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藤井寺市医師会所属の医師たちが医療関係は勿論、多種雑多な話題について語ります。
2013/01/09 2012年12月の読書ノート
(1)鉄道ミステリ各駅停車  辻 真先  交通新聞社

 筆者はその筋では有名な鉄道ミステリーの作家さんだそうです。
申しわけありませんが、私は日本のこの手のものは「点と線」以外読んだことがないのでよく知りません。失礼ですが、筆者のお名前も、ぜんぜん知りませんでした。購入時には、日本の鉄道ミステリーの作品紹介をしてあるものだと思っていました。
この本はその作者のこれまで執筆した様々な作品の内容の、発想などの種明かしをしてあります。しかし小説を知らない分、もう一つ面白みがなく、内容ももう一つでした。
筆者の小説のファンの方なら、読む値打ちはあるのかなと思います。


(2)都会の雑草、発見と楽しみ方  稲垣栄洋  朝日新書

雑草という草の定義は、難しいものです。人によっては価値のないものに思える植物も、他の人にとっては美味な食物かもしれません。「まだ人によってその価値を見出されていない植物」というのが正しい定義かもしれません。
庭に出て仔細に見てみても、スミレやミヤコワスレなどが自生していますし、蕗等も見つかります。その反面名前も知らず、大きくなって困ってしまうような草も多くあります。この本は有名な草は勿論、名前も知らない草がその生えている所で生きていく為に備わっている、様々な工夫も紹介してあります。
ゆっくりと散歩などをしていたら、それらの草に出会うこともあるでしょうが、多忙な毎日ではなかなかそのチャンスもありません。筆者はそこで、庭の草むしりを勧めています。こうすればゆっくりと草を観察しますし、頭のリラックスにもなるようです。
今は冬で、庭にはあまり草もない時期ですが、このような時期でも草は頑張って、春への準備をしています。一度庭に出て、観察してみようという気持ちになりました。


(3)私がケータイを持たない理由  斎藤貴男  祥伝社新書

 外出すると、やたら携帯で話をしている人を見かけます。注意深く聞いている訳ではありませんが、どうでもよいような内容の話が、結構あるようです。
私も役目柄携帯を持っていますが、緊急性を持った重要な用件というのは、年に1〜2回で、それ以外は以前であれば、手紙やはがきで済んでいた物が殆どのようです。(「ご飯だからすぐ来なさい」といったものを緊急性を持ったものと考えれば、殆どがそうですが。)
最近の携帯には多くの機能がつき、殆どの人はそれを使いこなしていないと、よく言われます。その反面、、GPSなどを用いたり、通話履歴を調べたり、携帯相互の位置関係を見ることなどで、私達は簡単に色々なところから管理され、監視されています。 つまり、十分使いこなせない便利さを手に入れた反面、とんでもないディスアドバンテージを背負い込むことになってしまいました。
またネット社会が普及すると、匿名性が担保されますから、ブログの炎上に見られるような現象が起こります。
筆者は、携帯の機能は認めるものの、それを使いこなす現代人の未熟さに警鐘を鳴らしています。この意見には、全面的に賛成できます。
私もいずれ、多くの公的な仕事からリタイヤすることになるでしょうが、その時には、筆者のように携帯を持たない生活を送りたいと思います。


(4)世界の四大花園を行く  野村哲也  中公新書

 南アフリカ、オーストラリア、ペルー、チリ、これらの国にある砂漠で一年に1回、様々な花が満開になるときがあります。
生命を維持するためには、当然水分が必要ですが、ペルーの砂漠では海からの風によって起こる霧が、また他の地域では突然のスコールのような雨が、その水分の供給源になります。これで水を得た植物の種は、急激に大きくなり、短い時間ですがきれいな花を開き、
昆虫を呼んで受粉をし、次の世代を育てます。
それがあたかも魔法をかけられたように、短時間で起こるのです。
その様な自然の美しさに魅せられた写真家である筆者は、これらの砂漠をめぐり珍しい花の写真を撮り、紹介してくれています。実に不思議な、また土だけで生命がないと考えられる砂漠が、大変身をします。自然の営みの偉大さに感劇します。
この本は写真も多く、しかも美しく、有益な本だと思います。


(5)家族の勝手でしょ  岩村暢子  新潮新書

 色々な家庭の食事の献立を、紹介した本です。一週間連続して全ての食事を撮影してあります。最初の頃は、各々の家庭、主婦の理想とする食事が並べられていますが、一週間も後半になると、各家庭の本音が出てきて、とんでもない食事が登場してきます。
食育などといいますが、この本を見るととてもそんなどころではなく、家庭が崩壊している様子が、食事を通して見えてきます。このような母親に育てられた子供が、まともな大人になるわけがありません。また、このような母親はどんな親に育てられたのでしょう。
私達が子供のころは、お箸をちゃんともてない子供は、育ちが悪いと言われました。その様に刷り込まれた私は、テレビでお箸の持ち方が悪い人を見ると、それだけでその人物を評価してしまいます。その様に家庭での躾は大切なものだったはずですが、それは一体どこに行ってしまったのでしょう。
この本自体は非常に面白い本でしたが、読み終わった後、惨憺たる気持ちになりました。そういう意味でも、一読する値打ちのある本です。


(6)静かなる大恐慌  柴山桂太  集英社新書

 経済がグローバル化すると、資本主義が暴走を始め、必然的に経済恐慌が起こります。これは昨今の世界の状態だけでなく、過去にも起こっていました。つまり100年前からその様な資本主義の暴走があり、それが第一次世界大戦と大恐慌を起こし、脱グローバル化の世界に一旦は向かいました。
筆者は今日の世界の経済状態を、大恐慌と同じだと言います。政府が巨額の財政出動などを行い、どうにか持ちこたえていますが、ベースは行き着くところまで行ってしまった、グローバル経済による恐慌状態です。
歴史を見ると、このような状態をリセットしてきたのは、世界大戦です。このような悲劇を起こさない為には、どのような経済政策を行うべきかを筆者は提案していますが、その鍵となるのは、古典的とは言えケインズの経済学です。
衆議院選挙で、とんでもない結果が出てしまいました。以前の総括をしていない自民党は、やれ憲法だ、軍隊だ、教育だと舞い上がるのでしょうが、筆者の指摘に真摯に向かいあうべきです。


(7)戦国武将 敗者の子孫たち  高澤等  洋泉社 歴史新書

 戦国時代は厳しい時代で、戦いに敗れると大名は一家全滅になるような印象がありました。しかし実際の運命はそれほど過酷なものではなく、娘や若年の男子が生き残り、名字などの変化は有るにせよ、その血を保ち続けました。そしてそれらの血液は、天皇家や江戸時代の大名にも受け継がれています。
私達の血脈を考えると、一代前は父母の二人ですが、その上は祖父、祖母の4人、またその上は8人と倍倍ゲームでご先祖は増えていきます。それを考えると、私達もどこかで歴史上の有名人物がご先祖様で居るかもしれません。
この本では、明智光秀、石田三成、真田幸村など、敗者や反逆者として歴史上有名な人たちを取り上げ、その子孫が辿った道を紹介してあります。これを見ると、その時代また後世の人たちはその人たちを、敗者、反逆者として排除した訳でなく、その人たちに敬意を表していたことが判ります。たまたま歴史では、敗者、反逆者になってしまったけれど、人物としては立派な人であったことを認めているようです。
このようなことを見ると、外国の政治の変化と、日本のそれは大きく違った物である様に思います。ドメスティックな変化だからというより、日本人の精神のバックグラウンドが、東アジアを含めた外国のものとは大きく違っていたのだと、思えてなりません。


(8)歴史の愉しみ方  磯田道史  中公新書

 「武士の家計簿」の筆者である磯田さんは、古文書がすらすらと読めるという、素晴らしい才能をお持ちです。勿論勉強を重ねられてその様なことがお出来になるのですが、古文書の写真を見ても、何も読めない私にとっては、まさしく驚異です。
その磯田さんは様々なことに興味を持ち、全国の旧家や図書館を訪ねて、文献に当たっておられます。この本には、忍者の実像、過去の震災、ちょんまげの歴史、石川五右衛門の実態など、興味深いものが取り上げられています。いずれの物も、筆者が全国を歩いて収集した古文書に書かれていたことが、その資料になっています。エッセイ形式で書かれており、数ページでまとめられていますので、読みやすく、薀蓄本として最適です。


(9)懐かしのテレビ黄金時代  瀬戸川 宗太  平凡社新書

 筆者は私と同じ1952年生まれだそうで、テレビ文化という面では、全く同じ道を歩んでいます。私も子供のころ、この本で紹介してある「私の秘密」、「ジェスチャー」、「チロリン村とくるみの木」などはよく見ていました。
ただ小学校の低学年頃になると、日曜日の「ポパイ」や「シャボン玉ホリデー」くらいは見ていましたが、この本で紹介してある番組はあまり記憶にありません。その頃から私のテレビ離れが始まっていたと思います。
私で言えば、最近のテレビはもっぱらケーブルテレビによるスポーツ観戦と宝塚歌劇、それにBSで放送される色々なシリーズものです。それ以外は、正直言ってお手軽な製作態度で、放送の内容や出演者の質も高くないので、デジタル放送はあまり見ていないことに気づきました。
この本では、色々なテレビドラマなどが紹介されていますが、もう一つ忘れてはならないのが、スポーツ中継でしょう。
私の幼少の頃は、テレビといえば大相撲中継でした。近所にテレビがあまりなかったので、多くの方が相撲観戦に来られました。そうです、栃若時代でした。興奮して二人の取り組みを見ていた方が、火鉢の火箸を曲げてしまった、等と言う思い出があります。またその後が、プロ野球でした。この本は、それらのスポーツ放送についての記載がないのが、残念でした。


番外篇その1  めぐり会いは再び 2nd   星組  宝塚大劇場

 今回の公演は、「宝塚ジャポニズム」という和物のショウと、昨年「ノバ ボサノバ」の公演で行った「めぐり会いは再び」の続編、「エトアール ド タカラヅカ」というレビューの3部構成でした。
これまで数々の名作を演じてきた星組でしたが、今回は作品に恵まれず、またメンバーの組替えなどがあり実力が落ちてきたことが認識された、残念な結果でした。
前回の「めぐり会いは再び」は「ノバ ボサノバ」という宝塚ファンが大好きな、強烈な作品と抱き合わせの、さらっとした肩も凝らずテンポの良い作品だったので好評でした。しかし今回は、一緒に上演した作品がもう一つでしたので、手を抜きすぎた学芸会のような作品になってしまいました。ショウも印象、迫力に乏しく星組を観劇して初めて、一瞬ですが居眠りをしてしまいました。
「スカーレット ピンパーネル」、「ロミオとジュリエット」「オーシャンズ 11」などの名作を初演したときの星組の勢いはどこに行ってしまったんだ、と正直言って危機感を持ちました。


番外篇その2  その2  TULIP  THE LIVE  40th memorial tour オリックス劇場

 あのチューリップが結成40周年ということで、全国でライブツアーを行っています。チューリップに対しては私の大学生時代から、「一に人生を歩んできた仲間」、という気持ちを持っています。
会場は私と同じような世代の、おっちゃん、おばちゃん(失礼)で満員でした。しかし皆、生き生きとした表情なのが印象的でした。公演は、それぞれの歌にその歌を聴いた時代の私が思い出され、楽しく、懐かしく、またほろ苦い感情も少し入り混じりといったものでした。
びっくりしたのは、ほとんどの歌を一緒に口ずさめたということです。勿論声を出してはいませんが、本当に驚きでした。「鉄道唱歌 全部歌えて 呆けている」という川柳がありましたが、私が歳をとったら、チューリップの歌を歌い続けるようになるのかも知れません。
今回の席は2階の最前列でした。一階のフロアー席の人たちは、一曲目から立ち上がり、手拍子をとり、身体でリズムを取るなど度大盛り上がりでした。私と同じ世代の人があそこまで元気とは、驚きました。(2階席でよかった。)
チューリップは、歌も勿論ですが、財津さんを初めとするメンバーの人柄が昔から好ましく、大好きなグループです。これからも追っかけをしようと考えています。


番外篇その3  ミス・サイゴン  梅田芸術劇場

 大晦日に今年の締めくくりで、観劇しました。
まずはチケットを受け取りに、ジョン役をされている岡 幸二郎さんの楽屋にお伺いしました。楽屋に行くなどということは勿論初めての経験で、これだけでも大感激しましたが、気さくな、飾らない人柄の方で、短い時間でしたが思い出に残る時間でした。
作品は、観終わって時間が経過しても余韻が残り、素晴らしさに圧倒されています。ちっぽけな存在である一人一人の人間の、その人生の持つ意味、かけがいのない愛おしさ、その命を次世代に引き継いでいく健気さ、その様なものがひしひしと伝わってきます。
実際このような話は、ベトナムではそう珍しい物ではなかったかも知れません。しかしその様な経験をした各々の人が精一杯生きて、その人生を歩んでいるのだと考えると、居ても立ってもいられないような、また私の人生はこれでよかったのかとまで思うような、そんな気持ちになります。
出演されている俳優さんも、勿論オーディションを受けて選ばれた方なので、皆さん素晴らしいと思いました。市村正規さんは言うに及ばず、キムを演じた新妻聖子さんの演技は感動しました。こう言っては失礼ですが、現在の宝塚歌劇のトップ娘役で、この役を出来る人はいないでしょう。長年トップをして居る人も歌は下手ですし、なぜ歌の上手い、安心して聴けるトップが出ないのかと、新妻さんに酔いしれながら、思いました。
このような作品は、宝塚を観ているだけでは巡り会えなかったでしょう。貴重な経験をしました。


☆ 今年のベスト3

宝塚篇
1) 「仁」  雪組
2) 「ビクトリアン ジャズ」  花組
3) 「華やかなる人生」  宙組

2番まではどうにか出ましたが、3番目はどうにか捻り出したと言う感じです。
月組の「ロミオとジュリエット」、これも良かったのですが、もう3回も違う組で上演され、2013年も又星組であるのかと思うと、正直言って食傷気味です。どんなに良い作品でも値打ちは下がってくるでしょう。初演時の白華れみちゃんが演じた乳母の、「あの子はあなたを愛している」を聞いた時は、彼女の乳母役に打ち込む姿も重なって自然と涙が出ました。このような大作はやはり数年に1回、彼女のように実力のある娘役さんで聞きたいものです。沙央くらま、美穂圭子さん二人の力は認めますが・・・。
今年は私のお気に入りの月組トップコンビ、霧矢、蒼乃さんを初め、各組トップの退団がありましたが、どう言う訳か感激することの少ない年でした。要するに作品に恵まれていなかったということでしょう。その中でも特に星組の凋落が気になります。

読書篇
1) 「政府は必ず嘘をつく」         堤 未果
2) 「成熟日本、もう経済成長はいらない」   橘木俊昭、浜矩子
3) 「勝てないアメリカ」           大治 朋子
今年もいっぱい読んだなという感じですが、108冊でした。
その中のダントツは、堤さんの本です。これほど複雑に、また権力者の意図したように社会は動かされているのか、と気づかされました。
日本社会はなぜ経済成長などという、昔の夢を追い続けているのか、それがいつも不思議でした。経団連の睫毛の長い、肥満した品性のない感じの会長が何かにつけ、お題目のように唱えていますが、そんなことこれからの日本でする必要があるのかと思います。それをまた安部首相がうわごとの様に言っています。経済界は喜ぶかもしれませんが、私達国民はますます不幸になると思います。そういうことで、最近私は浜教授の発言に注目しています。


白 江 医 院 白江 淳郎

2012/12/19 2012年11月の読書ノート
(1)特捜検察は誰を逮捕したいか  大島真生  文春新書

 ロッキード事件で田中角栄を逮捕した東京地検特捜部、今となってはその裏にアメリカの意向が働いたとか色々といわれますが、その当時の私達にとっては社会の正義が保たれたといった、気持ちになりました。
 その後も「政治と金」の問題に切り込んでいった特捜部ですが、最近は汚点続きで、その存在自体が権力を乱用している巨悪のように感じられます。
私は小沢一郎的な政治手法は嫌いですが、(主張していることには共感できる所もありますが)彼を起訴するに至った経緯などは、その後ろに何らかの政治権力が動いたのではと思わざるを得ません。またそれに乗って、程度の低いマスコミが囃し立て、彼を政治的に抹殺しようとしているようです。 特捜警察が、恣意的にその力を利用して動いている様に感じるのは私だけでしょうか。
 この本では最近の特捜検察が、機能としてもまた組織としても劣化している現状や、原因を述べてあります。なかなか面白い本でしたが、筆者が産経新聞記者だということがひっかっかる、唯一つの点です。


(2)ごきげんな人は10年長生きできる  坪田一男  文藝新書

 「笑う門には福来る」とは昔からの格言ですが、医学の分野でもそれが実証されています。NK細胞といって、一言で言えばバイキン、ウイルスやがん細胞など身体にとって有害な物をやっつける細胞があります。その働きが、楽しい事や笑うことで活性化されることは、以前から指摘されていました。
 この本はポジティブに物事をとらえること、それによってポジティブな生き方をすることで、充実した人生を長く送れるという事を紹介しています。
 心をどう持つか、どのような食事を選択するか、どのような運動を行うか、それらによって病気に罹患する率が大きく変わってくると、筆者は言います。
 なかなかその様にポジティブに生きていくことは難しいことですが、少しは努力して行こうかなと思いました。私にとっては、宝塚観劇でしょうか。


