同情してしまいます。
 この本は今年読んだ本の中でも、結構面白い物でした。お薦めです。

(6)全国ご当地ラーメン うんちく紀行  小野員裕  講談社+α文庫
 日本全国には、所謂ご当地ラーメンと言うのが数多くあります。私はグルメでもありませんし、ラーメンもそんなに食べた事はありません。大学1回生の時、西日本医学部総合体育大会(西医体)で久留米に行ったとき、先輩に連れられてラーメンを食べに行った事がありますが、その時位でしょうか。白いスープで、紅生姜を入れて食べた記憶があります。何ともケッタイナ物だと思いました。
 筆者は全国のラーメンを食べ歩いて、その味の違いを紹介しています。一種の紀行文、エッセイと考えて読めば面白い本です。
 私は食べ物にあまり執着のない方なので、味に細かいこだわり等ありません。男がその様な事にゴジャゴジャ言うな、と言うように思っています。食べ物に感謝して、その命を貰えばよいと思っています。

(7)縄文人追跡  小林達雄  ちくま文庫
 最近は縄文時代のことも色々と分かってきており、私達が従来持っていたイメ−ジとは、大きく変わってきているようです。
 戦いは殆ど無く、戦乱の世の中になったのは弥生時代からだと思われていましたが、発掘される縄文時代の人骨は、時に鏃が骨にまで達した物が見つかります。またそれらは、後ろから刺さった物が多く、待ち伏せされて後方から攻撃されたのではないかと考えられます。
 三内丸山遺跡で見つかったような巨大な建物跡は、土木技術の素晴らしさだけではなく、それを作るのに必要だった人々の言語能力の素晴らしさも想像させてくれます。

(8)誰も知らない中国ラ−メンロ−ド  坂本一敏  小学館101新書
 麺類と言えば、日本ではうどんと蕎麦ですが、中国ではとうもろこしや燕麦やお米を材料にした麺が、その地方地方で作られています。その地方特有の材料を使って、麺を作っているのです。筆者は中国を旅行しながら、それらの麺を食べ歩いて行きます。
 この本はそれらの麺を紹介するだけでなく、私達が日頃よく食べているラ−メンやうどん、ほうとう等のル−ツを中国で悪戦苦闘しながら調査しています。食べてみたいと思う反面、どんな味なのか恐ろしいような気もします。
 中国の旅行記として、気軽に読んで見られたら如何でしょうか。

 今年は合計113冊の本を読みました。社会保険診療報酬支払基金へ行く電車や、寝る前のちょっとした時間ですので、活字中毒の私としては不満足でした。
 今年は宝塚歌劇に目覚めまして、家内や娘と一緒に大劇場へ行ったりしました。大晦日は掃除や片付け物をしながら、「スカ−レット ピンパ−ネル」や「エリザベ−ト」(彩輝 直さん)のDVDを見ていました。来年はどの様になっていくのか、乞うご期待。

白 江 医 院 白江 淳郎


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