(3)グリーン車の不思議  佐藤正樹  交通新聞社新書

 私が小学校に通い始めた昭和34年頃、関西本線は機関車が走っていましたし、客車は背もたれが木で4人が向かい合って座る、3等車でした。それがときに何かの都合で2等車が一両くらい連結されているときがありました。勿論皆が争って行くので座れませんでしたが、その車両に乗ると、すごくリッチな気分になったものです。
 その後、車両の等級の変更があり、3段階から普通車、グリーン車の2段階になりました。関西本線はその後、ディーゼル、電化と変遷してきましたが、名古屋行き急行「春日」、東京行き夜行急行「大和」もなくなり、その様なリッチな客車に乗り合わせることもなくなりました。
 この本はその様なグリーン車の変遷、また多くあるそのバリエーションを紹介しています。飛行機や、夜間バスなどと競合しなければならない鉄道で、何らかの差別化を行うためには、やはり車両のグレードを上げることが一番でしょう。JR各社はそれぞれに工夫したグリーン車を開発しています。 ちょっと贅沢な気分で、乗ってみたい気がしました。


(4)カメラの歴史  神立尚紀  ブルーバックス図解シリーズ

 暗い部屋の壁にあいた小さな穴から入る光が、壁に外の景色を投影するカメラ・オブスクラからカメラは始まりました。それこそコマーシャルではありませんが、一瞬を永遠に残す様々な工夫を、人類は行ってきました。この本では、レンズの工夫、シャッターの工夫、絞りの工夫などを紹介し、カメラの進歩を面白く紹介してくれています。
 私が始めて手に入れたカメラは、この本でも紹介してあるフジペットでした。二つシャッターもどきのスイッチがあり、順番にタイミングよく押すとそれだけで写真が映るというものでした。なぜあのような簡単な機能で、そこそこの写真が写せたのか不思議でしたが、この本ではそのメカニズムが詳しく説明されて、納得できました。
 次に私が手に入れたのは、オリンパス ペン、次にキャノネット、ペンタックスSP、ミノルタα7000です。話題になった機種を結構持ってきたのだなと思います。それぞれ、思い入れのあるカメラですが、デジタルカメラが出てからは、何か訳がわからなくなってきました。一応お気に入りのデジタルカメラを持ってはいますが、機能が多すぎて使いこなせていないのが現実です。


(5)最新型ウイルスで癌を滅ぼす  藤堂具紀  文春新書

 癌の治療をするには手術、薬物、放射線などの治療を行いますが、悪性の脳腫瘍に対しては、このうちのどれもがそう有効なものではありません。筆者は脳神経外科医として、脳腫瘍の治療に関ってきましたが、より有効な治療を研究しているうちに、ウイルスを用いてがん細胞を死滅させる治療にたどり着きました。副作用もなく、かなりの効果を得られる治療方法のようです。
 私は卒業後の研修は脳神経外科で行い、脳腫瘍の治療をライフワークにしたいと思っていたのですが、能力に限界があることがわかり、痛みの研究治療に転進しました。このような治療方法があるならば、また私にこのようなものを考える能力が有ったならなどと、仕方のないことをふと考えてしまいました。


(6)ラジオのこころ  小沢昭一  文春新書

 「小沢昭一の小沢昭一的こころ」、関西エリアで放送されなくなって久しくなります。小沢さんのあの語り口と、独特のテンポ、それに私達中年から老人といった世代の持つ、感情を面白く伝える話題、実に面白い番組でした。 関東エリアでは放送されているらしいので、ぜひとも関西で復活してほしいものです。
 この本は40年にわたるその放送の、傑作10篇を掲載してあります。文句なしに面白い。小沢昭一さんのあの語り口を思い起こしながら、お読みください。


(7)百年前の日本語  今野真二  岩波新書

 先日お亡くなりになった丸谷才一さんの文章は、旧仮名遣いで独特のリズムがありました。また私達の父親世代の文章を読むと、漢字や平仮名の使い方が私達と異なっていることがあります。大正や昭和初期生まれの人たちでさえそうなのですから、明治生まれの人たち、あるいはその時代の日本語は、私達が今使っているものと大きく違っています。
 それをその時代の雑誌や本などを参考にして、紹介してあります。「し」という平仮名にしても、「志」という漢字で書いたり、平仮名で書いたりされています。人によって、また出版社によってそれぞれの流儀があったようです。それはそれで、現代のように、日本語が一つに収斂されておらず、多様性を持っていたといえるかもしれません。
 筆者はこの状態の日本語を、「揺れる日本語」と表現していますが、別の言い方をすれば、表現に多くの選択肢を持っていたとも言えるわけで、正確、迅速ということとは正反対の大らかさがあったのかもしれません。


番外篇その1  JIN  雪組  宝塚大劇場

 音月 桂、舞羽美海のトップコンビ卒業作品です。この作品は、漫画やテレビで有名になった物だそうで、ご存知の方も多いと思います。
 恋人を癌で失った脳神経外科医の、南方仁が幕末の江戸にタイムスリップし、坂本竜馬や勝海舟と出会いながら医師として活躍する物語です。
 江戸の町の庶民の賑わいや、吉原の艶やかさが大劇場の舞台にマッチしてなかなか佳い作品でした。今年観劇した中では、ベストではないかなと思います。
 音月桂さんは舞台映えもし、伸びやかな声で歌上手でトップにふさわしい生徒さんでした。ただ娘役トップが、当然舞羽美海さんに決まるところが遅れてしまい、お披露目公演で変則的な相手役の当て方になったり、2作目、3作目の作品自体に恵まれなかったり、(これ以後は宝塚ファンのコアな話ですが、ゆみこさん、なつきちゃんのトップコンビがあってから音月に回るのが当然なのに、それを飛ばしてトップになってしまったりで)私の中では、どうもネガティブな感じが付きまとっていました。
 ただこのトップコンビは、ルックスも人柄もよく、観ていてほのぼのとする舞台を頑張って作ろうとしていました。
 卒業作品でこの物語に出会えたことは、彼らにとって幸福なことだったと思います。


番外篇その2  ヴィクトリアン ジャズ  花組  宝塚バウホール

 私のお気に入り、花組の望海風斗さんバウホール初主演の作品です。
 18世紀末のロンドン、しがない奇術師のナイジェル・カニンガムは、降霊術師の真似事をしてお金を稼ごうとします。その降霊術に感動したコナン・ドイルの支援により、思いがけなく有名になってしまった彼の元に、ヴィクトリア女王からある依頼が来ます。それに関っていくことで、イギリス王室の存亡に関る事件に巻き込まれていきます。
 バウホールにふさわしい、小粋な笑いあり涙あり、最後はハッピーエンドという、観ていて楽しくなるお話でした。
 若手が多く出演し、ちょっと小粒な感じもありますが、そこを私のお気に入りの桜一花さんが演じるヴィクトリア女王が補って、存在感を出しています。
 話は飛びますが、私はどう言う訳か、89期生に好きな生徒さんが多く、ついついこの期の人たちを応援してしまいます。卒業して10年以上経ち、脂が乗り切っているところだからでしょうか。このブログでたびたび登場する、明日海りお、白華れみ、美弥るりか、そしてこの望海風斗この生徒さんたちはみな89期生です。その他各組で中堅クラスで頑張っている生徒さんが多いので、(名前を挙げだしたらきりがないのでやめますが)彼女達の活躍を楽しみにしています。 


白 江 医 院 白江 淳郎

2012/11/15 2012年10月の読書ノート
(1)飛鳥の木簡  市 大樹  中公新書

 飛鳥といえば、小学校、中学校、高校と遠足や友人とよく訪れた所です。その頃は今の様に歴史上有名でも、多くの人たちが訪れる場所でもなく、石舞台古墳や酒船石には自由に立ち寄れましたし、飛鳥寺も古びた田舎のお寺と言う感じでした。甘樫丘の東から通っている下級生がいて、よくこんな田舎から天王寺まで小学生の頃から通っていると、感心した思い出があります。
 しかしここは藤原京のあった所ですし、大化改新、飛鳥浄御原令、大宝令など古代の歴史が大きく動いた舞台となった所です。その様な歴史の表舞台となった裏には、役人や庶民の生活がありましたが、それらの歴史を生き生きと証言してくれるのが、多数発掘される木簡です。
 紙が潤沢になかった時代、記録を残し、連絡に使用しと言う道具に用いられたのが木片です。これに連絡文を書き、荷物と一緒に送ったり、人事異動時に使用したりしました。それが不要になった時、土木工事などの材料として地面に埋められたりしました。その内保存条件のよいものが、近年発掘されだしたのです。
 日本語を中国の文体を使って表すことは、非常な困難があったでしょう。しかしここで、ワンクッションがあったのです。つまり中国の漢字を使用して、中国風に文章を残す前に、漢字を使って朝鮮語の形を借りて文章を残すという時代が有ったのです。実際木簡に書いてある漢字を辿っても、(私は漢詩くらいの知識しかありませんが)意味不明のものが多く例に出されていましたが、それはこの朝鮮語の文体による表現だったのです。
 この時代がしばらく続いた後に、初めて中国風に文章を作るようになったのだそうです。その様な変化もこの木簡を調べていくうちに判ってきたということで、小さな木の破片が日本史の研究に大きな貢献をしてきたことがわかります。
 何気なく歩いていた飛鳥のあの道の下にも、これらの木簡が眠っていたのかもしれません。青春の時間を無駄に過ごしたような、そんな気がふとしました。


(2)「最悪」の核施設 六ヶ所再処理工場  小出裕章ら  集英社新書

 ひどい総理大臣は歴代何人もいたでしょうが、野田ほど不誠実で救いようのない首相は、これからも出ないでしょう。(といっても安部がなれば、もっと酷いことを言われるでしょうが)原子力政策についても、この本の著者達がとんでもないことを主張しているわけではなく、至極当然な、科学者として常識的なことを主張しているのですが、それに反論することは出来ないでしょうし、反論する気もなく、訳の判らない政治を進めていくでしょう。
 地震大国日本で原発を作ること自体、常軌を逸していますが、活断層の上に再処理工場を作り、其処にプルトニウムなど国内の核のごみを集め、完成する当てのない、しかも経済的に見ても全く割りのあわない再処理を行うことなど、国民をバカにしています。日本人はもっと怒るべきです。声を上げるべきです。
 今度選挙があれば、原発がイエスかノーかの、ワンイシュー選挙にすべきです。そして私達を欺き続けてきた政治家、それに寄生し続けてきた人たちにノーを突きつけるべきです。
 この本を読んで、正直いても立っても居られない気持ちになりました。


(3)失われた30年  金子勝、神野直彦  NHK出版新書

 どう考えても存続させてはならない原子力発電所、どう考えても何の利益にもならないTPP問題、破綻状態の東電に税金をつぎ込んで、旧態依然とした電力供給体制を守ろうとする政府、こんなことは誰が考えてもおかしいことです。こんなことを続けていれば、いずれ日本はつぶれてしまう、その様な危機感を多くの人たちは持っているでしょう。
 しかしなぜ、政府や官僚や財界の人たちは判らないのでしょうか。自分達の利益を守るためだけに、多くの国民を犠牲にしてもよいのでしょうか。
 著明な経済学者のお二人が、こういっては失礼ですが、至極もっともなこれから日本が辿るべき道を、示してくれています。読んでいて腑に落ちることばかりで、なぜ日本の指導者たちはこれらのことがわからないのでしょうか。これは単に政治というだけでなく、日本人のメンタリティーの問題ではないかと思ってしまいます。


(4)原発社会からの離脱  宮台真司、飯田哲也  講談社現代新書

 原発を選ぶかどうか、ということはこれからのエネルギーをどうするかと考えるだけでなく、これから私達がどう生きていくか、どういう社会を選ぶかということです。
 旧態依然とした消費型社会の存続を目指す経団連が、自民党安部に擦り寄っていくあの姿勢こそが、その象徴でしょう。最早このような社会では成り立っていかないことは判りきっているのに、一体どのように彼らは考えているのでしょう。彼らの頭の中には、私達国民の顔は浮かんでいないようです。現在の民主党にもその力はないし、これから私達が選んでいくのは、真摯に私達の未来を考え、発言していく人でしょう。
 この本にも書かれていますが、多くの日本人はその場の空気に流され、深く考えることなく現状が変化することに拒否をします。その様なことが、今の政治家、官僚の、また威勢のよい右翼的発言を繰り返す地方自治体の何人かの首長の思い通りになっていく一番危険な態度です。その様な人を支持する人たちが、すぐに知的に目覚め変わっていくことは期待できませんが、地道な運動を続けることは絶対に必要です。


(5)はじめてのノモンハン事件  森山 康平  PHP新書

 中国大陸で日本がはじめた侵略戦争、戦後の教育を受けた私達の知識では、全く意味のない侵略戦争だったわけですが、その開始後2年目に関東軍が大本営の命令も聞かず、いわば景気づけのようにはじめた博打、これがノモンハン事件です。
 どのように考えても意味のない、9000人近くの国民を犬死させただけのような戦いだったわけですが、関東軍参謀は責任を取らされたといっても、左遷される位で終わっているのに対し、実際戦場で戦い、捕虜になってしまった人たちは、帰国後自殺を強要されました。なんとも酷い仕打ちだと思いますが、このような中枢部は誰も責任は取らない、といったことは現在の日本と大きな違いは無い様に思います。
 福島原発事故、事故を起こした東京電力は倒産し全ての財産を処分し、福島の復興に責任を果たすべきですし、その東京電力に融資をしていた銀行も債権放棄をして協力するべきですし、もう一つ言えば株主も東京電力を倒産させて、全員責任を取るべきです。しかしこの国ではその様な常識が通用せず、貸手責任がある銀行や株主の責任は一切問題視されず、私達の税金や、使用する拒否権のない利用者の負担増だけが行われます。ノモンハンで、関東軍や陸軍参謀本部が責任を取らず、現地の兵隊さんが犬死したこととどこが違うのでしょうか。
 この本を読んで、この国の本質は戦前、戦後を通じて全く変わっていない事がわかりました。


(6)勝てないアメリカ  大治 朋子  岩波新書

 近代的なハイテク武器で、華々しく戦争をして強国であることをアピールしているアメリカですが、イラクでもアフガニスタンでも力が続かなくなり、実質は負けているといってよいでしょう。
 「テロとの戦い」といってもアフガニスタンなどで、抵抗勢力が使用している武器は、わずか10ドル程度で作れる地雷などですが、アメリカはその対策に手を焼いています。その地雷を発見する為に、またハイテクな機械が発明使用されていますが、抵抗勢力も色々と工夫し、まさにいたちごっこです。
 このようなハードの部分だけで工夫しても、その国を治める、あるいは正しい方向に向かせることは出来ないことくらい、ベトナムで大きな犠牲の上に学習しているはずなのに、なぜ分らないのでしょうか。
 アメリカは、きれいな戦争を行おうとしています。つまりハイテクの機械を使用し、現地に行かないでも遠隔操作で様々な武器を操作し、人命の(アメリカ人の)損害を少なくする戦争です。湾岸戦争やイラク戦争でも見られたように、戦争ゲームをテレビで見ているように、実際の戦争をするのです。これって、広島や長崎に原爆を投下したのと全く同じ発想だと思いませんか。現地に行かないから、其処での被害者の現実などは、全く見ずにすむのです。血や、死臭や、人たちの悲しみの声や、そんなものは届きません。
 それと一番恐ろしいことは、アメリカに大きな人的被害が出ないので、アメリカが行っている戦争に対し国内で反対意見などが出にくく、民主主義の危機だということです。ベトナム戦争当時は、アメリカは徴兵制でしたので、戦争に反対する人たちにも徴兵カードが来、それが国民の大きな運動に発展しました。しかし現在アメリカが行っている戦争は、志願兵(学費補助などの特典に憧れて参加することが多い)が行う、民間企業が参入した戦争です。 これではその戦争の実相を国民が理解することはなかなか出来ないでしょう。
 アメリカはまた、無人機による爆撃を宣戦布告なしに、パキスタンやリビアに行って来ました。オサマ ビン ラディン殺害など、国家の主権侵害以外の何者でもないでしょう。このようなことを続ける限り、アメリカは世界からの支持も得られないでしょうし(日本は支持し続けるんでしょうが)、経済が破綻していくにつれ、朽ち果てていくように思ってしまいます。


(7)人口18万の街がなぜ美食世界一に慣れたのか  高城 剛  祥伝社新書

 スペイン北部バスク地方の人口18万の小さな街、サン・セバスチャン。この街にはミシュランの三つ星レストランが3店、二つ星レストランが2店、一つ星レストランが4店もあります。ビスケー湾に望む、これといった特徴のない旧い街がこのような有名な街になれた秘密が、紹介してあります。
 日本でも町おこしで、ゆるキャラやB級グルメなどというものが登場していますが、その様なもので本当の町おこしなど出来ないことが、この本を読めばよくわかります。
 いつも私が不思議に思うのは、観光都市になるためになぜカジノが必要なのでしょうか。昔からまともな家では、親が子供たちに、「賭け事だけはしたらあかんで」と教えてきたはずです。ある政令都市の首長さんはその様な家庭に育っておられないようなので、恥ずかしげもなくカジノなどとおっしゃいますが、本当に子供たちを立派に育てたいと思うのなら、博打はしてはいけないことを教えるべきでしょう。
 「その都市を発展させる為に」ということで、日本で出て来る発想は、経済特区、医療特区、カジノです。全く貧しい発想としか思えません。この本に書かれているように、市を発展させるためには、市民全体の誇りを持った取り組みが必要だと思いました。


(8)夢の原子力  吉見 俊哉  ちくま新書

 世界で唯一つの被爆国であり、第五福竜丸も含めると三度の被爆体験を持っているわが国が、どうして原子力発電を受け入れ、総数で世界第三位の発電所を持つ国になってしまったのか、それを検証してあります。
 第二次大戦後、原子力は原爆と東西冷戦による核戦争の可能性から、恐怖の対象でした。しかし、アイゼンハウワー大統領が打ち出した「アトムズ・フォー・ピース」の政策により、生活を豊かにする希望の対象となりました。いとも簡単にこのように変心できる日本人のメンタリティーとは、一体何なんだと考えてしまいます。
 私が子供の頃に大ヒットした映画に、ゴジラがあります。ゴジラは南太平洋で原爆実験の被爆によって生まれた怪獣です。そのゴジラは日本を襲い、東京や大阪を破壊しつくします。製作者には戦争と原爆のイメージがまだ強く焼きついていたのでしょう。しかしそのゴジラも、時代が進むと大きな災いを持つ怪獣ではなくなり、日本を襲うキングコングと対決する存在になってきます。私達日本人が、原子力、核に対して持つ認識の変化が、ゴジラのキャラクターを変えていったのでしょう。
 またその頃から、人間の力強い味方の優等生ロボットの、鉄腕アトムが出てくるようになります。アトムも身体の中に原子炉を持っているのですが、決してその不具合を生じることもなく、親密な仲間というように扱われています。
 私も小学校の頃、原子力の平和利用は素晴らしいものだと教えられた記憶があります。その頃から、裏に潜んでいる重大な問題に触れることなく、無制限に原子力発電を受け入れる下地が出来ていたのでしょうか。
 日本人とは何なのかを考える上で、原子力にたいする認識をキーにすることは、なかなか面白いと思います。


(9)女流阿房列車  酒井 順子  新潮文庫

 自分で計画を立てて鉄道に乗ることが好きな人は多いでしょうが、筆者はただただ列車に乗っているのがすきという、鉄道ファンです。その筆者が、何人かの鉄道マニアの立てた旅行計画を、マゾヒスティックに実行していくというお話です。
 その計画というのは、東京の地下鉄を一日で全制覇するとか、鈍行列車に24時間乗ってどこまで行けるかとか、東海道53次を電車などの乗り物で、できるだけ忠実になぞるなどという、どうでもよいような阿房なものばかりです。
 筆者はこの旅行を、指示に出来るだけ忠実に行っていきます。この本で面白いのは、単にどのように乗り継いで行ったかというだけでなく、訪れた街の印象など、筆者の周辺の様子が実に生き生きと書かれていることです。
 私はこの本を、医師国保の用事で福岡に行く折に読みましたが、電車に乗りながら読むと、それはそれで面白みが有る気がしました。


(10)帰れないヨッパライたちへ  きたやまおさむ  NHK出版新書

 フォークルのデビューは私が中学3年生のときでした。解散後も作詞者として北山修さんは活躍されていましたが、その後私もあまり興味はなく過ごしていましたが、ある日九州大学精神科の教授に就任されたというニュースを聞き、驚いた記憶があります。
 この本では彼が精神科、特に精神分析学を選んだ経緯が紹介されていますが、やはり色々な精神的葛藤があったのだということが、わかりました。彼はフロイトの精神分析学を学び、実践していきますがここで彼が気づいたのは、人間が普く持っている嫉妬の感情です。これが様々な行動や、考えの根源にあり私達を動かしていきます。
 現代日本についても考察していますが、「帰ってきたヨッパライ」を上手く引用して、分り易く解説してくれています。ヨッパライが死んで行った天国、其処にはきれいなネーチャンがいて、毎日酒を飲んで暮らしていたわけです。 これは精神的にいまだ「母―子」の二者関係が続いている状態と考えられます。しかし其処に怖い神様が現れ、天国から追放されます。この怖い神様というのは父親的な絶対的なライバルなのですが、この父も出現する三角関係を、まだ日本人は上手く心の中でこなしきれず、その為現代日本の様々な社会現象が起きている、という指摘です。
 フロイト流の心理分析は、古典の分野に入るものかと思っていましたが、この切り口で考えると、なかなか新しいものだと思いました。


(11)世界人名物語  梅田 修  講談社学術文庫

 ヨーロッパ人の名前は、千年以上にわたる歴史を生き抜き、現代に残って来たものです。キリスト教以前のゲルマン人の頃からのもの、そのゲルマンとキリスト教文化が融合した十字軍時代からのもの、それ以後の宗教改革以後の時代からのもの、様々なものが現代に生きています。
 イギリスの歴史を読んで、私がいつも気になるのはスコットランド、アイルランドなどのケルト人のことです。宗教的にも、社会的にも虐げられては来ましたが、民族としての自覚や誇りを忘れず、イングランドと武器を使う戦いだけではなく、文学、芸術を使って戦ってきました。世界の政治家、芸術家、そして私の好きなラグビーの選手、その人たちの名前を見ることで、その人たちのルーツが推測され、その人たちの先祖が過ごしてきた歴史が、想像されます。
 手許においておき、西洋人の名前が出てきた時に参考にしたら面白い本だと思います。


番外篇  春の雪  月組  宝塚バウホール

 私の一番のお気に入り、準トップの明日海りおさんが主役で、若手の中でのこれまた一番のお気に入り宇月颯さんが重要な役で出演するとあっては、観劇しないわけには行きません。
 三島由紀夫原作のものを、舞台用にリメイクしたものですが、正直言って主人公の屈折した(自己肥大した)心理を演じるのは大変だったと思います。振り返って考えれば、私の青春時代はなんて単純な、心情で生きていたのかと思ってしまいます。
 三島由紀夫の作品を私は読んだことが有りません。読書欲が出る前に、彼の思想と言動が駄目でした。その様なフィルターをかけてこの主人公を見ると、三島自身を見ているような気がします。自分を何様だと思っているんだ、という感じです。
 作品自体はその様な感じでしたが、出演者は若手が多いのに歌唱力もあり安心して、観劇できました。


白 江 医 院 白江 淳郎

2012/10/15 2012年9月の読書ノート
(1)日本破滅論  藤井 聡  中野 剛志  文春新書

 以前TPPの話が出たとき、これは市場原理主義、グローバル経済容認と言う、小泉、竹中路線と何も変わっていないじゃないか、と思いました。散々このような考えで痛い目に会って来たのに、ちょっと形を変えただけで、大手を振って歩き出し、一部の大新聞までそれに拍手を送っている、そんなバカなことがあるか、と思いました。
多くの人は私と同じように考えておられるでしょうが、国政を狙う大阪の地方政党は、これを認めていますし、お腹が痛くなって政権を放り投げた元首相を、持て囃しています。どうしてここまで、政治は劣化してしまったのでしょうか。
この本は、最近の日本の政治の流れを分析し、私達が常識のように思わされている、小さな政府を目指すべきだ、公共事業は悪である、増税は不可避である、と言った政策が、間違ったものであることを教えてくれます。
私達医学の世界では、病気の原因やその状態を研究する「病理学」と言う部門がありますが、この本はまさに日本の政治の病理学の本ですし、鮮やかに今日の日本の病態を説明してくれています。


(2)ポピュリズムへの反撃  山口 二郎  角川oneテーマ

 現在の日本の政治は、実に危険な状態になってしまっています。質の低い次元で停滞、何も進展しない、政治に対し国民の多くが失望しています。その隙間を狙って、より質の低い劣悪な政党が勢いを伸ばそうとし、既成政党はそれとに迎合しようとしています。
その様な政党を認めていることが、私達国民の程度の低さでしょう。大体政治と言うものは、イエスかノーかで決めるものではなく、質の高い議論を通して政策を高めあい、同意形成をしていくものであったはずです。その本質を忘れ、面白おかしくショウの様な事を行い、マスコミもそれに乗ってはしゃいでいます。
現に今も民主党や、自民党の総裁レースがどうのこうのと言っているより、この夏原発を再稼動しなくても余裕のあった電力問題、外交問題などを新聞社独自の視線で切り込むべき時です。
現在の日本や世界の政治で、ポピュリズムの問題は大切なことです。政治家やマスコミは単純な切り口で「俺達と奴等」と物事を決めて行きます。そしてそれに乗り、「奴等をやっつけてしまえ」と大きな声を発し、ことを決めてしまおうとするのが、ポピュリズムです。最近の大阪府や、大阪市の状態を見ていれば、実にわかりやすいでしょう。しかし、その様な短絡的な思考の先には、何も実りあるものは生まれません。
筆者の山口さんは私と考えの根っこのところがよく似た方なので、私の考えを代弁して頂いているように思いながら読みました。
来るべき選挙の時には、皆さんこの本を一読され、良く考え、子供たちの未来のために責任を持って投票してください。


(3)帝国の時代をどう生きるか  佐藤 優  角川oneテーマ

 いつも書いていることですが、いったんは否定された市場原理主義が、手を変え品を変えして出てきています。アメリカで大きな運動があったように、1%の富裕層と99%の貧困層を作っている事実を忘れてはなりません。
大きく考えると、市場原理主義というのは、貧困層を作るだけの働きしかなく、マスコミは「富裕層と貧困層の二極化」と言いますが、「貧困化」だけの話だと思われます。このような時代で、私達が幸福になれるはずはありませんが、それを打破するには一体どういう方法があるでしょうか。
ここで筆者は、マルクスの資本論に立ち返ります。ソ連邦の崩壊で共産主義が(マルクスの唱えたものと実態は全く違いましたが)敗北し、資本主義の一人勝ちになり、その資本主義が露骨に姿を見せたのが、市場原理主義です。そこでこれを打ち破る、または風穴を開けるためには、やはり純粋な形の共産主義を再確認する必要があるでしょう。
自民党より自民党らしい首相が居り、それをチェックする野党が自民党で、それに対抗すると考えられている(本当かね)地方から立ち上がった政党が、なおさら市場原理主義を信奉しているような状態です。
私達はここでもう一度頭を冷やし、これからの私達の行く末を真剣に考えねばならないでしょう。


(4)キノコの教え  小川 眞  岩波新書

 キノコと言うと、いまの季節ではやはりマツタケが頭に浮かびます。その他、毒キノコという言葉も頭をよぎり、「食べられるのかどうなのか」と言うように、考えてしまいます。
しかしこの本を読んでみて、その様に私達の生活に、食用と言う形で関ってくるキノコはごく少量であることがわかりました。大半の菌類はその様に姿を現さず、地中や落ち葉の間、さらには水の中などでひっそりと生活しています。
自分の力で養分を作り出すことが出来ず(これは我々動物と同じ)、自力で移動することも出来ない(動物との大きな違い)菌類は、生きていく為に大昔から様々な工夫をして来ました。その結果たどり着いた結論は、他の生物と共生するという事でした。
水の中に根を出している植物がありますが、水の中では単なる根であるならば、酸素を吸収することも出来ませんし、栄養を吸収することもままならないことが、想像されます。それを容易にするのが、根の周囲に寄生している菌類で、水から酸素をとって植物の根からの吸収を助けています。また植物からは、根に蓄えられている糖分のおすそ分けをもらっているのです。まさに「共生」です。
菌類は長年かけてその様な姿に、ミスからを進化させたのです。この本ではそれらの菌類の、植物や私達の生活にたいしての様々な貢献も紹介してあります。日本の自然はそれら多種の生物が、程よく相互に働き合って保って来れました。しかし、いままさにその様なバランスが崩壊しようとしています。
その様な環境の変化を防止し、植物を活性化していく筆者の行っている試みも紹介されています。私も庭に炭を埋めていこうかと思いました。


(5)大江戸しあわせ指南  石川 英輔  小学館101新書

 江戸時代は封建社会で、市民は虐げられ、息の詰まるようなた生活をしていたような、印象がありませんか。この本は私達が持っている、江戸時代の庶民の生活への偏見を正してくれます。勿論、いまの時代のように便利で、望むものはお金を出せばすべて手に入るという社会ではありませんでした。しかし人々は知恵を出し合い、究極のエコな、生活を送っていました。
正直言って私達は、今よりより楽な生活があると信じそれを追い求めているように感じます。しかしその発想を変えて、身の丈にあった、無駄なものまで求めない生活を追い求めれば、もっと楽な生活が出来るのではないでしょうか。
この本は、江戸時代の庶民の生活を紹介して、3・11以後の私達の生活を再構築していくための、バイブルになる本だと思います。


(6)政府は必ず嘘をつく  堤 未果  角川SCC新書

 これはすごい本でした。
3.11、アラブの春、TPP問題、これらについて何かおかしい、しっくり来ない、そういう違和感を持っていました。それが一挙に解決したようにも思いますが、なんとも空恐ろしい、またここで私達一人一人が頑張らないと、とんでもない世界になると感じ、居ても立ってもいられないように感じています。
アメリカでオバマ大統領が就任し、日本で民主党政権が誕生した時、ある意味息苦しい世界に風穴が開いたように感じたのですが、それ以後両国で起こっている事を仔細に見れば、市場経済主義がこれまでより巧妙な形で裏で糸を引いているに過ぎないことが判ります。
3.11以後の日本で見れば、原発村が最近反撃に出てきていますし、「被災地域の復興」と言う言葉を隠れ蓑にして、経済特区構想が出て来て外国資本にひさいちを明け渡しやすく法律が変えられようとしています。
アラブの春も素晴らしい、民主主義の勝利のように報じられていますが、その一番の武器になったインターネットやツイッター、フェイスブックなどの大本は、アメリカの巨大資本ですし、それらの会社は送信内容を自由に見ることが出来、その会社やアメリカに不利益な情報は自由に削除できます。しかもその削除できる権利は、9.11以後にテロとの戦いと言う言葉で熱狂していた時代に作られた「愛国者法」で担保されています。この本でも触れられているように、何か大きな事件があった後に、誰が一番利益を得たかを見ることで、その事件上手く利用した勢力がわかります。
アラブの春で見ると、その国の民主主義はなかなか発展しませんが、臨時政府とアメリカ資本の関係はすぐに良好なものが出来、それまでの独裁者が握っていた(しかもリビアのカダフィなどはそれを国民のために使っていた)石油産業などの利権が、アメリカの石油の大企業のものになりました。これと先ほど紹介したようにアラブの春を推し進める大きな武器になった、通信方法の大本がアメリカ産業であることとつなぎ合わせると、なんとも恐ろしい気持ちになります。
これは何もアメリカだけの話ではありません。日本でも日本国内資本や、アメリカ資本による、同じような事例が進んでいます。1%の富裕層を守ろうとしている(その裏では99%の貧困層が出来る)政策を推し進めようとしている、自民党、民主党、大衆を先導してアメリカよりひどい国を作ろうとしている大阪から国政に出るあの政党、このような政党や、それにたいして市民の立場で反論せず、財界の広報機関に成り下がっている大手マスコミ、私達はこれらに反旗を翻し続けなければなりません。
ペンの力で、私達に勇気を与えてくれる、最初にも書きましたが、すごい本です。


(7)鉄道の未来学  梅原 淳  角川oneテーマ

 鉄道おたくではありませんが、小学校入学以来55年近く関西本線を利用してる私です、やはり鉄道のことが気になります。汽車や、ディーゼルカーや、電車に乗ってきました。最近大和路線で、大阪に行く大和路快速の接続は便利になったのですが、普通列車の本数が15分に一本、言い換えれば柏原発の列車が1時間に4本と激減しました。
以前なら一本乗り遅れても10分待てば次がある、と思っていましたが、15分となればすごく損をして居るような感じになります。比較的多くの方が乗っていると思われる、近郊列車でもこのような様子です。他の過疎の地域を走っている鉄道のことは、押して知るべしです。
国鉄は分割され、JRになりましたが、そのドル箱はやはり新幹線です。この本はその新幹線がこの先どうなっていくのか、リニアモーターカーの実現の可能性は、などについて様々なデータを下に考察してあります。
鉄道ファンのみならず、経済に興味のある方にも面白く読める本だと思いました。


(8)地図と愉しむ東京歴史散歩  竹内正浩  中公新書

 明治時代になって、西洋の方式の地図作成が盛んに行われました。それらの多くの資料は、今でもそこそこの数が存在するようです。
この本はそれらの地図を参考に、現代の東京を紹介してあります。都市計画が進むにつれ、これまでの市街地では、立ち行かなくなっていきます。そこで政府は川の流れ方を調整したり、新たな道路を作ったりするのですが、そのためにそれまであったものがなくなったり、移設されたりします。
筆者はは地図の時代に応じた変化を見ることで、東京の発展の後形を訪ね歩いています。軍事遺産がその後どうなったか、廃止された競馬場はその後どのような道を辿って言ったか、廃線になった鉄道用地はその後どうなったか、それらのことを豊富な写真を使いながら照会してくれます。
大阪版がでたら、喜んで買うのに、と思いました。是非期待しています。


(9)うなぎでワインが飲めますか?  田崎 真也  角川oneテーマ21

 ソムリエの田崎さんが、世界のワインの説明と、その国の料理との相性を紹介してくれています。
私は晩酌をするとき、いまの季節からはワインを飲みます。正直言って難しいことはわかりませんので、通信販売で評判が良く値段も辛うじて4桁、と言うワインを飲んでいます。仕事の疲れを癒す目的ですから、気軽に呑みたいのです。外国でワインを飲んでいる人たちも、多くはその様に呑んでいるのではないでしょうか。
だんだんと飲める量も少なくなってきましたし、食べ物もあっさりとしたものを好むようになって来ました。そうは言っても、この本で田崎さんが書いているように、醤油味のものには、赤ワインを呑みたくなります。この本を読んで、その様な感じ方で間違いではないことを知りました。
でもやはりもっと寒くなり、湯豆腐やお鍋の季節になれば、やはり日本酒だなと思ってしまいます。


(10)俳句いきなり入門  千野 帽子  NHK出版新書

 新聞の俳壇を読むのが好きです。和歌となると感覚的に長い感じがし、言葉は悪いですがくどくどとした説明を受けているような感じがして、朝ごはんのときに読むのがちょっと鬱陶しく感じることがあります。
ただ俳句も難しい言葉が多かったり、漢字を振り仮名を打って普段使用しているのと違うように読ませたりするものには、どうも違和感を覚えます。この本は全くの素人から、俳句に入った筆者が、俳句にどのようにして「ハマッテ」いったらよいかを紹介しています。
俳句と言ったら、まず季語ですがそれは後から付いてくるもので、それを出すまでの内容を持っておくことが必要だと言います。また俳句は詩歌ではなく散文の切れ端で、感想や読んでからの膨らまし方は、その俳句を読んだ人に任せるものだ、とも述べています。ここらあたり、国語の授業で習った俳句のとらえ方とは、正反対です。
また俳句と言うのは句会を下に発展してきたものなので、句会をすることの楽しさを知ることが必要だと指摘しています。
「そんなこと言われても俳句を作るのは大変だ」と考えている方も居られるでしょうが、筆者は句会を主催する、とんでもない方法を教えてくれます。これはこの本を読んでのお楽しみですが、これなら私でも句会を開けそうです。
この本を読んで、俳句の一つでも作りたいと思いましたが、やはり新聞の俳壇を読むだけのほうが、無難なようです。


(11)女王、エリザベスの治世  小林 章夫  角川oneテーマ

 今年で在位60年になるエリザベス女王、この60年は大きな変動、変化が起こり、イギリスにとっては大変な時代でした。色々なことがありましたが、国民に信頼され愛されているからこそ、エリザベス女王は元首としてやってこれたのだと思います。
これと同じことが、日本の平成天皇にも言えると思います。国民と同じ立場で、国民の側に立って物事をとらえておらる姿勢がよく判ります。これからの皇室のあるべき姿を、全身を使って現されているのでしょう。
これからの王室のあるべき姿を、エリザベス女王や、平成天皇は考えて行動されているのでしょう。しかしその子の代となれば、どちらの国も少々不安ですが。また大きな変革が色々な国で起こるでしょうが、色々な意味で伝統的な、代々続く家系というものは、必要だと感じました。


(12)深読みフェルメール  福岡伸一、朽木ゆり子  朝日新書

 神戸市立美術館で、マウリッツハイス美術館展が開かれています。その展示作品の中で一番の目玉は「真珠の耳飾りの少女」でしょう。しかしフェルメールという画家の名は、私の年代の人なら、学校の美術の授業でも聞いたことがないでしょう。ある意味で、知らない画家でした。しかし最近、大阪ではじめての展覧会があり、急に有名で人気も絶大になってきました。
そのフェルメールが好きになり、全作品制覇をした二人が、フェルメールの作品の魅力について対談しています。
私は彼に関する本を何冊か読んでいますが、どの本でも触れてある淡い光線の移ろい、光は面でなく粒子で私達の目に飛び込んでくる、その気持ちよさ、これらが彼の絵の特徴でしょう。
そのフェルメールの代表作が神戸にやって来ます。当然「真珠の耳飾りの少女」を見に行きますが、私は後「デルフトの眺望」を見ることが出来たら、フェルメールに関しては思い残すことは有りません。


番外篇  その1  銀河英雄伝説  宝塚大劇場  宙組

 鳳稀かなめさん、トップ就任のお披露目公演です。娘役トップも実咲凜音さんになりましたので、トップコンビのお披露目です。その他色々と組替えがあり、私の慣れ親しんだ宙組とは、全く違った組のような印象です。正直言って、大空祐飛、野々すみ花、蘭寿とむ、北翔海莉さんたちがいた宙組が、私の中では宙組でした。
そんな気持ちで観劇した今回の公演ですが、「コーラスの宙組」は健在でした。
ただ今回の話は、遠い未来を舞台にしたものなのですが(宝塚では珍しい)、内容は、出る杭は打たれるとか、人と人の欲望が交錯するとか、何時の時代でも共通する話でした。しかも、貴族などの上流社会が出てきたり、国王が目にとまった美しい娘を命令で妃にするとか、17、18世紀のドイツを舞台にした方が、見ている私もすっきりするようなものでした。
この話は、小説で出版され、また漫画にもなったベストセラーを宝塚版にリメイクしたものだそうです。このブログを読んで頂いている皆さんは(そんな人はあまり居られないと思いますが)後存知のように、私はSFや漫画は読みません。だからどうも違和感がありました。
でもまあ、こういう言い方は失礼なのは百も承知していますが、これまであまり目立たなかった生徒さんが、新生宙組に来て頑張っているな、と感じました。私がこの組に慣れるまで、もう少し時間が必要なようです。


番外篇  その2  エリザベート 梅田芸術劇場

 宝塚ファンの共通の疾患だと思いますが、数年「エリザベート」を観劇をしなければ、禁断症状が出てきます。私もその症状が出てきかけていましたので、早速この公演に飛びつきました。
主役のエリザベートは、元花組トップ男役の春野寿美礼さんと、元月組トップ男役の瀬奈じゅんさんのダブルキャストです。私が観たのは、瀬奈さんの舞台でした。
宝塚の舞台よりは、オリジナルのものですので、やはり少しは違っています。ただ今回の方を観る事で、宝塚の舞台で省略されている所などがよく判り、内容としては、すっきりとしたものだったように思います。宝塚版のエリザベートは、主演男役が演じるトートのためのエリザベートなのだということが判ります。勿論私は大好きですが。
以前「アイーダ」(宝塚では「ナイル川に捧ぐ」)を観た時、宝塚に比べて男声のハリの強さを感じましたが、今回も同じように感じました。トート役は、マテ・カマラスさん、ちょっと声が甲高いように感じましたが、それを補って余りある演技力、歌唱力でした。
大満足の公演でした。
この公演の帰路、前回書いた元宙組娘役トップの、野々すみ花さんを見かけました。美人でびっくりしました。瀬奈さん、野々すみ花さんなどトップに立てる人は、どこかが違うと納得した次第です。


番外篇  その3  ジャン・ルイ・ファージョン  宝塚バウホール  星組

 星組2番手男役の、紅ゆずるさん主演のミュージカルです。
フランス革命の頃に、王妃マリー アントワネットを初め多くの貴族に愛された調香師の物語です。調香師という職業は、色々な材料を調合して、香水の香りを作る職業です。彼はそれまで麝香などの動物性のものが中心だった香水の香りに、花などの植物性のものを入れ、華やかなものを作ったそうで、それがその当時の上流社会の人たちに愛好されたようです。
しかしその様な彼にも時代の波が押し寄せ、「貴族の好む贅沢品を作っていた人は人民の敵だ」と言う理由で、革命裁判にかけられます。
この時代で、その様な理由で革命裁判にかけられれば、まず死刑は免れないでしょう。彼はその判決を受ける前に、まだ幼い子供にたいして彼の記録を残しておこうと、手記を書きます。それには彼のたどった歴史や、人々にたいする考えが述べられていました。
そしてその判決が下る日を迎えますが、まさにその日にこの革命の大きな転機が訪れます。
実にスリリングな、また最後はハッピーエンドで終わる面白い作品でした。皆さん好演ですが、弁護士役の美城れんさんが実にいい味を出し、キーマンの役割を演じていました。


白 江 医 院 白江 淳郎

2012/09/16 2012年8月の読書ノート
(1)大人のロンドン散歩  加藤節雄  河出文庫

 在英40年の筆者が、ロンドンを地下鉄やバスを使って移動しながら、紹介してくれます。ロンドンはテムズ川を基点として、またシティーと呼ばれる中心部から見物を始めるのがよいようです。ちょうどマラソン競技のコースをたどってみれば、それらが出てきますし、興味深く見られるでしょう。
 筆者はロンドン中心から、東西南北方向に範囲を広げ、紹介を続けます。これを読んで感心するのは、ロンドンではすぐ其処に自然が残り、人々がその恵みを享受するとともに、協力して維持して行っていることです。ロンドンから少し行った所に、野生の鹿がすんでいる大きな保護区があるなどということは、信じられないことです。
 それらを見ていると、イギリス人の趣味で「散歩」があるということは理解できます。その様な自然の中を、首都の真ん中で得ることが出来れば、其処を歩いて見たいと思うことは、当然でしょう。
 私はもうロンドンに行ける事はないと思いますが、必携の本だと思います。


(2)明治洋食事始め  岡田 哲  講談社学術文庫

 鎖国を開国し、諸外国との交流が始まると、外国人の目新しい食生活が見られるようになりました。肉食の習慣など、その最たるものでしょう。
 明治維新は「料理維新」だったと、この本の帯にありますが、明治新政府は国民の体位向上を目指す目的もあり、肉食を推奨します。明治天皇も肉を食べ、牛乳を飲みと言う生活を、時にされるようになります。しかし日本の食事は、西洋の食事をそのまま真似るだけでは終わりません。米食とマッチするよう、独自の発展を始めます。
 とんかつ、コロッケ、あんパン、ライスカレー、これらは西洋の食事を私達の口に合うよう、お米のご飯とマッチするよう、多くの料理人が工夫を凝らし、発展させてきたものです。この本は、その工夫の歴史を面白く紹介してあります。
 ライスカレー、コロッケ、私の好物ですが、考えれば西洋料理ではなく、洋食でした。正直言って毎日食べても飽きないと思います。読み終わって、食べたくなりました。


(3)芭蕉「おくのほそ道」の旅  金森敦子  角川oneテーマ

 奥の細道に関する本は何冊か読んでいますが、この本は同行した曾良の覚書も参考にして、その旅程をカラーの地図で紹介してくれています。この地図を参考にして、芭蕉の足跡をたどるのも、面白いと思います。
 いまでこそ有名な芭蕉ですが、この旅をした頃はそれほど有名ではありませんでした。その当時俳人が旅をするとき、有名な人ならば行く先々で、門弟などが居り、宿の手配をしてくれたり、句会などを催してくれ、それからの収入がまた路銀になっていきました。ところがそれほどでもない芭蕉の、今回の紀行の、今で言うコーディネーター役の曾良の苦労は大変だったと思われます。(その為最後の方では、体調を崩すのですが)
 それにしても昔の人は、健脚ですね。一日に10里くらい歩くのが普通のようです。


(4)化石の分子生物学  更科 功  講談社現代新書

 私達の身体の細胞の中には、核がありその中に遺伝子があります。その遺伝子は、遠い祖先、単細胞生物の頃から長い長い旅をして、現在の私達になっています。その遺伝子を調べることで、どのように人類を初めとする生き物が、進化してきたかがわかります。
 昔の生き物で私達が目にすることが出来るのは、最近のものならば標本でしょうし、もっと前のものならば地中から見つかる、骨などでしょう。さらにもっと以前となると、化石と言うことになります。
 それらから、色々の最新の科学技術を駆使して、遺伝子を取り出しそのゲノムを研究することで、生命進化の謎を解く、それを筆者は行っています。この研究の成果はどれほど質の高い標本を取り出せるか、にかかっています。注意して作業をしても、周辺からの細胞の進入があり、誤った結論を導き出してしまうこともあります。
 筆者はこの本で、この研究に携わる研究者の実験方法、その結果、それにたいする正確な評価を述べています。科学ですから、医学と違って結果オーライの部分はありません。そこらあたりの違いなどを感じながら、興味深く読むことが出来ました。しばらく、このような理科系の本を読んでいなかったので、久しぶりにほっとしました。


(5)快楽としての読書  日本篇  丸谷才一  ちくま文庫
(6)快楽としての読書  海外篇  丸谷才一  ちくま文庫

 私は読みたい本を選ぶときは、朝日新聞の日曜版の書評のコーナーを参考にすることが殆どです。それと新聞の新刊本の広告を見、本屋タウンなどの紹介を読んで決めることもあります。いずれにしても、その本の購読を考える、一番大きなヒントは書評です。
 丸谷才一さんは皆さんご存知のように有名な作家ですが、書評にかけても第一人者です。
この本では、これまで丸谷さんが主に週刊朝日や毎日新聞に書いてきた書評の、傑作が集められています。これを読めば、その本が読みたくなるのは当然で、私の購入予定の本のリストに何冊か入ってしまいました。
 私のブログをお読み頂いている方は(もし居られれば)気づいておられるでしょうが、私は小説や文学作品を読む比率は、やはり少ないと思います。ですから丸谷さんがされる書評の中に私が読んだ本は、全くないと思っていました。ところがあったのです。それは、日本篇では池上正太郎さんの「散歩のとき何か食べたくなって」、萩原延壽「遠い崖 アーネスト・サトウ日記抄」、絶対にないと思っていた海外篇では、フレデリック・フォーサイス「ジャッカルの日」。
 「遠い崖」はこれは力作で、再読したいものですが、丸谷さんが池上正太郎さんや、フォーサイスまで手を広げられているとは、思いませんでした。
今回は、書評を集めた本を書評する、と言う奇妙なものになりましたが、この本は読書好きの方なら手許に置いておく値打ちのあるものだと思います。


(7)健全な肉体に狂気は宿る  内田樹、春日武彦  角川oneテーマ21

 私よりほんの少し年上の、興味ある二人の対談集です。精神科医とフランス文学者のお二人ですが、心の問題について話題は尽きません。
 私もいつも考えるのですが、「自分探し」や「人に自分のことを判って貰おう」と言うことなど、そもそも自分で自分が判っていないのに不可能です。以前患者さんで「家族が私を理解してくれない」と訴えて居られました。そんなもの不可能で、そんなことを期待するから、気持ちが落ち込むのだと思ったのですが、このお二人もその様に述べておられ、 私が天邪鬼ではない、と安心しました。
 健全な精神とは何か、言葉を発声する事の意味は、などなど面白い話題が満載です。(正直、あまり詳しく書くと読む楽しみがなくなるので、この辺で)


(8)態度が悪くてすみません  内田樹  角川oneテーマ21

 内田さんがこれまで方々の本や雑誌に書かれたものを、集めたいわばエッセイ集です。筆者自身がどこに投稿したか不明のものもありますが、言語と身体の関係など、興味あるものばかりで、楽しく読めます。
 実は私は、現在内田さんの書かれた、構造主義の入門書を読んでいるのですが、この本はその入門書のための入門書として読んだら、面白いと思います。次に紹介する本との3部作の2冊目のようなつもりで読めば、興味深いと思います。


(9)寝ながら学べる構造主義  内田樹  文春新書

 純粋に理科系とはいえませんが、医学の世界にいる私としては、現在をどのように理解するかとか、自我とは何かとかは大いに苦手です。ここに居る、そのことが自分の存在の証明ではないかと思ってしまいます。
 しかしそのものに名前を与えることで、初めてその存在が認知される、と言わればその通りですし、歴史は「いま、ここ、私」に向かっていないと言う説明をよめば、納得できます。
 正直言って寝ながら読むことは、すぐ寝てしまいそうでしっかりと椅子に座って読みましたが、現在、自我、私、と言ったことを再確認するには最適のヒントを与えてくれる本でした。


番外篇  サン テグジュベリ コンガ  宝塚大劇場  花組

 中学校のときだったと思いますが、「星の王子さま」を読みました。正確に言うと読み始めました。しかし、訳がわからず、途中で投げ出しました。私は読書が好きで、どの本でも最後までがんばって読みきるのですが、「星の王子さま」と「素晴らしきアメリカ野球」だけは駄目でした。
 その様なトラウマを持ちながら、観劇しました。
 しかし、判りませんでした。サン テグジュベリの生涯と、「星の王子さま」を絡み合わせながら物語りは展開していくのですが、「星の王子さま」が出てきたとたんに、話が止まってしまいます。
 ファンの方の掲示板では、好意的な意見もあったのですが、私としては「星の王子さま」の場面、特に狐と王子さまの場面などは、鬱陶しいばかりで全く不必要に思いました。サン テグジュベリと妻の愛情物語に絞ってしまった方が、遥かにすっきりしたのに。
 しつこいようですが「仮面の男」を見ているので、どんな駄作でも怖くはありませんが、
 東京公演までに手を入れることを希望します。
 ショウの「コンガ」は音楽も面白く、まあまあの評価です。けちをつければ、南米が舞台で登場人物が皆黒塗りなので、判別が難しかったことです。


白 江 医 院 白江 淳郎

2012/08/10 2012年7月の読書ノート
(1)勝海舟の腹芸  野口武彦  新潮新書

 明治維新での徳川幕府側の大立者といえば、勝海舟でしょう。題名に惹かれて読み始めましたが、勝海舟の名が出てきたのはほんの少しですし、腹芸を紹介しているところなど、見つかりませんでした。
明治維新で起こった事件を時系列で紹介してあるので、判り易く読めたのですが、一体どこに「勝海舟の腹芸」が紹介してあるのか、全く判りませんでした。
題名に騙されず、明治維新の創生期の動乱を紹介した本と考えれば、まあ納得できるでしょう。週刊新潮に掲載されていたものを、本に書き下ろしたものですが、それほど期待して読む値打ちのある本ではないと思いました。


(2)尼さんはつらいよ  勝本華蓮  新潮新書

 尼さんと聞くと、宝塚歌劇団ではありませんが「清く、正しく、美しく」というイメージがあります。近くの道明寺には尼寺があり、いつも綺麗に掃き清められ、境内に入っただけで、心安らかになります。
しかし筆者の経験した尼僧の世界は、その様なイメージとはかけ離れていたようです。もともと尼さんは絶対数が少なく、仏教の経典では男性の下に置かれている存在ですので、(私が言っているのではありません。お間違え無きようお願いします)その苦労は理解できます。しかしその世界は我々の俗世界と同じか、それよりもっと別方向へかけ離れたもののようです。まあどの世界でも、その世界にどっぷりと浸かってしまえば、それが当たり前になるのでしょうが。
私達の知らない社会を紹介してもらい、興味深い本でした。


(3)放射能列島 日本でこれから起きること  武田邦彦  朝日新書

 多くの、環境問題によいと考えられ行われてきた運動に、「それは間違えている」と警告を鳴らし続けてきた筆者が、今回の福島原発メルトダウン後の日本のたどる道について論じています。
筆者がこれまでたびたび述べてきたように、地球温暖化やリサイクルなどの環境問題は多くは利権がらみの運動でした。地球温暖化問題などは、その最たるものでしょう。その問題の解決策として、二酸化炭素を出さない理想的な発電源だということで、原子力発電が、この地震の多い、またこれから大地震が確実に起こると考えられる日本に、40基以上あるのです。どうしても原子力発電所を増やし、資産を増やして電気料金を上げたい地域の独占企業である電力会社の思惑と、地球温暖化問題が上手くリンクしました。
東日本大震災で、東北地方の太平洋側にある5箇所の原発すべてが破壊され、そのうち4箇所は爆発する危険性が大きかったということです。津波が悪者ではないのです。そもそも原発が、地震に耐えられるようには出来ていなかったのです。
しかし、問題は勿論それだけではありません。放射能汚染はこれからも広い範囲で続きます。まさに枝野官房長官が発表したように「直ちに健康被害は起こらない」訳ですが、数年後からはがんの発生が増加するでしょうし、小児の甲状腺の問題などもこれから出てくるでしょう。そうなれば政府は、広島の原爆症の認定のように、様々な理屈をこねて責任回避をするに違いありません。
筆者は科学者ですが、何も科学者に頼らなくても、常識を持ち誠実に物事を判断すれば、これからの私達の生活が如何に危険なものであるか、それに対してどのような方法を講じるべきかは判るはです。
一読する値打ちのある本です。


(4)震災復興 欺瞞の構図  原田泰  新潮新書

 東日本大震災の復興には、20兆円以上のお金が必要だといわれています。しかし、日本人一人当たりの物的資産は966万円に過ぎないのに、20兆円以上の復興費では、被災者一人当たり4600万円が使われることになります。
それだけのお金が使われるとしても、まだ現在多くの人が仮設住宅に住んでおられ、自宅を作る、またそこに住む事ができるといったことは何時になるか、全く見当が立ちません。
山を削ってエコタウンを造成する、色々な経済特区を作る、自然エネルギーを使用して云々といった、なかなか実現しそうにない、また、実現しても誰が住むんだといった、机上の話が方々で飛び交い、それにどれだけのお金をつけるかという、頭でっかちの話ばかりが進んでいます。そんなものより、従来住んでいた所、あるいはその近くの安全な所に多くの人たちは早く家を立て、戻りたいはずです。そうすることで経済活動も再開し、東北の被害地が活力を取り戻すのではないでしょうか。
もともと震災で被害の大きかったところは、人口もそれほど多くなく、大きな産業もそんなになかったところです。まずはそこを元の姿に戻すことが、すぐにしなければならない用件ではないでしょうか。
筆者はこれに必要な費用は、6兆円と計算しています。政府が計算している額と14兆円の差があります。政府の予算は全くの浪費と言えましょう。結局これは増税の口実に使われているだけです。これらの多くは被災者の役に立たない、震災復興の名を借りた無駄な事業にまわされるだけです。
筆者の話は、説得力があり、感銘を受けました。政府がこれからどのように政治を進めていくか、皆で見守りましょう。


(5)報道の脳死  烏賀陽弘道  新潮新書

 3.11以来、新聞、テレビ等の報道に疑問を持っています。私は全国紙では、朝日新聞と毎日新聞を購読しているのですが、文章やタイトルはちょっと違っていても、切り口は似たり寄ったりで、こんなにも原発を容認している人が多いとは思えません。また政府や東京電力の発表を、精査もせずに報道していることが私にも判るような事が、多々あります。この本の帯にもありますが、なぜかくも陳腐なのでしょうか。
その原因や現状を、朝日新聞やアエラで活躍していた筆者が、鋭く考察しています。筆者の言うとおり、報道機関はその報道内容を多くの国民が信用しなくなっている事を認識できずに、従来の様式で記事を発信し続けています。
筆者はこの原因を大きく二つ挙げています。一つ目は、記者の「クエスチョニング」の不足、つまり政府の発表などを精査することなく(またその時間もなく)、疑問も持たずに報道してしまう事。もう一つは、新聞社内部で部署を細分化したばかりに、情報の「断片化」が起こり、事件や記事を総合的に判断することが出来なくなってしまっている事。
「市民を権力から自由に保つ為の、情報を運ぶ」というジャーナリストの本来の使命が、今全く失われています。
正直言って今信用できるのは、以前より書いているように、独立したジャーナリストの記事くらいでしょう。これは自由報道協会のホームページにアクセスしてみてください。


(6)老いを愉しむ習慣術  保坂 隆  朝日新書

 生物すべて、嫌でも年齢を重ね、やがては死んでいきます。20歳を一区切りとして、4つ目の一区切りに入ってしまった私としては、これから先どのように生きていくかを、またどのように私の人生を完結させていくかを、考えねばなりません。
歳をとる、老いる、ということは、若いことが一番と考えればある意味負けていることかもしれませんが、人生が充実していくという意味では、いいことかもしれません。この本にはその老年期を、より充実したものにするためのヒントが紹介してあります。
とは言うものの、こと自分のこととなると、一体これからどのようにして行こうか、と思い悩みます。まあ、通えるうちは宝塚大劇場に行くでしょうし、毎朝のウォーキングは続けるでしょう。
しかし仕事以外で人と話をすることは少ないので、そこがどうなるかでしょう。大学の同級生となるとまた医学の話になるし、と言って中学、高校の友人も医師になっている人が殆どなので、話題が少なくなるのかなぁ。ただ皆結構多種類の趣味を持っているので、その辺から輪を広げていきますか。


(7)古事記誕生  工藤 隆  中公新書

 約1300年前に、古事記は編纂されました。この時代は、日本が対外的にも発展していこうとする時代でしたが、その時代に神話ともとらえられるような、古事記が編纂されました。筆者はなぜこのような、新しい時代を模索するその時に、古代を懐かしむものが作られたのかを、まずは考察します。
またその古事記の中にある、縄文、弥生時代の神話がなぜこの時代まで残ってきたのかを考察します。この奈良時代と言うその「点」ではなく、それまで連綿と続いた「線」で古事記を捉え直しています。
それらの例として、アメノイワヤト神話を例に取り、その中に潜む、縄文、弥生の文化、またそれに影響を与えた、古代中国の長江沿岸の文化の影響について、考察を加えています。


(8)ニッポンのサイズ  石川 英輔  講談社文庫

 私が小学校低学年の頃、まだ体重計には「貫」の表示があり、竹のものさしには、尺や寸の表示が、センチと一緒にありました。
「百貫デブ」、「16文キック」、懐かしい言葉です。今でも、家の広さは坪で言ってもらった方が判りやすいですし、部屋の広さも畳で言ってもらった方が、ピンと来ます。地球の大きさから機械的に決めた長さの単位より、私達の身体の部分から決めたサイズの方が、なぜかしっくり来ます。
この本は、これまで私達の先祖が使ってきた、様々な度量衡の単位を紹介し、わかりやすく解説してくれています。
手軽に読めて、面白い本でした。解説が比較的短くまとまっているので、暇なときにパラパラと読んでください。薀蓄を傾けるのに、好都合です。


(9)ウナギ大回遊の謎  塚本勝巳  PHPサイエンス・ワールド新書

 土用が近づき、やはりウナギです。若い頃は、「ウナギなどで元気が出るか?」と生意気にも思っていました。しかしこの歳になるとウナギの美味しさ、また食べた後なんだか元気が出るような感じが判ってきて、喜んで食べるようになって来ました。
しかし皆さんご存知のように、ウナギは海から川に遡上して大きくなり、また海に戻って、太平洋のどこかで産卵します。この本はそのウナギの、大回遊の謎を研究してきた先生の書かれたものです。大学で行う研究とはここで紹介されているような、すぐにお金にはならず、しかし私達の興味を掻き立ててくれるものでしょう。
学問とは、事業仕分けや、大阪府の言っているような、効率的にお金儲けが出来るものでは、決してありません。このようなことを研究することが、その国の財産になるはずです。
私は一浪したときに、二浪目でもし医学部に合格できなければ、京都大学の理学部か農学部に進み、海洋生物学を専攻したいと、考えたことがありました。もしその道に進んでいたなら、このような研究をしていたのかもしれないと、興味を持って読みました。これは面白い本でした。


(10)驚きの英国史  コリン・ジョイス  NHK出版新書

 イギリスは私にとって憧れの国ですが、落ち着いた紳士の国と言うイメージとは裏腹に、ビートルズ、ミニスカート、などといった先進的なものを世界に発信しています。
今日のイギリスの、様々な面を形作ってきた歴史的な背景を、この本は紹介してくれます。マグナ・カルタ、ノルマン・コンクエスト、と言った出来事や、外交問題でイギリス政府が見せる、鮮やかな駆け引きのルーツ、それらが面白くかつ平易な文章で紹介されています。
ロンドンオリンピックを見ながら、カウチに寝転んで読んでみてください。


(11)イギリスの不思議と謎  金谷展雄  集英社新書

 「驚きの英国史」に続く、英国シリーズ第2弾です。この本では、イギリス人ならその存在に疑問を持たないでしょうが、私達外国人から見ると、判らない、不思議だと言うことを、取り上げてあります。
「紳士」とはどういう人を指すのか、フーリガンの元祖は?と言ったプライマリーな疑問にたいして、親切な解説を加えています。
先ほど紹介した、「驚きの英国史」と一緒にに手許に置いておき、何かあったら読んで見る、と言う本でした。
この2冊は気軽に読め、楽しい本でした。


(12)動物に「うつ」はあるのか  加藤忠史  PHP新書

私達医師は患者さんに問診、視診、触診、打診、聴診を行い、また臨床検査を併用して病気の診断をします。(のっけから堅苦しい文章ですが)しかしそれらの技術や、検査では診断できないものが、心の病気です。
精神科では、言葉による診断、治療がまだ主役になっている部分があります。またそれだけに診断が一定しないケースが起こるでしょうし、一般の人たちにも誤った情報が発信されることがあります。
たとえば、会社で人間関係が上手くいかず悩んでいる人が居たとします。その方は当然、気持ちも重いでしょうし、悩みがあり食事も進まないかもしれません。これは「悩み」なのですが、この人は多分「自分はうつ病だ」と認識したり、周りの人にもその様に伝えるかもしれません。その様になれば、「うつ」と言う言葉が独り歩きをしてしまいます。
臨床家であり、基礎医学の研究者でもある筆者は、正しくこれらの疾患が診断され、治療されるように研究を続けています。ただ病気に対する特効薬を作るとき、どうしても必要になるのが、動物を使った基礎実験です。しかし、言葉を持たない動物を、どのようにして「うつ」と診断するのでしょうか。またどのように「うつ」の動物を作るのでしょうか。
その病気を持つ動物を作るには臨床の膨大なデータが必要ですし、そのデータを解析しその病気を持つ動物を作ると言う、地道な研究も必要です。ここで基礎医学と臨床医学の共同作業が必要になってきます。以前躁うつ病と言われた、双極性障害を専門にしている筆者が医学研究の面白さを紹介してくれています。


(13)親鸞 いまを生きる  姜 尚中ら  朝日新書

 750年前の日本は、実に混乱した時代でした。その様な時代でしたので、「どのように生きるべきか」、「死んだらどのようになるのか」と言った問題が、実に身近にあったのでしょう。 まさに日本の宗教改革の時代でした。
その時代に新しい考えで、宗教を再編成したのが親鸞だったと言えるでしょう。自分の愚かしさ、罪深さを自覚し、しかしそれは阿弥陀様のような大きな力に、私達が生かしていただいているその姿の現われだと自覚すること、それが彼の説いた考えです。
60歳になり、以前にも書きましたが、自分の死と言うものがすぐ其処にあってもおかしくはない状況になったいま、このような教えは、すとんと腑に落ちるように思います。
私達日本人にとって、やはりこのような仏教の教えの方がよういに理解できると思いました。


番外篇  ロミオとジュリエット  月組  宝塚大劇場

 トップコンビの(私のお気に入りの)霧矢大夢、蒼乃夕妃さんが退団して、生まれ変わった月組のお披露目公演です。
宝塚で、この脚本のロミオとジュリエットが上演されるのは、3回目です。私は勿論3回とも観劇したのですが、各々の組で印象が異なり、面白く思いました。
梅田芸術劇場での星組は、少人数でしたので迫力と言う面では少し違ったのですが、出ているメンバーが実力者ばかりなので、一番印象に残っています。特に白華れみさんの乳母、音花ゆりさん、花愛瑞穂さんが演じた両家の母親が印象に残りました。宝塚大劇場の雪組公演は、若さを色々な意味で感じました。
さて今回の月組です。初日から数日後に一回目を見たのですが、まだどうもしっくりとした感じがしませんでした。しかし講演日程の中ごろ、また終盤近くに観劇した時には、
大分この劇に馴染んできているように思いました。時間とともに、進化したようです。安心しました。
現在の月組は、変則的に男役トップ、準トップを置いています。その二人が主役、敵役を演じます。私の印象では、ロミオを準主役の明日海りお、敵役のティボルトを、トップの龍真咲が演じた方が、しっくりしました。それと星組から組換えした美弥るりかさん、生き生きと大活躍でした。みやちゃん、月組に来てよかったね。


白 江 医 院 白江 淳郎

2012/07/16 2012年6月の読書ノート
(1)郵政崩壊とTPP  東谷暁  文春新書

 TPPなどと言う日本国民に何ら恩恵を与えるはずのないものに、民主党政権はなぜ参加しようとしているのだろう、と皆さん不思議に思いませんか。恩恵を与えない、という言葉は正直控えめな言葉で、むしろ日本社会を破壊してしまう可能性があります。
 そのTPPが、郵政民営化やそれ以後に起こった「かんぽの宿」問題などの政権を巻き込んだ、金融スキャンダルと同一線上にあることを、この本は指摘しています。
 有名なことですが、政府が行う様々な政策の根本になっているのが、アメリカ政府が日本に出す「年次改革要望書」です。日本の政治家、官僚は国民の方を見ることなく、この要望書に沿った、アメリカ政府、と言うよりウォール街が気に入る政策を立案しています。
 アメリカは最早、製品の生産国ではなく、お金を動かすことにより儲けを得る国家になっていますから、どこかにお金があるのを見つけると、そのお金を取り込もうと様々な画策をします。
 まず目をつけたのが日本の郵便貯金で、それに乗った小泉、竹中が音頭を取り、オリックスの宮内や三井住友銀行の西川がその利権を得ようと、動き回りました。実に浅ましい限りです。次にアメリカが狙っているのが、農協などの「共済」事業でその方策としてTPP参加があります。
 原発の問題といい、このTPP問題といい、民主党政権というのは真摯に国民のことを考えたことがあるのでしょうか。このような不満に乗じて、ポピュリズムの新たな利権を漁ろうとする政党が、頭をもたげています。
 次回の総選挙で、本当の国民の意思を表さなければ、子々孫々にたいして私達は顔向けできないでしょう。


(2)最高裁の違憲判決  山田隆司  光文社新書

 小学校で、日本は三権分立で治められている、と教えてもらいました。行政や立法の誤りを司法が指摘して、間違いのない国家の運営を行っていくのだ、ということです。
 しかし、その後の日本を見ていると、この本でも取り上げられているように、衆議院選挙の一票の格差も、最高裁である程度は容認してしまうような判決が続きました。「選挙制度を決定するのは、立法府の仕事だから、司法が文句を言っても仕方がない。」というような態度です。これでは一体何のための司法なのか分りません。行政、立法の不行跡にお墨付きを与えるのが仕事のように思えます。
 この本で書かれているように、戦後新しい裁判制度が始まって64年で、法令違憲判決がわずか8件しかありません。どちらの方に顔を向けて最高裁が仕事をしているような印象をもたれるか、これからも明らかでしょう。
 しかし最近は、最高裁の判決にも変化の兆しが見られるようです。この本はそれらの歴史を紹介し、また憲法裁判所としての最高裁の働き方に建設的な提言をしています。日本が、国民のことを全く考えずに法律を立案する政党か、ポピュリズムの差別意識を前面に押し出し、対立をあおることにより権力を取ろうとする輩に導かれようとしている、まさにこの時、最高裁の良識が問われています。


(3)動きが心をつくる  春木 豊  講談社現代新書

 緊張すれば、呼吸は多くなり、心拍数も増加します。リラックスすれば、その反対のことが起こります。このことに何の不思議もないのですが、考え方を逆転して、緊張している時に、ゆっくりと深呼吸をすれば、気持ちもやわらいで落ち着いてくることがあります。これは普段私達も、知らず知らずにしていることで、あまり意識していませんでした。
 これを研究しているのが、身体心理学というものだそうで、筆者はその研究を続けておられます。
 考えてみると、座禅もこの一種かもしれません。筆者は、座禅に出会ったことから、この発想を得たそうですが、西洋と東洋の思想や、物事を追求する姿勢の違いが根本にあるのかもしれません。
 実践的なボディーワークも紹介してあり、ちょっと時間がある時に実践できそうです。


(4)デフレの正体  藻谷浩介  角川oneテーマ21

 日本は労働が可能と見做される、現役世代の人口が減少しています。またそれらの世代には、お金が廻って生きません。ではお金は誰が持っているのかというと、現役世代よりも上の世代です。
 この年齢になると、私もそろそろそうですが、新たなものを購入しようとする気持ちも薄れてきます。今あるものを、死ぬまで細く長く使用して行こうと考えます。また将来何が起こるかわからないので、貯蓄に熱心です。その気持ちはよく分るのですが、お金は回っていきません。その結果内需は冷え込んでしまいます。
 これまで色々と論じられていた景気対策が、いかに見当はずれなものであったかがよく分りました。
 この本の後半で述べられている、日本再生の提言を行ってみる手はどうかなと思いました。
 それにしても現在の民主党政権は、何であそこまでピント外れなのでしょう。原発再稼動に関する野田の声明文など、不誠実と詭弁のオンパレードで、聞いていて情けなくなりました。彼は日本国民が敵だと認識しているのでしょう。


(5)成熟ニッポン、もう経済成長はいらない  橘木俊昭、浜矩子  朝日新書

 原発問題や消費税問題、これらの政府の対応を見ていると、経済成長神話から脱却できていないようです。「デフレの正体」で見たように、ニッポンがこれから以前のように経済成長を再び力強く再開できることなど、まずは出来ないでしょう。野田は詭弁でこれを「国民生活」という言葉で表現しましたが、そんなものを求めることが、机上の空論、無い物ねだりです。
 これからはニッポンは徐々に経済活動で見れば衰退して行くでしょうし、それをとめることは不可能だと思います。それなら、本来の意味でこれからの「国民生活」をより内容のあるものにする為に、政治や経済の有り様を変えていかねばなりません。
 なぜ政治家や、マスコミがそのことに考えをめぐらせ、子孫の為に中長期的な政策を考えないのでしょうか。経済界も目先の利益で、原発の再稼動を歓迎するのではなく、長期的に見れば不要な、危険な、コストのかかるものを廃止するという、真っ当な判断がなぜ出来ないのでしょうか。これが彼らの、国家、経済に対する姿勢のように思います。
 この本はニッポンが、(不本意かもしれないが)成熟して老いていくそのバックグラウンドになる考え方、政治経済的なアプローチを、二人の先生の討論形式で紹介してあります。学問、特に自然科学の研究では、ナンバーワンを目指さないと意味はありませんが、経済成長神話から目を醒まし、大人の国家になって行こうではありませんか。
 この本は、普段私がもやもやと考えていることを、(一部違うところもありますが)文章で表現してくれました。心強く思いました。


(6)テレビは原発事故をどう伝えたのか  伊藤守  平凡社新書

 3・11後の、フクシマ原発の事故をテレビはどのように伝えたのか、報道内容を掘り起こして検証してあります。
政府、東電の無責任な発表や、それをあたかも太平洋戦争当時の、大本営発表のように伝えたマスコミ。政府発表をおかしいと感じて発信した内容も、徐々に変えて行かれその結果多くの人たちを、被爆者にしてしまいました。
 メルトダウンがあったにも拘らず、大丈夫といい続けた、御用学者たちの存在も忘れてはいけないでしょう。
 その様な体質は今も全く変わっていません。現に大飯原発再稼動問題でも、マスコミはその危険性をもう殆ど報道しません。
 読めば読むほど、あの当時を思い出して腹が立ちます。 
 以前にも書きましたが、信用できるのは独立したジャーナリストのものだけだと思います。これまで何年も、今年こそ阪神は優勝すると騙され続けてきたことが、なによりの証拠でしょう。


(7)世界の紅茶  磯淵猛  朝日新書

 コーヒーに比べて、紅茶というのはややマイナーな気がします。しかし中国茶がその原点と考えると歴史は古いものですし、コーヒーに比べて安らぐような感じがします。この本は紅茶の歴史、その味わい方、これからの紅茶のたどる道などを紹介しています。
 この本にも触れられていますが、私はインド料理で、辛いカレーを食べた後に呑むチャイが好きです。あの辛いコーヒーの味を、紅茶と様々なハーブの味と砂糖の甘さが中和してくれ、実にさっぱりします。これは病み付きになる味なので、ぜひ一度試してください。


(8)新聞・テレビはなぜ平気で「ウソ」をつくのか  上杉隆  PHP新書

 新聞を読んでいて、どの新聞も似たり寄ったりの記事が多く、またその切り口も同じようで、どうも面白くないと思ったことはないでしょうか。私がそのことを特に感じ出したのは、フクシマ原発事故以来です。
 常識があり、真っ当な判断が出来る普通の人ならば当然導くような結論には全く触れなかったり、政府の発表に歩調を合わせるように、汚染問題を取り上げなくなったりと、大きなマスメディアは信用できない気がしだしました。
 そこで、インターネットで自由報道協会にアクセスしてみると、実に生き生きとした記事や、それを書いたフリーランスのジャーナリストの意見が述べられていました。フェイスブックやツイッターといったものはまだ苦手ですが、これらの新しいメディアから、次々と信用できる情報を手に入れることが必要と、感じています。
 この本は、政府の広報期間に成り果てた、今の日本の堕落したマスメディアについて詳しく紹介してあります。PHPがこのような内容の本を出版することに、多少の違和感はありますが、一読する価値のある本です。


(9)震災と原発 国家の過ち  外岡秀俊  朝日新書

 あの大震災があった後、東北地方は二つの大きな問題を抱えてしまいました。ひとつは津波などによる、自然災害からの復興、もう一つは英知を集め、誠実な態度で取り組んでおけばこのような結果にならなかった、原発問題。これは真相が明らかになるにつれ、人災であったことがよく判る様になりました。それに関係した人たちは、反省もなく、逮捕されることもなく、大きな顔をして他の人への責任転嫁をやめようとはしません。
 津波被害からの復興などは、お金を上手につぎ込み、住人の人たちの意見を最重要と考えて進めて行けば、それなりの結果は出るでしょう。
 しかしフクシマはそう言う訳には行きません。復興するにしても、そこに近づくことさえ出来ないのです。政府の遅々として進まない復興政策、被害者の方たちに、とても寄り添っているとは考えられないような、まるで昔の大本営発表とその内容をおかしいと思いながら垂れ流し続けたのと同じような、マスメディアの責任、これらが無責任な態度で連続しています。
 この本は、被災地の状況を紹介するとともに、有名な文学作品の中にこのような不条理を取り上げているものを紹介し、それと現在の東北の状態をリンクさせています。文章も、なかなかよいリズムで、読みやすい本でした。
 ここで紹介してある名著を、読んでみたい気持ちになりました。(恥ずかしながら、読んだことがあるのは「黒い雨」だけでした。)


番外篇  ダンサ セレナータ  星組  宝塚大劇場

 「ロミオとジュリエット」、「オーシャンズ11」、「ノバ ボサノバ」、もう少しさかのぼれば「スカーレット ピンパーネル」と大きな素晴らしい作品を演じ、成功させて来た星組の、久々の普通の作品です。
以前星組で公演した「ブエノスアイレスの風」を焼きなおしたような感じの作品でした。またこの公演で、長年活躍してきた涼紫央さん、私のお気に入り娘役の白華れみ、稀鳥まりやさんが卒業するので、その意味で忘れられない作品です。
 ショウダンサーがその道を追求している所に、植民地の独立運動が絡み、秘密警察が登場し、といった内容で、ダンスもあり、アクションシーンもあり、恋愛模様もありと宝塚の定番でした。
 それにしても、私のお気に入りの娘役の生徒さんが、続いて卒業されます。元月組の蒼乃夕妃さん、そして今度の白華れみさん。残念です。れみちゃんで一番思い出に残るのが、「ロミオとジュリエット」の乳母の役での「あの子はあなたを愛している」の独唱です。素晴らしかった。DVDを時々見るのですが、いつも涙ぐんでしまいます。れみちゃん、ご苦労様でした。東京公演も頑張ってください。


白 江 医 院 白江 淳郎

2012/06/15 2012年5月の読書ノート
(1)ざっくりわかる宇宙論  竹内薫  ちくま新書

 宇宙の誕生と言えば、「ビッグ バン」が有名です。また「ブラック ホール」と言う、ものを飲み込んでいくという想像し難い物や、アインシュタインの相対性理論、ニュートリノ、「光が曲がる」、これらのことは知っていますが、断片的で頭の中が混乱しています。
 物理で正直理解できるのは、ニュートンの力学の理論くらいまでで、それ以後のことは宇宙の複雑な状態以上に、頭の中が混乱状態です。
 この本はしかし、それらのばらばらに頭の中に入っているものを整理するのに役立ちます。またそれらから発展した、最新の宇宙論を紹介してくれています。日本のカミオカンデが大量のニュートリノを検出したことの意義が、おぼろげながら理解できたように思いました。(説明は無理ですが)
 ただ最新の「超ひも理論」、ここになったら高次元と言う概念が出てくるので、理屈では理解できても、実感としては全くわかりません。勿論その様な宇宙を、私達は実際に見ることはできないのですが、理論でもその様なものがありえるのか、と言う最初の疑問に、単純な頭脳しかない私はまた戻ってしまいます。


(2)古地図からみた古代日本  金田章裕  中公新書

 古地図と言うと、たまたま何かのはずみで残っている、昔の稚拙な絵に毛の生えたもの、と言うように私は思っていました。正確な縮尺を用いたわけでもなく、大体の見た印象を書いてある物のように思っていたのです。
 ところが日本に残っている古地図は、8世紀頃の荘園などの正確な縮尺版であることがわかりました。歴史で習った、公地公民制度、班田収受の制度。これらの一番の元になるのが田ですから、その面積を正確に測定することで、朝廷や大きな土地所有者である寺院や貴族の、今で言う収入が確定します。正確に地図を作ることは、ある意味死活問題だったわけです。
 逆に言えば、その様な古地図を研究することで、より詳しくその時代の開拓や農業経営の方法、荘園管理の様子を研究することができます。筆者はこの研究を長年続けてこられ、わかり易く古代社会を私達に紹介してくれます。


(3)宇宙に外側はあるか  松原 隆彦  光文社新書

 今月初めに読んだ、「ざっくりわかる宇宙論」の復習版のつもりで読み始めました。結果は、ますます私の頭の中は混乱しました。
 結局私の頭の中の「宇宙論」になってしまった感じです。
 私達の住んでいるこの世界が3次元である、そのことは良く分っているのですが、その次元が増えていくというのが、理解できません。夜空に見える恒星は、それぞれ地球からの距離が違います。そこから届く光は、何万光年と言う時間をかけて地球にやってきます。それらの物をある意味、夜空と言う3次元空間で見ている、しかしそこには時間差があり、これが4次元と言う「雰囲気」だ。そこらへんで無理に納得して、一つ位は次元を増やせますが、それ以上は私には無理です。
 医師とは言え理系の苦手な私には、難解な哲学書を読んでいるような感じがしました。


(4)護憲派の一分  土井たか子、佐高信  角川oneテーマ

 私は日本国憲法が大好きで、日本がどのような物よりも世界に誇れるものだと思います。文章としておかしい、などという批判もありますが、底に流れている精神は素晴らしいものです。
 憲法改正を唱える政治家の話を、お付き合いで聞かされることはあるのですが、なぜ憲法を変えなければならないのかと言う、その取っ掛かりのところが欠落しているようで私には理解できません。彼らは、憲法9条を評価する人達を平和ボケしていると批判しますが、戦争の愚かさ、悲惨さ、人間や地球環境にたいする影響を理解しているのでしょうか。その様なことを理解しない人たちこそ、平和ボケしているのです。
 日本の東や西に、差別や対立を煽り立てるような知事が出現していますが、彼らを支持している人たちは、何かが起こればまずは自分達が一番の被害者になることを理解しているのでしょうか。彼らは戦後日本の教育を失敗だったと言いますが、一番の失敗は彼らのような政治家を作ってしまったことでしょう。
 少なくとも国会議員や官僚は、日本国憲法を守ることが義務のはずです。 お腹をこわして、めそめそ泣きながら辞任した首相は、首相であるにもかかわらず、在任期間中にも改憲を主張していました。明らかにこれは勤務上の違反でしょう。なぜこのようなことが平然と行われ、許されているのでしょうか。
 この本は護憲派の代表、土井たか子さんと、佐高信さんが私にとって当然のことを歯切れ良く対談しています。ぜひご一読を。


(5)「始末」ということ  山折哲雄  角川oneテーマ21

 50歳になった時、人生の半分以上を生きてきたと、ある種感慨に浸りました。しかし還暦を迎えた今、考えることは自分の人生の幕引きをどのようにしようかと言うことです。
 せいぜい生きても後20年でしょうし、その後半の10年は今とは肉体的にも、精神的にも今とは全く違ったものになっているでしょう。今はまだおぼろげながら考えている、自分の死というものが、すぐそこに存在してきます。生きていることと一線を画したものと言うよりは、私が生きてきた、連続として存在しているように思います。
 その様に考えると、死の瞬間は苦しいものかもしれませんが、自分の死というものを結構冷静に受け入れることができるように思います。ちょっと違うところに旅に出るような、そんなもののようにも感じます。今の私の状況では、海外旅行はもとより国内旅行も一生できないでしょうが、最後に残った唯一つの旅行のように感じています。
 その旅行に出るまで、できる限りのものを削ぎ落としておかなければならない、その様に感じていたとき、この本と出会いました。
 何度も読み直し、最期を迎えたいと思いました。


(6)「小さな政府」を問いなおす  岩田規久男  ちくま新書

 小泉政権でお題目のように唱えられた「小さな政府」と言う言葉、その結果からどうも
 この言葉に対する拒絶反応があります。イギリスでも、あのサッチャー政権で行われた「小さな政府」を引き継いだブレア政権は、ある程度その路線を引き継ぎながら、そこそこの改革を行いました。
 一方スウェーデンは、福祉に手厚い「大きな政府」で有名でしたが、不況を経験しそれに修正を加えながら、福祉社会を維持しようとしています。
それに比べて、日本は「小さな政府」で見ると、よい結果は生まれていないようです。
 ある意味、小さな政府の背骨になっている「機会の均等」を目指す政策というのは、評価すべきものでしょう。しかしそのスタートラインに着きたい人に、そこに着ける環境を与えないで、スタートさせた所に大きな問題があると思います。その結果格差の拡大が生じました。
 翻って考えてみると、小泉、竹中の考えの中には国民や弱い立場の人のことが、欠落していたようです。この本では、小さな政府の紹介をしながら、「機会の均等」を以下に公平にしていくために各国が行った政策や、これから日本がとるべき政策提案などが述べられています。


(7))経済成長神話の終わり  アンドリュー サター  講談社現代文庫

 少子高齢化が進んでいく日本。これから私達のような年寄りが、どんどんと増えて生きます。
 肉体労働などはだんだんとできなくなっていきますし、多くの所得を得ることはできなくなるので、大量の消費など望めません。若年者の人口は減少していくので、大量の消費どころか、生産も望めません。
 このような時代が来ることが分っていながら、政府の立てる政策は、産業を盛んにし、内需を増やし、貿易を増やしと昔から同じようなことを繰り返しています。私のような、粗雑な頭の持ち主でも、このような政策が成り立たないことくらいは、よく分ります。
 この本は、多くの国民が無批判で受け入れている、経済成長は果たして善か、またその経済の価値とは何か、「減成長」という立場に立ったこれからの日本の歩むべき道、これらについて解説してあります。
 読み終わって、やはりこれから私達は「減成長」をキーワードに生きていくべきだと、確信しました。しかし、これって何年か前に多くの国民が、民主党に期待したことではなかったかと思います。現在の野田政権は、多くの国民が期待したことの全く反対のことを、何の羞恥心もなく行っています。私は、「小沢的な」政治手法は嫌いですが、マニフェストを守れという主張は正しいと、その一点では支持します。


(8)第二のフクシマ、日本滅亡  広瀬隆  朝日新書

 福井県の大飯原発を、政府は再稼動したいのだそうです。フクシマの事故原因も明らかにできず、また事故対応も何らの対策を講じず、一体何が再稼動なのでしょうか。正気の沙汰とは思えません。国民に対して責任を持って誠実に対応しているとは、全く思えません。
 大体この内閣は、国民が正常と判断することの全く逆のことを、し続けています。まるで私達の気持ちを逆なですることが、決断力のある政治だと思っているのではないでしょうか。彼らの顔を見ると、虫唾が走ります。この筆者のように、真摯に原発と向かい合ったことがあるのでしょうか。子孫にたいして恥ずかしいとは思わないのでしょうか。恥を知れ、と言いたいと思います。
 このような政治家を、二度と当選させてはならないでしょう。大阪市長も当初は勢いがよかったものの、夏の間だけ臨時に原発を動かすなどと提案するなど、だんだんと馬脚を現してきました。そして挙句の果ては「再稼動容認」です。まさに平成の天一坊、ラスプーチンです。
 原発は即時廃炉しかありません。絶対これしかありません。この本を読んで、その気持ちを強く持ちました。


白 江 医 院 白江 淳郎

2012/05/15 2012年4月の読書ノート
(1)おひとり温泉の愉しみ  山崎まゆみ  光文社新書

 ふと、ぶらっと山間の温泉に旅行してのんびりしたい、と考えることは誰にでもあると思います。しかしそこには、時間を作ることや、仕事のスケジュールを調節することなどの大変さの他に、「一人旅」と言うことへのこだわりや、小さな面倒くささがあるように思います。
 この本はいつの間にか、一人旅の達人と呼ばれるようになってしまった筆者が、その一人旅の極意を伝授してくれます。
 温泉はその泉質の違いによって、入浴効果も違ってきます。またその入浴の方法も違ってくるようです。その違いの紹介や、勿論それぞれの温泉の違いの紹介もあり、これからひとりで温泉めぐりをしようとする人には、格好の入門書でしょう。
 私はこれから一生このような旅は出来ないでしょうが、憧れとして持っておきたい本です。


(2)仕事ができる人はなぜ筋トレをするのか  山本ケイイチ  幻冬舎新書

 私は昔から身体を動かすことが大好きで、運動をしていないと勉強ができないという不思議な体質でした。(そうは言っても私がこの本に書いてあるように、仕事ができる人ではありませんが)受験勉強に一応は打ち込んでいた高校3年生の頃は、今から思うと時間の使い方が非効率で、むしろラグビーに打ち込みながらも実習や勉強が非常に忙しかった大学生の頃の方が、効率的に過ごしていたように思います。
 この本は、トレーニングのノウハウ物ではなく、人生観、生き方の見方、取り組み方をトレーナーという立場から紹介したもののように思います。そういう目で読めば、人生のマネージメントという意味で大変参考になりました。
 この本のエッセンスは、最後のあたりの書いてある「自らの意思で、自らに辛いことを課す」ということに尽きると思います。そういう目で見れば、自分もそのようにして人生を送ってきたのかと思い至りました。


(3)京都の寺社505を歩く  山折哲雄  PHP新書

 2冊組で京都の505の寺社を、地域に分けて紹介してあります。900ページ近い本で、これをもって寺社巡りをするには最適の本です。
 読み始めて、しまったこれはガイド本として読むべきものだ感じましたが、「ええい、これも勢いだ、」と読みすすめました。するとそれなりの味わいがありましたが、読み終わるのに、2週間以上かかってしまいました。
 京都のお寺で街中に由来を持つお寺は、大概が応仁の乱などでいったんは焼失してしまった、という歴史を持っています。ですから私達が今見るお寺の建物も、由来を紐解けば江戸時代や明治時代に再建立されたものが多くあるようです。そのあたりが、奈良のお寺との違いでしょう。
 古さや伝統を受け継いでいると言う点では、奈良に有る寺社の方が、正倉院を含めてそれにふさわしいのかも知れません。しかしどちらの街もそれなりの味わいがあり、そのどちらの都市にも簡単に訪れることができる、本当にいいところに住んでいると感じました。


(4)食べるギリシア人  丹下和彦  岩波新書

 西洋古典学を専門とする筆者が、古代ギリシャの文献をひも解いて、彼らの食生活を紹介してくれます。
 面白いのは、ギリシャの叙事詩や悲劇には、食事や食物が取り上げられることは少なく、喜劇ではより多く取り入れられていることです。英雄は戦い苦悩する人であって、ムシャムシャと食事をし、快楽的になるのはふさわしくないのでしょうか。その反面喜劇の中に登場する人物は、快楽的で食事も楽しく行い、それが取り上げられているようです。
 ギリシャ人は、魚などの海産物を食べ、動物の肉も食べ、チーズを食べ、薄めたワインを飲んでいたようですが、料理方法を詳しく紹介したものが少ないようで、現代でそれを再現するには資料を多く探さなければならないようです。
 この本を読んで、古代の料理に興味を持ったのは当然ですが、詳しい説明の入ったギリシャ神話を読みたくなりました。


(5)女三人のシベリア鉄道   森まゆみ  集英社文庫

 大陸横断鉄道というと、私は新婚旅行でカナダの大陸横断鉄道に乗ったことを思い出します。二人部屋の個室で、トイレや洗面場が付き、ベッドメークをしてくれたり、朝になればベッドをたたんで、座席にしてくれたり、時間になれば食堂車に行って朝食の定食を食べたりと、それは楽しいものでした。
 しかし明治から昭和初期のシベリア鉄道というと、現代のカナダやオーストラリア、南アフリカの大陸横断鉄道とは全く違っています。移動手段として選ばざるを得なかったもので、それこそ悲壮な決意で乗らなければならなかったものだったようです。そのシベリア鉄道を使ってヨーロッパに渡ったり、モスクワを目指した三人の逞しい女性の旅を紹介しています。
 その女性とは、与謝野晶子、宮本百合子、林芙美子さんです。名前を聞いたら、ひとりだけでも、もう十分と言う感じですが、各々の人が独自の見方でシベリアを横断し、いろいろな人とかかわりあっていきます。
 筆者もフランスに行くためにシベリア鉄道に乗り、三人の作品をたどりながら、現在のロシアを紹介しています。巧みな筆運びで、時間を変化させながら旅行が続きます。面白く、読み応えの有る本でした。


番外篇  華やかなりし日々  宝塚大劇場  宙組

 宙組トップ、大空祐飛さんの卒業公演です。
トップになったお披露目公演の「カサブランカ」があまりにもピタッと役どころに嵌まっていたためか、それ以後の作品はもう一つといったものが多いように思いました。(不倫物で子供まで作ってしまう、と言うのが二作品もありましたしね。)また、一応の予定では、前回の「クラシコ イタリアーノ」が卒業作品になるはずで、その様な雰囲気たっぷりに作ってあったので、今回は果たしてどのような作品になるのかと、そういう意味で興味がありました。
 内容は貧しい移民の子として生まれた主人公が、天才詐欺師になり、巨万の富を得、ニューヨークの高級住宅地に住み、ショウビジネスにまで手を広げようとします。(そのモチベーションの裏には、少年時代に受けたトラウマがあるのですが)しかし、ここでミュージカル スターを目指す女の子とであったことで、恋に落ちてしまい・・・といったもので、卒業公演という湿っぽさはあまり感じませんでした。
 独特の雰囲気で宝塚を支えてきた大空祐飛さんの卒業で、こんな作品も有りかな、と思いました。
 またそれとは別に、舞台と客席の使い方が目新しく、これは面白く感じました。


白 江 医 院 白江 淳郎

2012/04/09 2012年3月の読書ノート
(1)フランス7つの謎  小田中直樹  文春新書

 フランスというとフランス革命のスローガン、「自由、平等、友愛」の国といったイメージがあります。しかし最近話題になった、イスラム教徒の生徒に対する学校でのスカーフ禁止や、移民に対する差別的な政策を見ると、どうもそのイメージが覆されます。
 この本は、フランスに留学していた経済学者である筆者が、私達が常日頃フランスに対して持っている、「何か不思議だ」と言う疑問に答えてくれます。勿論筆者も日本人ですから、もともと持っていたフランスのイメージと異なる点に、大いに戸惑いながら思考を重ねていきます。
 なぜ政教分離をめぐって延々と議論が続くのかとか、なぜいつでもどこでもストに出会うのかとか、なぜアメリカを目の敵にするのか等と言う、ふとした疑問を解決していくことで、フランスを解説するだけでなく私達日本人、日本社会を考察していく手がかりを与えてくれているようです。
 正直言って私達とフランス人の思考回路や、よって立つところは違うところが多いようにも思いますが、独立した個人であるということが確立している点では、大いに参考に死ねければならない点が多いようです。


(2)「天皇家」誕生の謎  関 裕二  講談社+α文庫

 大化の改新で蘇我氏を倒し新しい政治を始めた中大兄皇子ですが、天皇になるまでかなりの時間が必要でした。物語で伝えられるほど、劇的な政変劇の中心人物なら、蘇我氏を倒したその時に、多くの豪族の支持を背景に天皇になれたはずです。一体このタイムラグの原因は、何なのでしょうか。
 かぐや姫の「竹取物語」の中にそのヒントが隠されていると、筆者は指摘します。またその時代、出雲や尾張にも強力な豪族が居たことは指摘されていますが、文献上あまり表面に出てきません。その理由は何なのか、筆者の大胆な、またダイナミックな考証は進められていきます。
 色々な土器を見たりすることは、私のような南河内の人間として興味あることですが、それを大胆につなぎ合わせ、日本の歴史を構築していくのは、筆者の独壇場です。
 あまり内容を紹介しすぎるのは、よくないでしょう。歴史に興味のある人にはお勧めの一冊です。


(3)絶望しそうになったら道元を読め  山田史生  光文社新書

 それほど私は絶望を感じては居ないのですが、(プチ絶望なら日々有りそうな気もしてきましたが)この題名に惹かれて、読み始めました。道元、曹洞宗、永平寺、禅の厳しい修行、と連想は続いていきますが、ただ私の知識は、道元は良い家の出身で、幼い頃に両親と死別し、その後出家してからはその優れた才能と、自分に対する厳格さで曹洞宗を立ち上げ・・・といった通り一遍のものしか、有りません。ましてや「正法眼蔵」の名前を知っていても、その内容などとてもとても、といった所でした。
 ましてやそれと「絶望」が組み合わさったら、どういうことになるのかと思いながら、読み始めました。
 この本は「正法眼蔵」の巻頭の「現成公案」を読むことで、「正法眼蔵」に貫かれている道元の思想を紹介し、彼の考えている「修行」とは一体何か、またその修行が目指している「悟り」とは何かを紹介しています。
 正直初めは、良く理解できず、読み進めていくことが大変でしたが、後になるほど理解できるようになって来ました。
 「悟り」の可能性を信じ、有限の現実をひたすら修行しながら生きていく、それが、現実の世界で「絶望」を感じている私達人間の出来るただ一つのことだ、その様な道元の考えを教えてくれているように思いました。


(4)小さな「悟り」を積み重ねる  アルボムッレ・スマナサーラ  集英社新書

 ちょっと「悟り」が続いていますが、この本は道元のように難しいものではなく、私達の日常生活で出会う、悩みやあせり、不安、それらの物を仏教ではどのようにとらえ考えているかを紹介してあります。
 一神教で、神という絶対的なものに帰依するキリスト教やユダヤ教、イスラム教とは違い、個人の中に存在する「私」と向き合うのが仏教と言えるでしょう。やはり私のような日本人には、しっくりと来ます。
 現実とは変化して行く物なのだから、今と言う時間を出来るだけ小さくとらえ、そこで冷静に判断して生きていく。ギブ アンド テイクではなく、ギブ アンド レシーブという考えで生きていく。今ここに居る自分とは別の自分がいるわけは無いのだから、「自分探し」などは意味が無い。どれも心に響きます。このような小さな「悟り」を積み重ねていくことで、少しでも心の安定した状態が得られればよい、と感じました。
 いつも近くに置いて、読んでいたい本です。


(5)地震の日本史  寒川 旭  中公新書

 地震考古学と言う分野があって、古代からの日本で起こった地震や、それによる地殻変動、社会の変化などを研究するようです。この本を読むと、次々と日本で地震が起こり、またそれにつれて津波も起こり、多くの人が亡くなっています。
 近畿でも多くの地震が起こっており、読んでいて嫌になるほどの記録が残っています。久宝寺、志紀などの遺跡の名前も、何回か出てきますので、明日はわが身かと思ってしまいます。北近畿でもこれまで多くの地震が起きており、活断層も多く見つかっています。そんな所に多くの原発が有り、それの再稼動を野田政権は認めようとしています。全くばかげたことで、経済界と言われる人たちからの要請で、彼らは動いているようです。
 話は変わってしまいますが、このような原発再稼動には、私達国民は「NO」を突きつけねばなりません。大阪市長や維新の会、共産党を除く既成政党は、住民投票に反対し、多くの人たちの意見発表の機会をなくしました。彼らや大阪市長個人に、私達の人生や生活に関る重要な決定を白紙委任しているわけでは有りません。大阪市の労働組合に対する偽メール事件にも見られるように、ナチの台頭して来た頃の世相とよく似ていると危惧するのは、私だけでしょうか。


(6)変死体 (上・下)パトリシア・コーンウェル   講談社文庫

 検死官シリーズ、の最新刊です。
 主人公スカーペッタが責任者である法病理学センターに運び込まれた死体から、大量の出血が発生するという事件が起こります。出血があって死亡したわけですから、死亡が確認された後何時間もたって出血があることは、考えられません。出向先から急遽呼び返されたスカーペッタは、この謎を解いていきます。この小説は、最新の科学技術、また倫理無くそれを発展させていく恐ろしさなど、大きな警告を私達に与えてくれます。
 この筆者の話は、主人公と同じ職業の医師として、医学的の読めば面白いのですが、複雑に絡み合った人間関係や、精神的葛藤、また人を陥れる様々な陰謀が絡み合い、その辺にとらわれればしんどくなってきます。そんなに悪意に満ちた人達が、この世界に多いとは考えたくは無いのですが。
 上下あわせて、700ページを超える小説で、アクション物、映画の台本のようなつもりで読めば、次々と場面も転換し非常に面白いものです。ただ先ほども書いたように、人間関係にどうも疲れてしまいます。


番外篇  ドン カルロス  雪組  宝塚大劇場

 16世紀のスペイン、フェリペ二世の息子のドン カルロスが主人公のミュージカルです。雪組というと、私は前回の「仮面の男」のトラウマがあり、どうも身構えてしまいましたが、可も無く、不可も無く、といった作品でした。(あれほどひどくは無かったので、むしろあまり印象に残らなかったと言うか)
 カトリックが国家を支える宗教であったスペインと、新教を信じる植民地のオランダ、またオランダの人たちに心を寄せるスペインの若い貴族達、それらを軸に話は進んでいきます。終盤の異端審問の場面が、何かもう一つ盛り上がらなかったように感じてしまいましたが、次回もう一度、復習してきます。

 ショウのShining Rhythmは、小学校の運動会の短距離競争をずっと見ているような、体力勝負のショウでした。眠くなる暇が無かったと言うか、いつもたたき起こされているような感じでした。


番外篇  天使のはしご  星組  宝塚バウホール

 ジェーン・オースティン原作の「高慢と偏見」をミュージカル化した作品です。涼紫央、音波みのり、私のお気に入りの二人が主演でした。
 この話はこれまでBBCで放送されたり、映画化も何度かされた作品で、舞台にかけるのには、それなりにこなれた作品です。それを実力派の涼さん、最近ぐんと力をつけ重要な役を任されるようになった音波さん、また星組の力有るメンバーが明るく、楽しく演じています。安心して観劇できましたし、観終わって心が癒されました。
 舞台は17〜18世紀のイギリスの片田舎。当時のイギリスでは、父親が亡くなればその財産は息子にわたることになっていました。ところがベネット家は娘ばかりの5人姉妹。この娘達に財産がわたることはありません。そこで母親は、娘達を裕福な家に嫁がせようと躍起になっていました。(この役が前星組組長、現専科の英真なおきさん。まさにぴったりのはまり役)
 そこから起こる、色々な感情のすれ違い、当時のイギリスの身分制度によるトラブル、まさに「偏見と高慢」により登場人物の人生が、翻弄されていきます。そうは言いながらも、最後はハッピーエンドで、「人生は何時かどこかに良い事があるんだなぁ。」と思わせてくれます。
 バウホールという小ぶりの劇場にふさわしい、ぴかりと光る作品でした。 


白 江 医 院 白江 淳郎

2012/03/06 2012年2月の読書ノート
(1)「原発」国民投票  今井一  集英社新書

 国民投票という言葉を聞いて、一番最初に思い起こしたのは、最近イタリアであった原発にたいする国民投票のことです。
 多くの国民は、危険この上ない原発を即時、あるいは年数を経たものから順番に廃止していくことに賛成していると思います。しかし、国会議員や政党では「原発は必要なエネルギーだ」という同意が出来ているように思います。これは産業界や、民主党の大きな支持母体に電力会社の労組があることから、当然の結果だと思います。これほど国民と政治屋との意見の乖離があるものは無いでしょう。
 例えその結果が大きな拘束力を持つことが出来なくても、多くの国民の意見は「原発はノーだ」と言うことを示せれば、それは大きな力になります。その為のベストの方法は国民投票です。私たちは、私達の未来を自分達の責任の下で決定できる権利を持っています。それを政治屋や、マスコミによいように利用されてはいけません。原発と言う切り口で見ても、自民党、民社党は容認しています。自民党が嫌いで民主党に投票しても、民主党が嫌いで自民党に投票しても、こと原発に関しては賛成票を投じてしまった、と言うことになってしまいます。これではとても多くの国民の意見を聞き、尊重しているなどと言うことはできないでしょう。
 やはり重要な問題に関しては国民投票を行い、あまねくおおくの人たちの意見を反映させて欲しいものです。


(2)自由と民主主義をもうやめる  佐伯啓思  幻冬舎新書

 アメリカは自由主義、経済至上主義を推し進めていった結果、金融破綻やイラク戦争などが起こりました。これは、個人の欲望を最大限認めていった結果とも言えるでしょう。
 一方ヨーロッパの国々は、イラク戦争に反対したりして、アメリカと同一の歩調をとろうとはしていません。一方日本の当時の小泉政権は、アメリカ追従の姿勢を明らかにしました。またこれは経済政策も同様で、市場原理主義に基づいた所謂「改革」を行い、日本社会がある意味崩壊してしまいました。
 これからの日本は、このようなアメリカの持っている価値観とは決別していかなければ、ますます内部崩壊が進んでいくことでしょう。会社にしても、以前は集団として働き、家族のような関係で、仕事の内容やスキルを向上させてきました。ところが最近は利益優先で、非正規労働者が増え、以前のようなことはできなくなってきました。やはりもう一度、ここにも書かれているように「私」でなく「義」を、「覇権」でなく「和」を取り戻すことが必要ではないでしょうか。
 第二次大戦や、それに至る過程の解釈などは、私と筆者の考えは異なりますが、日本、日本人と言うことを考える根本の所は、同じように思います。
 左翼、右翼、保守、革新、なんだか渾然としてわからなくなってきました。


(3)病気になりやすい「性格」 辻 一郎  朝日新書

 肥満、がん、心筋梗塞、認知症これらは、現代人では避けて通れない疾患です。原因としては、食事や運動量の減少、遺伝的要素など様々なものが挙げられていますが、この本は、「性格」を切り口にしてこれらの疾患に迫っています。
 ただこれらの分析は、簡単なものではありません。たとえばがんで考えても、「神経質な人ががんに罹りやすい」と言う調査結果が出ても、罹る前から神経質なのか、罹ってしまったから神経質になってしまったのか、を判断しなければなりません。そのあたりの問題を様々な調査を用いて分析しています。
 読んだ後、一体私はどの疾患になりやすいのか、悩んでしまいました。肥満は無いにしても、認知症や、心筋梗塞には一部引っかかる所があります。しかし私が考えている自分の性格と、家内が困っている私の性格は違っているかもしれません。他人のことは客観的にわかっても、自分のことはわからないということでしょうか。
 まあ、私が死ぬのは不慮の事故と言うことにしておきましょうか。


(4)ロゼッタストーン解読  レスリー・アドキンスら  新潮文庫

 古代エジプトのヒエログラフ、あのライオンや、鳥や蛇などの絵が書かれている、文章と言うのか絵画と言うのか、あれです。一体あれは文章なのか、また文章としたらどのように発音したのか、あれを見るだけでは、全くわかりません。
 1800年台、エジプトがヨーロッパの人たちの身近なものになってきました。これはナポレオンのエジプト遠征の副産物でもあるのですが、そこで見つけられた古代の遺跡や文字などの目新しさに、多くの人たちは魅了されました。ヒエログラフを読み解くことで、エジプトの歴史は解読できるわけですが、当然のことながら簡単に出来るわけではありません。
 フランス人のシャンポリオンが、結果としてこの難問題を解決するわけですが、それに至るには多くの困難、フランス国内、またイギリスを初めとする多くの研究者との競争、政治や宗教の介入、これらが複雑に絡みついてきます。これらのものが無ければ、シャンポリオンはもっと早く、ヒエログラフを解読できたかもしれませんし、それらの勢力の力を上手く使ったから、多くの資料を手に入れることが出来たのかもしれません。
 この本は、彼の苦労や努力、強敵だったイギリス人のヤングの研究などを詳しく紹介し、テンポ良く話が進んでいきます。なかなかの力作だと思いました。


(5)「怒り」のマネジメント術  安藤俊介  朝日新書

 最近歳をとってきたせいか、気が短くなっているように思います。「怒り」は何ら特になることはありません。会議などでも、建設的な意見も出にくくなり、成果が出ないことも考えられます。
 「そんな事くらいわかっている」と、そこで怒らずにもう少し読んでいくと、どのように怒りをマネージメントしていくか、という解説が詳しく述べてあります。とりあえずの怒りを抑える「対症療法」と、「怒らない体質」を作る方法、これらは参考になりました。
 怒りに使うエネルギーをポジティブなものに変えていく、そのノウハウがこの本には詰まっています。


(6)クスクスの謎  にむら じゅんこ  平凡社新書

 筆者はフランスに留学していたときに、クスクスと初めて出会いました。西洋料理の続く毎日だった筆者が、久々に出会った私達のお腹や身体に優しい食べ物でした。これをきっかけに、筆者のクスクスをめぐるたびが始まります。
 私は10年以上前に、一回だけクスクスを食べたことがありますが(自慢げに書くことではありませんが)、何かもう一つわかったような、わからないような味の食べ物だったような記憶があります。お米とも違うし、パスタとも違うし、と悩ましく感じたことを思い出します。
 クスクスは北アフリカ発祥と言われていますが、確かなことはわかっていません。小麦の粉から作るものですから、次々形を変えていくので、形によってその進化を類推することも出来ません。またその土地の作物と一緒になって料理されるので、多くのバリエーションがあります。これらを詳しく紹介し、クスクス料理を紹介することでその地方の文化を紹介してくれています。
 写真も豊富で、楽しく読めました。


番外篇  エドワード8世 月組 宝塚大劇場

 私の大好きなトップコンビ、霧矢大夢、蒼乃夕妃さんの卒業公演です。歌、演技、そしてダンスと、このコンビはどれをとっても素晴らしく、今回の公演もそれを再確認させてくれました。
 ただこの二人を送り出すには、内容が私にとってもう一つだと感じました。前星組の、安蘭けい、遠野あすかさんの卒業公演の、「マイ ディア ニューオリンズ、アビアント」ほど泣かせて欲しいとは思いませんが、中盤が間延びすることと、一体エドワード8世とシンプソン夫人は本当に愛し合っていたのか、王位を捨ててまで成し遂げる恋愛だったのか、と言うことがもう一つ理解できませんでした。
 宝塚の恋愛物と言うのは、乱暴な言い方ですが、不倫であれなんであれ、この恋愛は正しくそれに命を賭けるのはすばらしいことだ、と言う流れでクライマックスを迎える(男の私は、ちょっと引くときがあるのですが)ものだと思うのですが、何かちょっと違うなぁと言う感じです。泣きたい(勿論心で)と思って行ったら、二人に対する思い入れが強い分、ちょっとはぐらかされた感じがしました。しかし二人の力量は、その様な小さな不満も吹き飛ばすに十分なものでした。
きりやん、まりもちゃん、多くの夢を与えてくれて本当に有難うございました。二人のこれからの活躍を期待していますし、ファンとしてずっと見守り続けたいと思います。
 その様に思い入れの強い月組トップコンビですが、新しく発表されたトップコンビには、正直言って期待していません。
 しばらくの間は、準トップ明日海りおさんと、最近順調に力をつけている私の期待の娘役、花陽みらさんがトップになるのを見守り続けたいと思います。


白 江 医 院 白江 淳郎

2012/02/06 2012年1月の読書ノート
(1)大江戸曲者列伝  野口武彦  新潮新書

 「曲者」と書いてあるので、盗賊や犯罪人が多数登場するかと思っていましたが、そうではありませんでした。江戸時代の人物で、結構私達の知っている人物や一般庶民達の、今で言うゴシップ記事が面白く紹介されています。
 もともと週刊新潮に連載されていたものを再編したものだそうで、そうと知って読めば、いかにも週刊新潮が取り上げそうな人物であり、内容でもあります。
 取り上げられている人物は、それはそれで一生懸命真面目に、自分の人生を生きているのですが、後世の結果を知っている私達から見ると、なんとも的外れであったり、突っ込みを入れたくなるようなことをしています。
 この本で面白いのは、それらに対して性格面から見た分析を入れたり、社会情勢の紹介をして、結構解説を加えている所でしょうか。一人の人物を約5ページで紹介していますので、コンパクトで読みやすく、トリビア本として最適だと思います。


(2)秘密とウソと報道  日垣隆  幻冬舎新書

 マスコミの使命は、色々なニュースを私達に提供することで、それらの材料を使って私たちは自分の意見を作っていきます。しかしそのニュースが不正確なものであったり、ウソであったときは、マスコミとしては致命傷になります。
 この本はこれまでに、ウソと断定されたものや、その取材方法に問題があるものを紹介し、現在のマスコミの危うさを紹介しています。
 私もこの本で取り上げられている、自宅に放火して継母やその子供たちを殺してしまった少年の調書が漏洩して、しかもそれが本になって出版された事件は大きな問題だと思っていました。作家に、当然秘密にしておかなければならない調書を見せた、医師の見識や責任感の無さは糾弾されなければなりませんが、「報道の自由、取材源の隠匿」等と声高に言い、誰が考えてもすぐに取材源が発覚するようなことを行った、著者や出版社の責任はどうなるのかと思いました。日本とアメリカの間の機密文書の漏洩事件も、あのようなことを国民に秘密にしていた政府の責任は、これまた糾弾しなければなりませんが、犯罪になることがわかっているのに、外務省の職員を罠にかけた記者の責任も、当然糾弾されるべきでしょう。
 私は、政府が国民を騙したりしていることを報道することは、当然マスコミの職務と考えますが、(今回の福島原発事故が典型的な例ですが)しっかりとウラを取り、100%確実となった時に報道すべきです。そうでなければ、ますます自分で自分の首を絞めるようになってしまうでしょう。


(3)発達障害を見過ごされるこども、認めない親  星野仁彦  幻冬舎新書

 所謂発達障害には注意欠陥・多動性障害(ADHD)、自閉症スペクトラム障害(自閉症、アスペルガー症候群などを含めた総称)、学習障害(LD)、知的障害、発達性協調運動障害などがあります。
 学校などでまれに見かける、「ちょっと変わった子」、「落ち着きの無い子」にはこのような、発達障害が隠れていることがあるようです。障害と言う言葉を使ってはいますが、筆者は人間が持っている様々な能力の発達が、アンバランスな為に生じた状態だと述べています。つまり年齢とともに一様に発達しているものに、凸凹が出来ているのです。
 この本ではこのようなアンバランスの紹介や、その原因、親あるいは周囲の対処方法、治療方法などが紹介されています。早期に発見し、適切な治療や周囲の対応があれば、その子供たちは幸せな人生を送ることが出来ます。この本はそのような啓蒙書であると思います。発達障害とは決して特殊な疾患ではなく、周囲の理解と協力で改善していく状態です。その為にも、早く気づいて対処することが必要です。


(4)江戸の卵は1個400円  丸田勲  光文社新書

 江戸時代の人々の暮らしは、色々な方法で紹介されてきました。この本はお金、料金と言う立場からそれを見ています。基準になっているのは1800年台前半の、文化・文政時代です。この頃は、演芸、文学などの所謂文化が花咲いた、と言われている時代です。
 職人から、高級役人の給料、食費、遊興費など色々と紹介されていますが、現在に比べて、エンゲル係数はやはり高く、約46%位あったようです。(因みに2008年の日本の総世帯でのエンゲル係数は23.2%)しかし逆の見方をすると、現代は住居にかかる費用もかなり多く、また衣料にかけるお金も相対的に高額になっています。
 江戸時代、多くの庶民は長屋に住み、この家賃は8000円から1万2000円位だったとのことです。服も多くは古着屋さんから一着2000円位で買い、自分に合うように作り変えていましたので、これにもそうお金はかかりません。大工さんの年収が約320万円位ありましたので、ある意味、家計には余裕があったように思います。人々はこの残ったお金で、銭湯や、床屋などに頻繁に通っていましたし、時には外食をしたり、芝居や相撲時には風俗産業に通っていたようです。
 現在のようにお金をかければ有形、無形のものが簡単に手に入る時代ではありませんでしたが、一体どちらが人間的に豊かな時代なのだろうと考えさせられました。


(5)イタリア旅行  河村英和  中公新書

 イタリア人は自分の国のことを「ベル・パエーゼ(美しい国)」と呼ぶそうです。その美しい国に対する憧れは昔から周辺の国々にあったようです。しかしその国に旅行をする目的は、時代によって大きく異なっていたようです。
 18世紀頃のイギリス貴族の間には、「グランド・ツアー」と言ってヨーロッパ大陸を旅行し、教養を身につけることが盛んでした。その最終目的地としてイタリアがあり、そこで古代ローマ文明の遺跡や文明に触れることが、お決まりでした。これはイギリスだけに限らず、フランスやドイツでも行われ、ゲーテやサド伯爵も「グランド・ツアー」を行っています。そしてここで見聞した事が、彼らや北ヨーロッパの文学に影響を与えていきました。しかしこれは勿論文学に限ったことではなく、絵画や建築の分野にもイタリアや古代ローマの要素が取り入れられていきます。
 イタリアは古代の文明だけではなく、その気候風土でも北ヨーロッパの人たちの憧れの的でした。肺結核の患者さんの転地療養先としても有名でしたし、その旅行をサポートするガイドブックも多く出版されました。
 この本はその当時のイタリア旅行を、多方面から紹介してあります。読むにつれて古代ローマ文明が、近代ヨーロッパ文明に与えた影響の大きさに感心しました。


(6)チョムスキー、民意と人権を語る  ノーム・チョムスキー  集英社新書

 言語学者で有名なチョムスキーさんですが、リベラルな、と言うか良識派の政治評論家としても私が尊敬している偉人です。そのチョムスキーさんが岡崎玲子さんと対談した記録が掲載されています。
 以前のイラク戦争に対して多くの「声なき声」は、反対していたとチョムスキーさんは言います。しかしアメリカからのメディアの報道を見ると、国民総意で戦争に突き進んでいっているように感じました。それを鵜呑みにして、ブッシュの政策に協力していた日本は、中東の人たちだけでなく、アメリカのサイレント マジョリティーに対してもその意思に反することを行って来た事になります。
 この本の後半部はチョムスキーさんの、世界人権宣言とアメリカの政策の矛盾についての論文が掲載されています。
 アメリカは表面上は民主主義国家の集合体の長、と言うように見えています。しかし実際は、世界人権宣言を自分に都合のいいように捻じ曲げ、解釈を違った形に誘導したりして、自国に好都合なようにしていきます。また自国の利益になるのなら、その国の反社会分子や、ゲリラなどにも武器を与え混乱を作っていきます。最近では、キューバのへの長年続く経済制裁などが典型的なものでしょう。これ自体が世界人権宣言違反であることは、明白な事実です。
 またこれと同じことは私達の周辺でもよく見られ、労働者の当然の権利の保護や、意見を反映させるための労働組合の衰退も、資本主義社会のある意味での、人権抑圧なのでしょう。これらに対して実に冷静に話を展開し、わかりやすく解説してくれています。


(7)歌う国民  渡辺裕  中公新書

 小学唱歌と言うものがあり、昔の学校で教えられた歌と言うイメージを私は持っていました。ただこれらの歌の多くは、「故郷」のようなものではなく、多くは「夏季衛生唱歌」、「鉄道唱歌」と言ったような国民を教育していく目的のものだったようです。明治政府は歌を歌うことで、国民の意識を統一して行きたいと考えていたようです。またその理解を深める目的もあって、歌と体操をコラボレーションさせることも行われ、それを遂行する為に東京女子体育大学の前身の学校が作られたそうです。
 そのような動きは、唱歌に限らず校歌、県歌、会社歌などにも広がっていきます。またこの動きは、戦後のうたごえ運動にも受け継がれていきます。主義主張は違っても、根底に流れるものは同じもののようです。
 この本は唱歌を中心として、日本の歌の変遷を紹介してありますが、根底には日本の明治以後の文化史が語られています。
 この本はお勧めです。


(8)信長と消えた家臣たち  谷口克広  中公新書

 風雲児とか、戦国の改革者と呼ばれる織田信長ですが、ご存知のように順風満帆で政権を取って行った訳ではありません。そもそも尾張を統治できるようになるまで、一族や周辺の領主との戦いがありました。強い、信長の上意下達の組織を作るためには、旧来の組織を変革していく必要があります。その為には「融和」一本では不可能です。古くからの命令に忠実でない(と見做した)家臣を切っていく必要があります。
 また領土を広げていっても、その戦いで功績のあった家臣に恩賞を与えねばなりませんので、もともとそこに居た領主を、だまし討ちや、何十年も前の小さな瑕疵を理由に殺害したり、追放したりしました。そのような姿を見ていれば、よほどのイエスマンでないと最後まで従おう、と言う気にはならないでしょう。それが結果的に、本能寺の変に繋がったと思われます。
 この本は尾張の時代から、本能寺まで、信長に粛清された人たち、反旗を翻した人たちを紹介してあります。これを読めば、いつかは本能寺の変に相当するものが起こったことが納得されます。
 現代の政治家でも、尊敬する人物に織田信長を挙げる人が居ますが、まさかこの冷酷さに感銘しているのではないでしょうね。

(9)フェルメール静けさの謎を解く  藤田令伊  集英社新書

 この本を読み始めたとき、私はインフルエンザに罹患してしまいました。自宅で診療を開始して20年以上になりますが、初めてのことで、やはり年齢を考えなければと思った次第です。
38度以上の発熱でウトウトとして、ふと目覚めた時にこの本を読んでと言う状態だったのですが、フェルメールの絵の様に淡い光で霞んだように周囲が見えていました。
 作品数の少ないフェルメールですが、その創作活動の中期の頃に、「牛乳を注ぐ女」、「青衣の女」、「真珠の耳飾りの少女」が描かれています。これらの絵はその時代の多くの絵画とは異なり、使用する色も少なく(しかし高価なウルトラマリンブルーを使い)描いている素材も少なく、まさに「静謐の画家」と呼ばれるにふさわしいものです。筆者はオランダと言う国の持っている、市民社会の特殊性、気候風土もこれらに大きな影響を与えていると指摘します。また余分なものを削ぎ取ったこの時期の彼の絵画に、現代に通じる先進性を発見しています。
 今年またフェルメールの絵画が日本に来るようですが、それまでに読んでおきたい本です。


(10)精神科医は腹の底で何を考えているか  春日武彦  幻冬舎新書

 聴診器で呼吸や心臓の状態を診断したり、採血などの検査結果の数字から判断できる医療の分野とは異なり、精神科と言うのは対話内容や仕草、社会的な行動などからその人の状態を診断するのですから、非常に難しい分野です。
 学生時代に受けた精神科の講義、やたら難しい特殊な言葉が続き、精神科医になれば患者さんを診る前に、言葉の勉強で難渋するなぁと思った記憶があります。しかし私のように、読書好きで医学部に進学してと言う学生は、一時は精神科医になると言う選択も有ったはずだと思います。
 この本は精神科医の筆者が、実際の診療現場で遭遇する事例を通じて、精神科での医療を紹介し、そのとき医師はどのように考え、行動しているかと言うことを紹介しています。患者さんにとって、どういう治療がベストかと言うことを、診察し判断していくのが医師の仕事ですが、精神科の場合、特にその患者さんの家族にとってのベストも考慮しなければなりません。この比重が特に重いと考えられます。私達地域医療を支えているかかりつけ医も、家族の方への配慮を怠ってはいませんが、各科それぞれの配慮が必要だと感じました。
 医学部を卒業して30年以上経つと、外科系、内科系でどうしても考え方や、物事の対処の仕方が違ってきます。またこれに、開業医か勤務医かという区別も加わってきます。筆者は、私とほぼ同じ年代で勤務医系の精神科医ですが、根本的なところは同じだと感じました。


(11)世界と日本経済30のでたらめ  東谷 暁  幻冬舎新書

 経済と言われても、難しい理論などはわかりません。しかし色々な理論も、経済と言う漠然としたものをどのように切り取るかということではないかと思います。数字を扱う学問ですから、やはりそのようなセンスや能力が必要でしょう。(高校の同級生で、東大や京大の経済に進学した人たちは、そう言えば数学も優秀だったなぁ)それと社会の経済は、気分で動かされているのではないかとも思います。そのようなことを漠然と考えながら、読んでいきました。
 今の日本経済について色々なことが言われています。「今の不況は、構造改革を後退させたから起こった」「公務員が多いせいで、日本経済は駄目になった」、「日本は医療費が多すぎるから保険制度が破綻する」など等。筆者はこれらに対して歯切れ良く解説を加え、従来私達が持っていた(持たされていた)認識を覆していきます。
 この本を読んで、いかに私がこれまで国家に騙されてきたかが認識できました。医療の分野だけはわかっていたのですが。


(12)物語 フランス革命  安達正勝  中公新書

 フランス革命を何時から何時まで、と定義することは難しいことですが、筆者はバスチーユ陥落からナポレオン戴冠までと定義しています。年表で見れば、色々のことが掲載されていますが、世界史の暗記のようで面白くはありません。しかしこの本は歴史の事実を説明するだけでなく、歴史の主人公ではない脇役の人にもスポットライトを当て、その頃の歴史を彩り豊かに紹介してくれています。
 歴史的事実を紹介してあるわけですが、小説として読んでも一級品の本です。その頃の人たちの人生観、死生観が窺われ、現代の私達の生活を見直すよい機会になると思います。


番外編  復活 カノン  花組  宝塚大劇場

 トルストイの「復活」の宝塚版です。元旦からの公演で、友の会の抽選に申し込んだら、その元日公演が当たってしまいました。初めての経験です。元旦の宝塚は、鏡割り(今年は私の大好きな、月組トップ、霧矢大夢さんと蒼乃夕妃さん)があったり、記念のはがきが配られたりと、なんとも華やかな雰囲気でした。
 舞台はそれに反して、帝政ロシア時代の身分制度や人民に対する重苦しさが背景になった作品です。薄幸の美少女カチューシャ、彼女を愛し続ける主人公が様々な人生を歩んで生きます。それにしても、何でこんなにエキセントリックな人生を歩もうとするのでしょうか。私としては、主人公の姉さんが一番その当時としては、まともな考えをしていると思うのですが。


白 江 医 院 白江 淳郎


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